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第七楽章 インプロヴィッサメンテ

このままいけば、エルケーニヒは順調に到着し、全てが終わる。そう思っていた。

足を岩岩に押し潰され、身動きが取れないと思っていたシャープ③が、その体をゆっくりと傾かせながら、足を大地から引き抜いた。隆起した堅い地面がまるで砂のようにぱらぱらと散っていく様。舞い上がった土埃が、大地を低く這う。


「……第一部隊はシャープ③へと前進、第二部隊は第一部隊の隙間を埋めるようにしてやや後方に待機、第三、第四部隊は挟撃の体勢を取れ。すぐに。」


命令された彼らは、迅速な動きで隊列を組んでいく。一瞬の迷いも、そこからは感じ取れなかった。

シャープ③が動き出す前に、こちらで決着をつけてしまったほうがいいのか、それとも徹底的な防衛をするべきか。答えはわからない。だが、私が今判断したうちでは……


「──フォルテ殲滅部隊、攻撃開始!」


攻撃を選ぶ。

第一部隊がシャープ③の間合の内側へと突っ込む。それに反応し、シャープ③はその長く鋭い鉤爪を振り下ろす。だが、残念だったな。彼らにはソプラの保護魔術に上乗せして、対斬撃装甲を張っている。その玉虫色に光る刃のような鉤爪は戦闘員の五人を巻き込むが、死にまでは至らせなかった。彼らは宙を舞い、地面に叩きつけられる。しかし、生きてさえいればソプラが回復を施せる。

そして、シャープ③が前からの攻撃に集中しているうちに、第三第四部隊の挟撃で、完全に機動力を失わさせる。フォルテ随一の精鋭部隊である殲滅部隊。なんでも泥臭くやり遂げてみせよう。

後ろからの攻撃に不意をつかれたか、シャープ③は投擲された鶯槍を受けて、体をふらつかせた。そちらにも手を伸ばすが、そこに巨大な火球が投げ込まれる。


「ハッハッハッ!俺を忘れてもらっちゃ困るな、シャープ③よォ!」


全身を炎に巻かれたシャープ③が、ぐるぐるとその場で回り始める。


「火を消そうとしているのか……?」


奇怪な行動をするシャープ③。まるでコマのように、枯れ木のような足を軸にして回っている。

それが、周囲にいる第一部隊を薙ぎ払うためのものだと気づくのは、その時になってからだった。


「──!?ま、まさ──くそッ、第一部隊、すぐに下がれ!」


すぐさま、その命令を受けて第一部隊が引く。だが、前方にいる隊員は巻き込まれて、遠心力のついた鉤爪によってその身を切り開かれ、どこかへ飛んでいった。

あの回転を止めねばなるまい。こういうのは、魔術に任せるのがいいだろう。一回エネルギーを失わさせればいいのだ。少し力を加えてやるだけでいい。


「第三部隊、シャープ③へと鈍化魔法をかけろ!第四部隊、鎖銛を打ち込め!回転を止めろ!」


魔法陣が空中に浮かぶ。私から見て、シャープ③の向こう側、第三部隊の魔術師たちが、灰色の魔力を注いでいる。また、第四部隊は鎖のついた銛を打ち込む準備を終わらせ、狙いを定めている。やけに大きく不恰好な姿の機械だが、地面にしっかりと固定できるという点ではなんのデメリットでもない。むしろ素晴らしい。


「発射ッ!」


魔法陣から蜘蛛の巣のような魔術が飛び出し、シャープ③を覆う。多少、速度が抑えられた。回転が悪くなり、体を捩ると言ったほうが正しいまでに衰える。そしてそこに、巨大な銛が撃ち込まれた。爆発音とともに、シャープ③の体を貫通する。


「……貫通してはダメなのでは…?」


問題はなかった。すぐさま銛の切先が傘のように開き、抜けないようにガッチリと固定される。自らを貫通する強い衝撃に、シャープ③はよろめく。回転は止まった。もう、身動きが取れまい。


「再び進め!勝利は我らの手にあるぞ!」


指示を飛ばす。フォルテ隊員たちは無口でありながらも、歓喜を滲ませるように突っ込んでいった。

広場のはずれでは、ソプラが怪我人の治療を行っている。

バースはシャープ③へと拘束呪文を放ち、手足をきつく縛っていた。

私も動こうか。そう、腰にあるヴィヴァーチェに手を当てる。じんわりとした熱が、冷たさに震える手を溶かしていく。


「……フォルテ最高チーム、リコルダ所属…第一先鋒軍師テノル…今赴きます。」


鞘からヴィヴァーチェを抜き放つ。燃え上がる熱気が周囲の空気を歪ませていく。夕焼けが私を見つめていた。


「……シャープ③、お覚悟を。」


前方へ跳躍した。シャープ③の首を切り落とすために。

ぎょろりと、それは首をこちらにもたげ、口であろう場所を開いた。


「……まさか、ボクが一人で来るって思った?」


後方で悲鳴が上がる。そして、大地を踏み締める、巨大な生物の足跡も。

影が長く伸びていく。どこまでも、どこまでも。


「くッ、撤退準備を──」


シャープ③に切り掛かりながら、そう叫ぼうとした。私の視界の右上、そこには、バースの魔術が解けて自由を得た左腕が、私へと向けられていた。

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