第14話 知らないし(母・爆弾投下中)
模部勇気から謝罪LINEが来て、数日後の夕方。
不登通子が買い物袋を片手に帰宅し、玄関で靴を脱いでいたときだった。
――ピンポーン。
「はーい!」
通子は明るい声で返事をし、そのまま玄関扉を開けた。
立っていたのは、模部勇気だった。
部活帰りらしく、髪が少し汗で張りついている。肩にはスポーツバッグ。制服の袖を軽くまくっていた。
「…プリント、届けに来ました」
通子はぱっと顔をほころばせた。
「あら〜!勇気君、わざわざありがとうねぇ」
「いえ…帰る途中ですから。お気になさらず」
そう言って、きっちり揃えられたプリント束を差し出す。
通子は笑みを崩さぬままプリントを受け取りながら、彼の顔をそれとなく眺める。
(そつないわねぇ〜)
愛想が良すぎるわけじゃない。
でも失礼でもない。
距離感が妙に上手い。
学校で先生受けがいいタイプだ、と通子は一瞬で理解した。
「この間の定期テストも上位だったんですってねぇ〜。すごいわぁ〜」
「いや…」
「サッカー部もレギュラーなんでしょ?」
「御兄弟そろって優秀で、ほんと羨ましいわ〜」
その瞬間だった。
模部の表情から、ほんの一瞬だけ力が抜けた。
目の奥の光が、すっと消える。
「兄達に比べれば、俺なんて…」
声のトーンが落ちた。
通子は目を細める。
(あらあらぁ〜)
(これはこれで、あるのねぇ)
だが模部はすぐに表情を戻した。
「…まあ、普通です」
「またまた〜、謙虚なんだから」
通子は笑いながら、家の奥へ声を張る。
「校子〜!模部君、来てくれたわよ〜!顔出しなさーい!」
数秒後。
部屋のドアがそっと開いた。
校子が、半分だけ顔を出す。
(うう〜〜…)
(どんな顔して会えばいいんだよ…)
(まともに顔見れない…)
数日前。
突然送られてきた謝罪LINE。
『前、学校いた時さ。お前もずっとしんどそうだったから』
『ごめん』
その文面が、まだ頭から離れない。
「……あ、ありがと」
なんとかそれだけ言う。
模部は少しだけ目を向けた。
「うん。じゃあ、また」
一瞬だけ、視線が合う。
校子は息を止めた。
(…今の顔)
前みたいな、教室の“陽キャの顔”じゃない。
なにか言いたそうで。でも言えなくて。
そんな曖昧な顔。
模部はすぐ目を逸らし、軽く手を上げる。
そして、そのまま帰っていった。
扉が閉まる。
廊下の足音が遠ざかっていく。
その音は、なぜか校子の胸を少しざわつかせた。
夕食後、通子が食器を洗う水音が止み、リビングに静けさが落ちた。
テレビの音だけが小さく流れていた。
「勇気君、いい子よねぇ〜」
通子が麦茶を飲みながら言う。
「いつもプリント届けてくれて」
「……」
校子はソファでスマホをいじるふりをする。
「あ、そうだ」
通子がふと思い出したように顔を上げた。
「お菓子とか何が好きなのかしら?なんかお返ししないとねぇ」
「…知らない」
「は?」
通子の動きが止まる。
「じゃあ…好きな料理とか、嫌いなものとか。サッカー好きなんでしょ?どこのクラブ応援してるとか」
「…知らない」
「…はぁ…」
空気が一段冷えた。
通子は呆れた顔で天井を見る。
「あんたさぁ…こんなに何回も来てもらってんのに、何話してるの?」
「え?…いや…その……」
視線が泳ぐ。
「…VTuberとか…最近の学校の様子とか…?」
「……ふぅ……」
通子は小さく息を吐いた。
“もういいわ”という顔だった。
校子の眉がぴくっと動く。
「今、すっごい馬鹿にしてたでしょ!」
「別に〜?」
通子は肩をすくめる。
「あ〜あ、せっかくあんなイケメンが来てくれてるってのに」
「……!」
校子の顔が一気に熱くなる。
「いや、イケメンじゃないし!」
「ふーん?」
「…あんなやつ…」
視線を落とす。
「…私がいじめられてても、ヘラヘラしてたし」
「はいはい」
通子は流すように言った。
「…まあ…」
校子の声が少し小さくなる。
「最近は…ちょっとは…反省してるみたいだけど」
「反省?」
「…この間、急に」
校子はスマホを見ながら言った。
「見て見ぬふりしてて悪かったみたいなこと…言い出して」
「今さらだっての」
(ほぉ〜)
通子は内心で少し驚く。
あの年ごろの男子は、なかなかそういう謝り方はしない。しかも、自分から。
「そっかそっか〜」
通子は意味ありげに頷いた。
そして、何気ない口調で爆弾を落とす。
「あ〜あ、勇気君みたいな子が校子と付き合って、クラスでも守ってくれてたらねぇ」
「学校生活も、違ってたかもね〜」
「なっ…!」
校子の顔が真っ赤になる。
「あ、あんなやつ関係ないし!」
勢いよく立ち上がる。
「…私は、ああいうの、好きじゃないし」
「はいはい」
通子は面白そうに笑った。
自室に入った校子は、後ろ手にドアを閉める。
「…好きなんかじゃないし」
そのままベッドへ倒れ込んだ。
(…さっきの顔)
玄関で見た、模部の表情が浮かぶ。
兄の話をされた瞬間の顔。
謝罪LINEを送ってきた夜のこと。
教室で、何も言わなかったときの横顔。
「……」
校子は布団を頭までかぶった。
「……知らないし」
スマホを手に取る。
画面には、いつもの配信サイト。
月城るるらの動画が更新されていた。
親指が再生ボタンの上で少し止まる。
数秒。
迷ってから――。
再生ボタンを押した。
〈ステータス〉
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名前:不登校子
状態:不登校(支援センターに接続済)
【五教科】
英語 Lv.中2 ■□□□□□
数学 Lv.中2 ■■□□□□
国語 Lv.中1 ■■■■□□
理科 Lv.中2 ■■□□□□
社会 Lv.中2 ■□□□□□
経験値取得条件:
・課題提出
・学習ログ
・理解度確認
※経験値反映には学校の確認が必要
【副教科】
音楽 / 美術 / 技術・家庭 / 保健・体育
※学習活動として接続可能性あり
※学校確認・評価対象化は未達成
【総合的な学習】
探究テーマ案:VTuber活動を通して、不登校でも継続できる学びの形を探究する
※学校との協議中
【スキル】
① 保護者と学校の連携
Lv2 進行中
→学校協議フェーズへ移行
派生クエスト
☑ 担任へ制度利用を相談する
☑学習記録の共有方法を決める
☑ 担任と面談する
② ICT等を活用した学習活動
Lv1 解放
→学習ログ作成可能
③ 対面指導の実施
Lv1 解放
→支援センター通所中
※学校との連携・出席扱い手続中
④ 理解度に応じた計画的な学習プログラム
Lv1 進行中
派生クエスト
☑学校とプログラムを共有する
【人間関係(パーティー/NPC)】
501:【謎の分析おじさん】(信頼度:Lv.1)
横道逸子:【コスプレネキ】(信頼度:Lv.3)
不登通子:【家ボス(母)】(圧:Max)
模部勇気:【ユウキ】(親密度:1)
□関係再接続イベント発生 NEW!
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