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第43話 選んだ道たち

 鈴音と小鐘が婚約発表をしてから二年。ついに小鐘が高校を卒業する年になった。

 季節は春。小鐘が『嫁入り』の形で上守に入る日が、ついに明日となる。


 この二年は、めくるめく……そう、本当に、めくるめく展開に、鈴音はまさに目が回りそうな程の日々だった。


 まずは、家族の話からしよう。家族というと、また誤解がありそうだ。訂正しよう。まずは、榊原家の話をしよう。

 海良が、男女の双子を設けた。今から半年前、海良のもとに元気な双子が生まれたのだ。都合が良すぎる。神様が何かしているに違いない、という印象だ。

 女の子の方は、鈴音と同じように、高校卒業と共に、汐さんの養子として上守家へ入る予定だ。


 次に上守家の話をしよう。

 汐さんがついに相手方の父親の説得に成功し、結婚した。お嫁さんは妊娠中で、現在八ヶ月。いつ生まれるのかと、汐さんはウキウキが止まらない様子である。

 一応今のところ男の子らしい、とのことだが、子どもは生まれるまで性別がわからないというのが世の常だ。

 子どもが生まれてきたら、汐さんは溺愛しそうだなぁといったところ。

 お嫁さんの姫花さんは、おっとり顔でズバズバ言ってくるので、これまであまり触れてこなかったタイプの人だ。

 ただ不思議なことに、私のことをすごく気に入ってくれている。よくわからないが「鈴音ちゃんは素直で可愛くて大好き」とのことだ。

 あまりべたべたされると小鐘が不機嫌になるので我慢してもらっているが、放っておくとすぐに抱きしめられたり、撫で回されたりしてしまう。まあ、険悪になるよりマシかと思い、放置している。


 姫花さんの実家は、榊原家との関係も深い。榊原家の当主の付き人は代々彼女の実家である鴻家が務めている。それ故にこれまでも付き合いのある家系だ。

 姫花さんとも、行事のときなどに何度か会って会話をしていたと思う。


 はっきり言ってしまえば、青海の町では実質この御三家が回しているという意味になる。

 一応、鴻家は他二家と比べると影響は小さく、他二家のような直接的に強い権限や特別性はないが、他二家を支える知性が求められる。


 ああ、めくるめく日々。


 そうだ、鈴音自身の話をするのを忘れていた。

 鈴音は汐の教えの元、次期神主として神職の心得や神事の進め方など、様々なことを学んでいた。

 鈴音の覚えは早く、既に汐は神主を任せても良いと考えるほどであった。しかし、特別なことがない限りは、三十代あたりで神主を交代する慣習があったので、まだしばらく鈴音は神主見習いとして過ごすことになるだろう。


 それはともかく、神子が嫁入りしてくるとなると、神前式及び町民らへ向けた、いわゆる披露宴のようなことも行われる。

 ただこの披露宴、一般に想像する宴席などとは異なり、神社で祭りのようなものを行う。

 連日準備に追われ、鈴音も汐も、更には現上守家当主の波子もすっかり疲れてしまっていた。なお、姫花は妊婦なので安静にしている。ここまで計算しているなら強かな女性だと思う。


 神子の嫁入り及び、神前式前夜。

 上守家と榊原家は最後の打ち合わせを兼ねて、会食を行っていた。


「神前式の基本的な進行は、私が行います。鈴音さんと小鐘さんは、決められた手順通りにやるべきことをやってください。手順を間違えずに、正しく儀式を行う。それだけで良いです」

「はい」

 汐の顔には緊張が浮かんでいた。青海は信仰の都合で、町民らは皆、神前式を行う。そのため、基本的には慣れたものだ。

 しかし今回は、神子の神前式なのである。寛容な神と言えど、失敗は怖いものだ。

「大丈夫、大丈夫です。何度も神前式の進行は務めていますから、お、お二人はご心配なく」

 汐の声は震えていた。大丈夫と口では言いつつ、この場にいる誰よりも緊張していた。


「落ち着いて、汐さん」

「ひ、姫花さん……」

 そしてその汐のメンタルケアをするのが、姫花の役割だ。姫花は汐の嫁として、汐の緊張が治まるよう、そっと背中を撫でた。

「あ、ああ。ごめん、ちょっと、力んでしまっていました。大丈夫です。いつも通り」

 汐は空元気といえど、全員に微笑んでみせた。


「神前式の後は、またなんというか、お祭りみたいなことをします。これは婚約発表のときと同じようなことをするだけなので特に大変なことはありません。舞もありませんし、よくわかりませんが餅投げをします」

 餅投げの理由は相変わらずよくわからないらしい。

「あれですね、なんか、そう、披露宴です。大体お祭りと一緒ですが、披露宴を行います。これはもう何も、気にすることはありません!」

 披露宴の話になった途端、汐は余裕を取り戻して笑い出した。

「舞もなければ儀式もないので、皆さん好きに飲んで騒いでくださって結構です!」

 披露宴に関しての説明はそう多くなく、その理由も、つい前年、汐も姫花の人前式と披露宴を行ったからという単純なものだ。

 さらに言えば、披露宴は神に向けたものではなく、町民に向けて行うものなので、儀式張った手順などもない。ただ町民全員で楽しむことができれば良いものなのである。


「甘酒とか、お餅とかね、いろいろと、巫女たちが準備してくれますから。まあその巫女たちも、本番では皆さんと一緒に楽しみますので、皆さんもお気軽に楽しんでくださればと思います!」

 にこにこと楽しそうに説明する汐は、はて前年の自分のことを思い出しているのか、明日のことを考えているのか。

 姫花さんは黙って笑顔のまま、汐の後頭部を軽く叩いた。

「……失礼しました。少し元気にお話しすぎましたね」

 汐と姫花の関係は概ねこのような感じで、上手くやっているらしい。鈴音はいつ見てもコントのようで面白い二人だな、と思う。


「明日はついに本番です、皆さん、頑張りましょう!」


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