第7話 宵闇ユラからの重要なおしらせ① 冒険者登録しました!
リングライトの光が、不登校子の薄暗い自室を、白く照らしていた。
机の上には、液晶タブレット。
その横には、描きかけのキャラクターデザイン。
さらに、その奥。
黒と白を基調にした宵闇ユラの衣装パーツが、丁寧に並べられている。
レース。リボン。銀色の装飾。
「よし…」
校子は、小さく息を吐いた。
モニターには、配信準備画面。
視聴待機コメントが、ぽつぽつ流れている。
《待機》
《今日は早い》
《ユラ様きた》
《重要なおしらせって何》
《引退?》
《やめろ》
「…引退じゃないし」
思わず小声で返してから、校子はマイク位置を直した。
喉が少し渇き、水を一口飲む。
配信開始ボタンの上で、指が止まる。
数秒、迷って。
――押した。
♪ 配信開始音。
画面の中で、宵闇ユラがゆっくり現れる。
黒レースの衣装。
オッドアイの瞳。
ふわりと揺れる銀髪。
そして、いつもの芝居がかった口調。
「皆様、ごきげんよう」
《きたあああ》
《ユラ様!》
《待ってた》
《声好き》
コメント欄が一気に流れる。
校子は深呼吸してから、用意していたセリフを読み上げる。
「今日はワテクシから皆様に…重要なおしらせがございますの」
《ざわ》
《なんだ》
《怖い怖い》
《結婚?》
《誰とだよ》
拾ってコメントしてくれるリスナーに、少しだけ、口元がゆるむ。
でも…今日の配信は、いつもの雑談とは違う。
ふざけて終わらせるつもりはなかった。
「教育とは、呪い」
コメント欄の流れが、一瞬だけ遅くなる。
「勉強とは、修行。
そして学校とは――戦場」
校子は、モニターに映る自分のアバターを見た。
その姿は堂々としている。
けれど、実際の自分は…。
膝を抱えたくなるくらい、まだ怖い。
「ワテクシも、かつてはあの戦場におりましたの。
朝八時にログインし。空気を読み。被弾しながら。 “普通の生徒”というジョブを、必死に演じ続けておりましたわ」
《わかる》
《学校ってMMOだったのか》
《被弾で草》
《いや笑えん》
校子は、コメント欄をちらりと見る。
ユラの緊張感が伝わったのか、いつもより、静かだった。
「……ですが、ある日を境に、戦線離脱。いえ――実質、放逐ですわね」
喉が少し詰まる。
脳裏に浮かぶ。
教室の空気。
笑い声。
視線。
保健室の白い天井。
既読がつかなくなったメッセージ。
校子は、一度だけ目を閉じた。
「それから長いこと、ワテクシはソロプレイ勢でしたの。経験値も入らない。実績もつかない。レベルアップも記録されない。ログインボーナスすら存在しない虚無期間」
《つら》
《ソロプレイ勢…》
《でも配信始めたじゃん》
《ユラ様はレベル高い》
校子は、小さく笑った。
「しかし――」
そこで、少しだけ声色を変える。
宵闇ユラらしい、“語り”のテンションに切り替える。
「最近ようやく、教育支援センターという名のギルドを発見しましたの」
《ギルドwww》
《支援センターってそういう場所なのか》
《受付嬢いる?》
《ジョブ変更できる?》
「どうやらこの世界、“学校ルート以外は無効”…というわけでは、ないらしいのです」
校子の視線が、机の端に置かれたプリントへ向く。
「出席扱い制度」についてのパンフレット。
あの人は、変だった。
変なくらい、“終わり扱い”してこなかった。
「早速ギルドに、冒険者登録して参りました」
「同時に…国が定める出席扱い制度に、手続きを開始しましたの」
《冒険者www》
《登録完了》
《初心者支援センター》
《SSR受付嬢》
「そうすることで、ソロプレイでも、ギルドと学校が認めれば、経験値として正式に記録される可能性があるそうですの」
《へえ》
《そんな制度あるんだ》
《知らなかった》
《学校行かないと全部終わりだと思ってた》
校子は、そのコメントを見て、一瞬止まる。
――自分も、そう思っていた。
学校から落ちた時点で。
ゲームオーバーだと。
「極めて微小ではございますが…それでも…可能性があるというのなら…」
声が少し震える。
でも、止めなかった。
「ワテクシは戻りませんわ。あの戦場には」
コメント欄が静かになる。
「戻らないまま。レベルを上げて。生き残ってみせますの」
《かっけえ》
《応援する》
《泣きそう》
《生き残れ》
《別ルート攻略》
校子は、ふっと笑った。少しだけ。本当に少しだけ。
胸の奥が軽くなった気がした。
「なお、受付嬢は超美人で有能でしたわ」
《急に早口》
《そこ重要?》
《受付嬢推し》
《絶対好きじゃん》
「早速ワテクシに最適化したスキルツリーを、カスタマイズしてくださってますのよ。ギルド系作品のお約束、現実世界でも健在でしたのね」
《理解ある受付嬢》
《逸材》
《美人で有能は強い》
《攻略対象?》
「違いますわ」
即答だった。
《否定早》
《草》
《怪しい》
コメント欄が一気に流れる。
校子は思わず吹き出した。
さっきまでの重さが、少しだけほどける。
「今後は、この“別ルート攻略”の様子も、配信コンテンツとして報告してまいりますわ」
そして、最後に。宵闇ユラは、ゆっくりと微笑んだ。
「学校外からの学校攻略RTA――第1章、開始ですわ」
《うおおおお》
《開幕》
《応援する》
《生存ルート》
《ここから始まるのか》
《冒険者ユラ様》
《ギルド加入おめ》
コメントが流れ続ける。止まらない。
校子は、その画面を見つめたまま、しばらく動けなかった。
――学校には、行けていない。まだ、外も怖い朝も苦しい。同級生の話題を聞くだけで、胸がざわつく。
でも。
ゼロじゃない。
本当に少しだけ。
ほんの少しだけ。
世界と、接続できた気がした。
〈ステータス〉
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名前:不登校子
状態:不登校(支援センターに接続済)
【五教科】※経験値取得不可
英語 Lv.中2 ■□□□□□
数学 Lv.中2 ■■□□□□
国語 Lv.中1 ■■■■□□
理科 Lv.中2 ■■□□□□
社会 Lv.中2 ■□□□□□
【副教科】※経験値取得不可
音楽 / 美術 / 技術・家庭 / 保健・体育
【総合的な学習】※経験値取得不可
【スキル】
① 保護者と学校の連携
Lv1 解放→学校との連絡ルート開通
派生クエスト
☑ 担任へ制度利用を相談する
□ 学習記録の共有方法を決める
② ICT等を活用した学習活動
Lv1 解放
→学習ログ作成可能
【人間関係(パーティー/NPC)】
横道逸子:【コスプレネキ】(信頼度:Lv.2)
不登通子:【家ボス(母)】(圧:Max)
模部勇気:【ユウキ】(親密度:1)
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