ギャルフ鍛冶師
まず耳に入る音ナンバーワン
あらゆる騒音を掻き消す鉄が鉄を打つ音。
次に耳に入る音
職人たちの強く逞しい野太い声。
そこから大体4つ下くらい
耳を澄ましてようやく聴こえる仲間の声。
この様に歩いているだけで鼓膜をいじめている事になるこの国には数多の音が溢れている。
「もーーー!何も聴こえないよぉ~!」
地球からハーモラルへといつも通りに世界を渡ったリントとアヤネが仲間たちと合流するとそこは既にアヅラタンの中でも特に鍛冶が栄えており豊富な鉄資源を要するベリダバ山の麓で長くの歴史を持つ街だった。
「どこもかしこもカンカンカンカン!おまけにすごく暑いし!」
もちろんベリダバ山はハーモラルでも屈指の活火山。
地熱の影響によりアヅラタンの地面は常時温かい。
「綾音の言う通りだな。なんで真反対のミガレユノはあんなに寒いのにアヅラタンはこんなに暑いんだ?同じベリダバ山の麓なのに…てか火山だろアレ」
ふとリントが疑問に感じたのはなぜミガレユノとアヅラタンは同じベリダバ山を挟んでいるのに極端に気候や温度が正反対なのかだ。
それに魔獣については博識のバルが答えた。
「色んな学者が調査しているが…まだ正確なことは分かってないらしい」
「分かってないんかい」
「僕も薬の材料集めで何人かの地質や山の研究家さん達の力を借りた事聞いたことあるんだけど色々な説があるよ。例えばミガレユノも元々暑かったけどベリダバ山の溢れ出るエネルギーの影響で気候が狂った説、逆にアヅラタンが寒かったけどベリダバ山の噴火でこっち側だけ暑くなったとか。中にはアヅラタンの深く地中には熱を操る最強の魔物がいるからっていう突拍子もない説もね」
今度は医薬学に精通し、一人で旅をして経験で様々な知識のあるアレタも丁寧に説明してくれる。
「そっかぁ。てか俺以外の男みんな頭いい説あるか…?」
「何くだらねえことくっちゃべってんだよ。着いたぞ」
そんなくだらないことに危機感を覚えながら歩くと目的の場所にたどり着く。
正確にはリント達の目的ではなく、アテラの目的地だが。
シンヘルキから旅に(半強制敵に)加わったアテラだがその目的はアヅラタンで鍛冶を学ぶことにある。
当人は父親のロックから学びたがっていたがロックはこの国で学べと言ったので渋々了承したのだ。
「ここが…ロックさんが言ってた鍛冶師がいる工房か」
かなり異質な工房だ。
他の街並みはレンガなどの石造りの耐火性に秀でた模範的かつ一般的な造りの工房に対してここはなんと木造建築に見える。
それに加えて表の扉も3メートルは超えておりかなり大きい。
「ロックさんの知り合いの鍛冶師さん…きっとかなり大きい人なのね」
「そりゃあ鍛冶って言えばムキムキマッチョの焼けた肌の褐色職人さんが来るんじゃないの?」
「分からない。工芸族も多いし、もしかしたら小さな人の可能性もある」
スノウ、アヤネ、シフラもそれぞれどの様な人なのか想像をしている所、アテラが扉を叩いた。
「御免下さい!ジブンはアテラ・ドード!シンヘルキでロック工房を営んでいるロック・ドードの娘です!親方がここであなたから鍛冶を学べと命じられ参上しました!」
どこか丁寧な分とはちがうかもしれないが熱意と情熱は伝わる力強い声だった。
全員がそれに感心していると扉からコト…と音が聞こえる。
果たしてどの様な姿の鍛冶師が出てくるのか。
気難しかったりとんでもないガタイの偉丈夫が出てくる可能性だって大いにある。
「ふぁ~…どちらサマぁ?」
全員の感想は「え?」「ん?」「お?」「…?」のいずれか。
ぶかぶかな衣服にボサボサの金髪、明らかに寝起きであろう声と瞼。
たくましさの欠片もない腕に微塵も熱や覇気を感じさせない一般的な体にオーバーサイズの衣服。
そして何より鍛冶師に多い人間や工芸族でなく
「え、花精霊…!?」
「そーだけど?」
ナニ当然のこと言ってんの?
そう言わんばかりの顔だった。
「あー!ロッきゅんとこのお嬢ちゃんか!めちゃ久しぶりじゃん!」
「ろ、ろっきゅん!?」
「まーまーとりま上がって。お仲間達もはよはよ」
放心気味のアテラを工房の中に押し込みつつリントとアヤネは同じ言葉が脳内に響いていた。
((ギャルじゃん…))
建物の中はかなり広く工房のように無骨な石畳や鉄作りの刃物があるわけではなく木造の床にテーブルと椅子など生活感があるごく一般的な部屋だった。
「え、てかさ時間経つのマジ速くね?あんなロッきゅんにずっと抱っこだったアテラちゃんがお仲間連れてこんなとこもで来るのビビったわマジで」
もちろんリント達もビビっている。
ロックを鍛え上げた凄腕の鍛冶師がまさかこんなギャルの花精霊、ギャルフという予想を裏切るどころの話ではない。
「あーウチはマイカ。本名長ったらしいから適当にマイちゃんって呼んで」
「アテラ・ドード…っス。こいつらは…」
「このギルドの頭張らせてもらってます。リント・ヒナタっす。銀髪のロングは副団長のスノウで、片眼鏡で小狼連れてるのはアレタ、黒髪がアヤネで、そこの壁にもたれてる赤髪はバル、最後の青髪はシフラ。シフラだけうちのギルドメンバーじゃないっすけど…居候?」
そういえばシフラはミガレユノにも用があると言ってナフィコを出発したタイミングで再度合流したけどずっと一緒にいたよな…
「居候シフラ。よろしく」
相変わらず表面上の変化は乏しいがシフラ本人はかなり前向きな人間だと思う。
だっていまピースしてるしなんとなく広角上がってる気がするし。
「んー?シフラちゃんどっかで見たような…?」
「あたし人魚だから。川とか海にいたかも」
「そかそか。そんなこともあるかぁ」
いやないだろ。マイカとシフラ以外の全員が声を大にしてツッコミたかった。
「マイカさん!オレに鍛冶を教えてください!」
「いいよ~」
「オレ…親方の元で荷車や小屋とかの建築は親方に習って来たんです!すごく尊敬してて…そんな親方が……え?」
あっさりと、1秒で、許可された。
「てかさロッきゅんずっと言ってたんだよね。俺だけの教えじゃ考え方や技術が偏るからうちにもアテラちゃんの面倒見てほしいってさ」
「そ、それじゃあ!」
「じゃあちゃちゃっとやっちゃうか!」
「あ、あ…ありがとうございます!!未熟者ですが絶対ッ!マイカさんの名を一層広めるような技ァ身に付けて最高の鍛冶師になります!」
「って言いたいんだけど…」
熱に浮かされたアテラがコメディ映画のようにずっこける。
「今抱えてる依頼でさぁ。ちょっち足りないものあるんだわ。それだけ終わらせたいんだけど……あっ!」
そしてマイカは名案を閃いたのかリントの方をにんまりと笑みを浮かべながら見て両肩を掴む。
「鍛冶師マイカからリント・ヒナタに依頼!ベリダバ山からベリデバル鉱石を取ってきて!報酬はお仲間のアテラちゃんを…うちの弟子にしたげる♡」
「ベリデバル鉱石?なんすかそれ」
「ベリデバル鉱石ってのはベリダバ山、それも地下で掘れるかもしれない鉱石のこと。他の鉱石と違って魔力の伝導率がダンチでね、金と力を両方持ってる層からの需要もやばいんだわ。そのくせ専属のパーティ組んでも剣一本作れるかどうかの量しか取れないからガチ腹立つ~」
「そんなモン俺達に取ってこいって言われても取れるんすか?」
「普通なら無理だけどねー。ただタイミングに恵まれてるよ君ら」
「へ?」
リントの疑問と同時に振動が発生する。
スノウは、何!?と驚き、バルは冷静に、地震か、とつぶやく。
立ってはいられないような揺れではないが足腰の悪い老人や小さな子どもであれば倒れてしまいそうな揺れだ。
そこでアレタが妙な違和感に気付く。
「地震にしては妙に長く続くね…」
「そ。それこそが最高なの。この揺れ…分かる?」
「噴火でもするんすか?」
「ぶぶー、不正解。正解はとある魔獣が地下深くからベリダバ山に近づいているからでーす」
「魔獣…?」
接近するだけで揺れを起こすとはかなり強力な魔獣なのだろう。
「おかげで今のベリダバ山はエネルギーが滾りに滾ぎりまくって滾ってんのよ。そのおかげで普段なら地中に埋まってる鉱石が出土してきたりしてるから今がかき集め時ってワケ。40年前にも同じ事起こったんだけどそん時もベリデバル鉱石とかざっくざっくよ(ま、結構ヤバイこと起こったけど)」
「最後なんて?」
「いやぁ別に?」
不安を煽りそうな言葉が聞こえたような気がしたが気のせいだろう。
「でもこんな地震まで起こした上に山を活性化させるなんてとんでもなく強力な魔獣よね。何ていう魔獣かしら」
「お、それそれ。その言葉を待ってたよぉスノウちゃん。その魔獣のは…」
マイカが言うその名で魔獣について疎いアヤネとシフラ以外の皆に緊張が走る。
「【レンジド・オーブナー】、またの名を爆ぜる火山龍。炎を扱う魔獣の中でも最強って呼び声も高いSランク魔獣だぞっ♡」




