第4話 起死回生のスキルツリー!「出席扱い」をアンロックせよ!
平日の夕方。
教育支援センターの相談室には、西日が斜めに差し込んでいた。
この日も、不登校子は母の通子と共に支援センターを訪れていた。
机の上には、校子のノート。
その横には、配信内容を書き散らしたメモ。
『初配信』
『学校=デスゲーム説』
『501コメント:学習活動になる』
通子は隣で腕を組みながら、落ち着かなそうに座っている。
支援員の横道逸子はメモを覗き込み、少し笑った。
「配信、続いてるんだ」
「まあ……」
校子は視線を逸らす。
「そういえばVTuber配信してたら、視聴者から…」
少し言いにくそうに続ける。
「“それ、出席扱いにできるんじゃないか”って言われて」
「へぇ」
横道が目を丸くする。
「ずいぶん詳しい視聴者だね」
「横道さんも、この間、“学校に行けない=終わり”じゃない仕組みがあるって言ってましたよね」
「うん。私も、今日はそれ提案しようと思ってた」
「でも…」
校子は眉を寄せる。
「本当にそんなことできるんですか?」
「家でeラーニングや配信してるだけなのに…学校が“出席です”って認める?」
「じゃあまずは…そこから説明しようか」
横道は、少しだけ楽しそうに言った。
「今のあなた、ゲームでいうと、“冒険者登録しないでソロプレイしてる状態”なんだよ」
「…は?」
「レベル上げしてる。装備作ってる。スキルも伸びてる」
横道は、校子のスマホを指した。
「eラーニング、配信、編集、記録。ちゃんと積み上げてる」
「……」
「でも、出席扱いの制度に手続きしてないから、外から見ると“家で何もしてない子”に見えちゃう」
「例えると、ギルドに活動記録を提出してないから、公式には経験値として認識されないみたいなかんじ」
「最悪じゃん」
「そう。もったいない」
校子は少し黙って考えた。
毎日なにかしている感覚は、確かにある。
でも学校から見れば、自分はただの欠席。
横道は続ける。
「逆に、制度に乗っかれるように手続きするっていうのは、冒険者登録みたいなもの」
「冒険者登録……」
「登録してれば、“この活動は経験値になります”って認めてもらえる」
「でも、ギルドに登録してないと、“経験値”として公式に認識されない」
「……」
「ギルドに登録すれば、クエストクリアしたことも記録される。レベルアップもできる」
「レベルアップって」
「出席扱いとか評価とか」
「急に現実」
「現実、ステータス画面ないから分かりづらいんだよ」
校子は少し吹き出した。
横道も少し笑ってから、ペンを取り出した。
「じゃあ次は出席扱い制度を具体的に説明しようか」
「まず、不登校時の学習ルートっていうのはね。
(Ⅰ)学校内(別室登校など)
(Ⅱ) 教育支援センター
(Ⅲ)自宅ICT学習
(Ⅳ)フリースクール等
があるの」
「校子ちゃんの場合は、(Ⅱ)教育支援センターでの学習と、(Ⅲ)自宅でのICT学習という二つのルートが考えられる」
「私としては、教育支援センターを拠点にしながら、自宅での活動も学習として説明できる形にしていくのがオススメだね」
「ただし、この二つは同じ“eラーニング”でも、出席扱いとして認める根拠は少し違う(注)」
「教育支援センターでの活動は、学校外の相談・指導として、これまでも出席扱いの対象になってきた前例がある」
「支援センターの職員から活動状況を報告するので、学校側も学習の様子を把握しやすい」
「一方で、自宅でICTを使って学習する場合は、別の問題がある」
「VTuber活動やICT学習を、どうやって“学習”として説明するか。何をどうやって、どのくらい勉強してるのか、学校が把握できるようにする必要がある」
「だから、出席扱いには別の要件がある」
「要件?」
「要件イコール条件っていうことね。こういう確認ポイントがあるんだ」
横道は新しい紙を机に置いた。
大きくこう書かれていた。
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出席扱いスキルツリー
【自宅ICT学習認定ルート】
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「……」
校子が紙を見てつぶやく。
「横道さん…」
「なに?」
「なんで、ゲーム化?」
「あなたには、この方が分かりやすいと思って」
「否定できないのが悔しい…」
横道は説明を続ける。
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出席扱いスキルツリー
【自宅ICT学習認定ルート】
① 保護者と学校の連携
【パーティー条件】
② ICT等を活用した学習活動
【学習ツール】
③ 対面指導の実施
【学習支援】
④ 理解度に応じた計画的な学習プログラム
【メインクエスト】
⑤ 校長による学習状況の把握
【最終確認】
⑥家庭学習ルートの条件
【特殊条件】他の支援を受けられない場合などの条件確認
⑦ 学習成果の適切な評価
【評価解放】
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「まず」
横道は①を指す。
「保護者と学校の連携」
「これは?」
「パーティー条件」
「一人プレイでは攻略できないってこと」
横道は説明する。
「本人だけじゃなく、家庭と学校が状況を共有する必要がある」
「なるほど…」
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「次」
②を指す。
「ICT(オンライン教材等)や郵送・FAXなどを活用した学習活動であること」
「②は、どんな学習なら出席扱いの対象になるかを示した要件だよ。ICTを使った学習も、その一つなんだ」
「経験値を得るのに、どんな装備で戦うかってことだね」
「私、学校で配布された端末で、学校指定のeラーニング教材はやってるけど…あれって出席扱いとは関係ないと思ってた」
「うん、ただやってるだけじゃなくて…計画的に学習して、その学習記録を確認してもらわないとね」
「③と④で説明するね」
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「③は対面指導」
「 訪問等による対面の指導が適切に行われること」
「先生と会うってこと?」
「学校の先生や支援員による対面での指導だよ。学校や支援センターで会ったり、家庭訪問やオンラインだったり…その子に合わせて行うの」
「さっきの②で残した学習記録も見ながら、面談で理解度や困っていることを確認するよ」
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横道の指が④で止まる。
「そして…ここが一番大事」
「④、計画的な学習プログラム」
「メインクエスト」
校子が呟く。
「そう」
横道は頷いた。
「何をいつ学ぶのか」
「どのくらい進めるのか」
「その子の学習の理解度に応じて」
「ある程度長期的な計画を作る」
「ただ“家で過ごしています”ではなく」
「学習として成立させる」
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校子は机の上のメモを見た。
『雑談配信』
『衣装制作』
『動画編集』
「…じゃあ」
「ん?」
「私の配信も?」
「可能性はある」
横道は答えてから、
「ただし」
指を立てる。
「“楽しいからやっています”では足りない」
「何を学ぶ活動なのかを整理する必要がある」
「例えば…」
指を折る。
「動画編集なら情報活用能力」
「台本作成なら文章表現」
「配信なら発信力やコミュニケーション」
「目的と成果が説明できる形にする」
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「⑤は校長先生による把握」
「校長先生が、対面指導や学習の状況を十分に把握していることが必要なんだ」
「①から⑥までの状況を踏まえて、学校として出席扱いにするか最終的に判断するためだよ」
「校長先生がラスボス?」
横道は苦笑した。
「違う」
「最終確認をする重要キャラクター」
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「⑥は、自宅ICT学習を出席扱いにする場合の注意点だね」
「もともとは、教育支援センターやフリースクールなどで相談・指導を受けることが難しい子どもへの学習支援として示された制度なんだ」
「でも、それは“支援センターに通っている子は、自宅ICT学習を使えない”という意味ではないよ」
「大事なのは、自宅での学習状況を学校が把握できて、学校として教育活動として認められる形になっているかどうか」
「校子ちゃんの場合は、支援センターを利用しながら、自宅で行っているICT学習を、学習として整理していく形になる」
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「最後」
⑦を指す。
「学習成果の評価」
「成績?」
「そう」
「学んだ成果を学校が確認できれば、評価につなげることができる」
それまで黙って聞いていた通子が訊ねた。
「内申書の評価も、つけてもらえるってことですか?」
「そうです」
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「この七つを確認して」
横道は紙を指した。
「学校が教育活動として認めるか判断する」
「ということは…」
校子は指で項目をなぞる。
「全部クリアして、出席扱い解放?」
「七つ全部を順番に攻略するわけじゃないよ」 「校子ちゃんの場合、必要になるルートを組む感じ」
「全部はクリアしなくて良いよ」
「つまり…」
横道は紙に線を引いた。
「校子ちゃんの場合、攻略するルートはこうなる」
「え?」
横道は新しいスキルツリーを書く。
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~不登校子専用ビルド~
【自宅ICT学習認定ルート】
【拠点解放】
教育支援センター
↓
【メインクエスト】
自宅ICT学習を学校教育として認識させる
① 保護者と学校の連携
【パーティー条件】
↓
② ICT等を活用した学習活動
【学習ツール】
※取得済み、ただし、学習記録の学校との共有が必要
↓
③ 対面指導の実施
【学習支援】
↓
④ 計画的な学習プログラム
【メインクエスト】
↓
⑤ 校長による学習状況の把握
【最終確認】
↓
【出席扱い】を獲得!
↓
⑦ 学習成果の適切な評価
【評価解放】
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「まず重要なのは、①から⑤までの、この五つ」
横道は言った。
「⑦は?」
「出席扱いの解放条件とは少し役割が違うかな」
「でも、学んだことを評価につなげるためには大事なスキル」
「出席扱いになった後、学んだ成果を指導要録や内申書の評価につなげるためのもの」
「なるほど…」
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校子は④を見る。
「でも、これ…学校が認めるんですよね?」
「そう」
横道は頷く。
「④で計画を作って」
「その計画を⑤で校長先生が把握する」
「そこまでセットで、初めて“学習として認められる”んだよ」
「だから当然、嫌がる先生もいる」
「“前例がない”って、止められることもある」
校子は、無意識にノートを握った。
「……なんで」
気づけば口に出していた。
「こんな制度あるなら…なんで学校で誰も教えてくれなかったの?」
相談室が静かになる。
「登校できなければ、できない側が悪いって空気だった」
「朝起きられないのも」
「教室に入れないのも」
「全部……」
喉の奥が熱くなる。
「“努力不足”みたいに扱われて」
横道は黙って聞いていた。
「こんなの」
校子は横道が書いたスキルツリーを見る。
「最初から教えてくれればよかったじゃん」
「…」
「ていうか」
「これって、抜け道じゃないの?」
「後から、“そんなの認めません”とかならない?」
横道は静かに言った。
「抜け道じゃないよ」
「これは文部科学省が示している正式な制度だよ」
「学校外での学習も、条件を満たせば、指導要録上の出席扱いとして認めることができる」
校子は固まった。
「……は?」
「国が認めてるの?」
「そう」
「じゃあ私の…」
「ソロプレイ期間、なんだったの?」
横道が少し吹き出す。
「ソロプレイ(笑)」
「攻略Wiki、最初から存在してたってこと!?」
「まあ…」
横道は苦笑する。
「見つけにくかったのは確かかもね」
「…ただ」
横道は少しだけ声を落とした。
「残念だけど、今まで自宅でeラーニングしていたとしても、それは出席扱いにならない可能性が高い」
「出席扱いっていうのは、その期間の学習状況を学校が把握して、要件を満たしているか確認した上で判断する制度だから」
「でも、今までやってきたことが無駄になるわけじゃない」
「これからの計画を作る材料にはできる」
「いやいやいや!」
校子は机に突っ伏した。
「隠しダンジョン扱いじゃん!」
「うわ…」
「知らないままラスボス戦してたんだけど…」
通子が苛立ったように言った。
「知らなかったことなんて、どうでもいいじゃない!」
「今は進学できるかの方が大事でしょ!?」
その声には、余裕のなさが滲んでいた。
「…」
校子はしばし机に額を押しつけていた。
やがて、ゆっくり顔を上げてから言った。
「…じゃあ、私は」
横道が小さく頷く。
「うん」
「それを…通さないといけないんですね」
「そう」
「支援されるだけじゃなくて」
「“学んでいる”って認めてもらうところまで行くならね」
静かな空気。
窓の外で、風が木を揺らしていた。
校子は、机の上の配信メモを見る。
配信も。
衣装制作も。
動画編集も。
ただ逃げるためだけにやっていたと思っていた。
でも…見方を変えれば…学びになる部分があるのだとしたら。
「…やります」
横道の口角が少し上がった。
「いいね」
ペンをくるっと回す。
「じゃあまず――」
「ここ(教育支援センター)を拠点にして」
「保護者と学校の連携を固めて」
「そのあと…計画的な学習プログラムで、学校を攻略しようか」
横道は笑った。
〈ステータス〉
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名前:不登校子
状態:不登校(支援センターに接続中)
【五教科】※経験値取得不可
英語 Lv.中2 ■□□□□□
数学 Lv.中2 ■■□□□□
国語 Lv.中1 ■■■■□□
理科 Lv.中2 ■■□□□□
社会 Lv.中2 ■□□□□□
【副教科】※経験値取得不可
音楽 / 美術 / 技術・家庭 / 保健・体育
【総合的な学習】※経験値取得不可
【スキル】※スキルツリーが開放されました!
自宅ICT学習の出席扱いに関するスキルの取得が可能になりました!
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(注)
「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」令和元年10月25日 元文科初第698号
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1422155.htm
教育支援センターでの活動を出席扱いとする根拠:
上記通知の(別記1)
「義務教育段階の不登校児童生徒が学校外の公的機関や民間施設において相談・指導を受けている場合の指導要録上の出欠の取扱いについて」
※教育支援センターで相談・指導を受け、その活動状況を学校が把握した上で、校長が出席扱いと判断する。
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1422155_00004.htm
自宅でのeラーニングを出席扱いとする根拠:
上記通知の(別記2)
「不登校児童生徒が自宅においてICT等を活用した学習活動を行った場合の指導要録上の出欠の取扱いについて」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1422155_00005.htm
④計画的な学習プログラム
については、文部科学省の資料に準拠し、そのまま「計画的な学習プログラム」という単語を使っていますが、各教育委員会・学校ごとに「学習計画」「学習プラン」等、名称が異なる場合があります。




