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第12話 るるら砲、直撃

 夜。窓の外では、風がかすかに鳴っていた。

 不登校子は自室のベッドの上で布団にくるまり、スマホを見ていた。

 画面には、いつもの配信サイトの待機画面。

 月城るるらの配信が始まる直前だった。


 数日前―横道逸子と一緒にやった、あのコスプレ体験。

 あれ以来、胸の奥がずっと落ち着かない。

 衣装を着た時の感覚が、まだ身体のどこかに残っていた。


(無理かと思ったけど)

(できた…)

(なんだろう…あの感じ…)

 校子は、自分の指先をぼんやり見つめる。

(宵闇ユラは…私だけど…)

(でも、“私そのもの”ではなくて…)

(私はあくまで中の人で…)

(ユラと私は別物だったはずなのに…)


 脳裏に、あの日の鏡が浮かぶ。

 黒レース。

 銀の髪。(ウィッグだけど)

 ユラの衣装。

 鏡の向こうに立っていたのは、自分のはずなのに。

(…あの時、鏡に映ってたの、“私”じゃなくて…)

(ちゃんと、“ユラ”だった気がする…)

 胸の奥が、じんわり熱くなる。


 そんなことを考えているうちに、配信が始まった。

 ぱっと画面が切り替わる。


 月城るるらの明るい声が飛び込んできた。

「こんばんるる〜!」

 いつもの調子。

 校子は少しだけ肩の力を抜く。


「最近ね〜、ママ(絵師)がめっちゃ忙しそうなんだよね〜」


《また新衣装?》

《るるら強化くる?》


「いやいや、私じゃなくて〜」


(はあ〜…やっぱりるるらいいわ〜…アバターも、しゃべりも…)

(こんなふうに雑談配信できたらなあ…)


その時、突然るるらが話題を変えた。

「あっそうだ!最近ママが描いた“新しい子”の話もしよっかな〜」


《新人!?》

《娘増えた?》 


「は?」

 校子の身体が硬直した。

「ちょ…まさか!?」

「やめてやめてやめてやめて!!」

 スマホを持ったまま布団の中で暴れる。


 るるらは止まらない。

「実はね〜、私のママが新しいVtuberのアバター描いたんだよ〜」

「ぎゃああああああああああああああああ!!」

 校子は布団の中で転がった。


 コメント欄が一気に流れる。


《ママの新作!?》

《絶対かわいいじゃん》

《もうデビュー済み!?》

《気になる!!》


「やめて……!」

「そんな期待しないで……!!」

 心臓がバクバク鳴る。

 耳に届くるるらの声が、無邪気すぎる。

「最近デビューしたんだよ〜! アバターめっちゃかわええ!」

「やめてえええええええええええええええ!!」

 校子は枕に顔を埋めた。

 耳まで熱い。

 るるらは完全にノリノリだった。

「名前はね〜、えっと…宵闇ユラちゃん!」


「――――ッ!!」

 校子は無言でのたうち回った。

 布団がぐちゃぐちゃになる。


「勉強配信とかもしてるみたい!」


「ぎゃああああああああああああああああ!!」

 呼吸ができない。

 死ぬ。

 本当に死ぬ。


 コメント欄はさらに加速する。


《見たことある!》

《声かわいい子?》

《勉強ガチ勢の人?》

《雰囲気好きだった》

《るるらママ案件か!!》

《登録してくる》


「やめて…!」

「増えないで…!」

「来ないで…!」

 なのに。

 コメント欄を見てしまう。


《衣装めちゃくちゃ完成度高いよな》

《あの世界観すき》

《新人なのに雰囲気ある》


 その文字を見た瞬間。

 胸の奥が、じわっと熱くなった。

(…嬉しい)

 そう思ってしまった。

(いや違う違う違う!!)

(嬉しくない!!)

(怖い!!)

(ユウキくんにバレる!!)

 脳裏に、模部勇気の顔が浮かぶ。

 終わった。

 人生終了。


(いや、まだバレてない……!)

(まだ大丈夫……!)

(でも時間の問題では!?)

(でも嬉しい……!!)

(でも死ぬ……!!!!)

 布団の中で足をばたつかせる。

 感情が渋滞していた。

 るるらはそんな地獄を知らず、楽しそうに笑っている。


「みんな、ユラちゃんの配信も聞いてみてね〜!」

「またるる〜!」

 配信終了。

 画面が暗転する。


 部屋が静かになる。

「………………」

 校子はしばらく布団に埋まったまま動かなかった。

 数秒後。

 震える手で、自分のチャンネルを開く。


 登録者数。

「……増えてる」

 昨日より、三十七人。

「なんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 深夜のマンションに、絶叫が響いた。


「ちょっと!何なの、大声出して!」

 通子の声が廊下から飛んでくる。

「はっ、ご、ごめん」

「まったく……」

 足音が遠ざかる。


 校子は再び布団に沈み込んだ。

「はぁ……」

 怖い。

 でも、気になる。

 震える指で、動画アプリを開く。


 おすすめ欄。

 そこに―

【(切り抜き動画)るるらママ新作!? 新人VTuber「宵闇ユラ」が可愛すぎる件】

「……………………は?」

 サムネには、宵闇ユラのアバター。

 (再生数。もう三…いや、四桁?)

「いやいやいやいやいや」

 意味がわからない。

 心臓が嫌な音を立てる。


 その瞬間。

 ピポン。LINE通知。


模部:るるらのライブ配信みた? 宵闇ユラって知ってた?


「…………」

 校子は布団の中で、完全に固まった。





〈ステータス〉

_________________________________


名前:不登校子ふとう・きょうこ

状態:不登校(支援センターに接続済)


【五教科】

 英語 Lv.中2 ■□□□□□

 数学 Lv.中2 ■■□□□□

 国語 Lv.中1 ■■■■□□

 理科 Lv.中2 ■■□□□□

 社会 Lv.中2 ■□□□□□

経験値取得条件:

・課題提出

・学習ログ

・理解度確認

※経験値反映には学校の確認が必要


【副教科】

 音楽 / 美術 / 技術・家庭 / 保健・体育

※学習活動として接続可能性あり

※学校確認・評価対象化は未達成


【総合的な学習】

探究テーマ案:VTuber活動を通して、不登校でも継続できる学びの形を探究する

※学校との協議中


【スキル】

① 保護者と学校の連携

Lv2 進行中

→学校協議フェーズへ移行

 派生クエスト

☑ 担任へ制度利用を相談する

☑学習記録の共有方法を決める

☑ 担任と面談する


② ICT等を活用した学習活動

Lv1 解放

 →学習ログ作成可能


③ 対面指導の実施

Lv1 解放

→支援センター通所中

※学校との連携・出席扱い手続中


④ 理解度に応じた計画的な学習プログラム

 Lv1 進行中

派生クエスト

☑学校とプログラムを共有する


【人間関係(パーティー/NPC)】

501:【謎の分析おじさん】(信頼度:Lv.1)

横道逸子:【コスプレネキ】(信頼度:Lv.3)

不登通子:【家ボス(母)】(圧:Max)

模部勇気:【ユウキ】(親密度:1)

_________________________________




お読みいただきありがとうございます。

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