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第43話 不登校支援研修会攻略RTA!⑥【遠い再会】

 本丸城一教育長は、ゆっくりと目を開けた。


(…未来、か)


 先ほどの後藤の言葉が、まだ耳に残っている。

 ――そのためには、皆様のお力が必要です

 ――子どもを学校に合わせるのではなく

 ――子どもが学び続けられるように、学校の側も変わっていくために…


 ふと、遠い昔の記憶がよぎった。

 まだ自分が若かった頃。

 理想を語り、教育の未来について熱く語っていた時代。

 あの頃は――。


「若狭君」

「はい」

 隣に立つ若狭指導主事が顔を向ける。

「外部有識者の人選は……」

 そこで、本丸は言葉を止めた。


「……いや。なんでもない」

 一瞬だけ、後藤の映るモニターを見る。


「締めてくれ」

「……はい。それでは」

 若狭がマイクを持ち直す。


「後藤様、講評ありがとうございました」


 後藤が画面の向こうで一礼する。


「以上をもちまして、本研修会を終了とさせていただきます」


 拍手が起こった。


 やがて、会議室に人の声が戻ってくる。


 椅子を引く音。

 資料をまとめる音。

 小さな挨拶。


 研修会が終わった。



 通子が、ふうっと息を吐いた。


 横道逸子は、何も言わずモニターを介して校子を見る。


 中壁校長は、目を閉じたまま、しばらく動かなかった。


 そして――。

 モニターの中の後藤も、動かない。


 自室の校子は、モニターを見たまままだ動けなかった。


(ずっと……)

(ずっと、話してた……)


 さっきまで、あの人が。

 自分の父親が。


 いや――。


(あれが……)


 ゆっくりと視線を上げる。


 モニターの向こうに、父がいる。

 画面一枚隔てただけなのに――遠い。


 研修会の参加者が、少しずつ会議室を出ていく。

 ざわめきが、遠ざかっていく。

 やがて、広い会議室には人影がほとんどなくなった。


 オンライン会議の参加者もログアウトしていく。

 残ったのは、教員委員会事務局と後藤始、不登校子のアカウントのみ。


 若狭指導主事が気を利かせる。

「会議システム…つけたままにしておきますね」

 そう言って、会場のカメラを切る。オンライン会議システムは、不登校子と後藤始だけになった。


 画面の中に、後藤始がいる。

 校子は椅子に座ったまま、その姿を見つめていた。


(…501…)

(…お父さん…)

 胸の奥が、きゅっと縮む。


 隣にいる通子が、校子にそっと声をかける。

「…話す?」


 校子は、少し遅れてうなずいた。


 沈黙の後、校子が、ようやく口を開いた。

「…なんで」

 小さな声だった。

「なんで…言わなかったの」


 後藤は、すぐには答えなかった。

 回線の向こうから、かすかなノイズだけが聞こえる。


「ずっと…話してたじゃん…!」

 校子の声が少し大きくなる。

「501で…!」

「なんで…!」


 モニターの中の後藤が、静かに口を開いた。

「必要なかったからだ」


 一瞬。


 時間が止まったような気がした。


「……は?」

 校子が顔を上げる。


「父親として話す必要はなかった」

「なにそれ…!」

 思わず立ち上がる。


「意味わかんない…!」

「じゃあ、なんで…!」


 後藤は、淡々と答えた。


「お前が話していたのは、“誰か”だろう」

「父親じゃない」


 沈黙。


 画面越しの言葉が、直接胸に刺さる。

 校子の呼吸が乱れる。


(…違う)

(違うけど…)

 言い返せない。


 確かにそうだった。


 501は、父親として話していたわけじゃない。

 校子が悩みを話していた相手。

 学校のことを相談した相手。

 VTuber配信のことを語った相手。

 それは、ただの――501だった。


「だから、そのままにした」


「それに――」

 後藤が、わずかに視線を落とす。

「俺には、お前の前に父親として出ていく資格がない」

「それだけだ」


 あまりにも淡々としていた。

 あまりにも、距離がある。


「…ふざけないで」

 校子の声が震える。


「こっちは…」

 言葉が詰まる。


「ずっと……」

 唇を噛む。


「……頼ってたのに」


 沈黙。


 モニターの向こうで、後藤の視線がわずかに下がった。

 けれど、それだけだった。


「知っている」


「じゃあ、なんで……!」

 校子が叫ぶ。


 後藤は、静かに答えた。

「だからだ」


「父親として関われば」

「それは…お前の選択じゃなくなる」


 校子の身体から、力が抜けた。

 ゆっくりと椅子に座り直す。


(……あ)


 理解してしまった。


(全部…)

(私が選んだことにするため…)


 501が父親だと知ってしまえば。

 あの助言も。

 あの言葉も。

 あの背中の押し方も。


 全部、「父親だから」という理由に置き換わってしまう。

 自分が自分で選んだことではなくなる。


 それが――嫌だったのだ。


 悔しい。


 腹が立つ。


 でも。


 否定できない。


 校子は俯いた。

「……ずるい」

 小さな声。


 回線の向こうで、後藤が答える。

「そうだな」

 否定しなかった。


 沈黙。



 しばらくして――。

 通子が、横で静かに呟いた。

「…ほんと、遠いわね」


「え…?」

 校子が顔を上げる。


 通子は、校子とモニターを交互に見つめていた。

「近くにいたのに」


 校子は何も言えなかった。

 後藤も、何も言わない。


 けれど――。

 さっきまで張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ緩んだ。


 校子は、もう一度モニターを見る。

 そこに父がいる。

 遠い。

 触れられない。

 声を直接聞くこともできない。


 それでも――。

 画面は、まだ切れていなかった。


 校子は、しばらくその画面を見つめていた。


(…お父さん)

 まだ、そう呼ぶことはできない。

 でも。

 もう、“501”ではなかった。


 




〈ステータス〉

_________________________________


名前:不登校子(ふとう・きょうこ)

状態:不登校(オンラインによる学校接続開始)


【五教科】

 英語 Lv.中2 ■■□□□□

 数学 Lv.中2 ■■■□□□

 国語 Lv.中2 ■□□□□□

 理科 Lv.中2 ■■■□□□□

 社会 Lv.中2 ■■□□□□

経験値:△取得可能

※経験値反映には学校の確認が必要

 派生クエスト

☑オンライン授業へ参加する


【副教科】

 音楽 / 美術 / 技術・家庭 / 保健・体育

※学習活動として接続済み

※学校確認・評価対象化を達成


【総合的な学習】

探究テーマ案:VTuber活動を通して、不登校でも継続できる学びの形を探究する

※学校の了解済み


【スキル】

① 保護者と学校の連携

Lv2 進行中

→学校協議フェーズへ移行

 派生クエスト

☑ 担任へ制度利用を相談する

☑ 学習記録の共有方法を決める

☑ 担任と面談する


② ICT等を活用した学習活動

Lv1 解放

 →学習ログ作成可能


③ 対面指導の実施

Lv1 解放

→支援センター通所中

※学校との連携・出席扱い手続中


④ 理解度に応じた計画的な学習プログラム

 Lv1 進行中

派生クエスト

☑学校とプログラムを共有する

☑校長へ説明する


⑤校長による学習状況の把握

Lv2 解放

→出席扱い判断フェーズ開始

派生クエスト

☑不登校支援研修会に参加


【人間関係(パーティー/NPC)】

501:【謎の分析おじさん】(信頼度:Lv.2)

→後藤始【お父さん】

横道逸子:【コスプレネキ】(信頼度:Lv.3)

不登通子:【家ボス(母)】(圧:Max)

模部勇気:【ユウキ】(親密度:2)

☑関係再接続イベント発生

_________________________________


お読みいただきありがとうございます。

もし楽しんでいただけましたら、ブクマ、評価や感想をいただけると今後の執筆の励みになります。

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