第22話 模擬戦、開始5分で全滅
教育支援センターから帰宅した不登校子は、自室の机に向かっていた。
机の上のノートの表紙には『中壁例一校長 攻略メモ』と書かれている。
ページには赤線と付箋がびっしり貼られていた。
・教育観は「多様な学びを重視する」
・ICT活用を推進
・GIGAスクール推進
・制度を大事にする
・実績と根拠を重視
・感情論は通じなさそう
「ふふふ…」
校子はペンを回した。
「完璧じゃん」
満足げにノートを閉じる。
伸びをすると、肩がぽきっと鳴った。
(よし…!)
(これで校長対策はばっちり!)
冷蔵庫からプリンを取り出す。
一口食べる。
(…うまい)
勝利の味だった。
(あとは思いの丈をぶつけるだけ)
完全に勝った気でいた。
その時、スマホが震えた。
通知。DM:501
「またかよ…」
校子は眉をひそめる。
面倒くさ気に画面を開く。
501:
校長からの質問への回答は想定したか
校子:
は?質問?
501:
交渉で負ける人間には共通点がある。自分の言いたいことしか準備していない
校子:
だって校長の教育観は調べたし
501:
相手が何を聞くか考えたか?
校子:
なんで?
501:
校長は君を知らない
だから質問する。なぜ配信なのか。何を学ぶのか
どう評価するのか。どう継続するのか。
なぜ学校が認める必要があるのか
校子:
どうすればいい?
501:
教育支援センターで想定問答をやれ
メッセージはそこで終わった。
校子はスマホを机に置く。
「めんどくさ…」
だが、やらない方がまずい結果になりそうな予感がした。
翌日、教育支援センターの会議室。
机を挟み、横道逸子と校子が向かい合わせで座っていた。
「じゃあ始めようか」
「本番想定ね」
「お願いします」
横道は軽く頷く。
そして眼鏡を上げた。
空気が変わる。
校子も思わず背筋を伸ばした。
「今日は私が校長役」
「うわぁ……」
「では」
横道の表情が引き締まる。
相談員ではない。
学校管理職の顔だった。
「不登校子さん」
「はい」
「計画的な学習プログラム案は読みました」
「eラーニングの記録も確認しました」
「Vtuber配信を総合的な学習の時間や副教科の実習へ位置付ける案も理解しました」
校子は少し胸を張る。
(よし)
(そこは通った)
横道は続けた。
「では質問です」
「なぜVtuber配信なのですか?」
「え?」
「eラーニングだけでは駄目だったのですか?」
「レポート提出では?」
「録画動画では?」
「なぜライブ配信なのですか?」
校子は固まった。
「えっと……」
答えはある気がする。
だが言葉にならない。
「はい失格」
「早っ!?」
「今の質問は必ず来る」
横道は即答した。
「校長は活動より理由を聞く」
「なぜその方法なのか」
「説明できなければ判断できない」
「うっ」
「次」
横道は資料をめくる。
「Vtuber配信そのものでは何を学びますか?」
「え〜っと…企画!です」
「一時間配信するために三時間準備してます」
「視聴者が飽きない構成考えないといけないので」
「あ〜、後、コメント荒れたら対応します!視聴者との…コミュニケーション!」
「それと…失敗したら次回改善します!」
「合格」
「やった!」
「では次」
横道は一切笑わない。
「企画や、コミュニケーション…それは学校では何の学習として扱うつもりですか?」
「あ〜…」
「学習だとしたら…評価基準は?」
「え〜…」
「成果物は?」
「う…」
「失格」
「理不尽!」
「理不尽じゃない」
横道は淡々と言う。
「学校は説明できるものしか評価できない」
「次」
「一年後も続いていますか?」
「たぶん」
「根拠は?」
「不登校でも数ヶ月間配信を続けてきました」
横道は少し間を置いた。
「合格」
「よっしゃ!」
「では次」
「体調を崩して配信できない週が続いたら?」
「えっ」
「配信が止まったら?」
「それは…」
「代わりに何を提出しますか?」
「……」
「失格」
「またぁ!?」
「次」
横道は資料をめくる。
「学校はあなたの配信の何を確認すれば学習したと判断できますか?」
「学習記録と振り返りシートです」
「合格」
「よっしゃ!」
校子が拳を握る。
「次」
「なぜ学校に、配信や学校外の勉強を学習活動として認めてもらいたいのですか?」
「え?」
校子は固まった。
横道は待つ。
「出席扱いになるから…」
「それだけですか?」
「内申点も…」
「それだけですか?」
「進路が広がるし…」
「学校が学習活動として認めるのと、認めないのでは、あなたの中で何が変わりますか?」
言葉が出ない。
「失格」
「なんでだよ!」
「一番大事な質問だから」
5分後。
校子は机に突っ伏していた。
「もう無理」
「まだ4問で死んだ」
「5分も経ってないのに…」
横道は吹き出した。
「本番はもっと聞かれるよ」
「やめて…」
しばらくして、横道が聞いた。
「どうだった?」
「ボコボコ」
「うん」
「開始5分で全滅した」
「うん」
否定してくれなかった。
校子は椅子にもたれ、
天井を見上げた。
「私…」
「校長を説得することばっか考えてた」
「そうだね」
「でも」
校子は苦笑した。
「校長が何を知りたいか考えてなかった」
横道は頷く。
「それに気付けたなら今日の目的は達成」
校子はしばらく目を閉じたまま、最後の質問を思い返していた。
『なぜ学校に、配信や学校外の勉強を学習活動として認めてもらいたいのですか?』
簡単そうで、一番答えられなかった質問。
校子は目を開けて呟いた。
「出席扱い…内申点…違うんだよな……」
「何が?」
横道が聞く。
校子は少し考える。
(最初は、ただ誰かとつながりたかった)
(学校にいない自分が、存在していい場所が欲しかった)
(宵闇ユラとしてなら、“私はここにいる”って、ちゃんと勉強もしてるって、誰かに見てもらいたかった)
「私…」
「ただVtuber配信がしたかったわけじゃない」
「学校の外に、自分が消えない場所が欲しかった」
「そこにいれば、自分がちゃんと存在していると思えた」
「だから…」
「出席扱いが欲しいだけじゃない」
横道は黙って聞いている。
「内申点が欲しいだけでもない」
言葉が少しずつ形になる。
「教室には行けなかった」
「でも勉強はした」
「eラーニングもやった」
「企画も考えた」
「動画も作った」
「配信もした」
「失敗して、またやった」
校子は拳を握る。
「学校が認めなかったら、それ全部無かったことになる」
「私は特別扱いしてほしいわけじゃない」
「学校と戦いたいわけでもない」
少しだけ声が震えた。
「ただ…学校へ行けなかったからって、学んだことまで無かったことにはされたくない」
沈黙。
横道は静かに頷いた。
校子は続ける。
「だから私は、認めてほしいんだ」
「私がやってきたことを、学校教育の中の学びとして」
言った瞬間、胸の中で何かが繋がった気がした。
横道が静かに聞く。
「今の言葉」
「校長にも言える?」
校子は少し考える。
そして頷いた。
「うん」
横道は笑った。
「なら今日の模擬戦は成功」
「どこが」
「本番で言うべきことが見つかったから」
校子は椅子にもたれた。
「成功の基準がおかしい」
「そう?」
横道はにやりと笑う。
「まあ…まだ本物と戦ってないしね」
「やめてぇぇぇぇ!!」
〈ステータス〉
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名前:不登校子
状態:不登校(支援センターに接続済)
【五教科】
英語 Lv.中2 ■□□□□□
数学 Lv.中2 ■■□□□□
国語 Lv.中1 ■■■■□□
理科 Lv.中2 ■■□□□□
社会 Lv.中2 ■□□□□□
経験値取得条件:
・課題提出
・学習ログ
・理解度確認
※経験値反映には学校の確認が必要
【副教科】
音楽 / 美術 / 技術・家庭 / 保健・体育
※学習活動として接続可能性あり
※学校確認・評価対象化は未達成
【総合的な学習】
探究テーマ案:VTuber活動を通して、不登校でも継続できる学びの形を探究する
※学校との協議中
【スキル】
① 保護者と学校の連携
Lv2 進行中
→学校協議フェーズへ移行
派生クエスト
☑ 担任へ制度利用を相談する
☑ 学習記録の共有方法を決める
☑ 担任と面談する
② ICT等を活用した学習活動
Lv1 解放
→学習ログ作成可能
③ 対面指導の実施
Lv1 解放
→支援センター通所中
※学校との連携・出席扱い手続中
④ 理解度に応じた計画的な学習プログラム
Lv1 進行中
派生クエスト
☑学校とプログラムを共有する
□ 校長へ説明する
【人間関係(パーティー/NPC)】
501:【謎の分析おじさん】(信頼度:Lv.1)
横道逸子:【コスプレネキ】(信頼度:Lv.3)
不登通子:【家ボス(母)】(圧:Max)
模部勇気:【ユウキ】(親密度:1)
□関係再接続イベント発生
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