第27話 配信者、未読のままです(呪いによりステータス低下中)
マンションの自室。
不登校子はベッドの上で膝を抱えていた。
手にしたスマホの画面には、501から届いたDM通知が表示されている。
状態は未読のままだった。
(501のDM…)
指先が画面の上で止まる。
(わかってる)
(配信をやめちゃいけないって)
(501は…いつも、その時の私に必要なことだけ言う)
(今度だって…きっとそうだ)
(雑だけど)
(クソ最強なアドバイスが書いてあるはず)
それでも。
開けない。
(でも…読んだら)
(動かなきゃいけなくなる)
(前を向かなきゃいけなくなる)
(もう…無理だよ)
目を閉じる。
(やりたくない…何も)
(ごめん、501)
(やっぱり…)
(無理だ)
校子はスマホを伏せた。
501のDMは開かない。
(私はもう…どうでもいい)
(放っておいて…)
部屋の中は静かだった。
カーテンはずっと閉じたままで、配信用PCも電源が落ちている。
その日も、宵闇ユラはネット上にいなかった。
校子が引きこもってから数日後、教育支援センターで横道逸子が通子からの電話を受けていた。
「横道さん…すみません…」
通子の声は疲れていた。
「校子…部屋から出てきません…」
「そうですか」
横道は静かに答えた。
「なんか、その…私も詳しくは分からないんですが…」
通子が言葉を探す。
「配信中に、身バレみたいな書き込みがあったらしくて…」
「個人を特定された?」
「いえ…そこもよく分からなくて…」
「ただ、校子はその書き込みをしたのが玲奈だって思ってるみたいで…」
「玲奈というのは?」
「校子が学校へ行けなくなった原因を作ったかもしれない生徒です」
「かもしれない?」
「いじめの証拠がないんです」
「ただ…校子は、その子のことをずっと気にしていて…」
電話の向こうで沈黙が落ちる。
「なるほど」
横道はゆっくり椅子にもたれた。
「お母さん」
「はい」
「今は学校の話をしないでください」
「……」
「支援センターの話もしなくていいです」
「分かりました」
「ご飯だけ置いてあげてください」
通子が小さく息を吐く。
「それだけでいいんですか?」
「今は、それだけでいいです」
そして横道は続けた。
「私の方でコンタクトしてみます」
通子は少し安心したようだった。
「お願いします…」
電話が切れる。
横道は受話器を電話機に置いた。
深く息を吐く。
(やっと校長の理解も得られた)
(オンライン授業も始まるはずだった)
(これからだったのに…)
窓の外を見る。
(制度との戦いと)
(個人の悪意は別問題か)
計画的な学習プログラム。
対面指導。
オンライン授業。
出席扱い。
そこまでは想定できた。準備もしていた。
だが。
子ども同士の関係性までは守り切れない。
(もっと早く教えておくべきだったかな)
(ネットで活動するときの身の守り方)
(大人の悪意より)
(子どもの悪意の方が見えにくい)
横道は目を閉じる。
頭の中に言葉が浮かんだ。
『関係性いじめ』
『同調圧力型孤立』
『空気による排除』
「厄介ね…」
証拠は残らない。
だから誰も責任を取らない。
でも傷だけは残る。
横道はノートパソコンのミーティングソフトを起動させる。
校子とのチャット画面を開く。
最後のやり取りは1週間前、オンライン授業の日程確認だった。
入力欄を開き、打ち込む文面を考える。
『大丈夫?』
消す。
『話したくなったら連絡して』
消す。
違う。
今の校子には届かない。
横道は少し考えた。
そして短く打つ。
『生きてる?』
送信。
既読はつかない。
さらに打つ。
『返事いらない』
『ただ接続はしておいて』
送信。
既読はつかない。
それでも横道はモニターごしに校子に語りかけた。
「まだ、終わってないからね」
校子のオンライン授業参加が中止になった週の金曜日。
放課後、学校の会議室で凡蔵昌平は日神玲奈と向かい合っていた。
「先日な」
凡蔵が切り出す。
「校子の配信中に、個人を特定するような書き込みがあったらしい」
「そうなんですか?」
玲奈は首を傾げる。
「そいつはクラスの人間しか知らない情報も知ってた」
「それで?」
凡蔵はまっすぐ玲奈を見た。
「お前…校子の配信について何か知っていることはあるか」
「何も知りません」
「オンライン授業について誰かと話したか?」
「家族には…少し」
「本当か?」
「先生…何が言いたいんですか?」
「なんで…不登に嫌がらせした?」
玲奈の表情が固まる。
「してません」
「私、校子ちゃんの配信なんて見たこともないです」
「じゃあ誰がやった?」
「知りません」
玲奈は肩をすくめる。
「そもそも先生たちは知ってるんですよね?校子ちゃんの配信名」
「私たちは知らないです」
「校子ちゃんだけ匿名で守られてる…おかしくないですか?」
「教育的配慮だ」
凡蔵が即答する。
「あいつの不登校の原因が、お前にあると本人が言ってる以上な」
玲奈は静かに凡蔵を見つめた。
「先生」
「なんだ」
「証拠あるんですか?」
凡蔵は言葉に詰まる。
玲奈は続ける。
「私、一回でも校子ちゃん殴りました?」
「物隠しました?」
「悪口言いました?」
「LINE送りました?」
「それは…」
「じゃあ何をしたんですか?」
沈黙。
「校子ちゃんが学校来なくなったのは」
「私のせいなんですか?」
玲奈の目が少し潤む。
「私も苦しかったんですけど」
凡蔵は黙ったまま日神を観察する。
「なんで私が犯人なんですか?」
その顔に嘘をついている様子はない。
だからこそ気味が悪い。
(証拠はない)
(言ってることも間違ってない)
(だが…)
(この子は知っている)
(校子がどれだけ苦しんでいたか)
(知った上で)
(自分は無関係だと言っている)
(どうしてこんなに話が噛み合わない)
「らちがあかねえな…」
凡蔵は頭をかいた。
「なあ、日神」
「はい?」
「なんで不登なんだ?」
玲奈が眉をひそめる。
「意味が分かりません」
「そのまんまだ」
凡蔵は悪びれなく言う。
「お前の方が頭もいい」
「友達も多い」
「クラスの中心だ」
「なのに、なんで今でも不登を見てる?」
「…」
玲奈はしばらく黙った。
そして。
「先生」
「なんだ」
「校子ちゃんって…そんなに特別ですか?」
凡蔵は目を細める。
「みんな校子ちゃんの話ばっかり」
「先生も」
「模部君も」
「なんでですか?」
玲奈は机を見つめた。
「学校来てないのに…みんな校子ちゃんのこと考えてる」
「私、毎日学校来てるのに」
小さな声。
「意味分かんない」
凡蔵はそこで気付いた。
(違う)
(こいつは…理解できないんだ)
学校だけが世界じゃないことを。
校子に、学校の外に居場所があることを。
(だから…外で生きてる校子が、気に入らねえのか…)
(どっちも…めんどくせえな…お前ら)
窓の外では夕焼けが沈み始めていた。
〈ステータス〉
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名前:不登校子
状態:不登校(支援センターに接続済)
状態異常:匿名性低下の呪い
【五教科】
英語 Lv.中2 ■■□□□□
数学 Lv.中2 ■■■□□□
国語 Lv.中2 ■□□□□□
理科 Lv.中2 ■■■□□□□
社会 Lv.中2 ■■□□□□
経験値:△取得可能
※経験値反映には学校の確認が必要
派生クエスト
□ オンライン授業へ参加する
【副教科】
音楽 / 美術 / 技術・家庭 / 保健・体育
※学習活動として接続可能性あり
※学校確認・評価対象化は未達成
【総合的な学習】
探究テーマ案:VTuber活動を通して、不登校でも継続できる学びの形を探究する
※学校との協議中
【スキル】
① 保護者と学校の連携
Lv2 進行中
→学校協議フェーズへ移行
派生クエスト
☑ 担任へ制度利用を相談する
☑ 学習記録の共有方法を決める
☑ 担任と面談する
② ICT等を活用した学習活動
Lv1 解放
→学習ログ作成可能
③ 対面指導の実施
Lv1 解放
→支援センター通所中
※学校との連携・出席扱い手続中
④ 理解度に応じた計画的な学習プログラム
Lv1 進行中
派生クエスト
☑学校とプログラムを共有する
☑校長へ説明する
⑤校長による学習状況の把握
Lv1 解放
→出席扱い判断に必要な確認フェーズ
【人間関係(パーティー/NPC)】
501:【謎の分析おじさん】(信頼度:Lv.1)
横道逸子:【コスプレネキ】(信頼度:Lv.3)
不登通子:【家ボス(母)】(圧:Max)
模部勇気:【ユウキ】(親密度:1)
□関係再接続イベント発生
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