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第42話 不登校支援研修会攻略RTA!⑤【学校アップデート中】

 若狭指導主事が、マイクを持ってゆっくりと立ち上がった。

「外部有識者のご紹介をさせていただきます」


 会場の視線がスクリーンへ集まる。


「後藤様は、民間シンクタンクにおいて教育政策の調査・研究・政策提言を行っておられます」

「なお、事例報告のあった不登校子さんの実父でもあります。本日は、研究者としての知見と、当事者家族としての経験、その双方のお立場からご講評をお願いいたします」


 横道逸子はいま聞いた事実に息を呑む。

(外部有識者が…校子ちゃんの…お父さん?)

(それに…さっきの501の書き込み!)

(501は…後藤始…)


 思わず校子は、隣に座る母・通子を見た。

「…お母さん?」

 通子は驚いていなかった。

 ただ静かに前を見ていた。


「…お父さん?」

 返事はない。

「知ってたの?」

 通子は、小さくうなずいた。


 世界が反転した。


「…501…が…」

 声が震える。

「お父さん……?」


 モニターの中の後藤始は、深く一礼した。

「本日は、このような機会をいただき、ありがとうございます」

「私は民間シンクタンクで、中央省庁や地方公共団体から委託を受け、教育分野を中心とした調査研究や政策提言に携わっています」

「また、事例報告のあった不登校子については、私の実子でありますが、当社で開発中の伴走支援サービスの実証研究の一環として、本人の同意のもと継続的なコーチングを行ってまいりました」


 校子は混乱していた。

(伴走支援サービス?…コーチング?)

(何を…言ってるの?)

(だめだ…頭がぐるぐるする…)


「この場を借りて、娘を支援してくださった皆様に厚く御礼申し上げます」

「さて、ここからは、一研究者としてお話しいたします」


 会場が静まり返る。


「まず、教育長からご指摘のありました、配信における匿名性と本人確認について補足しておきます」


 本丸教育長が静かにうなずく。


「これは制度だけの問題ではありません。制度を支える運用と技術の問題です」


 スクリーンにスライド資料が映し出される。

 『大学での学校アカウントによる本人認証』

 『LMS(学習管理システム)を用いた課題提出や、学習進捗の管理』


「例えば、大学のオンライン授業でも、認証情報、参加記録、提出物など複数の情報を組み合わせて当人の学習状況を確認しています」

「社会に目を向ければ、企業のテレワークでも、アカウント認証やアクセス履歴など複数の情報を組み合わせています」

「もちろん、学校教育と企業活動では目的は異なります。ですが、本人確認は、面談や学習状況の確認を組み合わせて総合的に判断する、という中壁校長の報告は問題ないと思われます」


「学校が、様々な方法で生徒本人を確認する。その一方で、社会では生徒は匿名性を守られた形で活動できる」

「そうすることで、社会参加のハードルを下げ、学習につなげられる可能性があることは、先ほどの事例報告の通りです」

「本人確認と匿名性は、対立するものではありません」


 会場の空気が少し和らぐ。


 後藤は続けた。

「では、ここで総括のため、少し視座を広げて、不登校という問題の本質について考えてみます」


「私が考える問題点は、個人の困難や学校不適応から始まった不登校が、出席と評価の断絶、進路の制約につながってしまうこと。この連鎖そのものです」

「つまり、問題は不登校そのものではありません。『教育からの脱落』、すなわち不登校の生徒が、教育に接続されていないことです」


 後藤は、スライドを切り替えた。

『教育からの脱落を防ぐために』

『特別の教育課程と個別の指導計画』


「文部科学省は現在、不登校支援のワーキンググループにおいて、児童生徒一人一人の状況に応じた『特別の教育課程』について検討しています(注)」


「現在も、不登校の生徒が学校外の施設で学習した場合や、自宅でICTを活用して学習した場合、一定の要件を満たせば、指導要録上の出席扱いとすることができます」

「しかし、現在の仕組みでは、学校外での学習を出席扱いとするためには、一定の要件を満たしているかを学校が確認し、校長が判断する必要があります」


「これから検討されている『特別の教育課程』は、そこからさらに一歩進んだ考え方です」

「一人ひとりの子どもの状況や本人の意向を踏まえて、学校が教育内容や学び方、授業時数などを考える」

「そして、それを具体的な『個別の指導計画』として形にしていく」


 後藤は、スライド上の『個別の指導計画』にポインタをあわせる。

「『個別の指導計画』の作成に当たっては、子どもの状況や本人の意向を踏まえ、教育の目標や内容などを具体的に考え、実践につなげていきます」

「私は、これを一人ひとりの『学びの設計図』と考えてもいいと思っています」


「その子どもに、どのような教育を行うのか」

「どのような学び方が適切なのか」

「その学習状況をどう把握するのか」

「そうした一人ひとりの学びを、学校教育の中で具体的に考えるためのものです」

「そして、この制度が実現することは、もう一つ大きな意味があります」


 会場が静かになる。


「この制度が実現すれば――」

 後藤は、一拍置いた。

「不登校特例校、学びの多様化学校に転校しなければ、柔軟な学びができない、という話ではなくなります」


 会場の何人かが、顔を上げた。

(普通の学校でも…柔軟な教育ができる?)


「通常の学校に在籍したままでも、その子どもの状況に応じて特別の教育課程を編成し、個別の指導計画を作成して、その子に合った指導を行っていく――そうした方向が検討されています」


「その学びが、教室で行われるとは限りません」

「教育支援センターなど、学校内外の教育の場かもしれない」

「大切なのは、場所そのものではありません」

「学校外で行われる学びを、どのように学校教育と接続するのか、です」


「もちろん、特別の教育課程によって学びを学校教育に位置付けることと、現在すでにある出席扱いの仕組みは、別の制度です」

「ただし、両者の関係を整理することで、学校外で行われる学びを教育活動として位置付けながら、現在の出席扱いの仕組みにつなげていく可能性も考えられます」


「つまり――」

 後藤は、会場を見渡した。

「学校の外で学ぶことと、学校教育を受けることを、必ずしも対立させなくていい」

「在籍校に所属したまま、学校の外で学ぶ」

「そして、その学びを学校が教育として認め、記録し、評価につなげていく」

「そうした方向性を、国が制度として明確にしていこうとしているわけです」


 ざわめきが起こった。


「これは、大きな意味を持ちます」

「学校に来られない子どもを、別の学校へ移すことだけが選択肢ではない」

「在籍校そのものが、その子どもの学び方に合わせて教育の形を組み替えていく」

「その可能性が、これまでより大きく開かれるということです」


 スライドが切り替わる。

『子どもに合わせて学びを設計する』


 そこには、この研修会の各報告事例の要約がまとめられていた。

「本日、報告された事例には、まだ正式な『個別の指導計画』という形はありません」

「しかし、実際に行われていたことを見てください」

「これは、まさに『子どもに合わせて学びを設計する』という考え方です」

「今回の実践には、制度がこれから目指そうとしている方向が、すでに見えています」


 後藤はオンライン画面上から会場を見渡した。


「不登校の子どもたちは、学校にいない時間にも学ぶことがあります」

「プログラミングをする。地域で活動する」

「好きな本を読み、そこから文章を書く子もいるでしょう」

「入口は、一人ひとり違っていい」

「大切なのは、その活動をただ『好きなこと』で終わらせるのではなく、そこから何を学び、何ができるようになったのかを見つけることです」

「そして、その学びを学校教育との接点につないでいく」

「これからの不登校支援は、学校だけで完結するものではありません」 

「『どうすれば、この子が学び続けられるか』を考える。つまり――」

「学校へ『行かせる』からその子の学びを『支える』へ、変わっていくのです」


 その時だった。


 凡蔵昌平が思わず声を漏らした。

「そんなの……学校じゃねえよ……」


 後藤は静かにうなずいた。

「その通りです。従来の学校ではありません」

「ですが、現実のほうでも、少しずつ変化が始まっています」

「制度もまた、その方向を模索しています」


 ポインタが、不登校子の報告事例に合わせられる。クリック。

 画面が変わり、宵闇ユラの配信クリップが、初期から最近のものまで複数個同時に流される。


「だから、今日の報告にあったVTuber活動も、『特殊な成功例』として終わらせてはいけません」

「皆がVTuberである必要はありません」

「ただし――」

「この子にとって、学びへ向かう入口がVTuberだった。それが、この事例の重要なところです」


「その子が安心して取り組める場所から学びが生まれ、それを学校や家庭や地域が見つけ、つないでいく」

「その取り組みこそが重要なのです」


 後藤は一拍置いた。

「そして、その先にあるのは――」

「学校に行けない子どもを、教育から取り残さない学校です」


「不登校そのものを、制度だけでなくすことはできないでしょう」


「しかし――」

 後藤は、静かに言った。

「『教育からの脱落』を防ぐ仕組みは、制度によってつくることができる」


 会場が完全に静まり返った。


「そのためには、皆様のお力が必要です」

「子どもを学校に合わせるのではなく」

「子どもが学び続けられるように、学校の側も変わっていくために…」


「本日の研修が、その一歩になればと思います」

 後藤は深く一礼した。


 拍手が続く。


 本丸城一教育長は、手をたたきながら、ゆっくりと目を閉じた。


(……未来、か)





〈ステータス〉

_________________________________


名前:不登校子(ふとう・きょうこ)

状態:不登校(オンラインによる学校接続開始)


【五教科】

 英語 Lv.中2 ■■□□□□

 数学 Lv.中2 ■■■□□□

 国語 Lv.中2 ■□□□□□

 理科 Lv.中2 ■■■□□□□

 社会 Lv.中2 ■■□□□□

経験値:△取得可能

※経験値反映には学校の確認が必要

 派生クエスト

☑オンライン授業へ参加する


【副教科】

 音楽 / 美術 / 技術・家庭 / 保健・体育

※学習活動として接続済み

※学校確認・評価対象化を達成


【総合的な学習】

探究テーマ案:VTuber活動を通して、不登校でも継続できる学びの形を探究する

※学校の了解済み


【スキル】

① 保護者と学校の連携

Lv2 進行中

→学校協議フェーズへ移行

 派生クエスト

☑ 担任へ制度利用を相談する

☑ 学習記録の共有方法を決める

☑ 担任と面談する


② ICT等を活用した学習活動

Lv1 解放

 →学習ログ作成可能


③ 対面指導の実施

Lv1 解放

→支援センター通所中

※学校との連携・出席扱い手続中


④ 理解度に応じた計画的な学習プログラム

 Lv1 進行中

派生クエスト

☑学校とプログラムを共有する

☑校長へ説明する


⑤校長による学習状況の把握

Lv2 解放

→出席扱い判断フェーズ開始

派生クエスト

☑不登校支援研修会に参加


【人間関係(パーティー/NPC)】

501:【謎の分析おじさん】(信頼度:Lv.2)

→後藤始【お父さん】

横道逸子:【コスプレネキ】(信頼度:Lv.3)

不登通子:【家ボス(母)】(圧:Max)

模部勇気:【ユウキ】(親密度:2)

☑関係再接続イベント発生

_________________________________



(注)執筆時点(令和8年8月現在)では、具体的な「不登校の児童生徒を対象とする「特別の教育課程」の施行時期は未定です。

ただし、骨子案での記載内容においては、制度の性質を踏まえ、次期学習指導要領の全面実施を待たず、先行実施を可能にし、事例を蓄積することが適切と考えられる、とされています。

教育課程部会 不登校児童生徒に係る特別の教育課程ワーキンググループ

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/119/index.html



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