第34話 不登校Vtuber、録画じゃ伝わらないのでライブします
不登校子が教育支援センターへの通所を再開してから、数日。
窓の外では、午後の日差しが照り返している。
不登校子と横道逸子は、学習室のいつもの席に向かいあって座っていた。
いつもの場所。いつもの席。いつも通りの横道逸子。それが、今の校子には以前より心地よかった。
「もう、大丈夫みたいだね」
横道から切り出す。
「はい…おかげさまで…オンライン授業もやれてます」
「なら良かった」
「あの時は、もう終わりだと思ったけど…ゲームオーバーには…なりませんでした」
「でしょ(笑)」
それ以上は言わない。
横道は校子の表情を見て、穏やかに尋ねた。
「そういえば、研修会の件、お母さんから聞いたよ」
校子は小さくうなずく。
「…昨日、凡蔵先生から電話があって」
「教育委員会の研修会で、校長先生が私のことを紹介したいって」
少し間を置く。
「オンライン授業とか…配信も含めて」
横道は黙って続きを待つ。
「私は参加しなくてもいいって」
「先生たちへのメッセージだけでももらえたらって言われた」
校子は困ったように笑った。
「でも…メッセージだけって、なんか違う気がして」
「それに、どんな研修会なのかもよく分からないし」
視線を落とす。
「参加するかどうかも…迷ってます」
横道はすぐには答えず、間をおいてから静かに聞いた。
「じゃあ、まず確認するね」
「校子ちゃんは、どうしたい?」
校子は答えられなかった。
しばらく沈黙が続く。
「…わからない」
小さな声だった。
さらに少し考えてから続ける。
「でも…断ったら、後悔する気もする」
横道はゆっくりとうなずいた。
「その気持ちなら、まだ決めなくていいよ」
校子の表情を見ながら説明する。
「その研修会はね、教育委員会が毎年開いている不登校支援の研修会なの」
「各学校から、校長先生や教頭先生みたいな管理職と、不登校支援を担当する先生が一緒に参加するの」
「それぞれの学校の取り組みや成果を共有して…学校全体でどう支えていくかを考える研修だから、管理職と担当の先生が同じ話を聞くんだよ」
「私も教育支援センターの職員として何度か参加したことがあるよ」
校子は静かに耳を傾ける。
「でもね」
横道は少し身を乗り出した。
「今回、校子ちゃんは教育委員会のために参加するんじゃない」
「校長先生のためでもない」
「校子ちゃん自身が、『話してもいい』と思えるなら参加すればいい」
「まだ無理だと思うなら、断ってもいい」
校子の肩から少し力が抜ける。
横道は続けた。
「ただ、一つだけ」
「校子ちゃんにしか話せないことがある」
「制度の説明は、大人ができる。オンライン授業の仕組みも、学校外の学習のことも」
「でも…」
横道は校子の目を見る。
「あのとき、何が苦しかったのか」
「何があれば学校とつながれたのか」
「それは、今の校子ちゃんにしか話せない」
校子は息をのんだ。
横道は穏やかな口調のまま続ける。
「もちろん、全部話す必要はない」
「顔を出す必要もない」
「途中でつらくなったら、そこでやめてもいい」
「参加すると決めても、あとから『やっぱり無理です』って言っても大丈夫」
部屋に静かな時間が流れる。
校子は膝の上で手を握り締めた。
(私にしか話せないこと…)
その言葉が胸の中で何度も繰り返される。
「…少しだけ」
校子は顔を上げた。
「考えてみます」
横道は微笑んだ。
「うん」
「答えは急がなくていい。研修会は二週間後だから、まだ時間はあるよ」
「これは、校子ちゃんが自分で決めることだから」
教育支援センターから帰宅してからも、校子はずっと研修会のことを考えていた。
おもむろにスマホを手に取り、DMを打つ。
宛先は――501。
(考えてみると…自分から501に連絡取るのって…初めてかも)
(いつも、501からの指示ばっかりで…)
校子:
教育委員会主催の不登校支援研修会で、私の事例をうちの校長が報告することになった。
私は、メッセージだけで、参加はしなくてよいっていわれてる。
でも、なんかひっかかる。録画を見せるだけじゃ、違う気がする。うまくいえないけど。
私も、参加した方がよいのかな?
何分か後に、スマホに返信の通知が来た。
501:
配信は映像を見せるものじゃない。
リアルタイムで誰かとつながる体験そのものだ。
校子:
そうだよね!
実はずっと引っ掛かってた。
校長先生との面談で『なぜ、配信なんですか?』って聞かれた。
あの時は、『Vtuberは勉強の場であり、社会とのつながりの場です』って答えた。
でも、ほんとに、それだけなのかなって。
それだけで、よかったのかなって。
501:
校長は、君がVtuberであろうと、生身のYouTuberであろうと、答えは変わらない。
校長が見ていたのは、配信という形じゃない。
君が、自分に合った方法で学び続けられるようになったことだ。そこに、教育の本質があると私は見ている。
校子:
最近、コメントに、不登校の子が増えてる。「どうやったら勉強できますか」とか。
「私も配信したら学校とつながれますか」とか。
私は、たまたま配信が居場所になった。
それが結果として学校ともつながった。 でも、それってみんなには当てはまらないと思う。
501:
その通りだ。
君に必要だったのがVtuberだっただけだ。
他の子には、絵かもしれない。
音楽かもしれない。
農業かもしれない。
オンライン授業かもしれない。
教育に必要なのは、Vtuberを勧めることじゃない。
その子が社会や学びとつながれる道を、一緒に探すことだ。
だからこそ、君の話には意味がある。
校子:
どういうこと?
501:
研修会で君が伝えるべきなのは、『Vtuberをやりましょう』じゃない。
『この子には何が合うんだろう』と考え続けてくれた大人がいたから、今の君があるということだ。
君は、その事実を証明した。
校子:
そうか。
研修会で私が話す相手は、不登校の子じゃない。
先生たちなんだ。
だったら、『私みたいな子がいたら、その子に合う方法を一緒に探してください』って伝えればいいんだ。
501:
答えに近づけたようだな。
では、それを聞いた先生たちは、何を持ち帰ると思う?
校子:
どんな方法なら、不登校の子が勉強し続けられるか?この子に合うつながり方はなんだろう、とか?
501:
そう考えてくれる先生もいるかもしれない。
問題は「その子に合う方法」というのが、どんどん多様化していることだ。
eラーニング、創作活動、サンドボックス型ゲーム、メタバース…例を挙げればきりがない。
学校側も努力している。だが、新しい学び方が生まれる速度の方が速い。
校子:
そうか。凡蔵先生も最初、『配信って何だ?』って聞いてきた。
校長先生も、配信の録画は見てくれてたけど、ライブ配信そのものには参加したことはないって言ってた。
録画を見せるだけじゃ、伝えきれないんだよ。
配信って、その場で誰かとつながることだから。
先生たちにも、『見る』じゃなくて『つながる』を体験してもらえたら。
501:
録画で理解できるなら、校長は『なぜ配信なんですか』とは聞かなかったはずだ。
配信は、説明されても分からない。体験して初めて理解できる。
校子:
それなら、体験してもらうしかない。
もし校長先生が認めてくれるなら。
研修会で実際に配信できないかな。
限定公開なら、参加者だけが見られる。
先生たちには、『映像』じゃなくて『今、この瞬間につながっている』ことを体験してほしい。
そうしたら、こんな方法もありなんだって実感できると思う。
501:
録画ではなく、今の君を見せるということか。
つまり、君は『事例』として紹介されるのではなく、『当事者』として話したいのだな。
校子:
うん。アバターごしの配信じゃなく、不登校子としても、参加したいから。
501:
録画では実践の紹介にしかならない。
だが、君自身が語れば、先生たちの見え方も変わるかもしれない。
校子:
501、あなたにも、限定公開のライブ配信の参加URLを送っておくから。
もし、時間があれば、見てほしい。
501:
承知した。
君自身の言葉で語る姿を、楽しみにしている。
〈ステータス〉
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名前:不登校子
状態:不登校(オンラインによる学校接続開始)
【五教科】
英語 Lv.中2 ■■□□□□
数学 Lv.中2 ■■■□□□
国語 Lv.中2 ■□□□□□
理科 Lv.中2 ■■■□□□□
社会 Lv.中2 ■■□□□□
経験値:△取得可能
※経験値反映には学校の確認が必要
派生クエスト
☑オンライン授業へ参加する
【副教科】
音楽 / 美術 / 技術・家庭 / 保健・体育
※学習活動として接続可能性あり
※学校確認・評価対象化は未達成
【総合的な学習】
探究テーマ案:VTuber活動を通して、不登校でも継続できる学びの形を探究する
※学校との協議中
【スキル】
① 保護者と学校の連携
Lv2 進行中
→学校協議フェーズへ移行
派生クエスト
☑ 担任へ制度利用を相談する
☑ 学習記録の共有方法を決める
☑ 担任と面談する
② ICT等を活用した学習活動
Lv1 解放
→学習ログ作成可能
③ 対面指導の実施
Lv1 解放
→支援センター通所中
※学校との連携・出席扱い手続中
④ 理解度に応じた計画的な学習プログラム
Lv1 進行中
派生クエスト
☑学校とプログラムを共有する
☑校長へ説明する
⑤校長による学習状況の把握
Lv2 解放
→出席扱い判断フェーズ開始
派生クエスト
□不登校支援研修会に参加 NEW!
【人間関係(パーティー/NPC)】
501:【謎の分析おじさん】(信頼度:Lv.2)
横道逸子:【コスプレネキ】(信頼度:Lv.3)
不登通子:【家ボス(母)】(圧:Max)
模部勇気:【ユウキ】(親密度:2)
☑関係再接続イベント発生
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