悲願、欲、利、仲間
レオードの目に映る全ての物が輝いている。
比喩でも誇張でもなく、地面から天井に至る全てが満天の星空のように綺麗に、美しく、そして優しく輝いていた。
その辺りに石ころのように転がっている鉱物ですら鍛冶師にとっては価値があるものだと言うがここまで無数に転がっているとそれが当然の景色だと認識してしまい途中から興味をなくす。
道中で一際輝く鉱石を何度か見かけたが採取されていない事を考えるにここまでたどり着いた者は未だにいないのだろう。
「ここまで深い所だと溶岩とかないんだね。途中はたくさんあったのに」
「…最深部だけは特別です。この最深部だけは様々な事情…いいえ。ある魔獣の残滓により自然現象が少々おかしいことになっております」
今回の依頼主である従者兼協力者が冷静に解く。
「ははーん。だからさっきからたまに地面の石が天井に上がってくんだ」
足元の鉱石が投げつけられたかのように勢い良く天井へと打ち上がるのも、ランクの低い魔獣が異様なほど強くなっているのも、そのある魔獣のせいだ。
「失敗する気はしないんだけどさー。メルトちゃんホントに大丈夫なの?」
そのある魔獣とかつて戦い引き分けに持ち込んだとのウワサがあるメルトという黒髪の女性に話を振る。
無論、己の力に不信があるわけではない。
むしろ突然アヴェダレオに現れて急に同行をさせろと言われて着いてきたメルトの方に不信がある。
いくら300年前に滅んだ時渡りの国の末裔であるセトクル族の血筋を引いているとはいえ彼女の戦闘能力の方は知らない。
「断言できるわ。依頼主の目的は絶対に果たせる」
「そうかそうか。ならいいや。エンヒもいるしマリーナちゃんも手伝ってくれるなら失敗はないね」
「でも一つだけいい事教えてあげるわ。あなた、肝心な場面では役に立たないから」
「ははっ、まるで見てきた様な言い草だね。もしかして君、本当に時を渡ってやってきたんじゃないかい?」
「…想像にお任せするわ」
「ま、それでもいいよ。しっかり仕事をこなしてちゃんと報酬持って変えれば魔王サマも喜ぶでしょ」
途端に仮面を付けて顔を隠しているエンヒが歩みを止めて顔を上げた。
「どうしたんだいエンヒ。目的地はまだ下だよ」
「………」
ただただ何も言わず、そして何かを感じ取ろうとするかのようにエンヒはしばらく地上の方向を見上げていた。
俺の名前はラク・タノシー。
どうやら今、このアヅラタンという国では多くの冒険者が集まっているらしい。
ベリダバ山という山に鉱石がたくさん取れるお祭り騒ぎが起こってるからだと俺は聞いた。
人が集まるということはそれだけ俺らの行動理念とする食が活性化するということだ。
「ラク、最近ずっとこの山に来てるガ、ホントにこんな山にワタシ等が唸るご馳走がアルのか?」
旅の途中で出会った仲間…ではなくたまたま食の好みが似通っていたから自然と行動を共にするようになった東洋の出の同い年の少女、キ・レンが自分の行動に疑問を呈する。
「間違いないって。俺やっと見つけたもんめっちゃ美味そうな食材。レンの口に合うかは分からないけど。俺達の好みだ絶対アレは」
「ラクの美味そうなら信頼できるネ。他の二人とは好みが真反対すぎて理解できないアル」
「人には人の好みがあるだろ。まあ俺もカナイ達とは舌が合わないけど」
「でも前にこの山でつまみ食いした時はなんとも言えない普通だったヨ。そろそろ美味な物が食べたいネ」
「多分、そこそこ地下だと思うんだよなぁ。ご馳走目指してがんばっぞ!」
「アイヤー!」
至高の味を求めて2人の少年少女はベリダバ山の地下を目指して歩き続けた。
足りない。
当面は凌げはするだろうが安定と言うにはまだ足りない。
急逝した先代ギルドマスターが残した財産がまだ残っているうちに自分達でもしっかりと経営を安定させられる様に稼がないと。
「見てください姉さん!この鉱石結構高値で売れるやつっすよ!」
「レリスお姉様!こちらにまだ手を付けられていない空間を見つけました!少し覗いたのですがかなりの鉱石が見えました!」
「ありがとう、ミイナ、ソフィア。今日はかなりの収穫だ」
唐突にギルドとそれに付随する孤児院を継ぐことになった自分を熱心に支えてくれている妹分の部下達がとても嬉しそうに鉱石や情報を得て報告してくれる。
「アヅラタンに来てからだけでも当面の間、子供たちが食うに困らないくらい額は稼げている。これもお前たちのおかげだ。ありがとう」
「そんなことないっす!姉さんが魔獣を倒してくれてるからウチとソフィアが鉱石掘りに専念できるんですよ!」
「ミイナちゃんの言う通りです…レリスお姉様がいなければとても…」
「逆だ、2人みたいに手先を上手く動かせないから鉱石を不必要に傷つけてしまう。私は器用な方じゃないのは知ってるだろう?」
これは事実。
幼い頃から不必要に力を込めてしまったり扱いが杜撰だったりと丁寧さを求められる作業はかなり苦手なのだ。
だからこそミイナとソフィアが私にとって欠かせない。
「姉さん…!」
「お姉様…!」
「さあ、もう少しだけ頑張ろう。そして宿に戻ったら今日は少しだけ奮発して一枚肉でも食べるか」
「はい!自分、一生姉さんに着いてきます!!」
「私も!お姉様にお供いたします!」
「いやそこまでしなくとも……」
かつての自分が先代のギルドマスターに向けた目を思わせるような尊敬の眼差しを向けられた。
(なるほど、あの時あの人はこんな気持ちだったのか…)
ではそれには応えなければいけないな
まだまだ未熟とはいえ先代より継いだこの金の星空のギルドマスターという称号を地に堕とす訳にはいかず。
それにメンバーを纏めるだけではなく孤児院で抱える幼子全員が働ける歳になるまでは育てなければ先代に合わせる顔がない。
今のレリス・フェイルには多様な種類の力が必要なのだ。
きらきら光ってる鉱石がある。
マイカから借りた採掘道具を使って周りの地面を削ったり割ったりしてたら手に取れるようになった。
「俺って案外採掘の才能あるんじゃね?」
「お前にその才能あってどうすんだよ」
少し自惚れたリントに鋭く返すバル。
昇る太陽一行がベリダバ山に到着すると早速、近くの洞窟から山内へと入った。
洞窟に入ってまだ15分と経っていないのに存在感を放つ鉱石が視界のどこかには必ず入ってくるため非日常感と採掘やってみたい欲に抗えずにリントとアヤネとシフラ、そしてあわよくば金銭に変えようと考えているセラットが既に多少の鉱石を懐に入れていた。
ちなみに麓にマイカの採掘拠点があるのでそこにダリオルや大きな荷物は預けたので山内では軽々と行動できる。
「マイカさん、ベリデバル鉱石ってのはどれくらい下で掘れるんですか?」
「そだなぁ。溶岩とか流れてる所で見つかるかなって感じだけど…あれ?」
珍しく敬語を使ったアテラがマイカと話していると奥の方から電車一両分の大きさはある魔獣3匹がのそりのそりと姿を表した。
四足の赤い皮膚を持ちながら口内からは炎が少し漏れ出していて、トカゲというよりかはもはや竜に近い。
「火吹きの偽竜か。なんか懐かしいな」
「うわぁ!なんかキモイ!」
「おっきなトカゲ!なんか燃えてて可愛い!」
カルフェとアヤネが正反対の感想を口に出したところでアレタが少しだけ過去に思いを馳せた。
「思えば、この魔獣が僕とリントくんを引き寄せてくれたんだっけ」
リントが再びハーモラルを訪れた翌日にリハビリと称してセンタレア付近の魔獣にちょっかいを出していた時、この火吹きの偽竜に追いかけられているアレタと出会ったのだ。
「そうだったな。あんときはちょっと技使ったけど今なら……」
正面の1匹がバスケットボールほどの大きさの火球を勢い良く吐き出す。
それを皮切りにその後ろにいた2匹がリントを初めとする11人と1匹を潰そうと飛びかかった。
火球は吐き出しと同時に動いたリントが蹴り上げて天井で爆ぜさせると同時に距離を詰めて一発の中段突きを真正面からぶつけて派手にぶっ飛ばすと戦闘体制を崩す。
残った2匹に関しては何も心配していない。
きっと、もう既に仲間が対処を終えているから
「さ、そろそろ進むか」
軽く後ろを向くと氷漬けにされた一匹一刀両断された一匹の亡骸、一刀両断された一匹の亡骸がちょうどマナストーンへと姿を変えている途中で信頼している仲間が期待通りの行動をしてくれていた。
「さっさと鉱石取って帰りましょう。暑くて溶けちゃいそうなの」
「俺もとっとと出てぇな。色々と居心地が悪くて悪くて堪らねえ」
歩みを進める。
着実に、少しずつ、力を付けていることを実感しつつ多少の興奮と楽しみを胸に抱きながらリントは仲間を連れて奥へと進んで行った。




