図書館にて~魔獣が好きだと言うと馬鹿にされることもある~
今日は休日。小さな部屋を借りての一人暮らしなので、誰かに気遣う必要もない。
最低限の家事を済ませて、街へ出ることにした。
今日はどこに行こう。
いつもの店で魔獣素材の商品を見るのも楽しいけれど、先週行ったばかりだ。
何か買うものがあるわけでもないし、一人でのんびりと過ごすのなら、魔獣の図鑑でも眺めていたい。
図鑑……そうだ、図書館に行こう。
冒険者ギルドにある魔獣図鑑は、もう何度も読んですっかり覚えてしまった。でも図書館になら、まだ読んでいない図鑑や本があるかもしれない。
「うわあ」
思わず感嘆の声が出た。
予想以上だ。目の前の本棚には魔獣関係の本がぎっしりと詰まっている。
図書館に来るのははじめてじゃない。受付嬢になる前には、ここに通って魔獣の本を読み漁っていたものだ。
でも明らかにその頃より本が増えている。
嬉しくなって、本の背表紙を指差しながら順に眺めていった。
「あれ?」
一冊だけ、違う本が混ざっていて、指と視線が止まった。
「これ、獣人の本だ」
獣人は人間に似た姿に獣の特徴を合わせ持つ亜人種で、魔獣ではない。
だからこの棚にこの本があるのは正しくない。誰かが間違えたんだろう。
「元の場所に戻しておかないと」
その本を棚から取り出す。
せっかく手にとったのだからと、なんとなくパラパラとページをめくった。
ここは元は人間の国だった。
エルフやドワーフ、獣人などの他種族も居るには居るが、決して多くはない。
とはいえ、昔に比べるとこの国に来る獣人は増えている。
ギルドでの顔見知りにも獣人の冒険者は何人もいるし、街中には獣人が開いている店もある。
と、気になるページをみつけて、めくっていた手が止まった。
ここ王都ですら見かけることのない獣人。それはこのページに書かれている「竜人」だ。
竜の角や尾や翼を持つこの竜人たちは、殆ど自分の国から出てこないのだそうだ。
その竜人たちをまとめあげている竜の王は聖獣の血を引き、神から与えられた力を使えるのだと書かれている。
正直、ちょっと興味はある。
だって他の獣人は見たことがあるのに、竜人だけは見たことがないんだもん。
しかも獣人の中には『完全獣化』ができる者がいるという。竜人の完全獣化ってことは、やっぱり竜の姿になるんだろう。
獣人が完全獣化をしたとしても、それは魔獣ではない。そんなことはわかっている。
でも、魔獣や竜と同じ姿になるのならば、やっぱり興味は沸いてしまう。
と、願ったところで竜人に会えるわけがない。
せめてこの国を出て獣人の国へでも行かないと無理だろうな。
手にしていた獣人の本をぱたりと閉じる。
さらに読んだことのない魔獣図鑑を2冊選んで、本棚から取り出した。
獣人の本棚を探して正しい棚に戻すと、残りの本を持って読書席の端の方、目立たない席をとった。
せっかくの読書の時間、誰かに見つかって邪魔をされたくない。それに嬉しそうに魔獣図鑑を眺めている姿を知人に見られてしまったら恥ずかしいし。
さっそく魔獣の図鑑を開くと、すぐにその世界に引き込まれていった。
「君は…… 確か冒険者ギルドに居なかったか?」
声をかけられて、ハッと気が付いた。
しまった、ついつい魔獣図鑑の世界にのめり込んでいた。
顔を上げると整った青年の顔がそこにあった。先日、冒険者ギルドに来た、あのイケメン冒険者だ。
「ああ、すまない。読書の邪魔をするつもりはなかったんだ。まだこの町に来たばかりで、顔見知りもいないもんだから、つい……」
青年は申し訳なさそうに言い訳をした。
って、たかが冒険者ギルドの受付嬢。
しかもこんな地味な私のことを覚えていたなんて…… なんて殊勝な人なんだろうか。
「はい。ギルドの受付で働いています。先日お会いしましたよね」
そう言うと、彼はほっとしたように少し微笑む。
やっぱり、この人イケメンだな。そう思った。微笑んだ相手が先輩受付嬢たちだったなら、きっと目がハートになっていたことだろう。
「君も魔獣の勉強か?」
私の持っている本を、興味深げに覗き込む。見ると、彼が手にしているのも魔獣の図鑑だ。
「あー、勉強もですけど、ほとんど趣味です」
「趣味?」
「私、魔獣が好きなんです。本当は冒険者になれたら良かったんですけど、そんな勇気も実力もなくて。だから、冒険者ギルドでの仕事を選んだんです。変わっているでしょう?」
「そう、なのかな? まあ、確かにあまり聞かない趣味ではあるけれど」
そう言いながらも、目元は少し笑っている。でも馬鹿にするような笑いじゃない。
「あなた――だって、魔獣図鑑を読むつもりなんでしょう?」
そう言えば、私は彼の名前を知らなかった。
先日窓口に来た時には、対応を先輩に代わられてしまったし。
「ああ、すまない。名乗ってなかったな。スティーグだ。君は?」
「フリーダです」
自分も名乗ると、彼は優しく頷いた。
「先日も言ったが、俺は冒険者になったばかりだからな。魔獣の勉強もしておかないと」
冒険者たちは、体を動かすのが得意な分、本を読んだり勉強したりするのが苦手な人も多い。
つまり脳筋タイプが多いので、彼みたいに冒険者活動の為に本を読むような人は珍しい。
「スティーグさんって、勉強家ですね」
「そうかな? まあ素直に褒められておくよ」
そう笑って言うと、邪魔をしたなと手を挙げて去っていった。
偶然の出会いに少し驚いたけれど、悪い風には思われなかったみたいで、ほっとした。
魔獣が好きだなんて言うと、大抵の人は馬鹿にしてくるのに。
いい人なんだなと思った。
お読みくださりありがとうございます。
ほんわかのんびりと話は進んでいきます。
続きは明日、よろしくお願いします(*^-^*)




