第三楽章 タイミング悪い
あちらこちらから、人の笑い声が漏れている。コンクリートの建物が建ち並ぶ、第三地区には多くの施設があった。今彼ら四人が目指しているのは、料亭ヨハンという美味い飯が提供されるところである。
「この街並みも、全然変わらないね〜。」
「そりゃフォルテの兵糧の大部分を担う地区だからな。落とされたらたまったもんじゃない。」
「かなりの量の防衛費をここに注いでいますからね。」
すれ違う人たちはみな明るい顔をしていて、第五地区のあの惨状と比べると、まるで別世界みたいだ。露店も営業していて、香ばしいイカ焼きの香りやカステラの甘い匂いも漂ってくる。時々アルトがそちらへ寄って行ってしまうため、テノルはぐいっと手を引っ張って引き寄せなければならなかった。
「そろそろ着きそうだね。お食事通りに入ったし。」
お食事通りと書かれた大きな看板の下を通り、数多の食事処が並ぶ大路地に入る。左右どちらを見ても、飲食店ばかりだ。しっかりとデザート屋まで出ている。やはりそれらにもアルトは食いついたので、今度はバースが彼の頭を叩いた。
「後でだ。先に飯を食う。」
「……わかったわかった。じゃあちゃんとご飯の後に来ようね。」
そうしてたどり着いた料亭ヨハン。リコルダの面々は、入り口付近に置かれたメニュー看板を見て何を頼もうか熟考している。魚焼き定食、梅とろ牛肉定食、山菜辛味定食など、写真だけで唾液腺を刺激するようなメニューばかり並べられている。
「どうしようかな〜。え〜、やっぱりロースカツ丼?」
「私は……無難にアジの塩焼き定食にしましょうかね。」
「俺はホットカレーランチにしよう。ついでに酒でも飲むか。」
「僕はもちろん特盛海鮮丼!さあさあ、早く頼もう!」
それぞれ注文が決まったので、店内に入った。ガヤガヤとした店内、彼らはテーブル席に案内された。木のテーブルと、クッション付きの椅子。ここら辺はサービスが良い。薄黄色の電球が店内を照らし、穏やかな空気を形作っている。
「すみませ〜ん、注文をしたいんですけど。」
テノルが真っ先に店員を呼んで、四人分のメニューを注文した。一方バースは店内の雑誌を読み、ソプラは携帯をいじり、アルトはお冷をがぶ飲みしていた。………相変わらずである。
しばらくすると、注文の品が到着した。アルトの特盛海鮮丼以外、湯気を出している。作りたてだ。
「「いただきます。」」
一斉に手を合わせて、食べ始める。どうやら最近若者の間で流行っている動きらしい………どこ発祥かはわからないが。
「くぅ〜、ゃっぱこれなんだよこれ!酒と辛さ五のカレー!クッソ合う!」
「もう少し静かに食べていただけませんか?気が散る。」
「食事に集中力を要する食べ物なんてカニぐらいだよ。」
「ねぇねぇ、ボクの海鮮丼にウニなかったんだけど。」
「ええい、やかましい!口を閉じて……いや……う〜ん、口を閉じたら食べれないですね………。」
「声帯を振るわせずに、で良いんじゃない?」
「ちょっとそれは医学的すぎるというか……なんというか………。」
そうやって、リコルダの面々が談笑しながら食事をしているところに、彼女は来た。灰色の髪を後ろで結い、フォルテの制服を身に纏った最高司令官が。
「……あ、リコルダの奴らじゃないか。奇遇だな。」
「げっ、エルケーニヒ………。」
「エルケーニヒ最高司令官どの、お目にかかれて光栄です。」
「エルケーニヒじゃないか。ここで飯を食うのか?」
「エルケーニヒ先輩、こんにちは。」
あまりにも三者三様すぎる反応と挨拶に、エルケーニヒは困惑した。
「………まあ良いか。とりあえず、席が空いていないらしいから相席してくれ。」
「どうぞお座りください。」
「テノル、なんで………。」
「アルト、お前はなんでそこまで私を避ける。あの時の叱責がまだ怖いか。」
すぐさま空いている席を差し出したテノルと、それを悲哀の目で見るアルト。バースはまたなんか騒がしくなったな、と思い、ソプラは気に留めず食事を再開した。エルケーニヒの頼んだたまご牛丼は、すぐになくなった。
「美味しかったですね。」
「ね〜。やっぱり、ここは最高のお店だよ。」
「いつも利用したいぐらいだな。フォルテ本部がある第一地区が近いから、私の場合は頻繁に利用しているが。」
「俺らもだ。いうほど久しぶりじゃない。」
アルトが代表としてレジで金を払っている。五人分の食費を払うことになった彼の背中は、落ちていく夕日に近いものがあった。彼の顔には星のない夜空が浮かんでいるだろう。
「では、お別れですね。」
「今日は助かった。感謝する。」
「いえいえ、最高司令官さんの頼みですから。」
「気にしなくて結構!アルト持ちだからな!」
「だからなんでボクが払うことになったのさ!」
今日もまた、夕焼けは世界を橙に染めていた。帰路を歩む四人の影は、遠くへ伸びていた。




