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これからのこと

 「…なんてこった」

 『……』


 見た目を怪しくしていた、雨対策用の黒フードを空間庫にしまい、人目のつかない建物の裏へ降り立った俺は、そのままふらふらとした足取りで大通りを歩いていた。

 

 歩きながら、辺りへと視線をやれば、目に映るのは向こうで見慣れたビル郡。それすなわち現代都市である。

 街行く人々にも目をやれば、身に纏う服も現代的なものだ。

 

 それだけではない。

 

 整備された道路も、車が走る大通りも、カップルが憩うカフェも


 すべて、すべてが向こうでも見慣れた光景だ。


 最初は場所だけ移動して、実はまだ向こうにいるんじゃないかとも思ったが、先ほど二人が魔法っぽいものを使っていた状況を考えるとそれはないだろう。

 仮に、俺がいた世界に魔法が存在していたとしても、それをおおっぴろげに使うことはできないはずだし、それが公になるのであれば、テレビなんかでも報道されるはずだ。


 故に、この世界が俺のいた世界と違う世界であることは間違いないと見てもいいだろう。

 

 予め聞いていた中世要素なんざ皆無だがな!!


 『そこんところ、どうなってんのよ、ルシア』

 『むぅ……転移自体はちゃんと発動したはずなんじゃ。故に、今のこの状況は本来はありえん。ありえん、のじゃが…』

 『そのありえない事態が、起きてしまった、と?』

 『……うむ』


 自己紹介したときの勢いはどこへ行ったのか、すっかりとしおれてしまったルシアさん。

 

 『原因はわかるか?』

 『それがさっぱりじゃ。そもそも、あの魔法道具(マジックアイテム)は妾達魔王の一族が『世界渡り』の転移先から帰るためのもの。帰ることに失敗することはありえんのじゃ』

 『…古くなってガタが来てたんじゃないのか?』

 『むぅ……無きにしも非ずじゃが、もともと妾たちの魔法道具(マジックアイテム)には劣化せぬように魔法がかけられておるしのぉ…』

 『まぁ、今言ったところで現状は変わらないんだけどな』

 『じゃな』


 そこまで話したところで、公園らしき場所が目に入った。

 ルシアと契約したことで身体能力が大幅に上がっている今、疲れとはほぼ無縁状態なのだが、じっくりと今の現状を考えるには立ったままよりも座ったほうがいいだろう。

 

 『第五学区西公園』と入り口に名前が書かれていたこの公園はかなり広い公園だった。

 野球とサッカーが同時にできそうなくらいには広く、遊具も充実しているようで幼稚園くらいの子供たちが仲良く遊んでいた。その脇で談笑する主婦の方々は彼らの母親なのだろう。


 子供たちが遊ぶ様子を尻目に、俺は公園の端に設けられたベンチへと向かった。

 ちょうど今は夕暮れ前。公園の中央に立てられていた時計らしきものは五時前を指している。


 確認したわけではないのだが、こちらの世界も時間や季節といったものは俺のいた世界とかわらないのだろうか?


 「……知らないことが多すぎる…」

 『じゃな。妾も、元の世界のことであればある程度教えられたんじゃが、今のこの状況じゃと役に立てぬ』

 

 幸い、子供たちや主婦の方々とは距離があるため、ルシアと話していても不審には思われないだろう。

 こういう場合は口に出したほうが頭の整理にはなるのだ。




 「確認したいんだが、魔法の方は大丈夫だったか?」

 『うむ。それについては問題なしじゃ。先程の戦闘、少々粗が目立つが初めてにしてはよく出来ておった。この調子ならば、人族(ヒューマン)でいうAランク冒険者なんぞ圧倒できるじゃろう』


 その冒険者のランクというのは、定番であるならば強さの値なのだろう。ただ、Aランクというのがどれほどの強さかはわからないが、定番どうりならば結構上のランクであることには間違いないだろう。

 

 「冒険者か…ファンタジーの定番職。一回やってみたかったんだが…」

 『…すまぬ』

 「あぁ、いや。別に攻めてるわけじゃねぇぞ? そもそもな話、こんな体験できてんのはルシアのおかげだ。転移が故意の失敗じゃないなら、怒ることはないよ」

 『ショウ……そなた、良い奴だな!』


 感極まったような声が頭の中に響きわたる。

 その声に一瞬ビクつきながらも、俺はルシアへと言葉を続けた。


 「それに、俺とルシアは運命共同体といっても過言じゃない。これからも力を借りるんだ。頼んだぞ?」

 『うむ、うむ! この魔王ルシアの名に懸けようぞ! ショウもドンッと妾に頼るがいい!』


 ワハハハ! と頭の中でルシアの笑い声が響く。

 転移に失敗したことに気づいてから元気がない様子(声から)だったが、これで大丈夫だろう。

 年は俺よりも遥かに上であるが、その精神性は見た目どおりの子供に近いものがある。


 ルシアは俺にとっての生命線だ。良好な関係を築くのならば、これくらいのケアは契約者として当然と考えるべきだろう。


 「ママー。あの人、誰もいないのに誰かと話してるの?」

 「しっ、見ちゃいけません」


 「……」


 いつの間にか時間がたっていたのか、公園の時計の針はてっぺんを越えて聴いたことのない音楽を鳴らしていた。

 街の様子からして、俺のいた世界よりも技術やらは進んでいそうなものなのだが、こういったところはどこの世界も変わらないのだろう。

 俺から子供を隠すようにして公園から出て行く母親たちを見ながらそんなことを考えていると、ふと、これからどうしようかということに思い至った。


 当然のことながら、元の世界には帰れない。だがしかし、人が生きるには衣食住が必須。それと金も。そのため、俺が考えていたのは手っ取り早くどこかで魔物でも狩って、その素材を換金して金銭を得ようというものだった。

 ルシアの話じゃ、今の俺ならそれなりの魔物は狩れるとのことだったのだが、残念なことに現状ではその計画は破綻している。

 

 幸いなことに、サバイバルを想定していたために空間庫にはかなりの食材が入っている。当分な間、食料については問題ないだろうが、いつかは尽きるだろう。

 そうなる前に、なんとか仕事を探さねばなるまい。


 「さて、まずは寝床の確保と…平行して情報収集だな」

 

 勢いをつけてベンチから立ち上がった俺は、そのまま公園の外に向けて歩き出す。

 もうすぐ日も暮れる。その前に、この世界の大まかな情報くらいは集めておきたい。


 となると、誰かに聞くのが一番手っ取り早いだろう。もちろん、この世界云々かんぬんとまじめに聞くつもりはない。そこらへんは魔法を使えば解決するだろう。


 「ルシア、催眠術とか魔法で使えるか?」

 『可能じゃぞ。何じゃ、誰か催眠を使うのかえ?』

 

 俺はそのルシアの言葉に一言、ああ、と返して公園を出る。

 どこの世界にも、不良や柄の悪いどうしようもない奴ってのはいるもんだからな。 

 

 

 

 

 

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