第24話 校長攻略後に発生した新イベントが明らかに不穏です
中壁校長との面談が終わった夜。
夕食後、不登家のリビングのテーブルの上には、校子の学習プログラム案と総合的な学習プランが広げられていた。
校子も通子も、あまり言葉が出なかった。
校子は中壁校長の言葉を反芻していた。
「現時点の資料を見る限り、出席扱いの対象として検討できる内容だと考えています」
(出席扱いへの道は、開いた…ってこと?)
だが、成績としてどう評価されるのかは、まだ確定していない。
通子は書類を見つめたまま、静かに口を開いた。
「…ねえ」
「…なに?」
「今日の話…どうなると思う?」
校子の指がスマホの画面の上で止まった。
「…わかんない」
「そうよね」
通子は小さくうなずく。
「まだ、オンライン授業も受けてないし」
その言葉が校子の胸に重く落ちる。
通子は、テーブルの上の資料を指先で軽く叩いた。
「これ、すごいと思うわよ」
「本当に頑張ってるのは分かってる」
校子は何も言わない。
通子は静かに続けた。
「でも…これで全部うまくいくとは、思ってないでしょ?」
校子が顔を上げる。
「…どういう意味」
「そのままの意味よ」
通子は書類へ視線を落とした。
「今日の校長先生だって、“計画は大筋で了承”って言っただけでしょう?」
「出席扱いは検討してくれるって言ってたじゃん」
「出席扱いはね。でも、成績として評価するかどうかは認めたわけじゃない」
しばしの沈黙が続いた。
校子の表情が曇る。
(…分かってる)
そんなことは最初から分かっていた。
だからこそ、ここまで必死だったのだ。
通子は続ける。
「だから聞いてるの」
「これからどうするの?」
「…どうって」
「このまま、学校行かないつもり?」
静かな声だった。
責める響きはない。
けれど核心だった。
「…うん」
校子は迷わず答えた。
通子の目がわずかに細くなる。
「その代わりに、これを続ける?」
テーブルの上の資料を指差す。
「…そうだけど」
「もし…出席扱いも、成績としての評価も認められなかったら?」
空気が止まった。
「評価もされない」
「出席扱いにもならない」
「進路にもつながらない」
「それでもやるの?」
校子は答えられなかった。
頭の中に、中壁校長の言葉がよみがえる。
「学校も挑戦します」
「あなたも挑戦してください」
それは希望だった。
同時に、不確実さの証明でもあった。
通子は静かに言った。
「私はね」
「あなたに、賭けてほしくないの」
校子が息を飲む。
「制度が変わるかもしれない、とか」
「評価されるかもしれない、とか」
「そんな不確定なものに、あなたの将来を乗せてほしくない」
沈黙。
校子の手が強く握られる。
「…でも」
絞り出すように声が漏れた。
「今の学校だって…私にとっては無理ゲーだったじゃん」
通子が顔を上げる。
「行けない」
「教室入れない」
「座ってるだけで無理」
「なのに…」
校子は母を見た。
「そこに戻るのが“安全”なの?」
通子が言葉を失う。
「それってさ」
「私にとっては、賭けじゃん」
リビングの空気が重くなる。
通子は長く息を吐いた。
「…そうね」
小さく認める。
「じゃあ、もう一つ聞く」
まっすぐ娘を見る。
「それ、卒業までずっと続けられるの?」
今度は校子が固まった。
「今はいいわよ」
「新しいし、やる気もある」
「でも」
「半年後も?」
「一年後も?」
「同じように続けられる?」
校子は反射的に答えた。
「続けるよ!」
「私は…これが勉強だもの!」
通子は黙った。
しばらくして、ぽつりと呟く。
「…怖いのよ」
校子が顔を上げる。
「あなたが、このまま普通のルートからどんどん外れていきそうで」
「……」
「高校も」
「大学も」
「友達も」
「社会との繋がりも」
「全部、別の方向へ行ってしまいそうで」
校子は返事ができなかった。
通子は続ける。
「だから…私は、“戻れる状態”を残しておきたいの」
「行かない、じゃなくて」
「行けるけど、行かない」
「その違いは大きい」
長い沈黙。
時計の秒針だけが響く。
やがて校子は俯いたまま、小さく言った。
「オンライン授業参加…するから」
「それでいいでしょ」
「…はあ」
長めのため息。それ以上、通子は何も言わなかった。
部屋には再び重い静けさが落ちる。
校子はソファに深く沈み込み、スマホを握ったまま動かない。
通子は資料から目をそらした。
そして娘の横顔を、ただ見つめていた。
守りたい。
でも、止めたいわけじゃない。
その矛盾を抱えたまま。
翌朝。
2年3組のホームルーム時間。
担任の凡蔵昌平は出席簿を閉じると、面倒くさそうに頭をかいた。
「あー、一つ連絡な」
生徒たちが顔を上げる。
「欠席中の不登な」
教室の空気が少し変わった。
「来週から社会の授業にオンライン参加することになった」
一瞬の静寂。
次の瞬間。
「え?」
「オンライン授業?」
「マジで?」
ざわめきが広がる。
「聞いたことある」
「なんか出席になるやつだろ?」
「学校来てないのに?」
「ズルくね?」
凡蔵は咳払いした。
「教育的配慮ってやつだ」
「校長の指示でもある」
「お前らは、いつもどおりでいい」
だが、いつもどおりにはならない。
そんなことは凡蔵自身が一番分かっていた。
教室の後方。
模部勇気は窓際の席で黙っていた。
(校子…)
胸の奥がざわつく。
(大丈夫なのか?)
校子は人前に出るのが苦手だった。
いじめもあって教室に来られなくなった。
その校子が。
画面越しとはいえ、クラス全員の前に出る。
(いや…)
(たぶん、大丈夫じゃない)
それでも、校子はきっと、やるのだろう。
模部はそんな気がした。
一方で、教室の中央付近。
一人の女子生徒が退屈そうに机へ頬杖をついていた。
「へぇ」
小さく呟く。
「不登校なのに出席扱い?」
口元に薄い笑みが浮かぶ。
「なんで特別扱いするかなあ」
周囲の生徒たちも話し始める。
「そういや校子、最近パソコンばっかやってるって聞いた」
「うちの母親、校子の母ちゃんと仲良いから」
「支援センターで配信みたいなのしてるらしいよ」
「Vtuber配信?」
「マジ?」
「いや、知らんけど」
女子生徒の目が少しだけ光った。
「配信?」
興味深そうにスマホを取り出す。
「…ふーん」
その笑顔は好奇心の形をしていた。
けれど。
その奥にある感情を知る者は、まだいない。
「ちょっと…調べてみようかな」
女子生徒はスマホを開く。
検索エンジンではなく、
動画アプリの検索欄だった。
『不登校』
『Vtuber』
『学校行けない』
『中学生』
『支援センター』
『ライブ配信』
指先が次々と文字を打ち込む。
そして…
まだ誰も知らない場所で、校子の現実とネットが、初めて繋がろうとしていた。
〈ステータス〉
_________________________________
名前:不登校子
状態:不登校(支援センターに接続済)
【五教科】
英語 Lv.中2 ■■□□□□
数学 Lv.中2 ■■■□□□
国語 Lv.中2 ■□□□□□
理科 Lv.中2 ■■■□□□□
社会 Lv.中2 ■■□□□□
経験値:△取得可能
※経験値反映には学校の確認が必要
派生クエスト
□ オンライン授業へ参加する
【副教科】
音楽 / 美術 / 技術・家庭 / 保健・体育
※学習活動として接続可能性あり
※学校確認・評価対象化は未達成
【総合的な学習】
探究テーマ案:VTuber活動を通して、不登校でも継続できる学びの形を探究する
※学校との協議中
【スキル】
① 保護者と学校の連携
Lv2 進行中
→学校協議フェーズへ移行
派生クエスト
☑ 担任へ制度利用を相談する
☑ 学習記録の共有方法を決める
☑ 担任と面談する
② ICT等を活用した学習活動
Lv1 解放
→学習ログ作成可能
③ 対面指導の実施
Lv1 解放
→支援センター通所中
※学校との連携・出席扱い手続中
④ 理解度に応じた計画的な学習プログラム
Lv1 進行中
派生クエスト
☑学校とプログラムを共有する
☑校長へ説明する
⑤校長による学習状況の把握
Lv1 解放
→出席扱い判断に必要な確認フェーズ
【人間関係(パーティー/NPC)】
501:【謎の分析おじさん】(信頼度:Lv.1)
横道逸子:【コスプレネキ】(信頼度:Lv.3)
不登通子:【家ボス(母)】(圧:Max)
模部勇気:【ユウキ】(親密度:1)
□関係再接続イベント発生
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