18 令嬢同盟
リリーの無実の叫びも虚しくシシィの視線は疑いをもったままだ。
「悪いけどあなた評判悪いのよ。ご存知かしら?」
手にした扇をパンと閉じてシシィがリリーを見つめた。深い青が美しいとリリーは思った。
「存じております」
シシィのど直球にリリーは自然と頭を下げた。視界に入るカーペットも女性好みの小花柄で美しい手仕事のものだった。
「行方不明事件から妹に婚約者を取られたのを妬んで婚約者を取り返すために妹を陥れたって聞いてるわよ」
妹を陥れたとは穏やかでない、リリーは頭を上げた。
「は?それは誰が?」
「みんなよ」
一番当てにならない噂の見本のような話である。
「みんな……」
「特にあなたの妹のお友達が熱心にあなたの悪口を言ってるけど、ご存じなかったの?あなた実の姉なのに冷血で妹を虐げる鬼のような姉だそうよ。人は見かけによらないわね」
「それは……存じませんでしたし、そのようなことしたことはありません」
「まぁ真偽はともかくとして。王宮で男のふりをして仕事をしてるなら茶会での最近のうわさ話なんて聞こえてこないわよね」
「全くの濡れ衣なのですが」
私の言うことが間違っているといいたいの?と視線で言われたリリーはあっさり降参した。
「申し訳ありません」
「で、なんで男のふり?」
「女性では王太子殿下の執務室で仕事ができないので」
「それくらいはわかるわよ。なんでアレク様のもとで働いてるのか理由を聞いてるの!」
「私もよく……」
「やっぱりアレク様のお手つきをねらって『ません』ないの、そうなの?」
リリーがかぶり気味にシシィの発言を横切るとシシィは片眉をあげて不満を示し、胸元へ扇で風をおくった。ちなみに今日も彼女は豊満な胸を見せつけるような襟ぐりのあいた紫のドレスである。
黒髪に青い目の大人びた姿だが年はリリーより下、成人したばかりだったはずだ。ぷっくりとした唇も紅をさしてつやつやとひかっている。が、パーティでもないのに少しやり過ぎだろうとリリーは思った。
大人びているがまだ若い令嬢なのだ年相応の装いのほうが似合うのではないかと思うが彼女にもこのドレスを選んだ理由があるのだろう。
「アレク様、すてきな方よ?お優しいし、文武両道に優れてらっしゃるし、見目も麗しいわよ。夜会でみんなアレク様と踊りたくて列をなすわよ」
「それは確かに素敵なお方だと」
「やっぱり、アレク様を色仕掛けで落とすのがあなたの仕事なので『違います!!』?」
「私は男性とお付き合いのできる状況にございません」
「あぁ妹の婚約者をとったんだものね」
「いえ、違いますし。もとは私の婚約者だったのですが」
「優しい婚約者にろくに顔を見せない二年間。一人では社交界にも顔を出せない彼を姉の代わりに支えた妹に心変わりをしてもしょうが無いのでは?」
確かに、傍目からみればそうなる。リリーは膝の上でぐっと手を握りしめた。視線が再び床に落ちた。
「ですが婚約者の話をろくに聞かず傷物扱いした人のことを慕えるほど私は人間が出来ていないので」
「まぁ姉がダメなら妹にって簡単に心変わりするような男ですものね。ろくな男ではないわよね」
パタパタと扇を仰ぐ音がしていたがパチリと扇が閉じられた音がした。
シシィが近づいてきたのか彼女の香がひときわ強く香った。
甘いバニラの香りがリリーの鼻腔の奥にとどく。
「それに」
シシィのたおやかな細い指がリリーの顎を捉えた。
「あなたを殴ったのはその婚約者なのでしょう?」
くいと顔を上向きにされたリリーはシシィの美しい青い目を覗き込む形になった。
「え?なぜ?」
「資料室ですれ違ったもの」
「アルフォンス・ランズフート。あなたと婚約する前からあまり評判はよくなかったのよ。弱い者いじめをするような男ですもの」
シシィはするりとリリーの殴られた側の頬をなぜると目を細めた。
「あなたをお姉さまと呼んであげてもいいわよ」
「え?」
「その代わりお互い助け合いましょう?」
まったく理解の出来ていないリリーに対し首を傾げてにっこりと笑うシシィはリリーの反応に不満を示した。
「だから私のことを助けてくれるならあなたのことを助けてあげるって言っているのよ。お姉さま」
ピシピシと扇で腕を叩かれ、リリーはリアに引き続きめんどうな妹が出来たと天を仰いだ。




