第15話 クラスのこっち側にいたはずの俺が揺れ始めた件
「ただいま」
学校から帰宅した模部勇気は、玄関のドアを閉めながら家の中に向かって言った。この時間、家族はまだ誰も帰ってきていないことは分かっているが、半ば習慣になっていた。
模部の足音を聞いて、リビングから白い長毛種の猫が鳴きながらゆっくり近づいてくる。
「ただいま、アメリ」
アメリに餌をあげてから、勇気は自室のドアを閉めた。
ベッドに寝転がり、スマホを眺めながら、数日前、不登校子にプリントを届けた時のことを思い出す。
あの時、校子の母・通子に「御兄弟そろって優秀で」と言われて、一瞬、言葉が詰まった。
「兄達に比べれば、俺なんて…」
つい、余計なことを言ってしまった。
言ってからそう思ったが、通子は上手く流してくれた。
それがかえって、気を遣わせたように感じた。
(御兄弟そろって…か…)
(傍から見れば、うちはいわゆる「勝ち組」の家庭なんだろうな…)
父は製薬会社勤務後に起業し、製薬ベンチャーの社長。
母は高校教員。
長男は国立大学の医学部に現役合格。
次男はサッカーJユースから、プロ内定。
庭付きの一戸建て。外車。ペット。
(でも…俺は違う)
(兄達のようには、なれない…)
(俺と同じ年齢の時には、兄達はもう、俺よりも遥かに高い所にいた)
兄達に追いつこうとして努力すればするほど、自分が兄たちの「下位互換」にしかなれないような気がしてくる。
それでも、両親は勇気に勉強や習い事を強制しなかった。むしろ「やりたいことをやれ」と言ってくれた。でも、それが逆に重かった。
(俺のポジションは、ずっと「そこそこ」だ)
勉強、そこそこできる。
サッカー、レギュラーにはなれる。
先生には好かれる。
友達には慕われる。
何も突き抜けてないけど、何も欠けてもいない。
でも、これ以上成績を落として「普通以下」になってしまったら…
「お兄さん達は優秀だったのにねえ…」
もし、そんなふうに周囲から言われてしまったら…
両親を失望させてしまったら…
この家に、自分の居場所がなくなってしまうような気がした。
それが…怖い。
そんな考えを締め出すように頭を振る。
ため息をついて、目を閉じていると、プリントを届けた時の、校子の顔が浮かぶ。
(まともに顔、見れなかったな…)
怒ってるなら、まだよかった。
でも違った。警戒してるのに、少し困ったような、どう接していいかわからない顔。
あの反応の方が、きつかった。
LINEのトーク履歴を見返す。
模部:ごめん
模部:周りの奴らがいろいろ言ってた時さ。何か言おうとは思ったんだ。でも、結局黙ってた。
模部:ただ、最近のお前、前よりちょっと楽しそうで。それ見て安心した。
既読はついた。
返信は『今さらじゃん』『まだ、わかんない』
「……そりゃそうだろ」
小さく呟く。
謝ったから何だ。今さらだ。
教室で、いつものメンバーが校子のことを笑っていた。
クラスの空気が、それを肯定していた。
勇気も、曖昧に笑った。
空気を壊したくなかった。
——いや。
本当は、自分が嫌われるのが怖かった。
「…最低だな」
翌日、昼休みの教室は騒がしかった。
サッカー部の友達が笑いながら勇気に話しかける。
「模部ー!ワールドカップ日本負けたから、顧問機嫌悪そうだぞ〜、気ぃつけろよ」
「マジかよ」
勇気も合わせて笑った。
笑いながら、教室の真ん中あたりに目をやる。
校子の席は今日も空いていた。もう見慣れたはずなのに、なぜか最近、目に入る。
「なー模部」
男子の一人がジュースを振りながら声をかけてくる。
「また不登ん家行ったん?」
「あー…まあ」
「え、やさし。なんでそこまでしてやんの?」
「担任に頼まれてるだけだって」
「ほんとぉ?」
軽い笑い。
勇気も適当に笑い返す。
その瞬間、脳裏に玄関から顔を出した校子の姿が浮かんだ。
「……あ、ありがと」
目を逸らしながら言った小さな声。
勇気は一瞬、黙った。
「…模部?」
「…いや、なんでもない」
ごまかすように笑う。
でもそのあと、なぜか校子の空席から目を逸らせなかった。
その時、担任の凡蔵昌平が教室に入ってきた。
早速話しかけられる。
「おい、模部、今日も不登のところ頼むわ」
「はい…」
「…なんだ?なんか不満か?」
「いえ…」
「…ちょっとこっち来い」
廊下に出る。
「実はな、不登の件、少し込み入ってきててな」
「込み入って…?」
「配信だか何だか知らんが、外で活動してるらしくて。それを出席扱いにしてほしいって、親から話が来てるんだよ」
「できるんですか、それ」
「…まあ、制度上はな…」
一呼吸入れてから、凡蔵は続けた。
「お前、プリント届けてくれるのはありがたいんだが、必要以上に関わらなくていいからな。お前の内申とか、部活とかに集中しとけ」
「…それって」
「悪いことは言わん。お前にはお前の道があるだろ。わざわざそっちに深入りする必要はねえ」
「“そっち”って…」
「わかんだろ?お前はこっちで十分うまくやってる」
それだけ言い放つと、凡蔵は背を向けて職員室へ戻って行った。
勇気はしばらく廊下で立ち尽くしていた。
廊下の向こうから、教室の笑い声が聞こえる。
(“そっち”って…なんだよ…)
(外でなんか活動…?出席扱い…?あいつ…最近楽しそうだったけど…何やってんだろ?)
〈ステータス〉
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名前:不登校子
状態:不登校(支援センターに接続済)
【五教科】
英語 Lv.中2 ■□□□□□
数学 Lv.中2 ■■□□□□
国語 Lv.中1 ■■■■□□
理科 Lv.中2 ■■□□□□
社会 Lv.中2 ■□□□□□
経験値取得条件:
・課題提出
・学習ログ
・理解度確認
※経験値反映には学校の確認が必要
【副教科】
音楽 / 美術 / 技術・家庭 / 保健・体育
※学習活動として接続可能性あり
※学校確認・評価対象化は未達成
【総合的な学習】
探究テーマ案:VTuber活動を通して、不登校でも継続できる学びの形を探究する
※学校との協議中
【スキル】
① 保護者と学校の連携
Lv2 進行中
→学校協議フェーズへ移行
派生クエスト
☑ 担任へ制度利用を相談する
☑ 学習記録の共有方法を決める
☑ 担任と面談する
② ICT等を活用した学習活動
Lv1 解放
→学習ログ作成可能
③ 対面指導の実施
Lv1 解放
→支援センター通所中
※学校との連携・出席扱い手続中
④ 理解度に応じた計画的な学習プログラム
Lv1 進行中
派生クエスト
☑学校とプログラムを共有する
【人間関係(パーティー/NPC)】
501:【謎の分析おじさん】(信頼度:Lv.1)
横道逸子:【コスプレネキ】(信頼度:Lv.3)
不登通子:【家ボス(母)】(圧:Max)
模部勇気:【ユウキ】(親密度:1)
□関係再接続イベント発生
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