第23話 第ニ関門 校長攻略RTA!
校長との面談の当日。
不登校子は学校の応接室の椅子に座り、中壁例一校長と向き合っていた。
背筋は伸びていない。
でも、逃げてもいない。
中壁校長は眼鏡の奥から、校子と通子、担任の凡蔵昌平を見ていた。
机の上には、校子が提出した学習記録資料と、新たに凡蔵がまとめ直した学習プログラム案が広げられている。
そして、校子が横道の指導のもとで作り直した、Vtuber配信をテーマとして、総合的な学習の時間の探究活動を軸に、必要な技能や知識を各教科と関連付けるプラン。
(よし)
(ラスボス戦だ)
(攻略開始)
校子は心の中で気合を入れた。
隣では通子が緊張している。
担任の凡蔵も、珍しく背筋が伸びていた。
中壁校長だけが落ち着いていた。
(校長って……)
校子は相手を見つめる。
(全校集会で喋る人って印象しかなかったけど)
(こうやって向き合うと、なんか違う)
(穏やかそうなのに)
(目が笑ってない)
(こっちの裏側まで観察されてる感じがする)
資料に目を通していた中壁校長が、口を開いた。
「では、始めましょう。まずは来ていただいてありがとうございます」
「不登さんのお話は、凡蔵先生から聞いています。配信も、少し拝見しました」
(少しどころじゃなさそうだけど)
校子は心の中でつぶやく。
「今日は正解を決める場ではありません。私も勉強させてもらうつもりでいます」
そう言って校長は資料を一枚めくった。
「まず確認です」
「この資料は不登さん自身が作成したものですか?」
「はい、教育支援センターの職員の方の指導をいただきながら作成しました」
「保護者ではなく?」
「はい」
「なるほど」
校長は一枚ずつ資料を確認していく。
その様子は面接というより何かの監査に近かった。
(うわ)
(思ったよりガチだ)
校子は内心で冷や汗をかく。
資料を一通り見終わってから、中壁校長は校子を見た。
「最初に聞きたいことがあります」
「なぜVtuber配信だったのですか?」
「eラーニングだけでは駄目だったのでしょうか?」
静かな声だった。
だが、応接室の空気が引き締まる。
(きた…!)
校子は息を吸う。
用意していた答えを口にする。
「誰かとつながりたかったからです」
「学校に行けなくなって…社会との接点がなくなりました。だから配信を始めました」
「Vtuberとしてなら、“私はここにいる”って言えました」
「勉強してることも発信しました。それを、誰かが見てくれた」
「録画じゃ駄目なんです。視聴者とのつながりが、感じられないから」
「Vtuberは」
校子は言葉を選ぶ。
「勉強の場であり、社会とのつながりの場です」
「だから、私は認めてほしいんです」
「配信を含めて、私がやってきたことを…学校教育の中の学びとして」
中壁校長は黙って聞いていた。
否定もしない。
肯定もしない。
ただ観察している。
数秒後。
「なるほど」
短く頷くいてから、中壁校長は資料を閉じた。
「考えていた以上に整理されていますね」
校子は少し拍子抜けした。
反論が来ると思っていた。
だが中壁校長は評価も否定もしていない。
ただ、事実を確認している。
「少なくとも、思いつきで始めた活動ではないことは分かりました」
そこで中壁校長は話題を変えた。
「不登さん」
「教育の目的は何だと思いますか」
「え…?」
校子が固まる。
(待って)
(そんな質問…想定してなかった)
中壁校長は続ける。
「あなたは配信で…『教育は呪いだ』」
「そう話していましたね」
(ヤバっ)
(見てたのかよ!!)
校子の顔が引きつる。
通子が視線を逸らした。
凡蔵が咳払いした。
中壁校長だけが平然としていた。
「ですが…私は反論できませんでした」
「え?」
「学校が、子どもにそう思わせてしまうことはありますから」
校子は言葉を失った。
説教が来ると思っていた。
否定されると思っていた。
だが違った。
中壁校長は静かに受け止めていた。
「本来、教育とは何か」
一度言葉を切る。
「私は…教育とは、“祝福”であってほしいと思っています」
「祝福…ですか?」
「言い換えれば…自分の人生を選び、自分の可能性を広げるための助けになるものだと思っています」
「人生を選ぶ…」
「ええ」
「進学でも…職業でも。自分で考え、選び、結果に責任を持てる人間になる」
「その準備です」
校子は黙って聞いていた。
(自分にかける補助魔法…バフみたいなものってこと?)
その時、教育支援センターで横道逸子から言われた言葉が頭をよぎった。
横道が、宵闇ユラの衣装に触れながら言った言葉。
『学校の勉強ってさ』
『本当は、“こういうの”につながるためにあるんだよ』
(…教育は“呪い”じゃない…?)
中壁校長は続けた。
「だから私は」
(はっ!いかんいかん!校長攻略中だった!)
「義務教育の目的を、学校へ来ることだとは考えていません」
校子は思わず顔を上げる。
「登校は手段です」
「学ぶことも手段です」
「本当の目的は、社会の中で生きていく力を身につけることです」
校子は初めて中壁校長を真正面から見た。
中壁校長も見返してくる。
「ですが、現実には呪いになる子もいる」
「だから知りたいのです」
中壁校長の視線が鋭くなる。
「不登さん、あなたが学校を離れて、それでも学び続けている理由を」
校子は答えられなかった。
そんなこと考えたことがなかった。
なぜ自分は勉強を続けているのだろう。
沈黙が続く。
そこで校子は気づく。
(あれ)
(私が質問されてばっかりじゃん)
(攻略する側だったのに)
(……答えられない。このままじゃ押し負ける)
(反撃しなきゃ!)
「校長先生」
「ひとつ聞いてもいいですか」
「どうぞ」
「これ」
校子は学校だよりを取り出した。
「全部読みました」
中壁校長の眉が少し動く。
「GIGAスクール」
「ICT活用」
「個別最適な学び」
「校長先生ずっと書いてましたよね」
中壁校長は黙った。
凡蔵が目を丸くする。
通子も驚いていた。
「校長面談があるって聞いたので、攻略本代わりに読みました」
凡蔵が吹き出した。
中壁校長は数秒沈黙し、少しだけ笑った。
「なるほど…私の学校だよりを読んでいる生徒は初めてかもしれません」
「でしょうね」
「でしょうね」
言葉が重なる。
空気が少し和らぐ。
「だから思ったんです。校長先生なら話が通じるかもしれないって」
「一人一人に合った学び方を認めるべきだって…そういうことを書いてたから」
中壁校長は頷いた。
「少なくとも、私はあなたの努力を否定するつもりはありません」
「全員が、同じ方法で学ばなければならないとも思っていません」
そこで言葉を切った。
「ただし」
中壁校長の目が細くなる。
「理想と現実は別です」
「学校には制度があります」
「前例もあります。説明責任もあります。だから、簡単ではありません」
校子は頷いた。
そのくらいは分かる。
ここまで来るだけでも、どれだけ多くの人が動いてくれたか知っている。
「正直に言えば」
中壁校長は資料を軽く叩いた。
「あなたのようなケースは初めてです。見たことがありません」
「だから学校も試行錯誤になります」
「今回のような活動をどのように位置付け、評価するかは学校として慎重に考える必要があります」
そこまで言い切ってから、中壁校長はわずかに口元を緩めた。
「不登さん、私はあなたを信じます」
「ですが制度は、信じてくれません」
「学校が何かを認めるには根拠が必要です」
「職員会議にも説明しなければならない」
「教育委員会にも説明できなければならない」
「だから、実績を作りましょう」
校子が顔を上げる。
「実績…」
「ええ」
「あなたが学んでいること」
「学校とつながっていること」
「それを第三者にも分かる形にする必要があります」
中壁校長は学習プログラム案を手に取った。
「あなたの学習プログラム案や、総合的な学習に配信を組み込む計画は、大筋このままでよいと思います」
校子と通子が顔を見合わせる。
「現時点の資料を見る限り、出席扱いの対象として検討できる内容だと考えています」
(通った……?)
(いや、まだ分からない)
(でも少なくとも門前払いじゃない)
「ただし」
中壁校長はすぐに続けた。
「学校として継続的に学習状況を確認する必要があります」
「評価については、実際の取り組みを見ながら判断していきましょう。実際に運用してみなければ分からない部分もあります」
「だからこそ実績が必要です」
一拍置いて中壁校長は言った。
「あなたは、登校はできなくても、今のクラスに在籍することを希望しているそうですね」
応接室の空気がまた少し変わった。
「は…い」
「そこでひとつ、提案です」
「オンライン授業へ挑戦してみませんか」
「挑戦?」
「成功するかどうかは分かりません。途中でやめても構いません」
「まずは一科目、一時間だけでもいい」
「社会科なら」
ちらりと凡蔵を見る。
「担当教師も張り切るでしょう」
社会科担当の凡蔵がぼやく。
「校長先生、それ嫌味ですか」
「半分くらいは(笑)」
応接室に小さな笑いが起きた。
緊張が少しだけ解ける。
だが校子の胸はざわついていた。
オンライン授業?。
あのクラス。
あの空間。
画面越しとはいえ、つながることになる。
そして中壁校長は真顔に戻った。
「不登さん。私は今、あなたが学ぶことを諦めていないと確信しました」
「だからこそ、学校も挑戦します」
「あなたも挑戦してください」
「オンライン授業への参加は、その第一歩です」
その瞬間。
攻略していたはずの相手に。
自分の方が一歩踏み込まれていた。
「あなたのためだけではありません。学校のためでもあります」
校子は中壁校長を見た。
この人は味方だ。
でも甘くない。
理想だけを語らない。
現実も見ている。
だから厄介だ。
中壁校長は、自分という生徒を試しているだけではない。
学校、あるいはもっと先の何かも…変えようとしているのだ。
(なんだよ、この校長)
(ラスボスじゃなかったのか)
(むしろ…)
(味方になると一番厄介なタイプじゃん)
「無論、授業参加に際しては顔出しは不要ですし、発言も求めません」
(授業…あのクラスで)
喉が渇く。動悸が上がっていくのを感じる。
「どうですか?不登さん?」
校子は声を振り絞る。
「どうやって…オンライン参加を?」
「学校から配布した端末を使って、オンライン会議システムを使います」
「…それって」
「そうです」
「GIGAスクール構想は、一人一人に応じた学びを実現するための基盤です。その中には、学校に来ることが難しい子どもの学びを支える役割もあります」
「残念ながら、本校ではまだその取り組みが実現されていません」
「だから…私が…?」
中壁校長は黙って頷いた。
(ヤバい…ラスボス攻略できたと思ってたら…そのまま裏ダンジョンに突入した…)
(鬼畜すぎるだろ…今更あのクラスメイトと一緒に授業とか…)
(でも、もし私ができたら…他の子もオンライン授業っていう選択肢がとれるようになる?)
(学校に来られない子にも道ができるかも)
(逆に、もし私が失敗したら…?)
(次の子も挑戦しにくくなる?)
("やっぱり不登校には無理でした"って話になるかもしれない)
(でも…)
(誰かが最初にやらなきゃ始まらない)
校子の頭の中でぐるぐる思考が回る。
「ちょっと…校子…?」
心配で思わず声をかける通子。
「や…」
「や?」
(ぬああああああ!)
(やるよ!やりますよ!)
(ここで逃げたら攻略失敗だろ!)
「やり…やりま…いえ……やります!」
「よろしい」
中壁校長は満足気に頷いた。
「では、凡蔵先生もオンライン授業の手配よろしくお願いします」
「は、あ〜あの、パソコンの設定とかどうすれば…」
「白川先生あたりが詳しいので、聞いてください」
「では、今日はここまでにしましょう」
応接室を退室した後、凡蔵と校子は同時にぼやいていた。
((めんどくせえ))
〈ステータス〉
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名前:不登校子
状態:不登校(支援センターに接続済)
【五教科】
英語 Lv.中2 ■■□□□□
数学 Lv.中2 ■■■□□□
国語 Lv.中2 ■□□□□□
理科 Lv.中2 ■■■□□□□
社会 Lv.中2 ■■□□□□
経験値:△取得可能 NEW!
※経験値反映には学校の確認が必要
派生クエスト
□ オンライン授業へ参加する NEW!
【副教科】
音楽 / 美術 / 技術・家庭 / 保健・体育
※学習活動として接続可能性あり
※学校確認・評価対象化は未達成
【総合的な学習】
探究テーマ案:VTuber活動を通して、不登校でも継続できる学びの形を探究する
※学校との協議中
【スキル】
① 保護者と学校の連携
Lv2 進行中
→学校協議フェーズへ移行
派生クエスト
☑ 担任へ制度利用を相談する
☑ 学習記録の共有方法を決める
☑ 担任と面談する
② ICT等を活用した学習活動
Lv1 解放
→学習ログ作成可能
③ 対面指導の実施
Lv1 解放
→支援センター通所中
※学校との連携・出席扱い手続中
④ 理解度に応じた計画的な学習プログラム
Lv1 進行中
派生クエスト
☑学校とプログラムを共有する
☑校長へ説明する
⑤校長による学習状況の把握 NEW!
Lv1 解放
→出席扱い判断に必要な確認フェーズ
【人間関係(パーティー/NPC)】
501:【謎の分析おじさん】(信頼度:Lv.1)
横道逸子:【コスプレネキ】(信頼度:Lv.3)
不登通子:【家ボス(母)】(圧:Max)
模部勇気:【ユウキ】(親密度:1)
□関係再接続イベント発生
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