第35話 校長、最後の一手が決まりました
夕方の校長室。
窓の外では、運動部の掛け声が響いている。
中壁例一校長は、不登校支援研修会の開催要領を手に取って見つめていた。
開催まで、あと二週間。
机には当日の発表資料の案。
そこには、
「教育支援センターとの連携」
「eラーニングによる教科学習」
「オンライン授業参加」
「VTuber活動を通して、不登校でも継続できる学びの形の探究」
そんな見出しが並んでいた。
中壁校長は腕を組む。
(不登校子さん本人にはメッセージだけお願いするつもりだったが…)
本人を壇上へ立たせる必要はない。
無理をさせたくもない。
それで十分だと思っていた。
しかし昨日、担任の凡蔵昌平から連絡が入った。
「本人からの希望で、オンラインで参加したいそうです」
さらには、
「研修会限定でライブ配信もやってみたい、と」
中壁校長は小さく息を吐く。
「…挑戦したい、か」
悪い話ではない。
いや、むしろ魅力は大きい。
録画ではない。今、その場で、新しい学び方を体験できる。
しかも本人の言葉で、学校が何を支援し、どう評価してきたか。それを語ってもらえる。
説得力は何倍にもなる。
だが、クリアすべき課題はいくつもある。
主催者の了承。
個人情報への配慮。
ネットワーク環境。
限定公開を確実に運用できるか。
教育委員会主催の研修で行う以上、一つでもミスが起きれば、
「やはり教育現場では難しい」
そう結論づけられかねない。
それだけは避けたい。
中壁校長は資料の一枚をめくった。
それは、不登校子の成績評価方法の資料だった。
校長の指示のもと、定期テストではなく、本人の学習の進度にあわせて、単元ごとの確認テストを実施する。
資料には、さらに細かく教科ごとの評価方法や、実技教科を含めた評価の考え方を整理してある。
本人の学習の進度に応じて評価する。その運用は、一見すると大胆な改革に見える。
しかし、実際は違う。
(これは、制度の上では、どこの学校でも実施できる)
特別な設備も、特別な予算も、必要ない。
工夫と合意形成。それだけだ。
だからこそ、研修で一番見てもらいたいのは、彼女の配信ではない。
学校が、どう支えたか。そこなのだ。
もし、参加者が、
「あの子だからできた」
「あの学校だからできた」
研修会でそう受け止められたら、この取り組みはそこで終わる。前例として、認められなくなってしまう。
中壁校長は椅子にもたれた。
教育委員会の研修会担当、若狭進指導主事の顔が浮かぶ。
文部科学省への出向経験もあり、不登校支援の制度にも明るい。
ICTを活用した教育にも積極的な指導主事だ。
頼めば、必要な調整には力を貸してくれるだろう。
だが、教育委員会の最終判断は、教育長 本丸城一だ。
本丸教育長は慎重な人だ。
理解は示すだろう。
しかし…
「参考になる実践事例でした」
「各学校の実情に応じて参考にしてください(訳:がんばってるけど、特別な事例だから、公的には前例として認められません)」
もし、そんな講評で終われば、この取り組みは一校限りの実践として受け止められる。
他校へは広がらない。
前例にはならない。
中壁校長は目を閉じた。
(制度として説明してくれる人間が、もう一人いれば…)
学校でもない。
教育委員会でもない。
中立の立場から、制度面を整理し、
「国の施策とも整合性があり、他校でも実施可能です」
そう補足してくれる人間が。
時間さえあれば、教員養成大学の教授や、不登校支援を研究する有識者に依頼するという手もあった。
しかし、あと二週間では、調整は現実的に困難だ。
(やはり今回は本人参加は見送るべきか…)
(それにしても…)
中壁校長は、不登校子の面談でのやり取りを思い返していた。
(2学年に進級してから不登校…両親は離婚、母親と同居…)
不登校子の学習記録のページをめくる。
(記録はきちんと揃っている)
配信ログ。
eラーニング学習履歴。
振り返りシート。
教師とのやり取りの記録。
(評価資料として、文句のつけようがない)
指先が止まる。
(そして…あの受け答え)
「学校だより、全部読みました」
「GIGAスクール」
「ICT活用」
「個別最適な学び」
「校長先生ずっと書いてましたよね」
「だから…私は認めてほしいんです」
「配信を含めて、私がやってきたことを」
「学校教育の中の学びとして」
(…こちらの質問を想定していた)
質問の順番。
論点の切り方。
引き際。
(あれだけの準備を、一人だけで進めたとは考えにくい)
椅子に深くもたれる。
(母親か)
通子の顔が浮かぶ。
(…違う)
(教育支援センターの職員か?)
(それとも…)
その時だった。
校長室の電話が鳴る。
「はい、中壁です」
事務職員の声。
「校長先生、外線です」
「どちらからですか」
「それが…」
一瞬、言葉を選ぶような間があった。
「おつなぎします」
保留音。
やがて、電話の向こうから、静かな声が届いた。
中壁校長は思わず受話器を握り直す。
「君は…!」
驚きで、言葉が止まる。
──数分後。
電話を切った中壁校長は、静かに立ち上がった。
迷いは消えていた。
受話器を取り、今度は教育委員会へ電話をかける。
「若狭さんですか。中壁です」
「時間もないところ申し訳ありません」
一拍置いて、中壁校長は静かに言った。
「例の不登校支援研修会ですが…いくつか、お願いしたいことがあります」
受話器の向こうで、若狭が「承知しました」と答える。
中壁校長は窓の外を見た。
夕焼けに染まる校庭。
あと二週間。
この研修会は、一人の生徒の支援事例を紹介する場ではない。
支援の仕組みを、共有する場だ。
市内全体の不登校支援を、一歩前へ進める前例にする。
そう決意して、中壁校長は次の準備へ動き始めた。
〈ステータス〉
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名前:不登校子
状態:不登校(オンラインによる学校接続開始)
【五教科】
英語 Lv.中2 ■■□□□□
数学 Lv.中2 ■■■□□□
国語 Lv.中2 ■□□□□□
理科 Lv.中2 ■■■□□□□
社会 Lv.中2 ■■□□□□
経験値:△取得可能
※経験値反映には学校の確認が必要
派生クエスト
☑オンライン授業へ参加する
【副教科】
音楽 / 美術 / 技術・家庭 / 保健・体育
※学習活動として接続可能性あり
※学校確認・評価対象化は未達成
【総合的な学習】
探究テーマ案:VTuber活動を通して、不登校でも継続できる学びの形を探究する
※学校との協議中
【スキル】
① 保護者と学校の連携
Lv2 進行中
→学校協議フェーズへ移行
派生クエスト
☑ 担任へ制度利用を相談する
☑ 学習記録の共有方法を決める
☑ 担任と面談する
② ICT等を活用した学習活動
Lv1 解放
→学習ログ作成可能
③ 対面指導の実施
Lv1 解放
→支援センター通所中
※学校との連携・出席扱い手続中
④ 理解度に応じた計画的な学習プログラム
Lv1 進行中
派生クエスト
☑学校とプログラムを共有する
☑校長へ説明する
⑤校長による学習状況の把握
Lv2 解放
→出席扱い判断フェーズ開始
派生クエスト
□不登校支援研修会に参加
【人間関係(パーティー/NPC)】
501:【謎の分析おじさん】(信頼度:Lv.2)
横道逸子:【コスプレネキ】(信頼度:Lv.3)
不登通子:【家ボス(母)】(圧:Max)
模部勇気:【ユウキ】(親密度:2)
☑関係再接続イベント発生
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