第26話 配信者、身バレでゲームオーバー寸前です
※今回のお話には、学校での孤立や身バレ、不登校の苦しさを想起させる描写があります。過去に学校生活でつらい経験をされた方は、無理のない範囲でお読みください。
中壁校長と不登校子の面談の翌週、水曜の朝。
担任の凡蔵昌平は職員室のパソコン画面を見つめていた。
「不登校子…社会の授業オンライン参加…」
参加申請一覧を確認する。
該当欄は空白だった。
「フォーム提出…なし?」
思わずメールソフトを開く。
『前日十七時までに参加フォーム提出すること』
これは校長面談の後、本人に直接説明した。
さらに前日の昼にもリマインドメールを送っている。
提出忘れとは考えにくい。
(だめだったか…?)
だが、すぐに首を振る。
(いや)
(あいつは真面目だ)
提出物の期限は守る。
宿題も出す。
出せない時は出せないと連絡する。
そういう生徒だった。
中壁校長とのやりとりが脳裏によみがえる。
応接室で、中壁校長の前で震えながら答えた校子。
『やり……やりま……』
『いえ……やります!』
(あれは本気だった)
(フォーム提出忘れじゃねえ)
凡蔵は画面を見つめた。
「何かあったな」
結局、その日のオンライン授業は実施されなかった。
ホームルームの時間になり、生徒たちがざわつく。
「先生〜、オンライン授業やんないんですか?」
「オンライン授業も不登校?」
「校子さぼりかよー」
「あー……まだ準備できてなくてな」
凡蔵は適当に濁す。
「また来週だ」
その時だった。
教室中央付近。
一人の女子生徒が口を開いた。
「せっかく先生が準備してくれてたのにねえ」
艶のある黒髪は肩の下までまっすぐ伸び、制服にも乱れはない。
教師から見ても、手のかからない優等生。
保護者受けも良い。
そんな印象を与える生徒だった。
その女子生徒――日神玲奈が、穏やかな笑みを浮かべる。
すぐに周囲が反応する。
「だよねー」
「勝手すぎん?」
日神は肩をすくめる。
「てかさぁ…本人が嫌なんだったら無理にやらせるのかわいそうじゃない?」
「ほんとそれ」
「かわいそー」
「無理なんだって」
日神は一度も不登校子を悪く言っていない。
だが教室の空気は確実に変わっていく。
歓迎から疑念へ。
期待から失望へ。
そして――排除へ。
日神は笑う。
「ほんと自由でいいなー」
「授業受けても受けなくてもいいなんて」
「俺もオンラインでいい?」
「まじそれ(笑)」
「なんで不登だけ特別扱い?」
凡蔵の眉間にしわが寄る。
(上手いな)
(直接叩いてねえ)
(だが空気だけは作ってやがる)
その時、凡蔵は思わず視線を止めた。
模部勇気だけが笑っていなかった。
じっと日神を見ている。
その目に浮かんでいたのは怒りだった。
(模部…?)
授業の後、廊下に出た凡蔵を、模部が呼び止めた。
「先生」
「なんだ」
模部は周囲を確認してから、小さな声で言った。
「校子…来週、本当に出られるんですか」
「…どういう意味だ」
「俺」
少し迷う。
だが覚悟を決めたように続ける。
「宵闇ユラっていうVtuber見てました」
「…!」
凡蔵の表情が変わる。
「配信中に変なコメントがあったんです」
「コメント?」
「このクラスのオンライン授業のこと知ってるやつです」
模部はスマホを差し出した。
画面には保存していたスクリーンショット。
凡蔵の名前。
2年3組。
不登校の生徒。
偶然では済まない内容だった。
「凡蔵先生の名前まで出してました」
「…」
「その後、ユラは配信やめました」
「…そうか」
二人の空気が重くなる。
凡蔵はゆっくり息を吐いた。
「そのこと、誰かに話したか」
「話してません」
「そうか」
少し考えた後、凡蔵は言った。
「模部」
「はい」
「お前はまだ何もするな」
「…」
「俺が動く」
模部は悔しそうにうなずいた。
凡蔵の視線が教室方向へ向く。
その先には。
日神玲奈がいる。
(また…お前か)
まだ証拠はない。
だが、教師としての勘が告げていた。
その週。
校子は部屋から出られなかった。
eラーニングも。
教育支援センター通所も。
全部止まっていた。
布団の中。
暗闇。
時間の感覚は失われていた。
スマホも見ない。
食事もほとんど取らない。
頭の中を回り続けるあの日のコメント。
> 知ってる子に声がそっくりなんだけど…
> 同じ学校の子かと思っちゃった
> やっぱ勘違いかな?
> だって急にワテクシだもんw
動画は削除した。
あのアカウントも消えていた。
だが分かる。
あれは日神玲奈だった。
絶対に。
(みんな知ってる)
(クラス全員知ってる)
(終わった)
胃が痛い。
吐き気がする。
心臓が苦しい。
(配信なんてしなきゃよかった)
(宵闇ユラなんて作らなきゃよかった)
(馬鹿だな……私)
(結局……)
(私は不登校の校子でしかない)
(横道さんにも、501にも、もう顔向けできない)
(あれだけ偉そうなこと言って)
(結局私は逃げた)
目を閉じる。
真っ暗だった。
(死にたい)
そう思った。
何度も。
何度も。
何度も。
どれくらい時間が経ったのか分からない。
カーテンの隙間から光が差している。
朝なのか。
夕方なのか。
それすら分からない。
母の声も聞こえた。
返事はしなかった。
もう終わったのだと思った。
全部。
終わった。
その時だった。
布団の横に放置していたスマホが震える。
一度。
また一度。
画面が光る。
DM通知 送り主 501。
校子はゆっくり画面を見た。
見たのは冒頭の一行だけだった。
501:
配信をやめるな
校子の指が止まる。
その一行から先を読むことができなかった。
カーテンから差し込む光が、少しだけ赤味を増していた。
〈ステータス〉
_________________________________
名前:不登校子
状態:不登校(支援センターに接続済)
状態異常:匿名性低下の呪い
【五教科】
英語 Lv.中2 ■■□□□□
数学 Lv.中2 ■■■□□□
国語 Lv.中2 ■□□□□□
理科 Lv.中2 ■■■□□□□
社会 Lv.中2 ■■□□□□
経験値:△取得可能
※経験値反映には学校の確認が必要
派生クエスト
□ オンライン授業へ参加する
【副教科】
音楽 / 美術 / 技術・家庭 / 保健・体育
※学習活動として接続可能性あり
※学校確認・評価対象化は未達成
【総合的な学習】
探究テーマ案:VTuber活動を通して、不登校でも継続できる学びの形を探究する
※学校との協議中
【スキル】
① 保護者と学校の連携
Lv2 進行中
→学校協議フェーズへ移行
派生クエスト
☑ 担任へ制度利用を相談する
☑ 学習記録の共有方法を決める
☑ 担任と面談する
② ICT等を活用した学習活動
Lv1 解放
→学習ログ作成可能
③ 対面指導の実施
Lv1 解放
→支援センター通所中
※学校との連携・出席扱い手続中
④ 理解度に応じた計画的な学習プログラム
Lv1 進行中
派生クエスト
☑学校とプログラムを共有する
☑校長へ説明する
⑤校長による学習状況の把握
Lv1 解放
→出席扱い判断に必要な確認フェーズ
【人間関係(パーティー/NPC)】
501:【謎の分析おじさん】(信頼度:Lv.1)
横道逸子:【コスプレネキ】(信頼度:Lv.3)
不登通子:【家ボス(母)】(圧:Max)
模部勇気:【ユウキ】(親密度:1)
□関係再接続イベント発生
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