第39話 不登校支援研修会攻略RTA!②【魔法使いの攻撃!】
市民会館大会議室。
ステージのスクリーンが二分割されていた。
左側には、宵闇ユラの配信待機画面。
右側には、教育委員会主催のオンライン会議画面。
オンライン会議画面の発表者欄には、「不登校子」の文字だけが表示されていた。
自室のマイクの前で不登校子は、小さく息を吸った。
「え…え〜と…」
会場が静まり返る。
「き、今日は、このような発表の機会をいただき、ま…誠にありがとうございます」
しん、とした空気。
(や、やりづれえ〜!!)
(こんな人数の先生相手とかムリゲーだって……!)
(でも、逃げちゃだめだ)
(今日は、私がこの場を変えなきゃ!)
勇気を振り絞るように顔を上げた。
「えっと…まず皆さん、VTuber配信で勉強って『何だそれ?』って思ってますよね?」
あちこちで参加者がうなずく。
「実は、それ、うちの校長先生にも聞かれました」
少し背筋を伸ばし、校長の口調を真似する。
「なぜVTuber配信だったのですか」
さらに続ける。
「eラーニングだけでは駄目だったのでしょうか」
校長たちの間から小さな笑いが起きた。
(よし…)
少しだけ肩の力が抜ける。
「配信って、録画した映像を見せることじゃないんです」
「リアルタイムで、誰かとつながること」
「だから今日は、皆さんにも実際に配信へ参加してもらいます」
スクリーンいっぱいにQRコードが映し出された。
「こちらが、本日の限定公開配信です。アカウントをお持ちの方は、お手持ちのスマホやタブレットで読み取ってください」
会場中でスマートフォンが一斉に持ち上がる。
《読み込めました》
《入れました》
配信画面の参加者一覧へ、次々とアカウントが表示されていく。
校子はそっと一覧を見る。
(…501)
もうログインしてる。
胸が少しだけ軽くなった。
(501がいる)
(配信なら…ここは私のフィールドだ)
(やるぞ!)
「それでは――配信開始です!」
待機画面が切り替わる。
3Dのアバター、宵闇ユラが大きく手を振った。
「はーい!こちらが私が普段使っているアバター、宵闇ユラです!よろしくお願いしまーす!」
アバターがぺこりと頭を下げる。
「おお…」
会場から感嘆の声が漏れた。
「じゃあ最初は、漢字と数学です!」
画面が切り替わる。
左側にはアバターの宵闇ユラ。
右側には白いメモ画面。
「漢字を書くときは、こんな感じでペンタブレットを使います」
さらさらと文字を書き始める。
『疲』
「あれ?」
首をかしげる。
「書き順……これで合ってましたっけ?」
会場から思わず声が飛ぶ。
「違う違う!」
「どなたかコメントで教えてくださーい!」
一瞬遅れて会場がどっと笑う。
すぐにコメントが流れた。
《やまいだれは上の点からですよ〜》
「ありがとうございます!」
にっこり笑って書き直す。
「こんな感じで、コメントを見ながら勉強してます」
続いて画面がeラーニングへ切り替わる。
「数学は、eラーニングの画面を配信しながら解くことが多いです」
画面に問題が映る。
«次の連立方程式の解を、グラフを書いて求めなさい»
① 2x+y=5
② x+3y=0
「まず式を変形します」
ペンで式を書いていく。
y=−2x+5
y=−1/3x
「ここからグラフを書いて……」
丁寧に二本の直線を書き込んでいく。
交点に丸を付ける。
思わず教員たちもつぶやく。
「ほお…」
「計算の過程が見えるのがいいですね」
「答えは、x=3、y=−1です!」
自然と拍手が起こる。
「応援はコメント欄でお願いしまーす」
《なるほど》
《これはオンラインでも指導しやすそう》
《グッド》
教員たちも少しずつ配信の雰囲気に慣れていく。
「次は、私の好きな家庭科です!」
画面が切り替わり、右側に手元とミシンが映し出される。そして左側には、宵闇ユラのアバター。
「私はコスプレ衣装づくりが趣味なので、裁縫の過程も動画で配信してます」
軽快な音を立てながらミシンを走らせる。
「こんな感じで、手元を映しながら説明してます」
前列に座っていた、女性の校長が思わず声を上げた。
「まあ!その衣装、ご自分で?」
「はい」
少し笑って続ける。
「先生、ご意見はコメントでお願いします」
「あっ、そうだったわね」
会場が笑う。
すぐにコメントが流れる。
《素晴らしい作品です!》
「ありがとうございます!」
少し照れながら尋ねる。
「ちなみに先生、この作品なら何点いただけますか?」
《採点中です(笑)》
《家庭科担当より拍手》
《グッド!》
……
少し間があってから、女性の校長からコメント。
《99点!》
「えっ、一点引かれた理由は?」
女性の校長も思わず笑いながらスマートフォンに打ち込む。
《私より上手だから(笑)》
会場が爆笑した。
笑い声がしばらく止まらない。
「最後は体育です!」
アバターの背景が体育館へ変わる。
宵闇ユラの全身が映る。
「最近のAIってすごくて、カメラだけで動きを認識してくれるんです」
「ちょっとカメラの前で動いてみますね」
屈伸。
腕振り。
ジャンプ。
カメラの前の校子が動くと、アバターも同じ動きを再現する。
「おおーっ!」
会場がどよめいた。
「ここで本当は、私の渾身の体育配信をお見せしたかったんですが…」
少し肩をすくめる。
「凡蔵先生から『配信事故になるからやめておけ』って止められました」
《見たかった(笑)》
《凡蔵先生ナイス判断》
また大きな笑いが起きる。
壇上で凡蔵が苦笑いした。
「校子のやつ…さっきまでガチガチだったのにな」
「こんな感じで…人とつながり、コミュニケーションをとりながら勉強できるのが、配信です」
「実際の配信では、リスナーの方から別の視点でアドバイスが寄せられることもあります」
配信画面に、過去の録画が30秒~1分程度の短いクリップとして流される。
「例えば…」
数学の配信録画クリップでは、宵闇ユラがeラーニングの問題を解いていたが、途中で手が止まる。
「これは…分かりませんわ…」
「なんでここ、マイナスになるんだろう…」
一瞬、校子が録画再生を止める。
「ちょっと詰まってしまいましたね…」
そのあと映像が再開されると、ユラに対してリスナーからコメントが寄せられていく。
《途中式をもう一度見てみよう》
《天秤で考えると分かるよ》
《私は借金で考えて覚えた》
「あっ! マイナスを借金って考えるのか! そっちの方が分かる!」
会場は静まり返っていた。
「このように、オンライン上でも学びのきっかけが生まれていました」
「もちろん、すべてのコメントが正しいとは限りません」
「最終的な学習内容の確認は、教科書やeラーニングの解説を参考にひとつひとつ確認しています」
実演を見終えて、再び研修会参加者からのコメントが流れ始める。
《学習意欲を引き出す工夫がよく分かりました》
《途中でどこにつまずいたか確認しやすいですね》
《コメントをそのまま正解としない運用は安心しました》
《担任の先生は配信をどのように確認されているのでしょうか》
《配信は学校の教育活動として、どのように位置付けていますか》
中壁校長は小さく息をついた。
(さすが不登さん…)
(ここまでは、うまくいった)
(問題は、この後だ)
中壁校長の視線は一人の人物へ向けられた。
会場前方、主催者席。
教育長・本丸城一。
本丸教育長は腕を組んだまま、黙ってスクリーンを見つめていた。
その表情から感情は読み取れない。
中壁校長が発表を締める。
「では、これで本校の発表を終了します。ご静聴ありがとうございました」
会場から大きな拍手が送られる。
司会の若狭指導主事が、つなぐ。
「それでは、質疑応答に移ります。今の発表に対して、ご質問は?」
本丸教育長の手がすっと上がった。
中壁校長、凡蔵が顔を見合わせる。
(来たな…!)
〈ステータス〉
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名前:不登校子
状態:不登校(オンラインによる学校接続開始)
【五教科】
英語 Lv.中2 ■■□□□□
数学 Lv.中2 ■■■□□□
国語 Lv.中2 ■□□□□□
理科 Lv.中2 ■■■□□□□
社会 Lv.中2 ■■□□□□
経験値:△取得可能
※経験値反映には学校の確認が必要
派生クエスト
☑オンライン授業へ参加する
【副教科】
音楽 / 美術 / 技術・家庭 / 保健・体育
※学習活動として接続済み
※学校確認・評価対象化を達成
【総合的な学習】
探究テーマ案:VTuber活動を通して、不登校でも継続できる学びの形を探究する
※学校の了解済み
【スキル】
① 保護者と学校の連携
Lv2 進行中
→学校協議フェーズへ移行
派生クエスト
☑ 担任へ制度利用を相談する
☑ 学習記録の共有方法を決める
☑ 担任と面談する
② ICT等を活用した学習活動
Lv1 解放
→学習ログ作成可能
③ 対面指導の実施
Lv1 解放
→支援センター通所中
※学校との連携・出席扱い手続中
④ 理解度に応じた計画的な学習プログラム
Lv1 進行中
派生クエスト
☑学校とプログラムを共有する
☑校長へ説明する
⑤校長による学習状況の把握
Lv2 解放
→出席扱い判断フェーズ開始
派生クエスト
☑不登校支援研修会に参加
【人間関係(パーティー/NPC)】
501:【謎の分析おじさん】(信頼度:Lv.2)
横道逸子:【コスプレネキ】(信頼度:Lv.3)
不登通子:【家ボス(母)】(圧:Max)
模部勇気:【ユウキ】(親密度:2)
☑関係再接続イベント発生
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