第二楽章 いつもの任務
今朝は騒々しかった。目覚めて間もない頃、リコルダの面々が朝食のためにダイニングテーブルへと集まっていた時、警報が鳴り響いた。
「あ〜、シャープ①が出たね。ボクたちも行く?肩慣らしに。」
「そんな心構えで大丈夫ですか?それに、行くかどうかを決めるのは最高司令官殿じゃありませんか。」
「まあそれはそうなんだけど………。」
大きなあくびを一つ、眠気眼をこすりながら現れたアルトは、とても戦いにいける格好ではない。昨夜の星柄パジャマ姿のままである。
「………で、飯はどうする飯は。シリアルでいいか?」
「いつも思ってたんだけどね、なんでわざわざわさび味のフレーバーを買ってくるの?私たち、朝っぱらから鼻腔の強烈な刺痛に苦しむことになってるんだけど。」
「あのねぼすけアルトの目を覚ますにはちょうどいいだろう。」
もう日常風景の一環になってしまった出現警報であるが、本当はかなりの非常事態である。それこそ、上級傭兵が出動する羽目になるほどの。
「あっ……私たちにも出撃要請が来ましたね。監督任務ですが。」
「シャープ①なら、新入社員の研修にも使えるからな。ちゃんと指示に従ってマニュアル通りやれば損失はない。」
「①を雑魚って言えるのはそれこそボクたちぐらいだよ?普通あんなでっかい化け物が現れたら、一体でも相当な被害が出るからね?」
三階建てビルほどの大きさのシャープ①であるが、②にランクアップするとサイズはなんと半分上昇。四〜五階に相当する。あの鉤爪一振りで、五人は持っていかれるだろう。
「みんな、早く行こう。フォルテ戦闘員たちが待ってる。」
男三人がわちゃわちゃしているうちに、準備を終えたソプラが、玄関で扉に手をかけた。アルトたちも、フォルテの制服に着替え始める。
「少し待っててください。私はヴィヴァーチェを取ってきますので。」
「にしても、あんなアッチアチの剣、一体どこで見つけてきたんだ………?」
テノルの所持する武器【ヴィヴァーチェ】は、炎を纏った剣であるため、普通に置いておくとリコルダのオフィスが火事になる。よって、厳重に保管をしているのだ。具体的に言えば、金属製で耐熱素材を存分に使用した金庫の中である。
「やっぱりもうちょっと置き場所考えない………?いざという時にめっちゃ取り出しにくいでしょ………。」
金庫をかちゃかちゃやっているテノルに、玄関での待機に飽きたのか後をついてきたソプラが言う。
「そんな時は、皆さんがいますから。」
「なんで前衛のあなたが一番準備遅くなるの………?」
「そもそもこのパーティ、前衛一人に対して後衛三人ってバランス悪くないですか?」
「知ってる?あなたって実は軍師なの。」
「もちろん。前線で指揮をとってますよ。」
「あまり敵本体に突撃する系の軍師はいないと思うのだけれど。」
「十人十色です。気にしないほうがいいですよ。」
そうして金庫から出てきた橙色の剣は、見るからに熱気を発し、空間を歪ませていた。ソプラは思わず顔を顰める。
「よし、準備は万端ですね。じゃあ行きましょうか。」
何食わぬ顔でヴィヴァーチェを手にした後、テノルたちはリコルダのオフィスを出ていった。行き先は第五地区、中央公園跡地。まともな人間は住まない、荒れ果てた地区。
「おや、もうすでに戦闘が始まってる。ボクたちの到着を待ちきれなかったのかな?」
現場では、フォルテの戦闘員たちが隊をなして、シャープ①たちを相手していた。一進一退の攻防、それでも持久力ではフォルテが勝っている。いずれはシャープが傷に倒れることになるだろう。
「私たちの任務は監督だから、事故が起きた時だけ動けばいいんだね〜。」
「あっちの隊長もそれなりに腕の立つ人ばかりですから、私たちが動くことになるほどの事故なんて滅多に起こりませんよ。」
「それもそっか。まあ気長に待とう。」
中央の開けた広場での激戦を意に介さず、リコルダの四人はそばの高層ビルの屋上で見物をしていた。アルトの持ってきた個包装の菓子をつまみながら、バースがちまちました攻撃魔術をシャープ①に当てて、フォルテ戦闘員を援護する。アルトも支援領域を展開して、フォルテ戦闘員全体の基礎身体能力を底上げしているようだ。
「あ〜あ、私だけ魔術使えないの、少し悲しいですね…。なにも手伝えないとは。」
「石とか投げればいいんじゃないか?当たったら痛いだろ。」
「確かに。じゃあこのコンクリート片を………そりゃっ!」
ボロボロの高層ビルの屋上にあった、人の頭より一回り大きいコンクリート片を、軽くぶん投げた。空を切る音が周囲に響いたのち、ゴン、という音がして、シャープ①の脳天に直撃。そして、強風が吹いた瞬間、そのシャープ①は粉々に砕け散った。
「やったね。ワンキル。」
そして、太陽が真上に登った頃、戦闘は終わりを告げた。フォルテ側の人的被害なし、装備品の被害は少々、シャープ①殲滅完了。上々な成果だった。
「んじゃ、帰ろうか、みんな。お昼ご飯何にしようか考えといて〜。」
「了解です。」
「おう!」
「わかった。」
第三地区には美味しい定食屋がある。彼ら四人は、談笑しながらそこへ歩いていくのだった。




