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第19話 ユラ、大地に立つ!【3Dお披露目】

 いつもの教育支援センターの相談室。

 横道逸子は、学校から返送されてきた校子の学習プログラム案を机に広げていた。向かいに座る不登校子も書類をのぞき込む。

「凡蔵先生、かなり頑張ってくれたね」

 赤ペンで書き込まれた欄を指でなぞる。

「五教科と、総合的な学習関係はだいぶ整理できてる。でも…」

 横道は苦笑した。

「やっぱり体育とか実習系は“要検討”か」

「501にも言われた」

「配信と、副教科の実習のからみを増やしたほうがいいって」

「うーん」

 横道は腕を組んだ。


「体育の実習って…何をやればいいんですか?」

「ストレッチとか、体つくり運動とかかな…まずは、ここでできる範囲でやってみる?」

「ここでもいいんですか?」

「うん。職員の立ち会いのもとで実施して、記録を残せば、実習として説明しやすいと思うんだけど…」

 校子は少し考えた。


「逸子さん」

「ん?」

「それ…配信にできないかな」

「え?配信で?」

「体育を宵闇ユラでやるの」

 横道が目をぱちくりさせる。

「体育を?」

「うん」

 校子は少し照れながら言った。

「最近、もっとユラを動かしたいなって思ってて」

「動かしたい?」

「ユラのコスプレ着てみた辺りからかな」

 机の上のペンを指で転がす。

「顔だけじゃなくて」

「身体ごと、ユラになれたら面白いなって」

 横道は少し黙った。


(身体ごと…か)

 それから、何かに気付いた顔になる。

「ああ…」

「なるほどね」

 校子もうなずいた。

「やってみたい」

 

 一週間後。

 教育支援センターの一室は、簡易な配信スタジオの様相を呈していた。

 床にはラインテープ。

 ノートパソコン。

 そして三脚に固定されたスマホ。

 校子はスマホの画面に向かって手を振ったり、屈伸したりを繰り返し、アバターの動作に反映されることを確認した。

 横道が目を見張る。

「え、待って待って本当に動いてる…」

「カメラだけ?どういう仕組み?」

 校子は少し得意そうに言った。

「最近のAIすごいんだよ」

「カメラだけで動きを拾ってくれるの」

「へえ……」

「多少ズレるけど、体育やるくらいなら十分」


 ノートパソコンの配信待機画面では、視聴者数が少しずつ増えていた。


《待機》

《今日は何だ》

《重大発表って何》

《まさか引退》

《それはやめろ》


 配信開始。画面が切り替わる。

 現れたのは――宵闇ユラ。

 しかし、いつもの立ち絵ではない。

 全身が見える。

 立っている。

 ちゃんと足がある。

 ちゃんと身体がある。


 コメント欄が一瞬止まった。

 そして。


《!?!?!?》

《え》

《立ってる》

《動いてる》

《3D!?》

《うおおおおおおおお》


 校子がゆっくり手を振る。

 画面のユラも同じように手を振る。

「皆様、ごきげんよう」

 言いながら、くるりと回転する。

「本日、ワテクシ」

 一歩前へ出る。

「身体を手に入れましたわ!!」


 おーるど★すたぁ《立った!ユラ殿が立った!》

《うおおおおおおお》

《革命》

《進化してる》

《3Dモデル!?》

《どこに依頼したんだ》


「頑張りましたわ」


《自作かよ!?》

《!?》


 ユラは胸を張った。

「そして本日のテーマは」

「新ボディのお披露目と…」

「体育実技配信です」


《!?》

《なんでだよ》

《急に現実》

《温度差で風邪引く》


 ユラは指を鳴らした。

 画面端にテロップが出る。


【本日のクエスト】

・ストレッチ

・反復横跳び

・スクワット

・バランス運動

・その場ランニング

「これらを実施し、記録をまとめ…学校へ提出します」


《ガチで体育》

《配信で提出物作るな》

《好き》


「では、始めますわ!場所はいつもワテクシがお世話になってるギルド(教育支援センター)です!」

「ちゃんと職員の方にサポートついてもらってます!」

「じゃあストレッチから始めるよー!今回は体つくり運動の記録も兼ねてるからねー」

 横道の声が入る。


《誰》

《受付嬢だ》

《ギルド職員》


 ユラは前屈を始めた。

 ゆっくり身体を倒す。横道が背中を押してサポートする。

「おほぉおお!ちょっと…もう少し…優しく!」

「うぐぐ…これ以上は世界の法則が許しませんわ…」

「硬いね」

 横道が即答する。

「追撃やめてくださいまし」

 さらに少し押される。

「ぬごぉぉぉぉぉぉ!!!」

「ちょっと!それ女の子が出しちゃだめな声!」


《草》

《悲鳴》

《教育配信です》

《本当に教育か?》


 ユラは床にへたり込んだ。

「ストレッチは敵」

「覚えましたわ」


 続いて反復横跳び。

 床に貼られたラインの前で、横道がタイマーを構える。

「じゃあ、20秒ね」

「了解ですわ」

 ピッ。

 開始の笛が鳴り、ユラが左右へ飛び始める。

 なかなかの速さにリスナーが反応する。


《速い》

《お》

《ガチだ》

《意外と運動できる》


 校子は必死だった。

 画面のユラも全力で飛び回る。

 終了。

 ピッ。

 ユラはその場で膝に手をつく。息が荒い。

「はぁ……」

「はぁ……」

「酸素……」


 横道が記録を書く。

「ちゃんと記録残してるからね」

 その言葉に、校子は少しだけ笑った。


 最後はその場ランニング。

 ユラはテロップを見た。

「これ本当に必要ですの?」

「必要です」

「交渉の余地は」

「ありません」


《草》

《即死》

《ギルド職員つよい》


 タイマー開始。

 一分。

「まだ余裕ですわ」

 二分。

「まあまあですわ」

 三分。

「……」


《黙った》

《死んだ》


 四分。

「体育って……」

 息が荒い。

「こんなに……」

「大変でしたっけ……」


 五分。

 校子の額から汗が落ちる。

 足が重い。

 呼吸が苦しい。

 それでも止まらない。

 ユラも止まらない。


 コメント欄が流れる。


《がんばれ》

《あと少し》

《無理するな》

《応援してる》


 その中に短いコメントがひとつ流れた。

ユウキ《がんばれ!》


 校子は一瞬だけコメント欄を見る。


 五分間終了。

 ピッ。

 終了の笛と同時にユラはその場に座り込んだ。

「はぁ……」

「はぁ……」

 呼吸を整える。

 しばらく何も言えない。

 コメント欄も静かだった。

 ユラはゆっくり顔を上げた。

「正直」 

「学校の体育、好きじゃありませんでした」

「走るのも」

「着替えるのも」

「みんなの前で失敗するのも」

「全部、苦手でした」

 まだ、少し息が荒い。

「でも…」

 小さく笑う。

「今は、ちょっと楽しいです」


 コメント欄が流れ出す。


《わかる》

《泣く》

《それでいい》

《ちゃんとやってるじゃん》


 ユラは深く息を吸った。

「今日の記録は全部まとめます」

「学校にも提出します」

 そして胸を張る。

「これも」

「私の体育です」


 コメント欄が拍手で埋まった。


《感動した!》

《目から水が…》

おーるど★すたぁ《ユラ殿!これこそユラ殿の体育ですぞ!》

501《担任に早く配信記録を提出しろ》

ユウキ《すごいな》


 数日後。

 放課後の職員室で、凡蔵昌平が校子の体育配信動画を再生していた。


 パソコンの画面では、宵闇ユラが息を切らしている。

『これも、私の体育です』

 動画が終わる。

 凡蔵は黙った。

「…何やってんだ、あいつ」

 頭をかく。


 体育主任の顔が脳裏に浮かぶ。

「これ見せるのかよ…」

 思わずため息が出る。

「めんどくせえ…」

 動画を閉じる。

 数秒後、もう一度開いた。

 最後まで見直す。


 画面の中で、ユラは確かに走っていた。

 確かに取り組んでいた。


 凡蔵は学習プログラム案を開き、体育の欄を探した。

 赤字で書かれた『要検討』の文字を見つめる。

 しばらく考えた後。

 赤ペンを手に取って、横に書き加える。

『配信動画における活動状況を、評価資料として活用できる可能性あり(体育主任と要協議)』

「絶対面倒になるぞこれ」

 体育主任の顔が目に浮かぶ。

『配信は体育じゃない』

と言われる未来まで見える。


「どうすっかな…」

 凡蔵は天井を見上げた。

 頭が痛くなった。



〈ステータス〉

_________________________________


名前:不登校子ふとう・きょうこ

状態:不登校(支援センターに接続済)


【五教科】

 英語 Lv.中2 ■□□□□□

 数学 Lv.中2 ■■□□□□

 国語 Lv.中1 ■■■■□□

 理科 Lv.中2 ■■□□□□

 社会 Lv.中2 ■□□□□□

経験値取得条件:

・課題提出

・学習ログ

・理解度確認

※経験値反映には学校の確認が必要


【副教科】

 音楽 / 美術 / 技術・家庭 / 保健・体育

※学習活動として接続可能性あり

※学校確認・評価対象化は未達成


【総合的な学習】

探究テーマ案:VTuber活動を通して、不登校でも継続できる学びの形を探究する

※学校との協議中


【スキル】

① 保護者と学校の連携

Lv2 進行中

→学校協議フェーズへ移行

 派生クエスト

☑ 担任へ制度利用を相談する

☑ 学習記録の共有方法を決める

☑ 担任と面談する


② ICT等を活用した学習活動

Lv1 解放

 →学習ログ作成可能


③ 対面指導の実施

Lv1 解放

→支援センター通所中

※学校との連携・出席扱い手続中


④ 理解度に応じた計画的な学習プログラム

 Lv1 進行中

派生クエスト

☑学校とプログラムを共有する

□ 校長へ説明する


【人間関係(パーティー/NPC)】

501:【謎の分析おじさん】(信頼度:Lv.1)

横道逸子:【コスプレネキ】(信頼度:Lv.3)

不登通子:【家ボス(母)】(圧:Max)

模部勇気:【ユウキ】(親密度:1)

□関係再接続イベント発生

_________________________________




お読みいただきありがとうございます。

もし楽しんでいただけましたら、ブクマ、評価や感想をいただけると今後の執筆の励みになります。

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