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第17話 不登校VTuber、ついに職員会議デビューする(なお、本人は不在)

 不登校子が、学習プログラム案を担任の凡蔵昌平に提出してから、2週間後。

 放課後の職員会議の時間。

 職員室奥の会議スペースに長机がコの字に並べられ、教員たちが次々と席につく。

 コピー機の駆動音。

 紙コップのコーヒー。

 蛍光灯の白い光。

 ざわつきはあるが、どこか全員が“重い話がある”と察している空気だった。


 学年主任・黒川関一くろかわ・せきかずが前に立つ。

 分厚い資料を机へ配りながら、低い声で告げる。

「では、会議を始めます」

 紙が滑る音。

「最初に、来月の校外学習についてですが…」

 いくつかの議題が、順番に消化されていく。


 黒川は新しい資料を手に取った。

「では、次が本日の最後の議題です」

 その言葉に、何人かが姿勢を直す。 

「2年3組・不登校子さんの“ICT等を活用した学習活動”の出席扱いの可否について」


 ざわ…と空気が揺れる。

「…ああ、あの子か」

「最近ずっと来てないよな」

「支援センター行ってるって子?」

 小さな声が飛ぶ。


 黒川は淡々と続けた。

「担任・凡蔵先生、特別支援コーディネーターの白石しろいし先生と協議し、彼女のための計画的な学習プログラムを作成しました」

「この件は、学年会での確認と、特別支援教育校内委員会での協議を経ています」

「ただ…本校では前例のないケースですので、本日は全体への共有と、校長判断に向けた確認をお願いします」


 “前例がない”。

 その言葉だけで、空気が一段階硬くなる。

 黒川は視線を白石へ向けた。

「では、説明をお願いします」


 特別支援コーディネーターの白石結子しろいし・ゆうこが前に出る。

 白石は資料を整え、静かに口を開いた。

「不登さんは現在、教室での対面参加が困難です」

 教員たちの視線が集まる。

「その代替として、

 ・自宅eラーニング学習

 ・支援センターへの通所および学習確認

 ・Vtuber配信活動

 ・コスプレ制作活動

 これらを組み合わせた学習形態を取っています」

 資料をめくる音が広がった。

「配信活動では、企画、構成、台本作成、発信、視聴者対応などを実施」

「制作活動では、衣装設計、工程管理、素材選定、裁縫等を確認しています」


「学校の配布した端末で五教科のeラーニングを行っており、学習ログは毎日記録」

「学習記録の確認及び面談については、支援センターでの確認は週一回。今後、一月に一回程度担任の先生による面談も行っていくことで、一定の教育的関与は認められる状態です」


 白石は一枚ページをめくる。

「制度上の要件として挙げられている、

 “保護者と学校の連携”

 “ICT等の活用”

 “対面指導による教育的関与”

 “学習プログラムの計画性”等」

「これらの要件が適切に満たされているか、学校長が教育的観点から総合的に判断することになります」

 そこまでは、会議の空気は比較的静かだった。

 だが、すぐに手が上がる。


教員A「でも…配信って、娯楽じゃないの?」


 空気が少し変わる。


教員B「コスプレも趣味でしょう。これを学習と認めたら、他の子に説明つかなくなる」

教員C「“ゲーム実況してました”でも出席になるのか、って話になりますよね」


 職員室特有の、“理屈より空気”の圧が広がる。

 白石は表情を変えなかった。

「評価方法を明確化すれば、学習プログラムとして構成することは可能です」

 資料の一部を指で示す。

「配信活動は、発信内容、構成力、応答、継続記録を評価対象としています」

「制作活動についても、設計、工程、完成度、改善点の記録があります」

「整理すれば、“学習活動”として位置づけ可能です」

 しかし、すぐ別の声が飛ぶ。


教員D「公平性はどうするんですか」

教員E「“あの子だけ特別扱い”って絶対言われますよ」

教員F「保護者から問い合わせ来たら、誰が説明するんです?」

 空気が一気に“反対寄り”へ傾く。


 白石が答えようとした瞬間、腕を組んでいた凡蔵が、少しだけ前へ出た。

「…まあ」

 低い声。

「“何もしてねえやつ”ではないです」

 一瞬、場が静まる。

 凡蔵は資料を指で軽く叩いた。

「不登は、記録全部残してます」

「やってることには、目標があって、過程があって、結果がある」

「教育支援センターも動いてる。家でもやってる」

「ゼロ扱いは、俺としても無理があります」


 教員Cが眉を寄せる。

「でも、学校には来てないんだろ?」

 凡蔵は間を置いて答えた。

「来れないんです」

 短い沈黙。

「でも、やってるんです」

 その言葉だけが、妙に静かに空気に残った。

 数人の教員が視線を落とす。

 誰もすぐには反論しなかった。


 白石が続ける。

「これは“特例”ではありません」

「国の通知でも、ICTを活用した学習活動や教育支援センター等との連携を前提に、一定の要件を満たした場合は出席扱いが可能とされています」

「ですが前例が…」

 別の教員が言う。

 白石は即答した。

「前例はありません。でも、それは“評価しない理由”にはならないと思います」

 空気がわずかに揺れた。

 それは説得というより、“逃げない人間の声”だった。


教員D「正論ですけど…結局、前例作った人が、後で全部説明するんですよ」

 黒川が前へ出る。

「確かに、こういう活動を出席扱いにした前例は、うちの学校にはありません」


 誰も否定しない。


「とはいえ…懸念点をクリアできれば、前例にできないような話でもない」

 黒川は一度、資料に目を落とした。


「逆に、認めないのであれば、“なぜ認められないのか”を説明できる根拠が必要になる」


 何人かの教員が顔を見合わせる。


「その点については、共通の認識になったかと思います」


 ざわつきが止まる。


「ただし、これは職員会議で“承認”する案件ではありません」

「今回は、共有と懸念点の洗い出しです」

「最終判断は校長先生になります」

「我々の役目は、“校長が判断できる状態”まで整えることです」

 教員たちが静かにうなずく。

 完全な納得ではない。

 だが、“止める理由もない”という空気が広がっていく。

「…まあ」

 教員Gがぽつりと言う。

「やってるなら、いいんじゃないか」

「担任が見るなら、私は反対しません」

「主任と白石先生が言うなら…」


 空気が変わる。

 “反対”から、

 “まあ…やるなら仕方ないか”へ。

 その時。

「でもさ」

 教員Hが資料を持ち上げた。

「この子の評定、どうするの?」

「そもそも定期テスト受けないなら、評価しようがないんじゃ?」

 現実的な問題だった。


 黒川がうなずく。

「そこは…各教科ごとに、評価基準を整理した方がいいかもしれません」

「別室での受験等も含めて、検討が必要です」


 凡蔵が小さく鼻を鳴らす。

「ま、“教育的配慮”ってやつですね」

(まぁ…落とし所としては、ここらへんか)

(事前協議で論点はだいたい整理した)

(ここで反対が出なければ、後は校長判断だ)

(最後は…校長次第だな)


(まったく…めんどくせえ)


 黒川が資料を閉じる。

「では、この内容で校長先生へ上げます」

「皆さん、ありがとうございました」


 椅子が引かれる。

 資料をまとめる音。

 教員たちが立ち上がり、職員室へ戻っていく。

(まあ、うちのクラスでなくてよかった)

(保護者対応だけは勘弁だな…)


 その空気は——

 “賛成”ではない。

 “感動”でもない。

 まして、“理解”でもない。

 ただ、「反対ではない」。

 しかし、学校という組織の中では、それこそが次の一歩を踏み出すための、小さな通過許可だった。



〈ステータス〉

_________________________________


名前:不登校子ふとう・きょうこ

状態:不登校(支援センターに接続済)


【五教科】

 英語 Lv.中2 ■□□□□□

 数学 Lv.中2 ■■□□□□

 国語 Lv.中1 ■■■■□□

 理科 Lv.中2 ■■□□□□

 社会 Lv.中2 ■□□□□□

経験値取得条件:

・課題提出

・学習ログ

・理解度確認

※経験値反映には学校の確認が必要


【副教科】

 音楽 / 美術 / 技術・家庭 / 保健・体育

※学習活動として接続可能性あり

※学校確認・評価対象化は未達成


【総合的な学習】

探究テーマ案:VTuber活動を通して、不登校でも継続できる学びの形を探究する

※学校との協議中


【スキル】

① 保護者と学校の連携

Lv2 進行中

→学校協議フェーズへ移行

 派生クエスト

☑ 担任へ制度利用を相談する

☑ 学習記録の共有方法を決める

☑ 担任と面談する


② ICT等を活用した学習活動

Lv1 解放

 →学習ログ作成可能


③ 対面指導の実施

Lv1 解放

→支援センター通所中

※学校との連携・出席扱い手続中


④ 理解度に応じた計画的な学習プログラム

 Lv1 進行中

派生クエスト

☑学校とプログラムを共有する


【人間関係(パーティー/NPC)】

501:【謎の分析おじさん】(信頼度:Lv.1)

横道逸子:【コスプレネキ】(信頼度:Lv.3)

不登通子:【家ボス(母)】(圧:Max)

模部勇気:【ユウキ】(親密度:1)

□関係再接続イベント発生

_________________________________




お読みいただきありがとうございます。

もし楽しんでいただけましたら、ブクマ、評価や感想をいただけると今後の執筆の励みになります。

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