第八楽章 人員喪失
強く、強く強く私は殴られた。シャープ③の勢いづいた巨大な拳が、全身を殴打する。そのまま私は戦場から弾き出された。広場から少し離れたビルに打ち付けられる。
「か、はっ……」
全身が軋む。何本か骨も折れているだろう。凄まじい鋭痛が、武器も持てないほどに体から力を失わせる。口の中に生臭い血がせり上がってきた。脇腹から肋骨が一本飛び出している。視界が涙と血でかすみ、うまく開けていられない。絞り出そうとした声は、蚊の羽音より矮小だった。
地面にバタリと倒れる。じわじわと体から抜けた血が地面に染み込んでいく。あらぬ方向へと曲がった手が視界に入った。
痛い、辛い、逃げたい、まだ死にたくない。そんな言葉が頭を駆け巡る。生存本能が警鐘を鳴らしていた。ただ純粋な恐怖が脳を埋め尽くす。ヴィヴァーチェの炎が弱々しく揺れていた。
ただ、終わりではなかった。私だけではなかった。
シャープ③を取り囲むようにして配置されたフォルテ殲滅部隊。そして、それを取り囲むように現れたシャープ②たち。戦場は混乱を極めていた。皮肉にも挟撃という形になってしまっている。じわりじわりと皆が追い詰められていくのを黙って見ていることしか出来ない。
恨み言を吐きたい。罵ってやりたい。しかし、肺に空気が入らない。口を開けども、出てくるのは風の音だけ。それがより一層惨めにさせた。
そして、フォルテ隊員たちが死んでいく。シャープ③で手一杯だった彼らが、私という指揮系統を失って、なおかつ敵も追加されてまともにやりあえるはずがない。一人一人、徹底的に体が切り裂かれていった。
リコルダ。そうだ、ソプラとバースは……
私は見た。バースが勇敢にもシャープ③へと立ち向かっていくのを。
私は見た。ソプラが負傷した兵士たちに回復魔術を施しているのを。
私は見た。彼らが、圧倒的な力の差を前に、その身が肉片に化すところを。
ぷちり、と弾け飛ぶように、シャープ③に押し付けられたバース。
拳で握られ、全身を砕かれたソプラ。
赤い雫が滴り落ちる。一定間隔で、時を刻むように。刻一刻と時は進み、そして、永遠に戻ることはありえないのだと、垂れた血は大地に染み込み、もう戻ることはない。彼らだったものは、もう彼らではなくなってしまった。
心の中で、何かが冷たく燃え上がるのを感じた。
震える右手で握ったヴィヴァーチェに、炎が灯る。前までより熱く、早く揺れ動き。
折れた片足を庇いながら立ち上がった。足元もおぼつかなく、それでも、走り出した。とても不格好な形で。
声は出なかった。全く出なかった。ただ、自分の中の炎に突き動かされた。
そして、私は足をもつれさせ、地面に転がった。死んだ隊員たちの肉片に足を取られた。手を力なく離れていったヴィヴァーチェ。もう動けなかった。
この日、フォルテは戦闘員の四分の一を喪失した。




