第29話 配信再開、待ってるって(解呪効果+1)
不登校子のオンライン授業が流れてから半月。
曇りと雨の日が続いていた。
今日は雨は降っていない。それでも空は薄く曇っている。
校子は自室の机に向かっていた。
部屋のカーテンと、ノートパソコンはまだ閉じたままだった。
手元のスマホには、教育支援センターの横道逸子とのチャット履歴が残っている。
あの日から数日。
校子は横道とのやりとりを何度も思い返していた。
『不登校子が…あなた自身が、もう一度宵闇ユラになってもいいって、自分を許せるなら』
思い返す度に泣いて、眠って。また泣いて。それを何度も繰り返した。
胸を締めつけていた痛みは、少しだけ和らいでいた。
(もう一度…)
ふと思う。
(もう一度、私は…)
宵闇ユラになれるんだろうか。
画面の向こうへ。
あの場所へ。
戻れるんだろうか。
ずっと考え続けている時。
ピンポーン。
インターホンが鳴った。
身体が強張る。
(誰…)
母は仕事。宅配でもない。
もう一度インターホンが鳴る。
恐る恐るモニターを見る。
制服姿の模部勇気だった。
(模部くん…)
胸がざわつく。
開ける?
やっぱり帰ってもらう?
(でも…)
数瞬迷ってから、
校子はゆっくりと玄関へ向かう。
鍵を外す。
ドアを少しだけ開けた。
「…こんにちは」
「お、久しぶり」
模部はいつも通りだった。
笑顔でもない。
気まずそうでもない。
ただ、普段の模部勇気だった。
「プリント」
クリアファイルを差し出す。
「先生から」
「あ……ありがとう」
ただ、受け取る。
沈黙。
少しだけ気まずい。
(何か、言わなきゃ…)
「あ、あの…」
校子がいいかけた時、模部が苦笑した。
「最近さ」
「凡蔵先生の手伝いさせられてる」
「え?」
「あの人、パソコンとかアプリ苦手らしくて」
凡蔵の苦戦する様子が思い浮かんで、思わず少しだけ笑いそうになる。
「オンライン授業システムの設定とかさ」
「接続テストしたり、マイク確認したり」
「あ…そ、そうなんだ」
「で、やってみたんだけどさ」
模部は肩をすくめた。
「先生の声はちゃんと聞こえるけど…教室の雑談とかは、ほとんど入らなかった」
校子は少し目を上げる。
「あとさ、凡蔵先生が言ってた。」
「顔を映したくない人は、カメラ切ったままでもいいし、イラストをプロフィールに表示して参加してもいいって」
「教室のモニターにも、そのままイラストで映るらしい」
「そんなことできるんだ」
「うん」
模部は何気ない調子で続けた。
「だからさ、顔出しとか無理でも…案外いけるかも」
校子は何も答えられなかった。
模部は話題を変える。
「そういえば、オンライン授業始まるって話になってから」
「日神、最初はいろいろ言ってたけど」
少し笑う。
「正直、みんなもう興味なくしてるかな」
「え…?」
「サッカーのワールドカップとか。アイドル引退とか」
「みんなそれぞれ忙しいし」
「ずっと一人のこと考えてるほど暇じゃないよ」
その言葉は、不思議なくらい校子の胸に落ちた。
世界は。
自分が思っているほど、自分だけを見ていない。
校子は、胸の奥が少しだけ軽くなるのを感じた。
模部は少し空を見上げる。
「そういえばさ」
「宵闇ユラ」
校子の肩が震えた。
「最近、配信止まってるよね」
「…………」
返事ができない。模部の顔がまともに見れない。
「俺」
模部は照れくさそうに笑った。
「結構見てた」
校子は目を見開く。
「話、面白かったし」
「学校と違うやり方を認めさせてさ」
「勇気あるなって思ってた」
「勇気……?」
思わず聞き返す。
「うん」
「顔も名前も出さないけどさ」
「それでも何百人、何千人の前で喋るじゃん」
「俺には無理」
模部は屈託なく笑う。
「だから、すごいなって」
沈黙。
校子は何も言えない。
模部は玄関を一歩下がる。
「じゃ、帰る」
歩き出して数歩進んでから。
振り返らずに言った。
「もしさ」
少しだけ声を大きくした。
「ユラに伝える機会があったら」
校子の呼吸が止まる。
「言っといて」
「ユウキは…」
「配信再開、待ってるって」
そう言うと、模部は手だけ軽く振って歩いていった。
校子は動けなかった。
玄関のドアを閉め、その場に座り込む。
力が入らない。
「う……」
涙があふれる。
止まらない。
「うぐ……」
胸が苦しい。
「あ……」
誰にも言えなかった。
誰にも届かないと思っていた。
それでも。
待っていてくれる人がいた。
「……ああ……」
嗚咽が漏れる。
涙が床へ落ち続ける。
震える唇から、小さな声がこぼれた。
「……ありがとう」
〈ステータス〉
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名前:不登校子
状態:不登校(支援センターに接続済)
状態異常:匿名性低下の呪い
【五教科】
英語 Lv.中2 ■■□□□□
数学 Lv.中2 ■■■□□□
国語 Lv.中2 ■□□□□□
理科 Lv.中2 ■■■□□□□
社会 Lv.中2 ■■□□□□
経験値:△取得可能
※経験値反映には学校の確認が必要
派生クエスト
□ オンライン授業へ参加する
【副教科】
音楽 / 美術 / 技術・家庭 / 保健・体育
※学習活動として接続可能性あり
※学校確認・評価対象化は未達成
【総合的な学習】
探究テーマ案:VTuber活動を通して、不登校でも継続できる学びの形を探究する
※学校との協議中
【スキル】
① 保護者と学校の連携
Lv2 進行中
→学校協議フェーズへ移行
派生クエスト
☑ 担任へ制度利用を相談する
☑ 学習記録の共有方法を決める
☑ 担任と面談する
② ICT等を活用した学習活動
Lv1 解放
→学習ログ作成可能
③ 対面指導の実施
Lv1 解放
→支援センター通所中
※学校との連携・出席扱い手続中
④ 理解度に応じた計画的な学習プログラム
Lv1 進行中
派生クエスト
☑学校とプログラムを共有する
☑校長へ説明する
⑤校長による学習状況の把握
Lv1 解放
→出席扱い判断に必要な確認フェーズ
【人間関係(パーティー/NPC)】
501:【謎の分析おじさん】(信頼度:Lv.1)
横道逸子:【コスプレネキ】(信頼度:Lv.3)
不登通子:【家ボス(母)】(圧:Max)
模部勇気:【ユウキ】(親密度:1)
□関係再接続イベント発生
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