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指名手配

 波乱の初日を終えたその翌日。

 木の上という不安定かつ堅いところで寝ていた影響なのか、朝起きてすぐは動くのが大変だった。

 まぁ、すぐに回復魔法かけて治したので行動するのに支障はなかったのだが、また同じ場所で寝ようとは思わない。

 治せるといっても、起きてすぐのあのダルさは何度も体験したいものではないからだ。早急に就寝用のベッドを見つけなければならない。

 

 一番いいのはどこかのホテルで泊まることなのだが、住民として登録されていない俺がホテルを使用すれば、すぐに魔導警察とやらが飛んでくる。


 「…催眠使えばワンチャンあるか……」

 『別にそれでもよいのではないか?』


 魔法を使用した犯罪を考えていると、頭の中で後押しするような声が聞こえた。なるほど、お前が俺の中の悪魔だったのか。


 魔王だけど


 ダメだよ! という俺の中の天使が頑張っているのだが、正直な話、魔王相手じゃ話にならんだろう。

 デフォルメされた天使の俺がルシアに滅される様子が思い浮かんだ。

 つまり、ルシアが俺にぶっぱ。何それ怖い。


 「でもさ、俺って何もしてないのに犯罪者みたいなとこあるだろ?」


 『じゃな。ショウの言うふほうしんにゅう? というのも、こちらの予定にはなかった事故じゃ』


 色々あって、俺が何かしたかのように思えるかもしれないが、実際のところ、俺がやったのは迎撃のみ。

異世界へ転移してきた、なんて普通では考えられない経緯があるが,ルシアの言うとおり、本来ならこんなとこに来る予定などなかったし、出ていけるのであれば、すぐにでもこの世界から移動してやってもいい。

 そもそもな話、ルシアのいた世界はまだ法もまともに整っておらず、そこらへんの穴を突いて暮らすつもりだったのだ。

 それが、蓋を開けた見れば現代日本(ここも日本であるが)以上に取り締まりが厳しい世界ときた。いったい、世界は俺に何の恨みがあるのだろうか。


 「だろ? それでテロリストと間違われるんだ。やってられないぞ」

 『まぁそこは安心しておけばよい。この妾の力があれば、大抵が力で解決できる。元の力が戻れば、この世界の頂点に立つことも可能じゃぞ?』

 「何それ怖い」


 らしいといえば魔王らしいルシアの発言である。

 俺のつぶやきに、冗談じゃ冗談、と笑いをこらえて話しかけてくるルシア。その声に、満更でもないんだろうなと思った。


 「おいおい、お前の目的は勇者へのリベンジだろうに。そんなことできる魔力があるなら、さっさと転移したほうがいいだろ?」

 『わかっておる。そのつもりじゃ。ただ、せっかく妾もショウも知らぬ世界に来たんじゃ。この世界を支配下に置くのも、存外悪くないと思ったまでのこと。ほら妾、魔王じゃし』


 ククク、と含むような笑い声が頭に響く。恐らくだが、俺がその案に乗ればルシアはそうなるように動くだろう。そして何より、本気で事にかかれば、たぶん今ルシアが言ったことは現実になる。


 「まぁ、面倒だし却下だがな」

 『じゃろうな。それに、最優先で妾の魔力を回復させねばなるまい』

 「だな」


 一度、グッと体を伸ばして筋肉をほぐす。魔法で気だるさは取れてはいるが、動いていないのに体がほぐれるという感覚は違和感があるのだ。

 一昨日まで魔法とまったく関係ない生活を送っていたので、慣れていないといえば当然なのだが。


 「とりあえず、今日一日は情報収集を兼ねてこの街を見て回ろうか。何か新しくわかることもあるかもだしな」

 『うむ。それがよかろう。…ところでショウよ』 


今日一日の予定を考えながら、寝床にしていた木から飛び降りようとしていたところ、ルシアから声をかけられる。

 なにか、説明不足なところがあったかな? と思ったが、まったく違うことだった。


 「どうした?」

 『先ほどから、下でこちらを見ている者がおるが、どうするんじゃ?』

 「…へ?」


 ルシアの言葉に、俺は反射的に下を見る。

 俺が寝床にしていた木の根元。その傍で佇む少女が、俺のことを見上げていた。

 翡翠のように透き通った目が、まっすぐにこちらを射抜いていた。

 純粋に、きれいな色だと思う。


 「……」

 「……」


 互いに無言の時間が続く。

 

 『…? ショウよ、どかしたか?』

 「……いや、何でもない」


 ルシアの言葉で我に返った俺は、そう言って木から飛び降りた。

 ちょうど、少女の隣に降り立つ形になってしまったが、特に問題はないのでかまわないだろう。


 で、だ。


 「……」

 「えっと……何かありましたか?」


 ぼ~っとした目で未だにこちらを見つめる少女。木陰でよくわからなかったが、緑がかった黒髪を腰の辺りまで伸ばしている。

 背は160あるかないかといったところか。制服を着ているのを見るに、学生なのだろうということは容易に考え付いた。


 見たことある制服だが、気のせいだといいな。


 「…………」

 「……えっと、あの……」


 何か言ってくれませんかねぇ!?と叫びたくなるのをぐっとこらえる。

 いったいなんなんだ、この少女は。なぜそんなに俺を見るんだ。


 『俺、何かしたかな?』

 『さぁの。妾がわかるわけなかろうて』


 だよなぁ、と心の中で返しつつ、俺は少女が話してくれるのを待……いや、これ待たなくてもいいんじゃね?


 よく考えたら、俺は別に用はないわけだし?何も喋らないのなら、無視してもいいんじゃなかろうか?


 そんなことを考えていると、今まで黙っていた少女が口を開いた。


 「あなたは誰と話をしていたの?」

 「……え?」


 急に発されたその声に、思わずここから離れようと動きかけていた体が止まった。

 表情は変わらず、小首を傾げる少女の声は透き通ったきれいな声だった。しかし、抑揚がないようにも思える。あれだ、声に感情がないというやつだ。

 

 「……?どうかしたの?」

 「っ、あぁ、うん。まぁあれだ。電話してたんだ」


 流石に、自分の中にいる幼女と話してた、なんてこと言えないし信じてもらえないし、言うつもりもない。

 無難な返事を返しつつ、俺は音楽やらカメラやらの機能が役に立つと思って持ってきたスマートフォンをポケットから出すふりをして空間庫から取り出して見せる。


 「?それは、携帯?魔導器具(デバイス)ではなくて?」

 「へ?……あぁ、そ、そうなんだ」


 また知らん単語が出てきたが、今はよくわからないので迂闊な返事は出来ない。

 この後調べる必要がありそうだな、と考えていると少女はそうですかと一言告げてから視線をまた木の上へ戻した。


 何かあるのかと気になって少女の視線の先を見てみる。すると、俺が寝床にしていた場所の更にその上の部分に、何か黒い四角の物体が見えた。


 「あれは……鞄、か?君のか?」

 「ええ。引っ掛かってしまったわ」


 上を見上げながらそう言う少女。

 だがちょっと待ってくれ。よくある風船とかならともかく、なぜ鞄があんな高いところに引っ掛かるのだろうか?


 そんな俺の視線に気づいたのか、少女は思い出すように口を開く。


 「あれは私が学校へ向かう途中だったわ」

 「ああ、通学中だったのね」


 「それでこの公園に猫がいたの。とても可愛らしい猫で、撫でたくなったからこの公園に来たの」

 「まぁわからんでもない」


 「そしたら、こけて鞄があんなところに飛んでいったわ」

 「ごめん、意味がわからない」

 「……そういえば、あの猫はどこへ行ったのかしら?ちょっと外を見てくるわ」

 「おい待て、鞄忘れてるぞ」


 急に猫の話に戻ったかと思えば、そのままどこかへ探しに行こうとする少女。

 慌てて制服の襟を掴んでしまったが、俺は悪くないと思う。


 ていうかこの少女、ちょっとおかしいんじゃないのだろうか?


 「……苦しいわ」

 「ならちょっと落ち着けっての。鞄はどうするんだ?」

 「……忘れてたわ」


 本当に、今思い出したように呟いた少女に、思わずため息を吐く。


 『なんというか……変な女じゃの』

 『だな。俺も同意だ』

 『それで?どうするんじゃ?』


 何をだよ、と聞かなくてもわかる。恐らく、この少女のことだろう。

 また木の側に立って鞄を見上げるだけの作業に戻った少女を見る。


 「……」


 何故見上げたまま動かないのかはよくわからないのだが、このまま放置してこの公園を出ていくのは何か気持ちが悪い。


 はぁ、と再度ため息を吐いた俺は仕方ないとばかりに木の根本に近づいた。


 そして一気に跳躍。


 昨日寝床としていた場所に着地した俺はそのまま上へ上へと登ると、引っ掛かっていた鞄に手を伸ばす。

 案外簡単に取れたそれを持ってそのまま飛び降りた。


 「今度は転ばないように気を付けろよ」


 ほら、と差し出した鞄と俺とを交互に見る少女であったが、少ししてからありがとう、と短い礼を返した。


 「あなたは、親切なのね」

 「あれで無視するって選択はできないからな。そういえば、魔法……じゃなくて、魔導ってのでなんとかならなかったのか?」


 あまり思い出したくはないのだが、この少女の着ている制服は、間違いなく昨日の二人組と同じものだ。

 昨日集めた情報の中に、魔導師を育成する学校があるなんてことも少なからずあったのでそこの生徒なのかと思っている。


 「無理よ。私の使える系統はこういうのに向いていないわ」


 案の定、この少女も魔導師だったようだ。

 そして系統というまた気になる言葉が出てきた。


 少女の言葉から考えるに、ルシアや俺の言う属性みたいなものか?

 とにかく、そこら辺も要調査だ。


 「へぇ、そうなのか。まぁ、鞄も取れたんだ。俺はそろそろ行くとするよ」

 「そう。ありがとう、助かったわ」


 少女の言葉に、手をあげて別れを告げる。

 まだ公園に残るようだが、あの娘、学校は大丈夫なのだろうか?



 「まぁ、俺には関係ないよな」

 『じゃな。ところでショウよ。これからどこへ向かうんじゃ?』


 公園を出たところで、頭にルシアの声が響く。

 俺はその言葉に少しばかり考えると、思い付いたように言葉を返した。


 「とりあえず、街の中心にでも行ってみようか。情報とかも集まりやすそうだしな」













 『次のニュースです。昨日の夕方、午後四時頃、学園都市第五学区の倉持研究所が何者かに襲撃を受けました。魔導警察はこの現場に居合わせた黒フードの男を重要人物として追っているとのことで、周辺住民にも警戒を呼び掛けています。幸いにも死人怪我人はなく…………』





 「……なんだ、あれは」


 学園都市の中心部。どうやらこの学園都市とやらは全体的に同心円モデルとなっているようで、その中心となるこの場所は時計塔の立つ大きな広場となっていた。


 そして、その広場を囲むようにしていくつも配置された縦横あわせて十数メートルはありそうな巨大テレビ。


 まるで未来都市のようなその光景に思わず目を奪われたが、そんな俺の小さな感動は、いくつもある巨大テレビから流れてくるニュースを聞いてぶっ飛んだ。


 『男は身長175程の若い男だということで……』


 いつの間に写真を撮られていたのか、テレビに写し出されたのは昨日の俺の写真だ。

 幸い、フードのお陰で顔バレはしていない。雨対策にと思って被ったフードが思いもよらない大活躍をしている。


 だが、この事実だけは変わらない。

 

 「まさか、指名手配されるとはなぁ……」


 そんな俺の声は、広場の喧騒にかき消されていった。

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