20 強がり令嬢
溜まった涙がこぼれ落ちないように必死に耐えるシシィはなんとも言えず愛らしかった。
ツンと突き出した唇が小刻みに震えている。
リリーはその姿を見つめつつ、そう言えば昔は自分の妹もよくこうやって泣かないように耐えていたな。となんとなはなしにリアのことを思い出した。
男漁りの末に出来た子供をごまかすために姉を踏み台にしようとしたが、リリーにとってはたった一人の妹だ。
(あの頃はリアも姉さま姉さまとまだまだ可愛かったのに……)
「シシィ様、そんなドレスをまとわれている割に臆病なんですね。本当に好きな人に好かれてないのをしりたくないから他の人と結婚するなんて」
ぽろりとこぼれてしまった言葉にリリーは顔色をなくした。
泣きそうなシシィを追い詰めるような真似をするつもりはなかったのだが、出てしまった言葉は戻らない。
(しまった!!つい!!精霊の呪いー!!)
はらりとシシィの頬に最初の涙がこぼれ落ちた。
「な……んで」
「申し訳ありません」
慌てて頭を下げるがシシィの涙はとまらない。
次々に溢れる涙がパタパタと落ち、ドレスにシミを作っていく。
「……あなたなんかに私の気持ちはわからないわよ!!」
ぷぃと明後日の方角を向きながらシシィは減らず口をたたいた。
「だいたいなんで私がアレク兄様のことを好きだって決めつけているの?私、アレク兄様のことなんてぜんぜん、ぜんぜん好きじゃないわよ!!」
王太子執務室で精霊の呪いがない者たちも先日のやりとりでシシィの気持ちに気づいていたのだが、本人は隠せているつもりらしい。
リリーが視線をアンナに向けると彼女は気まずそうに視線を下げた。
「じゃあ本当にアレクサンダー様が他の人に取られてしまってもいいんですか?」
「え?」
「だって、もしシシィ様のお相手が愛している証明を出来た場合、シシィ様は精霊の国に行かないわけですよね」
「そうよ」
「シシィ様がこの国でお相手とお幸せに暮らされる場合、アレクサンダー様はシシィ様以外の方と結婚するわけですが、それを見て耐えられるんですか?だってシシィ様は既婚者なわけですから」
「う」
「園遊会でアレクサンダー様の隣に立つのはシシィ様ではないわけですが」
「うぅ」
「なんなら私でも耐えられますか?」
「え、やっぱりアレク様狙いだったの?この嘘つき!性悪女!!」
「違います。たとえ話です。私のように評判の悪い令嬢でもアレクサンダー様のお眼鏡にかなえばこの国で一番の女性になれるわけです。私に頭を垂れることができます?私がアレクサンダー様のエスコートでぴったり寄り添ってファーストダンスを踊るわけですが?」
シシィの表情を見て少し意地の悪い言い方だったかとリリーは後悔した。
くちゃくちゃに顔を歪めたシシィはとうとう嗚咽をまじえてむせびだしてしまった。
「いやぁ、いやだ。アレク兄様の隣にいたい。アレク兄様の一番でいたい……」
子供のようにシャクリを上げながら泣くシシィ。
リリーがそっと抱きしめるとシシィは彼女の肩口に額をつけて泣き続けた。
「書類を盗むのではなく、そちらのお手伝いなら喜んで」
優しくシシィの背中をなでながらうちの妹よりもよっぽどかわいいな。とリリーは思うのであった。




