休みの日に~これはデートじゃないんだからね!~
勘違いしないこと。これは別にデートとかじゃないんだからね。
鏡の中の自分に、そう言い聞かせてから部屋を出た。今日はスティーグさんとの約束の日だ。
公園の噴水の前で合流すると、彼は行先が決まっているかのように、先に立って歩きはじめた。
「王都の北地区に工房街があるのは知っているだろう」
よく知っている。
王都は大きく五つの地区に分けられていて、そのうちの北地区に工房街はある。
そこには武器や防具、家具や工芸品などを作る工房が軒を連ねており、冒険者たちが狩った魔獣の素材は大抵がここに持ち込まれる。
そんな場所に、魔獣オタクの私が興味を持たないわけがない。だから私にとってここは、通い慣れた場所のひとつだ。
「そこに行きたいんだ。フリーダにも付き合ってほしい。それで……」
スティーグさんはそこで一度言葉を止めると、少し考えるようにしてから、再び口を開いた。
「なにか気になることがあったら、俺に教えてくれないか?」
気になることって、具体的にどんなことだろう?
一瞬浮かんだ疑問は、なんとなく聞けなくて吞み込んだ。スティーグさんが一度言葉を止めた理由がそこにあるような、そんな気がした。
「で、魔獣の素材を扱っている店を見たいんだ。フリーダに心当たりはあるか?」
スティーグさんの問いに、良く覗いている店の名前をいくつか挙げた。
「スティーグさん! ほら、この角、すっごい立派ですよ! しかもここにある大きな傷は、雄同士で戦って付いた傷でしょうね。すごいなぁ。ほらこっちの毛皮! これ、アルビノの森狼ですよ! 一見銀狼にも見えますけど、白さが違うんですよね。とっても綺麗な白い毛皮! 体毛が白い所為で森では目立ってしまって、敵や冒険者に狙われやすいから、こんなに大きく育った成獣はさらに珍しいんですよ!」
くすりと小さく笑い声が聞こえて、ハッと気が付いた。
しまった、つい夢中になって語ってしまった。いつもは一人だから、思っていても口に出すことはなかったのに……
「あ…… ご、ごめんなさい。つい夢中になって……」
こんなんじゃ、眼鏡で視線の先を隠している意味もないじゃない。
でもやっぱりスティーグさんは、私を馬鹿にするような目で見ることはなかった。
「いいや、いいんだ。やっぱりフリーダに来てもらってよかった。色々と詳しいんだな」
可笑しそうに口元を緩ませながらも、そう言ってフォローをしてくれる。引かれたわけじゃないみたい。ちょっとホッとした。すごく恥ずかしくはあるけれど。
「ここにある素材は冒険者ギルドから卸された物だけか」
スティーグさんが店主の方に向き直して尋ねる。
「それだけでなく、冒険者たちが直接持ち込むものも買い取っております」
今のうちに顔の赤みを引かせないと。そう思いながら、向けた視線の先、新商品の棚に飾られている真新しい竜皮に気が付いた。
「あれ…… これは」
「フリーダ、どうした? 何か変わったことがあったか?」
「いえ、変わったことではないです。これ、この間スティーグさんが狩ってきたワイバーンの皮です。もう店に並ぶんですね」
「へえ、同じものだとわかるのか?」
「はい、なんとなく、ですけど」
本当は気が付いてすぐに、目を凝らして浮かび上がった文字を確認した。でもそれを言ってもきっと信じてもらえないだろう。だから、そう言って誤魔化した。
素材屋や工房を何軒も回っても、スティーグさんは何を買うわけでもなく、私と一緒に魔獣の素材を眺めて、私がついつい語ってしまうのをうんうんと辛抱強く聞いてくれただけだった。
「スティーグさんは、何か探しているんですか?」
「うーん、探しているというか……」
そう言って、彼は何かを確認するようにじーっと私の方を見た。
あまりに真剣な目で見つめられて、視線を逸らせない。が、このままでいるのも気まずい……
「え、えと……どうかしたんですか?」
「あ、ああ、すまない。やっぱりちゃんと話しておいた方がいいな。ひと休みしてお茶にでもしようか」
そう言って、近くの喫茶店へ私を誘った。
* * *
「悪いな。内密な話なんだ」
そう言って、スティーグさんはテーブルの上に小さなメダルのような魔道具を置く。
「これは?」
「防音の魔道具だ。簡単に言うと、俺たちの会話が他のヤツらに聞こえなくなる」
防音の魔道具。話で聞いたことがあっても実物を見るのは初めてだ。
高価な魔道具で、普通の店では取り扱ってすらいない。お貴族さまが持つようなものだ。スティーグさんは、なんでこんな高価なものを持っているんだろう。
そんなことを考えている私に、スティーグさんは声量を落として話しはじめた。
「もしかしたら、だが、冒険者ギルドの魔獣素材が横流しされているかもしれない」
「えっ!?」
その話に一瞬は驚いたが、確かに気になることはあった。特に気になるのは、あのスティーグさんが狩ったワイバーンの素材だ。
正規のルートで店に卸されるには少し早すぎる。でもそれが正規のルートでないというのなら、納得できる。
「なるほどな。あれが横流しされたのだとしたら辻褄があうのか。でも、ギルドの在庫をくすねるなんてことができるのか?」
「できないことではないと思います」
「どうやって?」
「素材の中には、売り物にならないような質の悪いものもあるんです。狩った時に大きな傷がついた物ですとか。そういうものは安く卸されるか廃棄処分になります」
「本来は無事な素材を、傷物として廃棄処分したことにしてしまうってことか?」
「はい。あと大きな魔獣の鱗や毛なんかは、数量を誤魔化すこともできるかと」
「ってことは、関わっている人間は限られてくるな……」
スティーグさんは考え込むようにしてそう言った。
その日の終わりに、スティーグさんから今日の礼だと言ってきれいな魔石の嵌ったペンダントをもらった。
「これはお守りだから、身に着けておくといい」
そう言われたけれど、男の人にアクセサリーをもらうなんて生まれて初めてで……
緊張してしまって、ちゃんとお礼を言えたのかもよく覚えていない。
お読みくださりありがとうございます。
デート……ではないですね。それっぽいことは何もなく終わりましたね。
でも、男性免疫の少ないフリーダには十分だったようで……(何が?)
引き続き、明日の更新をよろしくお願いします(*^-^*)




