爆発でばらばら
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見る角度によって多様な色を見せながらも向こうの景色も鮮明に見通すことが出来るほど透き通っている。
美に対して無頓着な人間でもこれが不意に視界に入れば取り憑かれたかのように凝視してしまうほど魅力的。
入山してから50種類以上の鉱石を目にしたが、今目の前に相対しているこの鉱石だけは別格だと直感が告げていた。
「スゲェ…綺麗だ…」
マイカの指示のもと、懇切丁寧に周囲の岩を取り除き傷つかないように細心の注意で採取に挑み苦節1時間、ようやくこの手に取ることができたのだ。
「お疲れさま、アテラ」
その間もアレタが汗を拭ったり休憩を促し水分の補給をさせるなど体力を極限まで遣わせない配慮もあってこそだった。
「メチャ綺麗でしょ?アテラちゃん鉱石取る才能もあるよー」
「これでマイカさんの弟子に…させて頂けるんですよね!」
「もち!ウチは約束守るし!てか取れなくても弟子入りさせてたし!」
「ありがとうございます!オレ…精一杯学ばせていただきます!」
「よしよーし。じゃあちょっとだけ課外授業しちゃおうか。このベリデバル鉱石は__」
「ねえ!!!!それって今やる必要ある!?!????!?!?!?!?!」
少し地面が凹んでいる場所での採取だったので仲間の声が聴こえた方に向かい頭を出して覗くと巨大な魔獣が仲間達を全員潰さんとばかりに襲いかかっているまあまあヤバイの図が広がっていた。
なお声の主はスノウ
「まあまあスノウちゃん、ただ魔獣に襲われてるだけじゃん。うわ危なっ」
そういいながらアヤネは振り下ろされた硬く黒い巨大な掌を後ろに跳び回避した。
「逆になんでこんなバカでかいのに襲われて平然としてんのあんたは!」
現在、皆が対峙している魔獣の名は溶岩巨人といい、5m程の全高がある巨体で表面が地中に埋まっている鉱石を纏っているためかなり頑強。その上、溶岩の流れている場所であれば発見される可能性のあるAランク魔獣だ。
一行がベリデバル鉱石を見つけたタイミングでマグマの中から人の上半身を模した姿で現れ、防ぎようのない戦闘が始まったのが1時間前。
最初はその巨体と圧倒的な硬度に翻弄され防戦一方だったが魔獣に関しては博識のバルが溶岩巨人の弱点を共有し、スノウが作戦を考え、シャルロッテが指揮を執ると戦いに流れが生まれた。
スピードに長けているアヤネ、カルフェ、そしてアレタのペットになりつつあるグロウリーが全面に押し出て腕を振り落とす行動を誘発させる。
成功したらその手からリント、バル、シャルロッテ、セラットが胸部に駆け上がり最大の一撃をパナす。
「核みっけ!ここ!」
溶岩巨人の中心、人間のみぞおちに当たる部分。
その中に真紅にきらめく綺麗な球体をセラットが見つけた。
「出番よシフラ!」
「了解」
スノウとシフラはお互いに背中を合わせて大気中のマナを自分達に呼応させる。
先日、オルトノに向けて放った2人の合体魔法を再び放つために。
「内に眠る未知の可能性に命ず。我に仇する全ての愚者に懺悔の時を与えなさい。【懺悔の氷】」
「汐の導き、満る月に祈る。我が道を阻む愚者に愛しき海の力を示せ。【人魚の口遊び】」
詠唱が完了し、発動可能状態に移行すると高温の空間が一瞬だけ冷えた。
その異常事態に気付いた溶岩巨人が逃亡を図る。
「「【極嶺水氷】」」
もう遅い事に気付くことさえ無く、合体魔法により具現化された氷纏う人魚がふっと息を吹くと糸にも満たない銀の光線が放たれ溶岩巨人の核を撃ち抜いた後、身体全身とそれに接着しているマグマが氷に覆われた。
「は゛ぁ~…何か本当に疲れた…」
戦闘を終えて体の力が抜けたスノウは誰よりも早くその場にふにゃふにゃと座り込んだ。
「スノウ、大丈夫?」
シフラも腰を下ろすが尻は地に着かずスノウに目線を合わせる。
「ええ。というかシフラは大丈夫なの?」
前回もそうだったが【極嶺水氷】ほどの力を放てる程、スノウは持ち合わせていない。
「私は…ちょっと疲れたけど大丈夫」
仮にスノウが2人いて合体魔法を放ってもオルトノはおろか、溶岩巨人を仕留める事は正直に言ってできないだろう。
川で流れていたシフラを引き入れてから約1ヶ月程経つが素性を未だに知らない。
旅人のようにも見えないし戦闘経験もないただのミステリアスな少女。
だが内に秘めている力だけを見れば今、この場にいる者の誰よりも強大だと合体魔法を共に放ったスノウだけが理解している。
「…シフラ、正直に教えて。あなたは__」
襲うは激しき地面の揺れ。
言葉は遮られ姿勢も必然と崩れた。
「おい!溶岩巨人が!」
バルの声で一行が溶岩巨人に視線を向けると活動を停止してマナストーンになるはずだった亡骸に銀に輝く光が所々から漏れ出している。
「まさかマナストーンごと撃ち抜いたのか!?」
「なあなあバルこれやばいだろ!」
「あら、まさかこんなところでお目にかかれるとは…」
焦るリントに冷静に事態を観察するシャルロッテ。
そしてバルが叫んだ言葉。
「やばいぞ!全員逃げろ!魔力爆発だ!!」
その言葉を疑うこともなく全員がそれぞれ近い場所にある通路と呼べるかも怪しい洞穴へ咄嗟に3組に分かれて走り数秒が経った頃合い
それが起こる。
轟音、次に衝撃、爆風、そしてまた轟音。
「くっ!【凍地形成】!」
少しでも魔力爆発による被害を減らすためにスノウは無詠唱で速度を重視した氷の蓋を後ろに形成し道を塞ぐことで衝撃を大きく減らすことができた。
この洞穴に逃げ込んだのはスノウ、リント、アテラ、シフラの4名。
「はぁ…はぁ…なんとか助かったな」
爆発の影響が弱まったことを感じ、足を止めたリントが息を切らしながら呟いた。
「私たちが飛び込んだ所はあまり高低差がなかったから道に蓋をしたけど…みんなは大丈夫かしら」
洞穴に入る直前にバル、シャルロッテ、カルフェ、マイカの組、アレタ、アヤネ、グロウリー、セラットの組で分かれたのを最後尾にいたリントが確認できたが無事であるかどうかは不明だ。
「俺が見た感じだとバルとその友達にマイカさん。残りのアレタ達は同じとこに飛び込んでた」
「マイカさん達なら慣れてるから大丈夫だと思うぜ。不安なのはアレタ達だ」
「溶岩巨人が出る前に色んな穴を覗いたけど、あたし達以外の穴は少し高低差があって広い場所に繋がってたから爆発の影響はない…と…おも……」
言葉が途切れ途切れになったかと思えば力なく体が揺られ最後には膝から崩れそうになったところでリントがそれを支えた。
「シフラ!おいシフラ!」
「ごめんなさい…ちょっと体が…」
そう言い残すと完全に体から力が抜けたため、リントにはさらに重さがかかる。
「無理もねえ。スノウみたいに根っからの魔法使いじゃねえのにあんなドデカいのぶっ放してんだ。それにこのクソ暑い環境は人魚のシフラにとっちゃオレ達以上にキツイだろうよ」
一度シフラを地面に寝かせて自分の上半身の衣服を脱ぐ。
「え…どうしたの急に?」
「こんな硬え地面に女子…特にシフラみたいな普通の女子直接寝かせるのもダメだろ」
リントの服装はいつでも脱ぎやすいように基本は薄着だ。
地球から来ているインナーの上にハーモラルでは流通数の多い革で造られた軽くて丈夫な冒険者御用達の衣服を好んで着ている。
それらを折りたたみシフラの後頭部にクッションとして差し込む。
「スノウとアテラはここでシフラを見ててくれ。俺ちょっとこの辺の安全見てくる」
「…そうね」
「おう。任せとけ」
「さっきの爆発の影響かは分かんねえけど、どっかが崩れたりする音がちょくちょく聴こえる。俺1人なら身軽だし多少の無茶はできるから大丈夫。もし1時間経っても帰ってこなかったら俺を置いて動いてみんなと合流してくれ。じゃっ」
躊躇いもなく背を向けて奥へと進むリントの背中を見て、スノウは思った。
『一緒に来い』とか『頼りにしてる』って言ってほしかったな
そんな想いもつゆ知らず奥へ進み続けて数分が経った頃、明らかに自然現象では起き得ない金属音が耳の中に入ってくる。
ナフィコのあのジャルザン騎士学校の優等生とはいえまだ未熟な子ども。
そう思っていたが予想がいい方向に裏切られると気分がとても楽しくなる。
「身体が衰えているかと心配していたけど…杞憂だったようね」
「当たり前だろバカ。むしろ調子は良くなってるぜ」
「ちょっと!もっと言葉遣いを考えろっての!」
魔力爆発に追われて飛び込んだ先の穴はかなり高低差が激しい場所。
だけどこの子達は階段を降りるみたいに簡単に着地した。
バルっちは退学してるっぽいけどシャルちゃんもカルちゃんもかなり出来る子だね。
「来た道は崩れちゃったしとりあえず合流だねー。みんな動けそ?」
「問題ない」
「私も」
「アタシだって!」
マイカは3人の少年少女の返答と目視で身体のコンディションを確認し行動可能と判断。
そしてまず一歩踏み出した。
「よーし行こ_」
まず一歩を踏み出すと他の場所へと繋がっているであろう曲がり角から10人はくだらない集団と遭遇した。
それだけなら珍しくもない。
特に今は鉱石採取に勤しむ冒険者や同業者も多いし何度かすれ違ったり遠くの方向に見えたりもした。
あり得ること、珍しくない、ただこの遭遇した人間は少しだけ違う。
全員が黒を基調としたローブを纏いながらも先頭の見上げる程の高身長な人間はとある国の所属ということを示す特徴的なマークが刻まれていて目元が隠れている仮面を付けている。
その国というのがなかなか厄介な国なのだ。
「アヴェダレオ…!」
マイカの漏らした一言でバル、シャルロッテ、カルフェに緊張が生まれ、一瞬で戦闘態勢へと動かされた。
アレタ、アヤネ、セラット、グロウリーの3人と1匹は幸運にも飛び込んだ穴から道なりに進むと外へと通じる道を見つけいち早くベリダバ山からの脱出に成功していた。
「下っていけばマイカさんの採掘拠点に着きそうだね!」
「いやー案外簡単ラクに出られたね。助かる助かるぅー」
「セラットさんがいなかったらもっと時間がかかってましたよ」
ラクに出られた、とセラットは言っているがアレタやアヤネから見れば全く違う。
「無茶してもアレタくんが治してくれるって分かってたからだよー。やりやすかったぁ」
ここに至るまでに遭遇した魔獣はEからCランク9匹、Bランク4匹とリント達がいたとしても少し手間になるであろう戦闘も傷一つ無くスムーズに終わらせていた。
「道は確保できたから…」
アレタは自分のカバンから木の実のような物体を取り出すとそれを地面、岩、壁に擦り付け初めたのでアヤネが尋ねる。
「それは?」
「グベッタの実さ。結構特徴的な匂いがあるから…グロウリー、この匂いを覚えて」
主の命を理解したグロウリーはグベッタの実を擦り付けた場所の匂いを嗅いだ。
「ぐぅぉんっ!」
帰路の確保に成功したアレタ達は分かれた仲間達との合流を目指し踵を返す。
自分とアヤネの戦闘力が仲間達の中でも下の方だと理解しているため特に慎重に。
これはかなり芳しくない状況だ。
先程のどこかで発生しら爆発の影響で足場が崩れてしまい鉱石を採掘していたミイナとソフィアを残して地下へと落ちてしまった。
「くっ。それにしても数が多いな」
上へと繋がる道を探していると魔獣の巣窟に踏み入れてしまったようで即座に魔獣に囲まれてしまい四方八方どこにも逃げ場がない状況。
単体では取るに足らない炎ダンゴムシも数があって統率が取れているのなら明確に死角を突いてくるようになるためBランク程度まで脅威度は跳ね上がるだろう。
それに加えて地面、壁、天井を縦横無尽に跳ね回る球体と化すこの魔獣に対して大型のバトルアックスを武器として使う私とも相性が悪い。
前方は一掃できても確実に背面、上方のいずれかのダメージは受けてしまう。
(ミイナとソフィアも心配だ。状況がわからない今、あまり身体に負荷をかけるのは得策ではないが…仕方ない)
前方から襲い来る炎ダンゴムシを薙ぎ払うが背面のダメージは甘んじて受け入れるしかない。
決断完了、自分だけが扱える創案魔法を使用。
身体の周りを金色の輝きが覆うとそれらがまるでドレスの様な形を取る。
「__光纏いし…」
ドレスの実体化を初めかけた途端、第三者が介入し背面に迫っていた数匹の|炎ダンゴムシを弾き飛ばした。
「誰だっ………?」
魔法の発動を止めて振り返ると少年が背後を守ってくれるかのように拳を構えていた。
何故か上裸で
(この少年は確か…!でも何故上裸なんだ!?いや常に上裸で過ごす男の冒険者もいるはいるが下半身は一般的な冒険者の履物に見える…暑さで頭がやられたのか?)
「おいあんた!大丈夫……か…?」
何この女?どういう格好だこれ?
(ビキニアーマーだったっけ?こんなんスマホゲーのキャラでしか見たことねえぞ。下もスカートなのかこれ?明らかに肌の露出多すぎだろ?もしかして暑さで頭がおかしくなったとか?)
「………」
「………」
おそらく悪人ではない。
2人ともそう直感が告げている。
だがお互いの格好のせいで思考が数秒完全停止。
どむっ
炎ダンゴムシが弾む音で思考より先に身体が動いた。
レリスは一番先に跳んできた一匹を斧であえて切らず、当てることにより打ち飛ばして後続の炎ダンゴムシもろとも吹き飛ばし、少年は向かってくる個体を一匹も取り逃さず淡々と拳で打ち返すとあまりの速度に全匹が硬い壁にめり込んだ。
その様子を見て戦力差を感じた残りの炎ダンゴムシは生存本能により撤退を選択。丸まって跳ねたり転がったりで我先にと逃げていく。
「ふう。終わったな」
「助太刀、感謝する。おかげで疲労せずに済んだ」
「いいって。流石に見ちゃったら無視できねえもん。俺は__」
「ヒナタ・リントだろう?」
考える素振りや迷いもせず少年の名前を当てた。
こんな痴女みたいな格好の女にも名前知られてるんだ
「お、俺の名前もすごい売れてんのか?」
「昨日の紹介場でのリッチリンとの騒ぎを見ていた。あのリッチリンを一発で沈めるなんて並大抵のことじゃないからな。それに私と同じ記事にお前も載っていた」
「記事ぃ?」
あ、思い出した。
昨日の金髪男沈めた時に読んだやつか。
「そういえばお前の顔もあの記事に乗ってたな。確か名前は…」
「レリス・フェイルだ。金の星空のギルドマスターを努めている」
「あーそうそう。よろしくレリス。ところで4人くらいで動いてる集団を見なかったか?仲間とはぐれちゃってさ。あと銀色の狼とか」
「すまない、いずれも心当たりがないな。質問を返すようで悪いが気の強そうな茶髪の女子と少し気が弱そうな黒髪の女子を見ていないか。さっきの爆発の影響で仲間とはぐれてしまったんだ」
「うーん。俺はどっちも見てないなぁ」
ここに来るまでに人っ子一人見ていない。
「そうか…なあリント・ヒナタ」
「リントでいいよ」
「ではリント、お前もこれから仲間を探すのなら私も同行させてくれないか。今、ベリダバ山は爆発の影響で魔獣が興奮してかなり危険な状況になっている」
うっ、そんな状況になってんのかよ…申し訳ねえ…
「無闇矢鱈に戦闘をして体力を減らしたくはない。もちろん後ほど謝礼は……」
「いらねえよ。俺だってレリスみたいな強いやつが協力してくれるなら心強いし」
「ありがとう、感謝する」
「こっちこそ。その前に俺の仲間が休んでる場所があるからそこで情報交換とかしよう!」
リントが前を歩きレリスをスノウ達が休息を取っている場所へと案内を初めた。
ここ数日、この山を歩いたといえ爆発の影響で地形が変わり生息している魔獣の危険度が上昇している今は力のある者と組んだ方が楽になる。
それにリントからは普段から孤児院で接している幼子のような純粋さを感じ、どことなく庇護欲のような物も湧いてしまう。
そう思いながらレリスは少しだけ安堵してリントの後に付いた。
「ところでその格好なに?場所が場所なら捕まるぞ」
「…今は答えたくないな」
やはりただの阿呆なのかもしれない




