第16話 宵闇ユラからの重要なおしらせ② 第一関門突破しました!
担任の凡蔵昌平との面談から一週間後の夜。
校子は部屋のカーテンを閉め、マイクとWEBカメラのスイッチを入れた。
机の横には、先日学校へ持っていった書類一式のコピー。
eラーニングの学習ログや配信実績をまとめた学習記録。
横道逸子と一緒に作った学習プログラムのたたき台。
Vtuber配信を総合的な学習のテーマとして、探究の中で副教科の学びを取り入れる学習プラン。
すべて横道がコピーしてくれたものだ。
全部、ちゃんと提出できた。
「…よし」
深呼吸。
配信開始ボタンを押す。
「こんばんわ〜〜!!宵闇ユラです」
コメント欄が一気に流れる。
《こんばんわ!》
《待ってた》
《ユラ様だー!》
《どうだった!?》
《学校イベント攻略できた!?》
宵闇ユラは、わざと大げさに目を閉じた。
「皆様、本日は―ワテクシから、重要なおしらせがございますの」
《来た》
《重要おしらせ助かる》
《引退だけはやめろ》
「学校攻略RTAシリーズの…経過報告です!」
「あ、初めましての方は、概要欄から前回の動画をご覧くださいまし」
「さて、ワテクシの人生がかかったクエストロードマップ(学習プログラム案)と修行記録(学習記録)ですが…」
そこで一拍置く。
『クランリーダーである担任の先生に、無事受け取っていただきましたの』
《おおおおお!!》
《やったじゃん!》
《前進してる!》
《スゲエ》
《偉すぎる》
コメントが高速で流れていく。
その中に、ひときわ勢いのあるコメントがあった。
おーるど★すたぁ《おおっ!やりましたな!ユラ殿ぉ!》
校子は少し笑った。
「受付嬢と、入念に準備したかいがありましたわ!」
「無論、まだ“完全クリア”ではありませんけれど…」
彼女は机の端のファイルを見る。
横道逸子。担任の凡蔵。母の顔が浮かぶ。
「先生は、“手は加えるけど、配信やコスプレ制作も学習活動として組み込めるか検討する”って…言ってくださいましたの」
《おお!?》
《マジ!?》
《学校つよ》
《理解ある先生じゃん》
《時代変わったな…》
「コスプレ衣装制作には、先生も目を白黒してらっしゃいましたわ(笑)」
《そりゃそうだ(笑)》
《その場面見たい》
おーるど★すたぁ《おじ…気持はわかりますぞ!》
コメント欄が盛り上がる。
校子は少しだけ肩の力を抜いた。
正直、凡蔵にはもっと否定されると思っていた。
「前例がない」「遊びだろ」で終わると思っていた。
でも、違った。
完全に認められたわけじゃない。
それでも、“話を聞いてもらえた”。
それだけで、面談はかなり大きかった。
その時だった。
流れるコメントの中に、一つだけ妙に引っかかる名前が混ざる。
ユウキ《すごいな…怖くないの…学校のルートから外れても…?》
「…」
コメント欄の名前を、もう一度見る。
ユウキ。
(…偶然?)
(…まさか)
模部勇気。
プリントを届けに来た時の顔が頭に浮かぶ。
気まずそうに立っていた姿。
兄の話をした時の、あの表情。
(いや…でも、そんなわけ…)
配信画面の向こうにいる誰かなんて、分からない。
名前だけで決めつけるのは変だ。
宵闇ユラは、配信者の声を崩さないまま続けた。
「もちろん怖いですわ」
コメント欄が少し静かになる。
「学校の“正規ルート”から外れるということは、
この世界の呪いに逆らうということですもの」
「でも…動かなければ、このルートは“学習してる”って、学校に認めていただけませんから」
校子は自分でも驚くほど、落ち着いた声で言えた。
「やるだけですわ」
おーるど★すたぁ《それでこそ、ユラ殿!》
《かっけえ》
《ユラ様つよ》
《泣いた》
《行動力えぐい》
その中で、また《ユウキ》のコメントが流れる。
ユウキ《知り合いにも不登校の子がいて…応援するよ!》
「――」
一瞬だけ、言葉が出なかった。
コメント欄はもう次の話題へ流れていく。
《次は何作るの!?》
《新衣装進捗!?》
《学校コラボ編始まる?》
宵闇ユラは、意味ありげに笑う。
「ふふ…次なる装備制作も進行中ですわ」
そう言いながらも。
校子の視線は、さっきの名前の残像から離れなかった。
配信終了。
「……はぁ」
ヘッドセットを外した瞬間、どっと疲れが来た。
静かになった部屋で、パソコンのファン音だけが回っている。
校子は無意識に、アーカイブ画面を開いた。
コメント欄をスクロールする。
いた。
ユウキ《すごいな…怖くないの…》
スクロールする指が一瞬動かなくなる。
「ユウキ?…」
「いや…違うかもしれないし…」
でも。
もし本当に模部勇気だったら。
なんで見てるの。
教室で笑ってたくせに。
なんで今さら、宵闇ユラの応援なんかするの。
この間、LINEで謝罪したから?
校子はスマホを手に取って、コメントしたユウキのアカウントをチェックする。
チャンネルには公開コンテンツなし。
個人のSNSもなし。
「…何やってんだろ、私」
スマホを伏せる。
…数秒後。
また手が伸びた。
自分でも意味がわからなかった。
なのに、また気になってしまう。
コメント欄を開く。
ユウキ《応援するよ!》
その一文だけが、妙に目に残った。
なんで。
嬉しくない。絶対嬉しくない。
なのに、何回も読んでる。
「…最悪」
もし学校の誰かに見つかっていたら。
もし、教室側の人間に“宵闇ユラ”が繋がってしまったら。
今まで分かれていた世界が、一気に混ざる。
ユラは、ユラだから話せた。
不登校子じゃないから、話せた。
ユラと不登校子が繋がったら…私はどこにも逃げられない
校子は反射的にコメント欄を閉じた。
頭の中ではまだ文字が流れていた。
暗くなったパソコン画面に、自分の顔だけが映る。
「…なんなんだよ、もう…」
「…そっち側のくせに」
小さく吐き捨てる。
なのに。
ユウキのコメントが、頭から離れない。
(…意味わかんない)
校子は額を押さえた。
そのまま視線が、机の端のコピー資料へ向いた。
(…ていうか)
(凡蔵先生に出した出席扱いの資料…あれ、結局どうなったんだろう)
(凡蔵先生、“まだ途中”とか言ってたし…)
(あの時は、凡蔵先生も「嫌いじゃないけどな」とか、善人ムーブかましてたから期待したけど…)
(冷静に考えると、あの凡蔵先生が、職員室で頭下げてる姿とか…全然想像できないんだけど…)
(あ〜…考えたらお腹痛くなってきた!)
〈ステータス〉
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名前:不登校子
状態:不登校(支援センターに接続済)
【五教科】
英語 Lv.中2 ■□□□□□
数学 Lv.中2 ■■□□□□
国語 Lv.中1 ■■■■□□
理科 Lv.中2 ■■□□□□
社会 Lv.中2 ■□□□□□
経験値取得条件:
・課題提出
・学習ログ
・理解度確認
※経験値反映には学校の確認が必要
【副教科】
音楽 / 美術 / 技術・家庭 / 保健・体育
※学習活動として接続可能性あり
※学校確認・評価対象化は未達成
【総合的な学習】
探究テーマ案:VTuber活動を通して、不登校でも継続できる学びの形を探究する
※学校との協議中
【スキル】
① 保護者と学校の連携
Lv2 進行中
→学校協議フェーズへ移行
派生クエスト
☑ 担任へ制度利用を相談する
☑ 学習記録の共有方法を決める
☑ 担任と面談する
② ICT等を活用した学習活動
Lv1 解放
→学習ログ作成可能
③ 対面指導の実施
Lv1 解放
→支援センター通所中
※学校との連携・出席扱い手続中
④ 理解度に応じた計画的な学習プログラム
Lv1 進行中
派生クエスト
☑学校とプログラムを共有する
【人間関係(パーティー/NPC)】
501:【謎の分析おじさん】(信頼度:Lv.1)
横道逸子:【コスプレネキ】(信頼度:Lv.3)
不登通子:【家ボス(母)】(圧:Max)
模部勇気:【ユウキ】(親密度:1)
□関係再接続イベント発生
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