第18話 宵闇ユラからの重要なおしらせ③ 職員会議突破しました!
職員会議で、不登校子の出席扱いが議題に挙がった日の翌日。
夕食の準備中に、不登通子のスマホが鳴った。
「はい、もしもし」
相手は担任の凡蔵だった。
校子はリビングのソファに寝転がりながら、なんとなく耳を傾ける。
「…はい」
「えっ、本当ですか」
通子の声色が変わった。
校子は反射的に起き上がる。
「はい…」
「分かりました」
「…ありがとうございます」
通話が終わる。
通子はスマホを置き、校子の方を向いた。
「校子」
「なに」
「通った」
「え?」
「職員会議」
校子の思考が止まる。
「…え?」
「職員会議で反対が出なかったから、校長先生に上げることになったって」
校子の胸がどくんと鳴った。
提出した書類の山は、全部、本当に見てもらえていたらしい。
「…マジ?」
「マジ」
通子が少し笑いながら返す。
「先生方の間で、ずいぶん検討してもらったみたい」
校子は言葉が出なかった。
嬉しい。
でも、まだ実感がない。
ゲームならクエスト達成の表示が出ているところだ。
「ただ」
通子が続けた。
「まだ終わりじゃない」
「え?」
「次は校長」
校子の顔が固まった。
「校長?」
「最終的な判断は校長先生なんだって」
「うわ…」
担任や学年主任より怖い。
校長=学校のラスボス。
そんなイメージしかない。
「それでね」
通子はメモを見ながら言った。
「今度、校長先生に説明する場を作るから、保護者と本人にも来てほしいって」
「本人!?」
「そう」
「なんで!?」
「知らないわよ」
「無理無理無理無理」
「無理じゃない」
「校長だよ!?」
「校長だけど?」
「校長って校長だよ!?」
校子は頭を抱えた。
校長。
式典で長い話をする人。
職員室の奥にいる一番偉い人。
そんな相手に説明する。
考えただけで胃が痛い。
「凡蔵先生は?なんて言ってたの?」
「本人からも少し話してほしいって」
「終わった…」
「だからまだ始まってないって」
その時だった。
ピンポーン。
インターホンが鳴り、通子がモニターを見る。
「あ」
「誰?」
「模部くん」
「えっ」
校子の肩が跳ねた。
校長面談だけでも頭がいっぱいなのに。
なぜ今。
玄関では、模部勇気が学校のプリントを抱えて立っていた。
「あ、どうも」
「いつもありがとうね…ほら、校子!」
通子に促されて、校子が玄関まで顔を出した。
勇気は校子の顔を見ると、視線を外してプリントの束を差し出した。
「これ」
「あ…ありがと」
「提出物一覧も入ってる」
「うん」
「学年通信も」
「うん」
会話が終わる。続かない。
前なら、もう少し普通に話せたはずだった。
少なくとも、こんなにぎこちなくはなかった。
勇気が少し困った顔をする。
「じゃあ」
「うん」
「また」
「うん」
沈黙。
勇気は何か言いたそうだった。
でも結局言わず、小さく会釈して帰っていく。
ドアが閉まる。
校子はドアにもたれた。
「はぁ…」
変な汗をかいていた。
校長面談。
模部勇気。
今日は心臓に悪いイベントが多すぎる。
リビングへ戻ると、通子がじっとりとした視線を向けてきた。
「…なによ」
「模部くんと、何かあった?」
「別に」
「絶対あるでしょ」
「ない」
「謝られたんじゃなかったっけ?」
「……」
「LINE来たんでしょ?」
「別に」
「その後から変じゃない?」
「変じゃない」
「変」
「うるさい」
通子は腕を組んだ。
「じゃあ何で避けてるの?」
「はぁ!?」
「違うなら普通に話せばいいじゃない」
「それは…」
校子は視線を泳がせた。
答えられない。
自分でもよく分からない。
あの謝罪LINEを読んでから。
妙に勇気を意識してしまう。
学校へ行けている側。
行けなくなった側。
その違いを急に見せつけられた気がした。
勇気は悪くない。
分かっている。
だから余計に困る。
「…まあいいわ」
通子は肩をすくめた。
「とりあえず今は、校長先生対策の方が先でしょ」
「うげ」
「凡蔵先生も動いてくれてるんだから」
「…意外」
「そう?」
「学校の先生って、もっと事務的だと思ってた」
通子は少し考える。
「人によるわね。あの人、不器用だけど悪い人じゃないわよ」
「…ふーん」
いつもムスっとした凡蔵の表情を思い返す。
(ま、愛想は悪いけど、生徒によって態度変えたりしないし…)
(不器用…か)
校子は視線を落としたまま、ぽつりと言った。
「…お父さんも先生だったけどさ」
通子の手が止まった。
「…なに」
空気が変わる。
「今、何してるの」
「あの人?」
「うん」
少し沈黙があった。
「…二年くらい前かな」
通子は小さく息を吐いた。
「再就職したから養育費払うって連絡があった」
「へえ」
「だから働いてはいるみたい」
「そっか」
「でも」
通子の声が冷たくなる。
「もういいでしょ」
「え?」
「あの人のことは」
校子は黙った。
通子はキッチンの方に向き直った。
「夕飯の準備する」
それで話は終わった。
自室に戻った校子はベッドへ倒れ込んだ。
(…やっぱり聞かなきゃよかった)
天井を見上げる。
(もしかしたら、501がお父さんかもって考えたけど…)
以前の501のDMを思い返す。
501《過去に、教員の現場にいたことがある》
(501が教員をしていたことを知ったときはドキッとしたけど…)
父親も、高校の教員をしていたから。
でも、職場ともめたとかで、教員を辞めたらしい。
それから、両親の喧嘩が絶えなくなって…。
校子が小学生の時に離婚した。
それ以来、父親とは会っていない。連絡もない。
(でも…お父さんは、私には最後まで優しかった)
501。
年齢も知らない。
顔も知らない。
住んでいる場所も知らない。
根拠なんて何もない。
というか、DMでやりとりしてるんだったら、父親ならもっと早くに名乗ってるはず。
「…いや、あり得ない」
しばらくとりとめのない推測を巡らせているうちに、机の上のスマホが震え始めた。
手に取ると、スケジュール通知が表示されていた。
【宵闇ユラ 配信時間】
「…やるか」
校子は深呼吸した。
配信用PCを起動し、OBSを立ち上げる。
マイクテスト。アバター動作確認。
校長面談のことは怖い。
模部のこともモヤモヤする。
でも今だけは…宵闇ユラになる。
同じ頃。
模部勇気は自室のベッドへ倒れ込んでいた。
「はぁ…」
最近ずっと引っかかっている。
不登校子の態度だ。
謝罪LINEを送った後から、むしろ距離ができた気がする。
(なんでだよ…)
スマホが震える。
【宵闇ユラ 配信開始】
「あ」
勇気は反射的に開いた。
画面の向こうで銀髪のVTuberが笑う。
「こんばんわ〜!」
コメント欄が流れ始める。
おーるど★すたぁ 《こんばんわですぞー》
ユウキ《今日も配信ありがとう》
「こちらこそ見に来てくださってありがとうございます!」
勇気は画面を見つめる。
宵闇ユラの配信を聞いているのに、ついつい校子のことを考えてしまう。
嫌われたのか。
怒らせたのか。
どうすればいいのか。見当がつかない。
「え〜、早速ですが…皆様に学校攻略RTAシリーズでおしらせが…」
《お、どうなった?》
《気になってた!》
《まさか…》
「ワテクシのクエストロードマップ(学習プログラム案)と修行記録(学習記録)ですが…無事、職員会議を通過しました!」
おーるど★すたぁ《やりましたな!ユラ殿ォォ!》
《すげー》
《マジで配信で出席扱い?》
「そして…次は…校長先生に説明する場を作るから、保護者と本人にも来てほしいとのことです!」
《マジかー!》
《偉い人キタ!》
《ラスボス!》
《がんばれー!》
《応援してるぞ!》
501《五教科は形になってきた。副教科との接続はもう少し考えた方がいい。特に実習系だ》
流れるコメント欄の熱気を見ながら、勇気は感嘆した。
(すごいな…この子は…ルールの枠から外れても、自分の力で戦って…これだけ多くの人を味方にして…)
ユウキ《応援してる》
画面の向こうで宵闇ユラが笑う。
「ありがとうございます」
すぐに返事が返ってくる。
(校子とも、こんなふうに話せればいいのにな…)
〈ステータス〉
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名前:不登校子
状態:不登校(支援センターに接続済)
【五教科】
英語 Lv.中2 ■□□□□□
数学 Lv.中2 ■■□□□□
国語 Lv.中1 ■■■■□□
理科 Lv.中2 ■■□□□□
社会 Lv.中2 ■□□□□□
経験値取得条件:
・課題提出
・学習ログ
・理解度確認
※経験値反映には学校の確認が必要
【副教科】
音楽 / 美術 / 技術・家庭 / 保健・体育
※学習活動として接続可能性あり
※学校確認・評価対象化は未達成
【総合的な学習】
探究テーマ案:VTuber活動を通して、不登校でも継続できる学びの形を探究する
※学校との協議中
【スキル】
① 保護者と学校の連携
Lv2 進行中
→学校協議フェーズへ移行
派生クエスト
☑ 担任へ制度利用を相談する
☑ 学習記録の共有方法を決める
☑ 担任と面談する
② ICT等を活用した学習活動
Lv1 解放
→学習ログ作成可能
③ 対面指導の実施
Lv1 解放
→支援センター通所中
※学校との連携・出席扱い手続中
④ 理解度に応じた計画的な学習プログラム
Lv1 進行中
派生クエスト
☑学校とプログラムを共有する
□ 校長へ説明する NEW!
【人間関係(パーティー/NPC)】
501:【謎の分析おじさん】(信頼度:Lv.1)
横道逸子:【コスプレネキ】(信頼度:Lv.3)
不登通子:【家ボス(母)】(圧:Max)
模部勇気:【ユウキ】(親密度:1)
□関係再接続イベント発生
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