第21話 ラスボスの取扱説明書
体育配信をした日の夜。
不登校子は自室で、強張った身体をさすりながら、眠りにつこうとしていた。
(はあ〜しんどかった)
(…コメントは盛り上がってたけど…もうやりたくないわ〜)
(でも、これも出席扱いにしてもらうため)
(みんなは体育なんて普通にやってるのに)
(なんで私は配信しながらやってるんだろ)
(意味分かんない)
(ほんと意味分かんない)
(眠…)
半分眠りに落ちかけた時、スマホが震えた。
通知:DM 501
「…」
見たくない。
見たくないが、自分にとって必要なことが書かれているのは分かっている。
501:
校長はどんな人物か調べろ。学校だよりを全部読め。
校子:
全部?
501:
全部だ
校子:
多くない?
501:
対決する前に相手の教育観を把握するためだ
校子:
なんで?
501:
校長との面談はゲームではない。失敗しても、コンティニューはできない。勝てる確率を上げる必要がある
(だから…教育観って…なんだよ…雑なんだよ…いちいち)
そこで、意識が落ちた。
翌朝。目はきっちり覚めた。
だが身体が重い。
太ももが微妙に筋肉痛だった。
(体育なんて嫌いだ……)
布団の中でそう思う。
しかしスマホには501からのDMが残っていた。
起き上がるまでの間、校子は501の指示についてつらつらと考えていた。
相変わらず伝え方は雑だが、確かに言われてみれば、その通りだった。
校長は敵ではない。
しかし交渉相手ではある。
何を考え、何を大事にしている人なのか。
それを知らずに話し合いへ行くのは危険だ。
校子は学校ホームページを開いた。
校長あいさつ。
学校だより。
検索エンジンでさらに調べる。
教育委員会の人事資料。
地方紙の人事記事。
次々とタブを開いていく。
「えーっと……名前は…なんだっけ?」
学校のホームページ画面を見ながら読み上げる。
「中壁例一校長」
校子は検索を続けた。
「経歴は……」
メモ帳に書き写していく。
中学校教員。
教育委員会指導主事
市役所学校教育課
教頭。
そして校長。
「…ん?」
校子の手が止まった。
「教育委員会?」
501に調べ上げた結果をDMする。
校子:
うちの校長、教育委員会にいたんだけど
501:
経歴をみると指導主事経験があるな
校子:
指導主事って何?
501:
教育委員会で、学校指導や教員への研修などを担当する職員だ
校子:
つまり、お役所の人?
501:
半分正解だ。行政の仕事もするが、教員の現場経験を持つ者が務めることが多い。
「うーん?」
校子は首を傾げる。
正直よく分からない。
教師でもあり、役所の人でもある?
どっちなのだろう。
501:
勘違いされやすいが、指導主事経験者だから改革嫌いとは限らない。
校子:
そうなの?
501:
むしろ逆の場合も多い。指導主事の仕事は何だと思う?
校子:
先生を監視する人?
501:
違う
校子:
じゃあ怒る人?
501:
違う。指導主事の仕事の一つは教育委員会で学校を支援することだ
校子:
支援?
501:
教員研修をやったり、授業改善を進めたり、新しい教育施策を学校へ広げたりする仕事だ
校子:
施策?
501:
国や教育委員会が決めた方針を、学校現場へ普及させる仕事だ。
校子は少し考えた。
校子:
あ〜アップデート担当?
501:
そんな感じだ
校子:
ゲーム運営みたい。
501:
近いものがある。
「へえ……」
501:
新しい制度については、教育委員会で担当していた指導主事経験者の方が詳しい場合もある
校子は少し黙った。
今までのイメージが変わる。
教育委員会出身。
その言葉だけ聞くと、なんとなく前例主義。なんとなく保守的。そんな印象があった。
しかし実際には違うらしい。むしろ新しい制度を学校へ持ち込む側。
そういう人もいるのか。
校子:
じゃあ、この校長、敵ではない可能性が高い?
501:
少なくとも話が通じる可能性はある
校子は学校だよりのPDFを開いた。
一年前。二年前。三年前。
読み進める。
すると、ある言葉が何度も出てくることに気付いた。
「ICTを活用し、一人一人に応じた学びを実現します」
次の号。
「子どもたちの多様な学びを支援します」
さらに別の号。
「GIGAスクール構想を活用した新しい学びを推進します」
校子は思わず顔を上げた。
校子:
めちゃくちゃ言ってる
「ICT」
「多様な学び」
「個別最適」
「GIGAスクール」
501:
そのようだな
校子:
めちゃくちゃ好きじゃん
501:
校長の思想が見えてきたな
校子:
GIGAスクール構想ってなに?
501: ごく簡単に言えば、一人一台端末と高速ネットワークを整備して、ICTを活用した学びを進める国の教育政策だ
校子:
タブレットとか配ったやつ?
501:
そうだ
校子は画面を見つめる。
学校だよりは案外面白かった。
少なくとも。
中壁校長が何を大事にしているのかは見えてくる。
学力向上。
ICT活用。
個別最適な学び。
多様な学習機会。
そして新しい教育への挑戦。
校子はふと考えた。
もし…。
もし本当にこの人が、それを信じているなら。
自分の提案は。
真正面から否定されるものではないかもしれない。
校子:
もしかして校長先生って、味方になれる人?
少しの沈黙。
501:
分からん。だが一つだけ言える
校子:
何?
501:
校長は、自分の言葉に責任を持たねばならない立場だ
校子は学校だよりを見返した。
『多様な学びを支援します』
『一人一人に応じた学びを実現します』
『ICTを活用した新しい学び』
そこに書かれている言葉は、今の自分に向けられたもののようにも見えた。
そして同時に思う。
(もし本気で言ってるなら)
(私を評価できない理由も説明しなきゃいけないじゃん)
「なるほど」
校子はニヤリと笑った。
校子:
学校だよりって校長の取扱説明書みたい
501からの返信はなかった。
校子はノートの新しいページを開いて書き込んだ。
中壁例一校長 攻略メモ
・多様な学びを重視する
・ICT活用を推進
・GIGAスクール推進
・制度を知っている可能性が高い
校子は最後に一行書き加えた。
『言ったことには責任を取るタイプか要確認』
書き終えると、 なぜか少しだけ笑ってしまった。
校長との面談は怖い。
でも。
ただ怒られに行くわけじゃない。
私は今、 校長を攻略している。
〈ステータス〉
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名前:不登校子
状態:不登校(支援センターに接続済)
【五教科】
英語 Lv.中2 ■□□□□□
数学 Lv.中2 ■■□□□□
国語 Lv.中1 ■■■■□□
理科 Lv.中2 ■■□□□□
社会 Lv.中2 ■□□□□□
経験値取得条件:
・課題提出
・学習ログ
・理解度確認
※経験値反映には学校の確認が必要
【副教科】
音楽 / 美術 / 技術・家庭 / 保健・体育
※学習活動として接続可能性あり
※学校確認・評価対象化は未達成
【総合的な学習】
探究テーマ案:VTuber活動を通して、不登校でも継続できる学びの形を探究する
※学校との協議中
【スキル】
① 保護者と学校の連携
Lv2 進行中
→学校協議フェーズへ移行
派生クエスト
☑ 担任へ制度利用を相談する
☑ 学習記録の共有方法を決める
☑ 担任と面談する
② ICT等を活用した学習活動
Lv1 解放
→学習ログ作成可能
③ 対面指導の実施
Lv1 解放
→支援センター通所中
※学校との連携・出席扱い手続中
④ 理解度に応じた計画的な学習プログラム
Lv1 進行中
派生クエスト
☑学校とプログラムを共有する
□ 校長へ説明する
【人間関係(パーティー/NPC)】
501:【謎の分析おじさん】(信頼度:Lv.1)
横道逸子:【コスプレネキ】(信頼度:Lv.3)
不登通子:【家ボス(母)】(圧:Max)
模部勇気:【ユウキ】(親密度:1)
□関係再接続イベント発生
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