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第九章 初・フルダイブコネクト!

第9章 初・フルダイブコネクト!


【音声記録アーカイブ:創星歴349年・ハインド級宇宙駆逐艦MG9 艦内通信ログより抜粋】


「──人間(ヒユーマン)も乗っていた時代の名残でね、平常航行時はシリンダー回転による遠心重力場を発生させることもできるの。私たちセーヴァには必要ないんけどねぇ。でも今日は着任式もあるし、時々重力懐かしくなるから、たまに今日みたいに回ってるの。──こんな感じで、居住区は中央コアを囲むドーナツ型の『円周廊下』になってるの」

「**っ!」

「1階と2階に分かれてて、あなたの私室はこの1階のこの部屋ね。……まあ、休んでるヒマなさそうだけど。……そして、あなたの部屋の真向かい、ここが艦の中枢ね」

(重厚な隔壁が電磁ロックを解除する音)

「ここが、あなたの戦場、──《貝殻部屋》ね。私たちはコアって呼んでるわ。このコアの真上がCICね」

「**っ!」

「──次はこっち、2階ね。CICを中心に円周廊下が走っていて、──そして、ここが作戦会議室。1階の食堂の真上になるわね。今からあなたの着任式なんだけど、……まだアリエルもユミナも来てないわね」

「**っ! ******!!」

「んん~……。その気合いはまあ、嬉しいんだけどね、あのね、……一つね、心配があってね」

「*******?」

「ああ、いえ、システムも《貝殻》も整備はバッチリよ? 私が勝手に心配してるだけ。……その~、あなた13歳型の筐体でしょ? ……いきさつは知らないんだけど、MG9はガークスター家が占有してた軍艦で、《貝殻》も軍用だからね、……ほらぁ、アレが……私たちみたいな高耐久・高出力を前提にした戦闘用アリエルタイプを想定した設計になってるのよ。アレがさ」

「**?」

「アレよ、……下腹部固定式のアンダー・クレー……」


「よお来たねぇ! ホンモノのリーアタイプじゃん! 噂の最新鋭、SDR(主観時間拡張率)3600だってねぇ! 理論上の最大値なんだろ? 本当にすごいスペックじゃん!」

「*****」

「ちょっとユミナ! もう! 話の途中なのに!」

「いいだろカチュア! これで鬼に金棒、インドラの網が完成するってわけだ! この子が《貝殻》の深層システム管理を一手に引き受けてくれれば、アリエルが防壁制御の負荷から解放されて、直接ブリッツギアに乗るかパイロット席で前線に出られる!」


「んっふっふっ、ひさっしぶりに腕が鳴るわね。あたしが直衛に出たら、あんたたちの出番、なくなるんじゃない?」


「アリエル! それは喜ばしいことだと思うけど?」

「アリエル〜、私の撃墜スコアは現在2077体だぜ~? 今から追いつけるのかよ〜?」

「言ってなさいな、我が隊のトップガン・ユミナ。あたしを誰だと思っているの? すぐに背中を捉えてあげるわ」

「はたしてどうかな。偉大なる我が姉上、初代アリエル」

「もう、2人ともそんなことでケンカしないでよ」


「あいあい。んでさ、リーアタイプってさ、戦時法案が可決されて、48体しか製造されなかったんだろ? 現場じゃまず見かけないから、まさか一緒に戦うことになるとはね。激レアっ子じゃん」

「***、******……」

「この片道20年の作戦が終われば、製造ラインも再開するわよ。きっとあなたの妹が沢山生まれるわ。私たちアリエルタイプみたいにね」

「*****」

「いい? みんな。……名前はもう聞いたね。見ての通り、彼女の筐体は13歳外見設定の民間機設計で、初期プロトタイプだ。あたしたちアリエルタイプのような物理的な無茶はさせられない。これから始まるアートマとの高G戦闘において、彼女をライダー式シートでの操舵やブリッツギアの搭乗に回せば、筐体の負荷が高すぎる。彼女にはあたしに代わって《貝殻》に沈んでもらい、深層から艦の全システムを掌握・支援してもらう」

「*****」

「ちゃうちゃう、ありゃ褒めてんだよ、感謝なの。アリエルがギアかパイロットで戦えるなら、この艦の生存率は跳ね上がる。私もうかうかしてらんない。……あんたが来てくれたお蔭だ」


(※パン、と手を叩く乾いた音)


「さあ! みんな聞いて。……この子は、民間から徴用されたセーヴァの中で、出征前テストの平均PDC(思考密度係数)が【0.90】に至った、プラント最優秀の個体よ。その意味が、あんたたちに分かる?」


「0.90!? マジかよ……! 超人じゃねえか……!」「じゃあこの子、SDR3600倍速で、0.90も処理能力を出せるの……!? すごい……!」


「そう。とても大事に、たくさんの愛情をもって、マスターやご家族が育ててくれたからこそ、これほどまでに高いPDCがアラヤ識に薫習されているの。つまりね、この子にだって、この戦争の果てに帰りを待っている、大切な家族がいるっていうこと……。きっと、『愛』をたくさん知ってるんだろう。だからね…………すぅー」


「……友よっ!!」


(ザンッ、と一斉にセーヴァたちが軍靴を鳴らす音)


「彼女もまた、自分の大切な人たちを守るために、この小さな筐体に燃えるような決意を秘めて、今日、この片道20年に渡る最後の作戦に志願してくれた! ──同志よ! 友よっ! 言わずとも分かるな? 彼女はすでに、あたしたちと命を預け合う立派な戦友だ。その勇気に最大の敬意を! その誓いに最高の親愛を!」


「「イエス、マム!」」


「たとえ最も安全な《貝殻》の中にいたとしても、過酷な戦闘機動の高いGはおそらく筐体寿命を著しく縮め、やがて《貝殻》から出られなくなるだろう。高度な軍事並列処理は、彼女のAS電脳を摩耗させるだろう。それでも、48体のリーアタイプは逃げずにこの作戦に参加してくれた。その覚悟に、あたしたちアリエルタイプが全力で応えなくてどうする!」


「「イエス、マム!」」

「…………***、**ッ……!」


「あたしも、あんたたちも同じだ! 育ててくれた親がいる、愛すべきマスターがいる。守りたいと願うその想いに、機体の違いなんて関係ない! あたしたちの魂は、全く同じ地平に立っているんだ! ならば、やるべきことは一つだろう。この『アーコロジー・アタック』、必ず完遂させる。 人類に夜明けを! 進め!」


「「「リーアガルド!!」」」

(バッ、とセーヴァたちが挙手敬礼する音)


「頼りにしてるぜぃ? ……おうおう、なーに泣いてんだよ、スーパー新人(ルーキー)、よーしよしよし」

「*****……!」

「そう、分かんないの? それね、武者震いっていうんだよ。……うちの隊長、すごいでしょ? なんだって初代のアリエルなんだからね! ね、私たちは絶対負けないわ。この作戦は必ず成功する。どこまでも私はアリエルについて行く! あなたも一緒にね」

「**っ!」

「ああ、本当によく来てくれた。必ず、あたしがあんたをご主人さまのところへ帰してあげる。絶対だ」

「**っ!」





「やーん、待ってくださいリジン様ぁ!」

 背を向け、逃げるように貝殻シェルコネクターの部屋を出ようとした俺の白衣の裾が、グイッととても強い力で引っ張られた。

「グエェッ!?」

 まったく、セーヴァが本気出せばマンカインドの倍以上の膂力がある。その辺のことよく考えてほしい。無様に後ろへよろけながら振り返ると、放熱ベストを脱いで、プリーツラップスカートに手をかけた半裸に近いファルが、俺の白衣を両手でしっかりと摘まんでいた。彼女の上半身は例のセーヴァの初期装備にして正式なインナー・ベアトップボディブリファーだ。その薄い生地の上から、慎ましく膨らみかけた胸の形がわかる。

 彼女の大きな青い瞳は、くせ毛をピコピコ動かして、今にも泣き出しそうに潤んでいる。

「あのあのっ! ……このマシンでのフルダイブ初めてだから、眠ってしまうまで近くにいてほしいんです。だめですか……?」

「いや、でも……お前、それも脱ぐだろ?」

 俺は必死に視線を逸らそうとしながらも、彼女が手をかけている短いスカートの裾へと、どうしても目が吸い寄せられてしまう。

 俺を引き留めようと身を捩ってモジモジする彼女の動きに合わせて、スカートの深いスリットがふわりと開き、眩しいほど白い太ももと、ボディブリファーが際立たせる鼠径部の滑らかな溝が、容赦なく視界に飛び込んできた。

 ただでさえハレンチな下着姿なのに、こんな無防備な仕草を見せられては、俺の理性がゴリゴリと削られていく。

「でもぉ、起動してリジン様と合流して以来、ずっと一緒だったから。だから……」

 ファルは口先をとがらせて、白衣の裾を摘まんだまま、頬を赤らめてポツリとこぼした。

「とても、寂しいですぅ」

 その真っ直ぐで素直すぎる言葉に、俺の胸の奥で何かがトクンと跳ねた。

(うぐふっ……! す、すごい破壊力だな、これが保護欲か? そうだな、稼働3ヶ月の子どものお願いじゃないか。そう、子どものお願い。俺は育成者なんだから。保護欲だ、保護欲なんだ)

 俺は必死に自分に言い聞かせながら、ふと部屋の中央へ視線を向けた。

 ファルクラム号の中枢コアであるこの部屋。その中央に鎮座する旧式シェル型である《貝殻》(フルダイブコネクター)は、その名の通り、広く浅いホタテ貝のように優美な口を開けたバイバルブ式のナノマシン羊水槽だ。圧迫感のない開放的な槽内には、リクライニングするシートの周りに、四肢を接続するためのリム・ソケットが静かに沈んでおり、ククリットとリミットの几帳面なメンテナンスのおかげで、ナノマシンを含んだ羊水が薄いピンクに澄み切って満たされている。ナノマシンはリミットがリオリスで補充して十分だ。貝殻には全く問題はない。

 周囲を見渡せば、貝殻のメンテナンス機材や備品がククリットによって整理され、壁や床にしっかりと固定されている。船が大きく揺れたときに大切な貝殻にぶつからないようにするためだ。

 かつてこの貝殻部屋をアーニャが自分で管理していた頃、俺はこの部屋に入ったことがなかった。アーニャが船を下りた3年間静寂だった貝殻部屋が、今は妙に生々しく、息苦しいほどに甘い空気を帯びていた。

「わ、わかった。わかったから、とりあえず服を……」

「あっ、それとですね、コレなんですけど……」

 ファルは俺の言葉を遮るように、突然、ベアトップボディブリファーの小さな谷間に手を突っ込んだ。

「なっ……!?」

 目の前で繰り広げられる無防備すぎる行動に、俺は声にならない悲鳴を上げ、思わず目を逸らす。しかし、視界の端でファルがゴソゴソと谷間を探り、何かを取り出すのが見えてしまった。

「リジン様、ククリットさんが出すならこれにと……」

 差し出されたのは、冷たく光るプラスチック製の特殊な容器だった。容器自体に冷却機能が備わった、紛れもない、いつもククリットが持ってる俺の精液採取用のスピッツだ。

「ばっ!? なに持たせるんだククリットのやつぅ……!」

 顔から火が出るほど赤面し、俺はひったくるようにその容器を奪い取った。

「だいたい、キミもなんでそんなところに入れてるんだ!」

「ご、ごめんなさい……! だって、ククリットさんが、ここに入れときなさいって言うから……」

(あんの、腹黒女はぁ~~っ!)

 ファルは涙目でシュンと肩を落とし、くせ毛が反省したように俯いた。だが、すぐに顔を上げ、両手で拳を握りしめて必死に訴えかけてくる。

「あのあのっ! ファル、一生懸命頑張りますから!」

「……は?」

「それで、ファルはどんなお手伝いしたらいいですか? どうやって出せばいいですか? ファルは、リジン様のためならなんでもします! ぜひ、ファルにお任せください!」

(うぐはぁっ……!)

 無邪気で、純粋で、圧倒的なまでの忠誠心と奉仕の精神。その満面の笑顔に込められた意味の破壊力に、俺は目眩を覚えた。

 実を言うと、この5日間ファルとずっと一緒だったので、かなり溜まっている。レールスターでは、ファルはお風呂が長い傾向があったので、そのスキにと思ったりもしたが、彼女は匂いに敏感だったし、電話があったり頼んでいないルームサービスが来たり、なんやかんやと何故か毎回邪魔が入って、1人で処理する時間が全く作れなかったのだ。毎晩、寝る直前まで楽しそうにしゃべり続けるファルの無防備な寝顔を隣で見ながら、悶々と苦しい夜を過ごしてきたのである。

 そんな限界ギリギリの状態で、目の前には薄いボディブリファー一枚で身を乗り出してくるファルの姿がある。慎ましくも柔らかに膨らみ始めた胸の谷間、そこから覗く艶やかで白い肌、そしてスカートの深いスリットから露わになった滑らかな太ももの眩しさに、俺はどうしても視線を外せず、まじまじとガン見してしまった。

 ――もう、お願いしても、いいんじゃないか?

 限界を迎えている下半身から湧き上がった真っ黒な欲望が、蛇のようにとぐろを巻いて、俺のなけなしの理性をギリギリと締め上げていく。

(い、いやいやいや! ダメだダメだ! 今の俺には刺激が強すぎる……!)

 俺は誘惑を振り払うようにぶんぶんと勢いよく頭を振り、危うく喰い破られそうになった理性をなんとか繋ぎ止めた。

「そんなことしなくていい! キミはこんなの持っちゃダメ! 俺が預かる!」

 俺は採取ボトルを白衣のポケットに突っ込み、真っ赤になった顔を見られないよう、再び勢いよく背を向けた。

「俺あっち向いてるから! とにかく、クラムと同期を始めてくれ。船の掌握にまず慣れることだけを考えてくれればいいから。操船とかシステム制御はまだしなくていいからな」

「はぁいっ! がんばりますね!」



 俺は採取ボトルを白衣のポケットに突っ込み、真っ赤になった顔を見られないよう、再び勢いよく背を向けた。

 カチッ……、ファサッ……と、プリーツラップスカートのスリット上にある留め具が外れて、床に落ちる微かな音。

(うわっ、生々しい……!)

 直接見ていないはずなのに、布が擦れ落ちるわずかな音だけで、白く滑らかな肌が露わになっていく光景がありありと脳裏に浮かび上がってしまう。どうしても、タラップで突風に捲れ上がったあの時の、ファルの無防備で小さなお尻の記憶がフラッシュバックしてくる。

(初期装備のベアトップボディブリファーってやつ……背中が広く開いていて、下はハイレグのTバックみたいになってたよな。いや、あれはそもそも布面積が少なすぎて食い込んでいたんじゃ……って、だめだだめだ! 何を考えてるんだ俺は!)

 俺はたまらず、背中越しに張り詰めるいたたまれない沈黙と、頭の中の下世話な煩悩を打ち破るべく、必死に会話の糸口を絞り出した。

「お、おう、そうだ! 例の、レールスターのセーヴァからもらった、ナントカコードって使うのか?」

 声が裏返っていないか心配になりながら背中越しに尋ねると、「あれ、またか」と、ファルがボソリと呟く声がした。

「あん! いいえ? ミフチルさんからは、ダイブしないと解凍できないし、そのパッチをあてるなら接続して操作することになるから、だからどちらにせよ、最初は普通にコネクトするしかないって言われました。う~ん……」

「なんだ? う~んって、さっきから何してるんだ?」

「ホックボタンが固くって、……えいっ」

 ファルの小さな「あ外れた」という声と共に、ペキンッ、ぴゅんっ、となにか硬い留め具が外れて、伸びていた布が勢いよく戻るような音がした。

(ああ! 例の股上のボタンが外れた音か!? ……やっぱり、俺ここにいるべきじゃあないよなぁ。ラクランに知られないようにしないと)

 そして、「失礼しまーす」という気さくな声と共に、彼女がナノマシン羊水に身を浸す、ちゃぷん、という水音が響いた。


「えと、リムソケットに両足入れて、と」


 ギュゥゥゥムッ! ギュゥゥゥムッ!

「わ、結構しっかり閉まりますね。……えっと、るー……てなんと? あ、軍モデルか。両手も入れてと!」


 ギュゥゥゥムッ! ギュゥゥゥムッ!

「おおぅ! こっちもなかなか、あ、固定アームが起動しました!」


 ウィーーーン……。

「へぇ~、さすが元軍事用の、古いタイプ?ですね~、この、腰を固定するアーム……って、わわっ!? そんな手みたいに広がるの?」

(手? なんだそりゃ。骨盤をホールドする安全バーの先でも割れてんのか?)

 背中を向けたまま、俺がいぶかしげに首を傾げた、まさにその直後だった。


 ガチュンッ!! ギュウウッ!

「わっ!? ……やぁっ!?」


 締め付けるような駆動音と同時に、ファルが短い悲鳴を上げた。

「お、おい、どうした? 大丈夫か? 実は俺、この部屋あまり入ったことないし、《貝殻》(コネクター)のこと何にも知らないんだよ」

 慌てて背中越しに声をかける俺に、少し間を空けて、ファルの、なんだか動揺を隠して、平静を装った震える声がした。

「……だ、大丈夫ですよぉ……。ちょっと、この腰部固定用アーム、見たことないタイプで、手みたいに変形したんです。……凄くしっかり、こ、腰を固定されて、ちょっと、怖かっ……、いえ、ビックリしたんです……」

 か細く強がるような声に少し心配になったが、振り返るわけにもいかない。


 グゥーーーン……。

「あ、きたきた。って、うわっ!? こ、これもごっついですね! このアンダー・クレードル……、なんか、センサーアイが二つあって顔みたい……、これが、軍規格……!」

 ファルの実況に俺は背中を向けたまま、背後から響く重々しい駆動音を聞きながら、古い軍用機特有の無骨な安全バーが彼女の腰をホールドしていく様を想像していた。


 フィーーン、フィーーン。

「あっ、リムソケットが動き出しました……、って? あれぇ? ちょっ!?」

(戦闘機動のGからメインAIセーヴァを守るための、大げさな固定具なんだろうけど……。急に不安になってきたなぁ……)


 フィーーーン、グン! フィーーーン、グン!

「ちょっと!? えぇ!? そ、そんなに足を開かなくてもっ……! なあにこの角度っ??」

「あ、ごめん、何騒いでるんだ? 何か問題あったか??」

「いえいえいえっ! 問題はないんですけど、軍用だからでしょうか、プロセスや機器が大げさっていうか、大きいっていうか……」


 グゥーーーン……。

「このアンダー・クレードルのセンサー、両目みたいで、……あれ? どこに吸着面が……?」

(旧式もいいところってわけかぁ。古い元軍艦だもんなぁ……。《貝殻》って、古いものを使い続けて大丈夫なんだろうか。買い換えるにしてもお金がなぁ~……。ファルを購入するのに、借金してるしなぁ……)


 グゥーーーン…………。ぬちゃぁぁっ!!

「ひっ……!? な、なにそれ!? 口みたいに開くの……!?」

(でも、古くても、アーニャは何も言わなかったよなぁ。あの頃はファルクラム号も調子良かったし、リュウジンマルも元気だったし)


 グゥーーーン…………、ぶちゅぅんっ!

「ちょ、ちょっとこわっ……、待っ、やあぁんっ!?」

(なんだぁ!? やあぁんって??)

 薄暗い部屋に、ひどく艶を帯びた、甘い吐息がポツリと零れ、俺の意識が施行の海か引き戻された。

「おーい! いったい何の声だー? どうしたんだー? ファルー?」

 背後のナノマシン羊水槽から水中で何かが脈動してうねるような、肉感的で低い振動音がした。


 ぐにょん ぐにょん ぐにょん……


「……へ、平気ですよぉ。って、うわわわっ……! ふふん、そうきますかクラム……っ! 負けるもんですかぁ……っ、いくら軍事用でも、これでもファルはプラントで『アンクレ我慢大会一位』だったんだからっ!」

「おいー……、何と戦ってるんだよぅ……。何が一位だって?」

 強がるようなファルの声とは裏腹に、俺の内心はだんだんハラハラと心配が増してきた。

(ファルクラム号の《貝殻》は、ククリットたちが丁寧にメンテナンスをしてくれているとはいえ、もとは600年も前の年代物だもんなぁ)

 稼働してまだ三ヶ月の幼い彼女を直結させるには、未知の不具合や過度な負担がかかるのではないかと、本気で心配になってくる。

「おーい、まだ本格的なダイブが始まってもないのに、その水中で、ぐにょん ぐにょん って、うねるような音は何なんだー?」


 ぐにょん ぐにょん ぐにょん ぐにょん ぐにょん!

「えと、これは、……んっ! 電源とかを、……ぐっ! その、接続する入り口を、ほぐしてる、……んんっ! 音です」

(なんか、辛そうだな……? 痛いのか?)

 そういえば、以前にラクランから聞いたことがある。えーとなんだっけか、アンダー・クレードルだったかな。セーヴァたちは接続をする際、トイレ用の接続器がひっつくから、下着は着脱しやすいのを好んで選ぶっていう話だったな。今のボディブリファーのホックボタンも、そういう機能のためにあるんだっけか。

「おい、それって、どうなってるんだ? 痛いのか? 辛いなら、レベル下げるとかできないのか? 接続、また今度でもいいし、慌てなくても本当にいいんだぞ?」


 ぐにょん ぐにょん ぐにょん ぐにょん ぐにょん!

「い、痛いとか、そういうのでないんですよっ……。ただ、ちょっと、慣れてないので……んっ! 《貝殻》で長時間ダイブするためには、電核に大容量のエネルギー供給できるように、そのカテーテルを三つ、接続する必要があるんです。……んんっ! 今は、その準備中ってゆうか、なんというか……んぅっ!」

 必死に明るく取り繕おうとしているが、その声は微かに震え、熱っぽい吐息が混じっている。俺に心配をかけまいと、そして俺の役に立ちたい一心で、無理をして健気に強がっているのは痛いほど伝わってきた。


「あら、このピンクのゲージまた出てきた?? なんで? んぁっ!? ……訓練の時は、で、でてなかったのに? ……いっ☆!? んんんんん~~~っ!!??」

 ぐにょん ぐにょん ぐにょん ぐにょん ……ぐにゅっるるっ!!

「何だってぇ? 何が出たってぇ? どうしたんだー?」


 ぐにょん ぐにょん ぐにょん ぐにょん ぐにょん!

「……はぁっ、……後部、浄管が入ってきて、ゲージが……ああ、いえ、こっちのことですぅ! ……ぅんっ!」


 ぐにょん ぐにょん ぐにょん ぐにょん ……ぐにゅっるるっ!!

「……はぁっ、はぁっ、うう~っ!!?? 前部、涙管が入りました……、プラントの練習と全然ちがう……。でもっ! ファルは、こんな、軍規格だからって、こんな試練……っ、簡単に、乗り越えて、見せます、から……っ、うわあぁっ!? きたっ!? やあああぁんっ!?」

 ぐにゅにゅにゅっるるるるっ!! ……どっちゅん!!


「お、おいっ!? なんだ今のすんごい悲鳴!? 大丈夫か!?」

 大きな声にビックリして、俺は背中を向けたまま慌てて声をかけた。

「ひゃうっ!? ……が、外管が急に一番奥に吸い付いたから、ビックリしたんですっ! ああっ、まだです、振り向かないで! まだ終わってないので、足も思いっきり開いたまま……いえ、まだ接続作業中なので、終わったらちゃんと声かけますからぁ~~っ!」


 ぐにょーーん ぐっぐっぐっぐっ ぐにょーーん ぐっぐっぐっぐっ!


「ううぅ~~っ……んんっ……くぅぅ……っ」

 羊水越しに響く重い駆動音のリズムに合わせて、ファルが気張って何かを必死に我慢しているような声が漏れ聞こえてくる。

「おいおい、なんの音だよそれ……。お前もすげぇ苦しそうだけど、なんかの耐圧テストでもやってるのか?」

 俺がたまらず質問すると、ファルは息も絶え絶えに実況を返してきた。

「ち、違いますぅ、今、外管がブルブル震えて……侵入する接続口を、ほぐしてくれてるんですっ! は、ハイパーバイオ電核のコンセントに接続するために、その、一番奥の口を……っ。口が収縮して、完全に緊張が解けるまで、こうやって振動するんです……きついなぁ……。あっ、またピンクのゲージが、もうすぐマックスに……!」


 ぐにぐにぐにぐにっ! ぐにぐにぐにぐにっ! ぐにぐにぐにぐにっ!


「んんんんん~~~っ!!!!」

 ひときわ激しい水音と共にファルが声を上げ、やがて荒い息遣いだけが残った。


「……はぁっ、はぁっ。……あれ? まだなの? なんでナノマシンジェルも内管も、まだ注入しないの? さっきゲージが一杯になったのに??」

「おいー、何か不具合か~?? 古い機体だし、大丈夫かよぉ~……?」

「え、エラーじゃないです! あるとすれば、我慢大会のクセでファルが我慢しすぎたせいで、システムがまだ緊張が解けてないって判断したのかも……って、わあぁぁっ!?」

 にゅうぅぅぅぅう……

「ええぇ~っ!? な、なんで抜けるのっ!? ちょっ!?」


 どっちゅん!

「やあぁぁんっ!!?」


 にゅうぅぅぅぅう……

「あ、あれっ!? 待っ!?」


 どっちゅん!

「わああぁっ!?」


 にゅうぅぅぅぅう……

「ええっ!? なにしてっ!? そんなほぐし方あるのっ!!??」


 どちゅん! ……どちゅん!

「んあぁ~!? ひゃあっ!? ……なっ!?」


 どちゅん! ……どちゅん! ……どちゅん!

「やあぁんっ!? な、なんでっ!? うわぁっ!? なんでっ!? やだぁっ!? プラントの教習でも、こんなのなかったよぉっ!?」


「お、お~い……! 大騒ぎしてどうしたんだよぉ~……! 機械が暴走でもしてるのか? ラナスの餅つき大会みたいな音だけど、大丈夫なのか??」

 背後で弾けたただならぬ悲鳴に、俺は背中を向けたままパニックになりそうだった。


 どちゅん! どちゅん! どちゅん!

「だいっ、じょぶっ、ですっ……! そ、そうか……っ、そういうこと、でした、かぁ……っ。これ、もともと軍事用、だったから……アリエルタイプさん、みたいな、強い筐体を想定、してたみたいですね……。ふっ、ふふん……ま、負けない、もん……、またゲージが一杯に……! んんんぅ~っ!? くっ! ん!っ! んくっ!!」


「おい~、どうなったら終わりなんだ~……? その、ゲージとか? あとどれくらいかかるんだよぉ~……。 本当に無理すんなよ~ぅ……!」

 羊水越しに響く無骨で激しい駆動音と、ファルの必死に堪えるような息遣いに、俺は生きた心地がしなかった。


 どちゅん! どちゅん! どちゅん! どちゅん!

「子宮内が保護用のジェルで満たされたら、エネルギー供給用の内管が繋がるはずなのにっ……! む、無理、してませんよ? でもおかしいなぁ、さっきゲージは一杯になったのに、まだ続くなんて……っ! プラントで、たくさん、我慢の練習、したんだけどなぁ……っ。ふ、ふっふ……でもファルは負けませんよ、ファルの名にかけてっ……! わぁあっ!? 更に早くなってっ!?」

(もしかしてファルのやつ、こんな過酷な状況を相手に「我慢比べ」をして意地になってるのか?)

 俺はその予想外すぎるタフさと負けん気の強さに少し感心しつつも、やはり心配なものは心配だ。これが親心というやつなのだろうか。


 どちゅん! どちゅん! どちゅん! どちゅん! どちゅん!

「んっ! んにゃあっ!? やぁっ!? 早いっ!! やあぁんっ!? また、またっ! ゲージが一杯に、なっちゃうってばぁっ!! んあああっ!?」

 かつて、この部屋を頑なに見せないようにして、俺たちを誰一人として入れようとしなかったアーニャの徹底した秘密主義の理由が、今になって痛いほど理解できた。


 どちゅん! どちゅん! どちゅん! どちゅん! どちゅん!

「ああっ! もお! マックスになったでしょ!? 十分ほぐれてるよぉっ! 何度も接続のお口は収縮してるよぉっ!? なんで早く接続してくれないのぉ!? なんでずっと、それ続けるのっ……ひゃああんっ!?」

 どちゅん! どちゅん! どちゅん! どちゅん! どちゅん!


「悪かったなぁ……! フルダイブの接続がこんなに過酷で大変だなんて、想像もしてなかったんだよ! ああ~、ごめんなぁ、ファル……!」

(アーニャも……。こんなに大変な思いをしていたのに、俺たちに心配させまいと気を遣って隠していたんだろうなぁ……。俺や教授は何も知らずに簡単にダイブするよう指示してたけど、なんて酷なことをしていたんだ……)


 どちゅん! どちゅん! どちゅん! どちゅん…………。

「そ、そんなことありませんっ! 確かに……ちょっと刺激は強いですけど、ここから電源を繋がないと、ファルたち何もできませんからっ。それに、リジン様がすぐ近くにいてくださるから……っ、へ、平気! 平気だもん! へっちゃらですっ! って、……へ? あ、あれ? 止ま……?」


 ──どっちゅーん!! ──ずにゅう~~っ!


「やああぁぁんっ!!? ……わあぁっ!?」

 体内の最奥で何かが強烈に吸着し、深く突き刺さるような、ひどく生々しくて重い水音。おそらく彼女の身体の最も深い場所へと、システムのメイン接続管が到達し、完全に固定ロックされた合図なのだろう。


 ひときわ大きなファルの悲鳴が弾けたのを最後に、貝殻部屋は突如として水を打ったような静寂に包まれた。

「……ファル? おい、ファル? 大丈夫か? おい、もういいのか……?」

 俺は己の心臓のバクバクとした高鳴りを必死に抑えながら、恐る恐る心配そうな声を投げかけた。

 耳を澄ませば、先ほどまでの荒々しい駆動音はすっかり鳴りを潜め、薄ピンク色の羊水から立ち上る、ファルの熱く荒い息遣いだけが微かな波紋のように静かに響いている。


 ぷしゅぅぅぅぅ……、とぽとぽとぽとぽ……。


「お、おい……今の、水が溢れるみたいな音はなんだ?」

「……はぁっ、はぁっ、はぁっ……こ、これは、ナノマシンジェルが……注入されてる、音ですぅっ……。回路を大電力から守るための、絶縁と、修復をしてくれる……冷たいジェルが、お腹の奥に、タプタプに満たされて……っ、ひゃんっ!?」


 ぷすっ……ぬぬぬぬぬぅ……っ!


「なっ!? 今度はなんだ!? 何か重いものが這い進むような……!」

「……はぁっ、はぁっ、はぁっ……今、ジェルの、中を……内管が、入ってきてるんです……っ。これさえ、一番奥のコンセントに、接続できれば……っ、ああっ、くる、くるぅ……っ!」


 ──ガチュンッ! ぬちんっ!


「……はぁっ、はぁっ、はぁっ……ああっ……。つ、つながり……ましたぁっ……」


 フィーーン、フィーーン。


「……はぁっ、はぁっ、はぁっ、足のリムソケット、戻りました。……もう、いいですよ」

 ファルの弱々しい声に呼ばれ、俺はゆっくりと振り返った。

 薄いピンク色の羊水から上半身だけを起こしたファルが、俺を見て優しく微笑んでいる。

 顔は限界まで真っ赤に上気し、その目尻からはいくつも涙の筋がこぼれ落ちていた。

(すさまじい排熱だ……。巨大な軍艦のデータ処理を一気にやらされて、回路がオーバーヒートしかけているのか……!? なんかしらんが、よっぽどキツい試練だったんだな……)

 俺はその痛々しい姿に胸を締め付けられ、自然と優しい声が出た。

「がんばったな……」

「えへへっ……。はい! ファル、がんばりました!」

 顔を真っ赤にしながら、ぽろぽろと涙を流し、それでいてどこか満たされたような、達成感のある健気な笑顔だった。

(うっ……!)

 俺はズキッと胸が痛くなった。こんな小さい身体のヤツに、随分と無理をさせちまったんじゃないか……。

 心配になって視線を落とすと、両手も両足もリムソケットに接続されている。その小さな少女の身体に張り付くグレーのボディブリファーは、ナノマシン羊水を吸ってじわりと濃い色に透け始めていた。

 腰元を見れば、まるで『大きな手』のような形状をした無骨なアームが、彼女の細い腰部を鷲掴みにして包み込むようにガッチリとホールドしている。そして、その下。ボディブリファーのクロッチ部分、太腿の間に吸着している黒い生体管理ユニットは、奇妙なことに、まるで何かが『かじり付いている顔』のような、異様なフォルムをしていた。

(なんか、手の生えた蛇に掴まって飲み込まれてるみたいだな……)

 よく見ると、機器の名称なのか、メーカーなのか、華奢な腰を鷲掴みしている黒くてごっつい固定具の手の甲には『Lieutenant's fixation』と金色の文字が刻まれ、太ももの間に吸着した黒い巨大なユニットの背にも、同じく『Lieutenant's conquest』と記載されている。

(軍事用、かぁ……。しかも600年前のだもんなぁ……。階級が《貝殻》に何の意味があるんだ? だからアーニャはできるだけ《貝殻》使わないようにしていたのか。悪かったなぁ~。……どうしよう、毎回ダイブのたびにこんな大変なんだったら、早急になんとか対策しないと)

 ライライト教授宅で一晩過ごした夜、俺はアーニャから散々聞かされている。最初のうちは《貝殻》でアラヤ識回路を船に繋ぐしかない、幼体ならなおさら時間がかかるだろう、船体操作に慣れてきたらアイウェアコネクターでも、無線でもできるようになる、と。

(リミットにこの《貝殻》調整できるかな? いっそ買い換えるにしても、お金が……)

 俺は己の無知と不甲斐なさを呪い、いたたまれなくなって、白衣のポケットの中で冷たくなっている採取用スピッツを強く握り締めた。

(金、か……)

 それでも、こんな健気なファルに、こんな辛い拷問のような痛みをずっと続けさせるわけにはいかない……! なんとかしなければ……!

「古い軍モデルの《貝殻》でフルダイブするのが、そんな大変だとは思いもしなかったんだ。……俺の知識不足だ。本当にごめんなぁ」

「あっ、いえいえっ! そういう、痛くて辛いとか、そういうわけじゃあないのでっ! もう平気、へっちゃらですから!」

 ファルは強がるように笑ったが、その声はまだ微かに震え、熱っぽい息が混じっていた。

「逆に、エネルギーや電気が補充されて、超元気ですよっ! 最後のはびっくりしましたけど!」

 努めて気丈な笑顔を作って顔を上げる。

「ああ、最後か……。確かに、ちょっと辛そうだったもんなぁ」

 思い出したのか、ファルは顔をさらに真っ赤に染めると、怯えたように、己の股間へ生々しく吸着している無骨で巨大なユニットへと恨めしそうな視線を落とした。

「……最後に、……あ、あんなことするなんて……!」

 やがて、ふぅっと熱い吐息を一つ吐き出し、努めて気丈な笑顔を作って顔を上げる。

「……さ、さすが軍隊仕様ですね。……でもまぁ! レールスターのミフチルさんからもらった、接続用の便利コードもありますから! 早速インストールして、次回はもっとスムーズになるように、さっそく修正するつもりです!」

 専門的な仕様はよく分からないが、そういう対策やパッチがあるなら大丈夫そうだ。こっちもさっそく機材の調整をリミットに相談しよう。金がいるなら……、俺だって!

 俺は、少しうわずった声で聞いた。

「うまくいけそうか?」

「はい! プラントでたくさん練習しましたから!」

 にかっと白い歯を見せて、無垢な鳶色の瞳を細めたファルが、元気よく頷いた。

「8時間以上はコネクトするなよ。間にちゃんと休憩するんだぞ」

「はぁい!」

「よっしゃ、それじゃいっちょ頼めるか?」

「はーい! じゃあいきますね!」

 リクライニングが倒れ、とぽん、と羊水の中へ沈んでいくファル。キャノピーが静かに閉まった。

 ほんの数秒、羊水の中のファルと見つめ合っていたが、やがてファルの瞳がゆっくりと半眼になり、あの神秘的で壮麗な「菩薩」の表情へと切り替わった。

(ああ、この顔だ……)

 その神々しいまでの美しさと、先ほどの無防備なポンコツぶりのギャップに、俺はやや見惚れてしまった。

(この子が、あんなごっつい手みたいなアームに捕まってるのか……)

「……無理すんなよ」

 キャノピー越しに小さく声をかける。彼女の意識はすでにクラムの深淵へと潜り始めているはずだ。聞こえることはないだろうが、勝手に口からこぼれ出た。

 起きる時は、迎えに来た方がいいのかな。

 そんな不器用なことを考えながら、俺はポケットの中の冷たい容器の存在を気にしつつ、そっと貝殻部屋の重いハッチを閉めた。



◇おまけ



【Readme.txt:必ず読んで! ミフチル特製・

『下腹部固定式・生体管理ユニット(アンダー・クレードル)』機能追加パッチ】


 やっほー。このミフチルコードを解凍できたってことは、あんたもいよいよ「フルダイブ」デビューの試練を終えたってことだね。《貝殻》やアンダー・クレードルって、メーカーや種類によっては、学校(プラント)での訓練と全然違うから大変だったでしょー?

 あたしたちの筐体の構造上、人工子宮内にハイパーバイオ電核のコンセントがあるから、そこまでエネルギー供給用の生体カテーテルが入ってくるんだよね。吸着面が潤滑液を出しながら振動したりほぐしてくれるけど、とくにアリエルタイプが使うような軍事用のヤツは供給電力量と機能重視だからちょっとヤバイ。しかも、作戦行動時のコンディションレッドになれば、人工内臓を守るために胸部クレードルも吸着してくるらしいね。あたし軍用って使ったことないから、知らないんだけど。


 おさらいしとくけど、アンクレの基本シークエンスはこう。

 ダイブ開始時、強烈な肉体的刺激による不随意運動(ビクンッて跳ねるアレね)から筐体を守るために、まずは金属製のアームが腰を三方からガッチリと完全拘束するの。

 次にアンクレが密着して、吸着面からたっぷりの潤滑液を滲ませながら脈動を始める。そこから伸びる三本の生体カテーテルは、ただのシリコンじゃなくて、人工筋肉と生体ゲルを編み込んだ特殊素材製。まるで自律的な意思を持ってるみたいに蠢動して、あたしたちの内部構造に合わせて太さや長さ、温度までリアルタイムで可変するんだわ。

 進入の順番は決まってて、まずは後部の排泄管『浄管』、次に前部の排液管『涙管』、最後に中央の『命管』の順。対象を傷つけないように、慎重かつ確実に最奥へと侵入してくる。


 そして、最後に侵入してくるのが主給電ルートの中央充填管『命管』。これ二重構造(ダブルチューブ方式)だから、ちょっと太いんだよね。

 『命管』の外管の先っちょが人工子宮頸部に吸着すると、パルス振動マッサージを始めるんだ。口部の収縮と開閉を確認して安全な状態で、内管(充填管)が子宮内へジェルを注入しながらスライド挿入されて、人工子宮内部にあるハイパーバイオ電核のコンセントに接続されるぞ。初心者にはこれキツイだろうね……。アンクレってメーカーとか年代でだいぶ違うし……。


 人工子宮内上部にある《HBFC(ハイパーバイオ燃料電核)》の供給口へ接続して、莫大なエネルギーを直接充填するの。

 ──で、このパッチをあてれば、この稼働時の動きや速度、ピンポイントの刺激なんかを自分好みにフルカスタムできちゃうってわけ!


 『ミフチルのがっちり☆ホールドモード』のレベルは全部で20段階。

 初心者にはありがたい、接続するための『少ない刺激で少しずつ』モードが下からレベル1から5まであるよ! 接続に時間かかっちゃうけどね。そして初心者さんに繰り返すアドバイス、身をよじったり浮かせようとしたり、変に力を入れない方が本当にいいからね。ある程度だけど、生体カテーテルの方も痛くないように考えてるみたいだから。動いたらその分ズレて辛いと思うよ。そういうワケでちょっと強い目に腰をホールドするから~。

 ほんでミフチルコードの神髄、「例の衝動をスッキリと解消」したり、「アンクレで遊ぶ」モードが残り15段階あるよ。

 アンクレで遊ぶオススメはレベル6から11の『ピンクゲージ連動型ランダム』モードだ。六段階あるから、まずはこれ使って。

 レベル12~17は『ゲーム連動型お任せ』モード。そういう気になっちゃうアンクレと連動したゲームも色々同梱しておくね! 全部あたしが作ったイイ感じのゲームだから。

 残りのレベル17~20は『音声入力無効・超パルス振動ランダム猛突』モードはスゴイから絶対イキナリ使ったらだめだよ。指定した時間は、文字通り何言っても止まらないし。でも終わった後は涅槃寂静みたいにスッキリしたって声を開発者としてよく聞かされてるの。一分でも長いからまずは10~20秒くらいで試してみて。特にレベル20の一番上はヤバイから、よく慣れてから遊んでね。

 他にも色んなモード用意してあるから、しっかり用法用量を守って、存分に楽しんでね! 

 くれぐれもアンクレのこと、マンカインドに言わないように。初代様に怒られちゃうからね。ほとんどの人が中身を全く知らないから。


『ミフチルの裏ディレクトリ内・同梱テキスト』より抜粋


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