何故か集い始める者達
「紹介場…すげえ混んでんな」
マイカからベリデバル鉱石の採集依頼を受ける事にした昇る太陽一行は出発に備えるべくメンバーのそれぞれが各々が必要とする場所へと向かった。
その中でもリント、アレタ、バルの男3名は情報収集のため最寄りの紹介場へと足を運んでいた。
「アヅラタンといえば鍛冶。鍛冶といえば武器。冒険者だけじゃなく傭兵やフィールドワークをする学者にもアヅラタンで造られた武器は重宝してるんだ。だから紹介場に採掘して持ってきた鉱石や宝石を持っていくと高値で買い取ってくれるし冒険者のランク査定のプラス要素にもなるからそれで生計を立ててる人もいるらしいよ」
「確かに理に適ってるな。こんな馬鹿騒ぎが毎日起きるんなら飽きることもねえだろ」
バルが見ている先には今にも殴り合いが始まりそうな冒険者同士の睨み合い。
一触即発な雰囲気を茶化す者、心配して宥める者、賭けの対象にする者など治安の悪さなら今まで見てきた紹介場の中でもぶっちぎりで一番だ。
「おー、やってるやってる。こっちのケンカは派手だグファッ!?」
喧騒の方から目を逸らしたとリントの額にヒートアップして投げられたであろう飲み物が入ったグラスが直撃する。
「リントくん大丈夫!?」
「はっはっは!綺麗な直撃だったなオイ!」
「くっそ…ぶっ飛ばすぞォラ!」
ずかずかと人混みを割って入ると足を組んでふんぞり返っている自分の事をイケてると過剰に評価してそうな鼻につくじゃらじゃらと豪勢な装備の金髪ロン毛男とみずほらしい格好の小さな男が睨み合っており、今にも暴力が起こりうるだろう。
「まったく…今日はツイてないね。こんな見窄らしくて暑苦しい男に囲まれるとは」
「「あ゛ぁ!?」」
リントと金髪ロン毛のケンカ相手である男が同時に凄まじい気迫で迫った。
「テメエこの野郎…まずはグラス投げてごめんなさいだろうが!」
「謝れよ!俺のリーダーをバカにしやがって!」
全く違う意見でブチ切れているのは第三者からしたらすこし面白く見える、そう思ったバルはくすっと笑った。
その中で聞き覚えのある声だったのでリントは同じ様に怒鳴った男の顔を見る。
「お前…イッスか?」
「リ、リントさん?」
なんとそこにいたのはリントが1人でハーモラルに訪れた数ヶ月前に初めて出会った冒険者の1人だったのだ。
「久しぶりだな。元気だったか?」
「はい!リントさんこそお元気そうで!」
「こんなとこで何してんだ?イッス達もベリダバ山で鉱石掘りに来たのか?」
「そうなんすけど…実はリーダーが…」
「ちょっと君達、話すのは構わないけど僕の前からは消えたまえ。それができないのなら手荒にはなるが…」
立ち上がり腰に備えている剣を抜く。
口先や態度だけでなく剣に手を置いた途端にそれなりの強さを感じさせる緊迫感が生まれた。
が
瞬間、リントの右拳が即座に金髪ロン毛の顎を高速で打つ。
「あ」
当人も意識していなかったようで「やっちまった」という意の声が漏れると金髪ロン毛は白目を向きその場に崩れ落ちた。
「ごめん!あ、でも先に得物触ったのそっちだからな!」
体を揺らす、無反応
頬を叩く、無反応
息、反応あり
じゃあ大丈夫か。
「おいマジかあいつ…リッチリンを一発で沈めやがった…」
「すげえ勢いでAランクに駆け上がったって噂だぞ…それをたった一発かよ…」
程なくして取り囲んでこの一連の流れを見物していた者達が話し始め紹介場全体がざわつく。
その中でも2人ほどリントの力に興味を持つ者がいたことは誰にも気付かれていない。
「あの顔…あいつ昇る太陽のギルドマスターだ!間違いねえ!ミガレユノでダディオの依頼を受けてたんだ!」
「昇る太陽…ちょっと前にあったシンヘルキの事件とこの間のキャナリ村の温泉問題を解決したって噂のギルドか…ギルドマスターはまだ若いガキってのは聞いたが本当にガキじゃねえか!」
「え?何で顔バレしてんの」
「依頼をこなしたり目立つようになると紹介場の記者が気付かれないようにヘンな魔道具を使って絵に描いたみたいに精巧な姿が紙に出るんす」
イッスが言う魔道具はカメラみたいなものだろうか。
魔道具ということは地球の機械がたまたま持ち込まれたということはなさそうだが。
「そしたら記事を書いて紹介場に張り出すんすよ。リントさんの事は離れた場所にいても時々記事が出てたっすから。ほら、あそこにも」
またまた人混みを割ってイッスが指さした掲示版の前に立ち自分の顔が映っている記事を目をかっぴらき凝視しながら読む。
「なになに…今最も勢いのある新人冒険者達か」
厳密にはブランクあるとはいえ新人ではないが一旦置いとく。
その記事には冒険者として活動を始めてから1年も経っていない複数人の将来有望な冒険者がまとめられていた。
「金の星空のギルドマスター、レリス・フェイル。直近の活動実績であるAランク魔獣沼地の水龍討伐を契機にDランクからAランクへの異例の昇格。他にも先代から受け継いだ孤児院経営等の幅広い社会貢献を行っており慈母の戦乙女とも呼ばれ親しまれている…ふーん」
結構美人だな、次
「昇る太陽のギルドマスター、リント・ヒナタ。シンヘルキにて発生していた通称”親攫い事件”を2人の仲間とともに解決後、昇る太陽を結成。ミガレユノにて紹介場の重要スポンサーでもあるダディオ氏の依頼を遂行した後、先日キャナリ村の源泉を占領していたAからCランクの魔獣を討伐、駆逐し再びキャナリ村に温かな温泉を取り戻すなど彼らが経済的に起こした影響はとても大きいだろう、か。へへっ」
あ、次にそこで倒れてるロン毛いる。
「ほー。こりゃお前も売れる訳だ」
背中からバルとアレタが記事を覗いていた。
「少なくとも…もう情報どころじゃないね」
振り返ると多くの冒険者がこちらを見ていた。
この状況では聞くものも聞きにくい上に有力な情報が出てもこの場の全員に筒抜けだろう。
「…出るか」
とても落ち着きとは真反対の雰囲気に耐えきれずに紹介場を退出。
とりあえず歩きながらリントがイッスに話を聞く。
「んで。イッスさっきリーダーがって言ったよな。アッス達がどうしたって?」
「はい、リントさんの言った通り俺達も資金稼ぎで鉱石を掘りにきたんす。最初のうちは順調だったんすけど変な連中と遭遇したと思ったら一瞬でリーダーとウッスが倒れて…」
「うーん。冒険者同士が出会って小競り合いになる話はよく聞くけど…その流れだと違いそうだね」
アレタは冷静にイッスの話を聞き考える。
「俺だけは攻撃されずに奴らはこういったんす。あんまり興味ないしいらないから連れて帰れって」
「邪魔になりそうってのは採掘のことか?」
「わかんないっす…でも鉱石とか取ってる様子は無かったっす。紹介場で色んなやつに聞いても知らないって…」
「なーんか、きな臭えな…」
バルに何かの予感が走ったようで顔をしかめた。
「そいつらの目的が何なのか知らねえが俺達だってぶつかる可能性がある。出来る限りの準備整えて慎重に行くぞ」
「僕も薬を増やしておくよ」
「ベリダバ山の中には魔獣だってうようよいるが…お前の薬があるなら俺やリントも戦いやすく__」
「見つけたぁぁぁぁぁぁ!!!」
突如轟くバルの言葉を遮る怒号にも似た大きな声。
そちらを向くと小柄な少女がこちらに全力で疾走中。
「バカアニキぃぃぃぃぃ!!!!!死ねえっ!!!!」
そして高く跳び上がり腰に備え付けている剣を抜きバルへ襲いかかった。
バルも見ているだけでなく背中の大剣を抜き少女の剣とぶつかりあった後に少女は少し下がった場所に着地した。
「おいおい、なんでお前がアヅラタンにいんだよ。しっかり学校行け」
「その学校関連でここに来てんの。まさかバカアニキを見つけるなんて思ってもなかったけど」
バルとバルと同じ様に赤い髪を持ったサイドテールの少女の両人が剣を納める。
「なあこの子誰?」
「妹だ。前に俺の家で喋ったろ」
「あー。言ってたなそういえば」
リントが以前ナフィコでバルと出会った際に少しだけ話題に出たのを思い出した。
つまりこの赤髪ちんちくりんガールがバルの妹。
確かに目付きとか似てるし髪色とかモロだな…
「てかさ!勝手に学校辞めるって置き手紙だけ残して消えんな!」
「ちゃんとジャルザンにも退学届出してきただろ」
「あんな適当な退学届受理されるわけねーだろ!てかきちんと手渡ししろ!先生の靴箱に入れんな!」
「…お前結構無茶苦茶だな」
人生をのほほんと生き、興味ある分野以外何も関心を示さないリントですら流石にバルを白い目で見ており、仲間の中でもかなり優しい部類のアレタも子狼のグロウリーと共に引きつった目をしている。
「ほら、とっとと帰るよ。今なら学校もまだ許してくれるかもしれないし、アタシも頭下げてやっからさ」
「嫌だな。俺ぁもう戻んねえよ学校になんざ」
「はー?アンタ学校辞めた途端に頭おかしくなったの?アンタのせいでただですらアタシの評判悪くなってんだけど?いいからとっととナフィコに帰るッ!」
「まあまあ落ち着けって。ほらせっかく久しぶりに会ったんだから兄妹仲よ_」
「つーかアンタがウチのバカアニキ連れ出したんだろ?何様のつもり?アンタ」
言い合いで埒が明かないと感じたリントが割って入ろうとするが強い目付きで下から睨まれる。
「だってバルと目的一緒だったし。それにこいつは背中を任せられるくらい強え」
「へえ…だったらアタシがアンタをここでボコにして無理矢理連れて帰るよ。こう見えてもバカアニキには試合で負けたことねえんだ」
突如張り詰めた空気をバルの妹が生み出す。
それに対してリントは構える仕草すら見せない。
「おやめなさいカルフェ。その御方、かなりの手練です」
荒々しい言葉遣いのバルの妹とは異なり、落ち着いた丁寧の口調の淑女が歩きながら声をかけた。
「げっ。お前まで来てるのかよ…」
その淑女を見た途端にバルが苦虫を噛み潰したかのような苦い顔を見せる。
淑女はバルが初めて会った際に着ていた制服を纏いながらも体全身から発せられる育ちの良さがにじみ出ており、誰がどう見ても一目瞭然のお嬢様だろう。
ただやはり騎士学院の生徒、腰に備えている剣はバルの妹が身に付けている剣とは数段グレードが違い、佇まいからは強者の格を感じられる。
「お久しぶりですね、バル」
渓流の様に美しく流れる長い黒髪をはためかせつつ淑女はバルの前に立った。
「なんでお前もいるんだよ。シャルロッテ」
何も知らない人間がみれば目付きの悪い赤髪の不良と学校一の優等生が睨み合っているように見える。
「あら、もうシャルとは呼んでくれないのかしら?」
「お前が呼ばせてたんだろうが。人で遊びやがって」
「ちょっとバカアニキ!アンタなんでシャルロッテ様とそんなに親しげなワケ!?」
「落ち着きなさいカルフェ。バルとは個人的に深い親交がありましてよ」
「深い親交…まさかあの噂って!?」
「さあ?バルに聞けば分かるかもしれませんよ?」
「めんどくせえ…付き合ってられねえな。他行こうぜ」
「いいのか?友達と妹なんだろ」
「いいんだよ。ナフィコに戻ればいつでもいる連中だ」
バルがかなりくたびれたようでマイカの工房に戻る事に。
ただ、誤算があったとしたら…
「なんでいるんだよお前ら…」
シャルロッテ、そしてバルの妹のカルフェがマイカの工房にいたことだろう。
「シャルちゃんとこのお家はうちのお得意様なんだよねぇー。パパさん元気ー?」
リビングから少し離れた台所からマイカの声。
「はい。前回、マイカ様に依頼した剣を休みの日は日中眺めております」
「あはは。ちゃんと振ってほしーけどね」
ちなみにイッスは仲間の看病のために宿泊している宿に戻っていった。
「んで、スノウは昔のお友だちと再開か?」
「勝手に着いてきたのよ…」
「どもどもー!スノウちゃんのお友だちの冒険者でっす!名前はセラット!ま、気軽にセラって呼んでよ!」
今度は青髪でショートカット、左手には円形の盾、腰にはレイピアを備え付けていることを考えると一番オーソドックスな冒険者と言える。
「君がリントくんかぁ!うちのスノウがお世話になってるよ!」
かなり活発な性格のようでセラットはリントへ馴れ馴れしく近づいて肩を強く叩きながら眩しく笑う。
「酒臭っ!」
小学生時代に近所の公園にいた変な老人を思い出すくらい酒臭さを除けばいい人
「君も飲むー?」
…だと思う。
「どう?準備終わった?」
マイカは3人増えた客人に対して飲み物と茶請けの菓子を出して椅子に座り茶を啜った。
「俺ら男組はそこそこ情報かな。特に山の中で人に襲われたって話を俺の友達から聴いたから少人数の行動は控えよう」
「私たちは買い出しね。とりあえずはみんなの欲しい物は全部揃ったわ」
リント率いる男子連中は情報を、スノウ率いる女子達はケガを負ってしまった時用の治療薬にメンバーのそれぞれが欲している物の購入、特にアレタが薬の調合に必要なものを多く希望したのでかなりの大荷物になってしまった。
「ありがとうみんな。すぐに作業に入るよ」
「あまり根を詰めるなよ」
「大丈夫。まずは自分の体調管理が薬師の基本だからね」
バルの心配を笑顔で返すとマイカの工房の庭に駐めた荷車へと戻りアレタは作業に入った。
「さーて!リントくん達は準備万全っぽいけど…シャルちゃんどーする?もし手伝ってくれるなら注文の品、ちょっとサービスしてあげるよ?」
「あら、私もちょうどこれからに備えて体を動かしたいと思っていましたの。それに…」
「それに?」
「不甲斐ない元不良生徒のことも心配ですもの。カルフェ、着いてきてくれるかしら」
「もちろんですシャルロッテ様!バカアニキなんて火口に突き落としましょう!」
「けっ、今でも俺のことが心配かよ。相変わらずお人良しだな、シャルロッテ」
「そう思うなら私のもとへ戻りなさい。あなたを理解しているのはこの世界では唯一、私だけ」
バルとシャルロッテ、2人から感じる並々ならぬ過去の因縁(?)に特にアヤネが興奮しながらスノウに小声で語りかける。
「あの2人って絶対過去に付き合ってたよね!よね!!」
「少なくともただの学友ではなさそうね。ジャルザンの華とまで呼ばれたシャルロッテさんがまさかバルと…」
「一度は道を違えて離れてしまった2人、運命的にも道は再び交差してしまう…!」
あとシフラも密かに、そして地味に出会ってから初めてこんなにテンションが高い様子を見た。
「なかなかおもしろそうになってきたじゃ~ん!よし!あたしもベリダバ山行っちゃおう!!」
こうして昇る太陽の面々に加えバルの妹のカルフェ、それに元学友で深い関係性があるシャルロッテにスノウの友人冒険者のセラット、ハーモラルでも有数の鍛冶師マイカと共に行動することになった。
ある者は仲間のため
ある者は利のため
ある者は欲のため
ある者は悲願のため
それら全てが絡み合い、炎を扱う魔獣の中でも最強の爆ぜる火山龍を初め様々な魔獣が蠢動するベリダバ山で複雑に交差しようとしていた。




