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革命の医師  作者: ヒカル
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世界の真実Ⅰ


「あれ…母さん?」


今日の朝は、いつもと少し違っていた。

家に母さんがいない。


寝起きのアスカは自身のまとまりの無いボサボサ天パの黒髪頭をかかじりながら、素足でペタペタと廊下を歩き母さんを探した。

が、やっぱりいない。


仕事に行ったのかな?


母さんは医者だから、職場から時間関係なく電話で呼び出されて出勤することもよくあった。


あー……これ仕事だ。

玄関に靴もない。


確信してからリビングのに行くと、テーブルには目玉焼きとパンといういつも通りの朝ご飯があって、その横にはちいさなメモが置かれていた。


【アスカへ

おはよう。少し早いけどお母さんは仕事に行ってきます。朝ごはんしっかり食べてね。あと今日は絶対に職場には来ないこと。約束守ってね。

じゃあ行ってきます。】


「ふんふん、なるほどね。」


間違いなく母さんの字。

最初の2行だけ読んで、メモはゴミ箱に投げられる。


今日はいつ母さんの職場にいこうかなぁって考えながら歯磨きを終わらせた後は、母さんが作った半熟気味な目玉焼きを食べて朝のテレビをつける。

チャンネルをポチポチと変えていく。


……あれ?

正義のヒーローベジタルが、やってない。


農家出身の正義のヒーロー、ベジタルが熱心に育てた野菜を悪の卸売り業者オニクに怪物に変えられ、育てた野菜の怪物を泣く泣く(フリをして)退治するのが毎回の流れのヒーロー番組。


あのグリーンカラーのヒーローが今日は画面の中にいない。


「ベジタルは今日休みかぁ。昨日の白菜戦の続きが見たかったのに、ちぇ。」


しょうがないので10歳にはまだ何を言ってるのか理解できないNEWS番組をつけっぱにして眺めた。


トーストまで食べ終わると、アスカは母さんの職場に行くための身支度を始める。

と言っても、パジャマから白いシャツと黒いハーフパンツに着替えるだけなんだけど。

天パの髪は櫛でとかしても意味無いから触らないし。


靴が3足ほどしかない玄関で靴を履いて、誰もいない家に『いってきます』を言った。

返事がないのはいつものことで特に寂しくもない。

今日も静かにドアを閉める。




ーーーアスカが消し忘れてたリビングのテレビからバラエティー番組の笑い声が微かに聞こえる。

だが、前触れもなく番組の画面はNEWSに切り替わり男性のニュースキャスターが淡々と記事を読み上げた。


『番組の途中ですがお知らせです。今現在から約30分後に震度4強の定期型地震が予想されます。国民の皆様は警報が鳴り次第、誘導員の支持に従って速やかにシェルターに避難して下さい。繰り返します。現在からー…』



静かな警報が鳴っていた。





そんなことは梅雨知らず、早朝の街を歩くアスカ少年。

歩く度に天パの黒髪がワサワサ揺れる。


「今日はいい天気だなぁ~。」


典型的な言葉だけどまさに言葉通りの快晴。鮮やかな青空にひとつの雲もなくて、気持ちいい。

こんな天気の日は遠くにある母さんの職場に早く着けそうな気がする。


「うぇー!こいつ血流してる!」


血?


声に反応してアスカは足を止めた。

青いタイルが地面になってる公園でアスカと同じ歳ぐらいの4人の男の子達が何かを囲みながら喋っていた。


4人はずっと足元を見ながら

「怪我してんのか?噛まないか?」

とか

「見ろよ、尻尾踏んだら動いた!」

とかごちゃごちゃ言い合っている。


尻尾?



アスカの耳がピクピクと動く。



「もしかして…動物?」


三度の飯より動物が好きなアスカ。

動物が絡むとなれば、アスカの意思に関係なく身体が勝手にその方へ足を進める。


アスカは、静かに4人の背後に近づいて囲まれている物を覗いた。

囲まれていたのは、後ろ足が血まみれの小さな白い猫。


白い猫は男の子に尻尾を踏まれる度にか細い声で「ニャッ…」と鳴く。逃げもせずやられるがままの白猫は腹から骨が浮き出るほど痩せていてだいぶ弱っているのが分かる。


白猫が鳴くのを面白がって、それを何度も繰り返す4人。その行動がアスカは理解出来なかった。


え?何してるのこいつら。



「ねぇ、やめろよ。」


「うぉっ!?」



アスカの声に1人の男の子は異常に驚いて後ずさりした。

ほかの3人も目を丸めてアスカを見る。



「な、なんでアスカがここに…」


「誰?このモジャモジャ。」



1人、アスカの顔を見て?を浮かべてる男の子がいた。そしてどうやらそいつ以外みんなアスカの事を知ってるようでコソコソと喋り始めた。



「お前しらねぇの?こいつ変人なんだ。動物の死骸を家に持って帰ったり、動物は『犬』と『猫』以外にもいるとか嘘ばっかつく。俺のママが言ってたけどこいつの家族は全員頭がおかしいんだってさ。」



喋ってるそいつ等には目もくれず、アスカは地面に倒れた白猫の前にしゃがみ容態を確認した。

痩せ細った体で薄く息をする身体。


うっすらと開いた美しい目から光が消えかけていた。

その目がアスカには『助けて』と訴えているように見えた。


「大丈夫、助けてやるから。」


直ぐにポケットからハンカチを取り出して猫の脚にかけ、猫の血が滲むハンカチ越しにソッと猫の脚を触る。


痛みで痙攣しているのか、白猫の足は小刻みに震えた。


「うわ!!こいつ触った!!」

「キモ!」


外野が騒いでいるけどアスカには関係ない。

足を根本からそっと触っていくと、ある一定の部分が妙な形で突起していた。


しかも関節が動かないし、この出血量。

うん、たぶん白猫は足が折れている。


外傷で目立たない程の折れ方なら何とかなるかな。

とりあえず、止血と固定しないと。


白猫の足にかけていたハンカチを細長く折りたたんで血が出ている傷口に結びつける。

えーっと、どっかに枝落ちてないかな…。


着々と猫の世話をするアスカにすっかり忘れ去られている4人はアスカを奇妙な物を見る目で見ていた。


「んだよこいつ…なんで治療できるんだ?」


当然、といえば当然なのかも知れない。

10歳の少年が血を見ても恐れずに淡々と治療をこなしていく姿は非常に奇妙な光景。


でもアスカ自身はそう思わない。

目の前に弱っている生き物がいるなら、そしてそれを「救える術」を知っているのなら助けるのが当たり前だろうと。

彼の正義感に似た信念は大半の人に理解されず、次第にアスカと世間を離別させていった。

それでもとことん世間の目を気にしないアスカ。ゆえに、身近な人間に親しい友人など1人もいない。


だからもちろん目の前にいる男の子達も、友達じゃあない。

そんな友達でも何でもない男の子達にアスカは一瞬だけ笑顔を向けた。



「だって僕は将来、獣医になるから。」



アスカの夢に

男の子達は失笑した。



彼らは決して、獣医になるというアスカの発言に笑ったのではない。


ただ、『獣医』というものが分からないだけだ。彼らの中で存在しない職業に就ことしてるアスカは4人の中で変人確定された。



「はっ、こいつ何言って…」



『ウウゥーーーーーーーーーーーー!!!!』



突然、聞きなれた警報音が街中に響き渡る。

失笑してた男の子達の表情は一瞬で真顔に戻って、警報につられて何故か空を見上げた。


この頭が痛くなるような警報音は定期的にくる地震専用の避難合図だ。


「また地震かよ。」


男の子が舌打ちする。

避難警報なのに、ここにいる誰1人として焦ってはいない。

逆に「また?」と少し面倒くささを感じる程度にはこの警報音を聞き慣れていた。


だがそれを感じるのは子供だけらしい。

さっきまで人通りの少なかった公園前の道路は避難する車が通り始め、ある大人はリュックをからって、みんな避難用シェルターがある方向へ向かっていた。


「俺達も急ごうぜ。」


1人の男の子がアスカを睨みながらそう言って駆け足で公園を出ていった。他の3人もそれに続いて走って避難していく。


『ウウゥーーーーーーーー!!!!』


今だ鳴り響く警報音。

公園に取り残されたアスカはのんきに耳の穴をほじって白猫を抱き上げた。


アスカには避難警報なんてあってないようなもので、今は目の前の白猫を助けることが最優先事項だった。

危機感なんてない。


とりあえず枝を探すために公園を一周回ってみるけど、良さそうなのはなかった。


「うぅん、ここら辺に枝はないなぁ。」


仕方ないので公園の外に出て探すことにした。けどコンクリートだらけの街で木の枝を見つけるのは難しくて、避難している人々の間を縫ってアスカはシェルターからどんどん遠のいていく。


ないなぁ。


枝を探してるうちに警報音は消えた。


アスカは知らない間に、まだ開発されていないコンクリートの皿地まできていた。

周りには何もなくて、人はアスカだけ。

何の音も聞こえない。



静かな雰囲気にアスカはふと空を見上げた。



空一面に広がる蒼。

自由を象徴しているような雄大で広い空を見て、アスカはいつも「この空の先を知りたい」と思う。



今もそうだった。





そんな時に、それは突然やってきた。




ーーーーーーヴォンッ!!!!



「え…」



いきなり、強風が目の前で巻き起こる。

風に吹き飛ばされそうになったアスカはいきなりの事だったが反射的に身を縮めた。


それと同時に肉眼では捉えられないなにかがアスカの目の前を横切った。




赤い何か。

大きな、何かが


分かったのは、それが目の前をすごい勢いで通り過ぎたことだけ。



衝撃の余韻のような風が、アスカの黒髪をふさふさと揺らす。




「なんだ…?いまの…。」




心臓がバクバクと脈打っている。




この時アスカの足はもう走り出していた。



『見たことのないもの』



それはまだ10歳のアスカにとって興味を一気に掻き立てるには最適の材料だった。


しかも、他の子供よりも好奇心旺盛なアスカは自分の衝動に抗わない。

空を見上げながら、遠くに今だ飛んでいる赤い物を白猫を抱いたまま必死に追いかけた。



なんだ?

あの赤い物は?

大きかった。

飛んでた。

どこに向かってる?

あれはなに?


知りたい。



知りたいと思えば思うほど、期待は大きくなって足は速くなっていく。


アスカは赤い飛行物体を見失わないように目でおっていた。

だから自分がどこに向かって走っているのかなんて頭の隅でも考えてなかった。



危険区域『デッドセルカ』



そこは人が生涯、立ち入ることのないであろう未開発の危険区域。

この国の王が指定した立入禁止エリア。


巨大な白い柵で守られているデッドセルカの先は霧で何も見えない。

入れば何が起こるか、身の保証は誰にもできなかった。



アスカは、なんと不運なことに『デッドセルカ』を見たことも聞いたこともなかった。


10歳の小柄な少年は猫を抱いたままするりと白い柵の間に体を滑らせ



その奥へと走って進んで行った。




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