第28話 不登校VTuber、まだユラになれますか(解呪効果+1)
〇月五日。
横道逸子は教育支援センターの執務室でノートパソコンを開き、ミーティングソフトを立ち上げた。
昨日、不登校子へ送ったチャットが、そのまま残っている。
横道:
生きてる?
返事いらない
ただ接続はしておいて
校子の表示、未読。
横道は小さく息を吐いた。
「まあ、そうだよね」
返信を待たない。
ただ、毎日同じ時間にチャットだけは立ち上げる。
それだけを続けた。
〇月七日。
画面を見る。
既読。
横道は少しだけ口元を緩めた。
横道:
こんにちは
数分後。
校子:
こんにちは
たった五文字。
それだけだった。
横道はすぐ返信する。
横道:
今日はそれだけでいいよ
既読。
返事はなかった。
それで十分だった。
〇月九日。
横道:
ご飯食べてる?
既読。
しばらくして返信があった。
校子:
一応
横道:
それならよかった
会話は終わる。
それ以上は聞かない。
〇月十日。
横道:
声だけならいい?
既読。
返事はない。
数分後。
横道:
嫌ならチャットのままでいいよ
さらに数分。
校子:
はい
画面のマイクマークが緑色に変わった。
音声がつながる。
「久しぶり」
横道が軽い調子で語りかける。
しばらく間が空いてから、返答があった。
「…はい…」
覇気のない、小さな声だった。
「今日はね、話を聞くっていうより、一つだけ話してもいい?」
「…はい」
「校子ちゃんさ」
横道は穏やかな声で続ける。
「今、『全部終わった』って思ってる?」
沈黙。
「…はい」
「身バレした」
「クラスメイトにも知られた」
「オンライン授業もできなくて…先生にも迷惑かけた」
「もう終わりだって」
「…はい」
「じゃあ、ちょっと整理してみようか」
「頭の中が、今ぐちゃぐちゃになってるよね」
「こういうときは、事実と『そう思ってること』を分けて考える方法があるんだ」
横道は紙を一枚取り出した。
「認知行動療法って知ってる?」
「…知らないです」
「頭の中でごちゃごちゃになってるものを、一回分けて考える方法」
「紙の半分に『実際に起きたこと』、もう半分に、『そのとき頭に浮かんだこと』を書いていくよ」
「まず事実…身バレした」
「これは事実?」
「うん」
「次…もう人生終わり」
「これは?」
校子は答えられない。
「……」
「それって事実?」
「…わかんない」
「そう」
横道は笑った。
「わかんない、が正解」
「人ってね、事実と予想を混ぜちゃうんだ」
「身バレした、だから全部終わり」
「この『だから』の部分は、まだ起きてない未来なんだよ」
校子は黙って聞いていた。
「私もね」
横道が少し笑う。
「昔、身バレしたことも、ひどい失敗したこともある」
「え?」
「コスプレしてる写真を職場に送りつけられてね」
「上司にもセンター長にも知られた」
「でも仕事と趣味は別だって説明して、続けさせてもらった」
「今じゃ職場に旅行トランク持ってきて、そのままイベント行ってる(笑)」
校子の頬が、わずかに緩んだ。
「失敗の方はね…」
「保護者会で話した内容が、私の意図と全然違う形で一部だけ切り取って伝わっちゃって」
「もちろん個人の誹謗中傷は言ってないよ」
「でもね…"横道さんって、ああいうこと言う人なんですね"って噂になった」
「その日家帰って、布団の中で思った」
「終わった、仕事辞めようって」
聞きながら校子は少しだけ顔を上げた。
「でも、一週間後も仕事してた」
「一か月後も」
「一年後も」
「今もいる」
少し笑う。
「終わった、って思ったのは私だけだった」
静かな沈黙。
「校子ちゃん」
「中の人が、不登校子だってわかったら、宵闇ユラは見てもらう価値がない?」
「…ない…」
「そこも、分けて考えてみようか」
「確かに中の人が知られて、前みたいに見てもらえなくなるかもしれない」
「でも、それは宵闇ユラの『人気』の話」
「じゃあ…中で演じていた、不登校子の価値は?変わった?」
校子は言葉に詰まる。
「…わかりません」
横道は続けた。
「仮面ってね…本当の自分を隠すためだけのものじゃない」
「何かを演じることで、強くなれることもある」
「制服もそう」
「先生っていう立場もそう」
「私だって仕事中は、教育支援センター職員の横道逸子っていう仮面をつけてる」
「家では全然違うよ」
校子は思わず小さく笑った。
「…そうなんですか」
「そう。だから…仮面をつけることは悪くない」
「問題なのは…仮面が割れたら、自分の価値や意味まで消えたって思っちゃうこと」
校子はまた黙る。
「宵闇ユラっていう仮面を、無理矢理剥がされたように感じてる?」
「もう、あなたの居場所がなくなった?」
「……」
「確かに、配信は止まった」
「でも、思い出して」
「学校が評価しているのは、宵闇ユラ?」
「それとも、配信にチャレンジして学びを続けようとしている、不登校子?」
「それは…」
答えは分かってる。でも次の言葉が出てこない。
横道は続けた。
「配信に挑戦したことは消えてない」
「eラーニングした時間も残っている」
「ユラの衣装デザインを描いたのは?」
「ユラの配信の企画を考えて、しゃべったのは?」
「担任や校長先生と話し合って、前に進めたのは誰?」
「それを全部やったのは誰?」
長い沈黙。
「……私」
「そう」
「だったら…消えたのは仮面だけ」
「あなたの価値は…身バレくらいじゃ消えない」
長い沈黙が続いた。
イヤホン越しに、小さな息遣いだけが聞こえる。
校子は、言葉を探すように喉を震わせた。
「まだ…ユラに…なれるのかな」
横道は静かに答えた。
「不登校子が…あなた自身が、もう一度宵闇ユラになってもいいって、自分を許せるなら」
校子は目を閉じた。
何日ぶりだろう。
胸の奥で固まっていた何かが、ほんの少しだけ緩んだ気がした。
〈ステータス〉
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名前:不登校子
状態:不登校(支援センターに接続済)
状態異常:匿名性低下の呪い
【五教科】
英語 Lv.中2 ■■□□□□
数学 Lv.中2 ■■■□□□
国語 Lv.中2 ■□□□□□
理科 Lv.中2 ■■■□□□□
社会 Lv.中2 ■■□□□□
経験値:△取得可能
※経験値反映には学校の確認が必要
派生クエスト
□ オンライン授業へ参加する
【副教科】
音楽 / 美術 / 技術・家庭 / 保健・体育
※学習活動として接続可能性あり
※学校確認・評価対象化は未達成
【総合的な学習】
探究テーマ案:VTuber活動を通して、不登校でも継続できる学びの形を探究する
※学校との協議中
【スキル】
① 保護者と学校の連携
Lv2 進行中
→学校協議フェーズへ移行
派生クエスト
☑ 担任へ制度利用を相談する
☑ 学習記録の共有方法を決める
☑ 担任と面談する
② ICT等を活用した学習活動
Lv1 解放
→学習ログ作成可能
③ 対面指導の実施
Lv1 解放
→支援センター通所中
※学校との連携・出席扱い手続中
④ 理解度に応じた計画的な学習プログラム
Lv1 進行中
派生クエスト
☑学校とプログラムを共有する
☑校長へ説明する
⑤校長による学習状況の把握
Lv1 解放
→出席扱い判断に必要な確認フェーズ
【人間関係(パーティー/NPC)】
501:【謎の分析おじさん】(信頼度:Lv.1)
横道逸子:【コスプレネキ】(信頼度:Lv.3)
不登通子:【家ボス(母)】(圧:Max)
模部勇気:【ユウキ】(親密度:1)
□関係再接続イベント発生
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