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この世界のこと

 「なんともまぁ、変な世界に来たもんだな…」


 目の前で気絶している男たちをとりあえず建物の壁にもたれかからせた俺は、そうやって一人ため息をついた。


 予想通りというべきかなんと言うか、大通りから外れた路地裏は不良などが屯する場所、というのはどこの世界も一緒であるようだ。

 突然自身たちの縄張りに現れた俺に対して、数人で囲んで金を要求するというその行動には正直な話ビビッてしまったが、催眠術をかけてしまえばこっちのものだった。

 そこまで詳しい情報を求めているわけではなく、あくまでこの世界の住人が知る一般的な常識が知りたい俺にとって、ここのような人目につかない場所に集まる住民というのは狙い目だったのだ。あと、そこまで心が痛まない、というのも理由の一つ。まぁ、危害を加えるつもりは無かったので関係ないのだが、そこらへんを歩いている住民よりもやりやすかったのだ。ごめんね、君たち。


 気絶中の男たちの頭に手を当てて、魔法言語を呟く。やっているのは俺に関する記憶の消去だ。ただ、まだルシアと契約して間もない俺が人の記憶というデリケートな部分をいじるのは失敗した時が怖いので消去、というよりも思い出そうとすれば記憶が混濁する程度になっているが。

 狙って記憶だけの消去とか、かなり難しい。


 『まぁ、魔法のコントロールに関してはそこまで気にする必要はあるまい。ショウなら、一年もすれば妾位にはなれるじゃろう』

 

 果たしてそれがすごいのかどうか。ルシア曰く、それでもかなりすごいとのことなので、俺の魔法方面に関する才能はなかなかのものなのではなかろうか?

 あまり調子に乗ると、どこかで失敗するかもだから、自重はしておくが。


 さて、話を戻そう。


 こうした敬意で手に入れた情報であったが、今の俺にとってはなかなかためになる情報ばかりであった。まぁ、異世界初日である俺にとってはどんな情報でも値千金であるが、常識程度の情報でも驚かされてばかりである。

 ……うん、いろんな意味で驚かされてばかりだった。


 第一に、ここはなんていう国なんだ、という問いについての返答。


 ―日本です。


 もう、この一言で考えていたこと全部が一瞬吹き飛んだのだ。


 わかる? 一度転移したのかを疑って、その疑いを晴らしてからのこれよ?

 ルシア曰く、その返答を聞いたときの俺の顔は間抜けそのものだったとか何とか。


 そして驚く無かれ。俺の知る四十六の都道府県の名がそのままだった。

 地図を見ても、全く同じ形で、他にもアメリカやイギリスといった俺のよく知る国の名もあった。


 では何が違うのか。

 それ答えがここ、俺が転移してきた学園都市である。


 地図と照らし合わせた結果、この場所は俺の世界で言うところの東京にあたる部分に存在している。

 政府などの重要な機関もここに集中しているとのこと。


 つまり、だ。

 俺のいた世界とこちらの世界の違いは、魔導の存在と東京の代わりに学園都市と言うものが存在している程度。後はほとんど同じといっても過言ではない。

 尚、技術に関しては科学と魔導を組み合わせて発展させてきたこちらの方が高いと思われる。


 まぁ、技術云々の話は今はおいておこう。

 この学園都市、魔導の研究を行う中心地となっているようで、そのための研究機関があちこちにあるようだ。

 魔導の研究は国家の力にも繋がる、ということで各国が独自に研究をしているそうなのだが、当然のごとく、他国の研究成果を狙ったりもするとのこと。そのため、この学園都市はセキュリティはは万全なものとなっているらしく、それ故に国の重要機関もこの都市に集まっている。


 そして、問題はここから。

 なんとこの学園都市、住民一人一人の個別データが都市内で管理されているらしい。

 そのため、登録されていない者がこの学園都市内で何らかの行動をとった場合、すぐに魔導警察が動くらしい。

 

 これ聞いてすぐに思った。

 俺、やばくね?


 今日ここに来た俺がとうろくなんかされているはずも無く、言ってしまえば不法侵入の身だ。

 本当に、あの時つかまらなくてよかったと思う。


 『なぁ、ルシア。そこんとこ、魔法でどうにかならないか?』

 『むぅ…何とかしたいのは山々じゃが、それがどのようなものであるかも皆目検討がつかぬ。それに、ショウがやろうとしているのは無いものを在るものとする事象の書き換えじゃ。元の妾ならともかく、今の力のない状態では不可能じゃよ』

 

 つまり、力さえ戻ればできる、と。

 自称の書き換えという何それチートと言いたくなるような事もできてしまう魔王とは何なのだろうか。


 『その力で勇者は倒せなかったのか?』

 『フンッ、そのような小ざかしいやり方で魔王なんぞ名乗ったら、先祖に顔向けができんじゃろ。真正面からで勝てないのならともかく、妾は勝てる力はあったからの。……まさか、勇者があのような戦法を取るとは思うとらんかったがな』


 どうやら、内の魔王様はなかなかな真面目さんである様だった。

 ただ、そんなやつ相手だと、勇者も絶望しかなかったんじゃないか、と常々思う。


 閑話休題


 『ともかく、下手に動けば捕まってアウトな現状、この学園都市とやらを出るほうがいい気がするんだが、どうだろうか?』


 下手に動けない、というか人として生活できるかも怪しいこの場所なんかよりもここを出て生活するほうが安全な気がする。

 なれない生活を送ることになるかもしれないが、そこはルシアと協力すれば、魔法で何とかなる部分もあるはずだ。


 『待つんじゃ、ショウよ。この場所を出るのは得策じゃないと思うぞ』


 だがしかし、そんな俺の提案にルシアから待ったの声がかかった。


 『どうしたんだ?』

 『…ふむ、その様子じゃとまだ妾の力に体が慣れきってはおらぬようじゃの。まぁ、当たり前といえば当たり前じゃな』

 『…あまり、もったいぶらずに話してほしいんだが?』


 『うむ。ではショウよ、よく聞くんじゃ。妾が探ったところ、この学園都市とやらにはなかなか魔力が集まっているようじゃ。この学園の外も少し探ってはみたが、ここと比べては微々たる物と言えよう』

 『だから、どうしたんだよ』

 『わからぬか? 存在する魔力が多ければ多いほど、妾の回復は早まる。妾さえ回復すれば、『世界渡り』の魔法が使えるようになる。それも、妾の世界に合わせれば、今度は確実に戻れるはずじゃ』


 いつの間にそんなものを調べていたのだろう。そして学園都市にいて学園都市の外も調べてしまうルシアの規格外っぷりにも驚かされる。

 力を失っても、そういうことが出来るのは流石魔王の一言に尽きるだろう。


 『ここだと、どれくらいで回復できそうなんだ?』

 『そうじゃのぉ……自然回復じゃと十年くらいじゃないかの? ここの外じゃと、その五倍くらいといったところじゃ』


 十年


 ルシアからその言葉を聞いた俺は一瞬気が遠くなった。

 長い時を生きるルシアにとっては、すぐなのかもしれないが俺にとってはかなり長く感じる。

 まぁでも、向こうだと数百年というのを考えれば、これでもかなり早いのだろう。


 が、やっぱり長い


 『そこんとこ、どうにかならないのか?』

 『あるにはある。要は妾の魔力が戻ればよいのじゃ。何かしらの魔力を取り込んだものから奪えばよい』


 つまりジャイアニズムですな?

 某いじめっ子の言葉を思い出しながら、俺は残るか否かを考える。

 

 安全な遠回りか、危険な近道か。

 急がば回れ、という言葉があるくらいだから前者を選ぶのが妥当なのかもしれない。


 だがしかし、それは危険をどうにかする力が無ければの話だ。

 

 ルイシスト魔族国家十三代目魔王ルシア・ルイシスト。

 俺と契約したこの魔王は、勇者でさえ暗殺という手段を取らざるを得なかった大魔王である。

 力を失っているとはいえ、それでも十分な力をルシアは俺に貸してくれてる。


 「…なぁ、ルシア。元の世界に帰りたいか?」

 『…何を言うかと思えば…。当たり前じゃ。妾は、あの勇者と戦わねばならん。ショウと契約を交わしたのも、そのためじゃろうに』

 「…そうだよな。なら、契約した俺も約束を守らなきゃだ」


 事故とはいえ、せっかく来た異世界だ。楽しまなきゃ損に決まってる。

 それに、こんなとこで危険を恐れていたら、ルシアの世界でやっていけるのかも怪しくなってくる。

 危険にあえて一歩踏み出すくらいの胆力はつけなきゃだ。


 「うしっ、まずは飯にでもするか! …そういや、ルシアは飯ってどうするんだ?」

 『気にせずとも、こちらで勝手に食うぞ?』

 「…え、その状態で食えるのか?」

 『問題なしじゃ』


 改めて魔王すげーと思いながら、俺は空間庫に入れてあったカップ麺を取り出した。お湯は魔力で用意。中の時間だけ進めてやれば、十秒経たずに完成である。魔法って便利だわー。



 










 尚、寝床は準備できなかったので、公園の木の上で寝ました丸


  


 

 

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