21 秘密
よしよしとシシィをなでているとふわりと茶葉の香りがたった。
壁際で二人を見守っていたアンナがお茶の用意をしてくれたらしい。
リリーはシシィをテーブルへと促した。
「少し蜂蜜で喉をいたわってあげたほうがよろしいわ」
ぐすぐすと赤くなった鼻をならしたシシィはアンナにハンカチを差し出されていた。
子供じみた仕草が可愛らしい。
「まぶたも冷やしたほうがよろしいでしょうね。アンナ用意して差し上げて」
真っ赤になっている目が痛々しい。
リリーは蜂蜜をシシィのカップにそそいでやった。
「お……ねえさまは……」
「何かしら?」
リリーもカップの中の蜂蜜をくるりとスプーンでかき混ぜて一口含んだ。
さわやかな甘味が口に広がる。柑橘系の花のはちみつだったのだとリリーは気づいた。
遠い南国のものはこの国に届くまでに時間も労力もかかり高価なものになる。
苦味のないまろやかな茶葉にもよく合う。さすがは王宮で出だされるものだとリリーは口元をほころばせた。
「お姉さまはどうして私の気持ちをご存知だったの?」
少しつり気味の大きな青い目がリリーを見つめる。
「……わたし、そういう事に敏いんですの」
逆になぜ知られてないと思ったのか聞きたかったがシシィの瞳が真剣だったので、リリーは常識的な返しでごまかした。精霊の呪いで嘘がわかると言う必要は感じなかった。
「私のことは執務室で一度しか見たことがないのに?」
「逆にシシィ様が私のことをご存知だったのがおどろきなのですが?」
リリーが正式に社交界へ出たのは精霊にさらわれた園遊会一度だけ。
年下のシシィと関わり合った覚えはないのにリリーの顔を見ただけで名前を言って当てたのがふしぎであった。
「あぁ。お姉さまが行方不明になられた園遊会に私いたのよ。私園遊会のあった離宮に住んでいたからこっそり覗いてたの。あのときいた令嬢たちで恋のライバルになりそうな美しい方達はみんな名前と顔を覚えていてよ」
大したことはないというようにシシィは言ってのけたがリリーにとっては聞き過ごせない情報だった。
「離宮にお住まいでしたの?」
「今もあちらの宮にもこちらにも私の部屋があってよ」
シシィはきょとんとした様子でリリーが何を聞きたいのかわかっていない様子である。
「シシィ様はどういったお立場なのか教えていただいてもよろしいですか?」
「一応はアレク兄様と従妹ということになっているわよ。王家の一員と言えば一員ね」
『一応はね。XXXXかもしれないけれど』
「あの?もう一度お願いします」
聞こえた真実がリリーの理解を超えていたのでシシィにもう一度確認を取る。
「い・と・こ・よ」
『い・も・う・と、かもしれないけれど』
「き……」
令嬢が叫ぶにはあまりな四字熟語を喉の奥にしまい込む。
(つまりアレクサンダー様が実の兄?禁断の恋?)
「どうしたの?お姉さま?」
怪訝そうなシシィを前にリリーは固まった。
騒ぎ立ててはいけないことだけは確かだ。
(王宮スキャンダル……)
本当ならばシシィは王か王妃どちらかの隠し子ということになる。
宰相に父は可愛がられているようだがアデノフォラ家は中流貴族。それ以上でもそれ以下でもない。
触らぬ神に祟りなし。
リリーはうっかり口を開かぬように固くつぐんだ。
そういえば……とリリーの頭の片隅に何かがひっかかった。
(王宮スキャンダル……)
他人にしてはアレクサンダーによく似ている男。
だが王太子アレクサンダー以外の王子たちは現在それぞれが近隣国へ遊学中と聞いている。
(レオ様……)




