17 意外な助け
「ねえ、あなた大丈夫?」
アルフォンスから受けた暴力と屈辱で床に伏して動けないリリーはきつくまぶたを閉じて嗚咽が止まるのを待っていた。そこへ柔らかい声がかけられた。
リリーがゆっくりと目を開けるとあたりは夕日の赤ももううすくなり資料室の薄暗さがましていた。
だが側にたつのが女性もののドレスを着ていることは影の形でわかった。
「まぁ、大変。あなた怪我をしているのね。アンナ、手を貸して!!」
どうやらお付きのものをしたがえた貴族令嬢らしいとやっと視線を声の主に合わせたリリーは再び目を伏せた。
(シシィ様?)
そこに立つのは紛れもない先日の令嬢、キツめの顔立ちをした美人、アレクサンダーの従姉妹エリザベスだった。
「あなたどこが痛いの?起きれるかしら?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
アンナと呼ばれた侍女がリリーに手を貸してくれたので素直に立ち上がる。が、ぐらりと一瞬よろけてしまう。ずるりと何かが肩の上に落ちた気配がした。
「あら?あなたこれ」
シシィの視線の先をリリーも見た。
足元には小型犬のようなモフりとした毛玉があった。
(カツラ!)
あわてて手を伸ばしたが時既に遅し。
シシィの瞳がキラリと光った。
カツラを深くかぶり直したリリーを見据えてシシィは言った。
「……色々事情がありそうね。手当するわ。場所を変えましょう。アンナお連れして」
『面白いものみーつけた』
シシィはカツリと踵を鳴らし踵を返す。ウキウキとした気持ちが背中にあらわれている。
アンナがリリーの腕をしっかりと引く。意外な力強さにリリーがアンナを見るとにっこりとほほえまれた。
その視線がお嬢様の言うことは絶対だと語る。
(逃げられない)
覚悟を決めてしおしおとシシィの後を歩くリリーが連れてこられたのは王宮の奥、王妃の住む一角なのだが彼女が知る由もない。
渡り廊下を何度もわたりすれ違う人が女性が増えたことから、リリーが戻るべき執務室からかなり遠いことはわかった。
リリーは数ある扉の中からある部屋へと引きずり込まれ、アンナにカツラもメガネも剥ぎ取られ顔の手当をされた。
冷たく冷えたタオルがはれた頬に心地よい。
落ち着いて見回すとそこは女性向けの家具で整えられた部屋であった。おそらく奥の扉の先には寝室がつながっているのだろう。
「しばらく腫れるでしょうが幸い切れているのは口の中ですから。すぐに治りますよ」
アンナはそう言うと部屋を出ていった。
そうは言われてもまだじんじんとした痛みはあるし、アルフォンスが躊躇なく弱いものを虐げる男だったという事実にリリーの視線は床に落ちたままだ。
(シシィ様は何故私をここへ連れてきたのかしら?)
リリーが視線を上げ少しはなれたところの椅子からこちらを見ているシシィに視線を向けた。
シシィは目が合うとはっと息ををすいポツリと呟いた。
「黄薔薇の君」
シシィの目が大きく開かれる。
「へ?」
「どこかで見たと思ったの!!あなたリリフォリアでしょ!!」
「へ?」
「アデノフォラ家の消えたバラ姫だわ!!」
「あ、え、その」
「なんでこんな格好しているの?っていうかどうしてここにいるのよ!!」
「えぇっと私仕事をしておりまして」
どうせすぐに分かってしまうことだとリリーは白状した。
「どこで?」
「王太子殿下の執務室で」
リリーの返事にシシィのマナジリが上がる。
「まさか、まさか、まさか……アレク兄様をたぶらかしに来たの!!」
「違います!!」
これ以上の風評被害はごめんだと全力で叫んだリリーの頬がいたんだ。




