強さの方向性と見知らぬメイド
首元に向けられた大剣の切先、体制を崩して地に尻を着けてしまい相手を見上げる自分。
それとは対称的にしっかりと地に足をつけこちらを見下す相手。
敗北は嫌でも突きつけられた。
「戦ってはっきり分かったぜ。何かが違うんだよ、お前の強さは」
バルは向けていた大剣を背中の鞘へ納めた後、アテラが片手間で作ったという椅子に腰を下ろした。
「何よそれ。確かに今回は負けたけどまた日を空けたら私が勝つことだって__」
「無いな。絶対に、今のままじゃ100無い。何回やったって間違いなく俺が勝つ」
敗北は受け入れる。
だがバルの言い切った言葉が受け入れられない。
尻についた土を払い立ち上がるとバルが喋った。
「確かにお前の氷魔法は強力だ、同年代とは思えないくらいにな。これならユーレアを飛び級で卒業したのも分かる。リントから聞いたがお前ら2人は昔、不死雷轟鳥がセンタレアに飛来した時にセンタレアにいたんだってな」
「ええそうよ。あの時、私やリントのパパやママが小さかった頃の私や戦えない人を避難させて不死雷轟鳥と戦って、その結果不死雷轟鳥は進行方向を逸らしてセンタレアの被害は最小限に抑えられたの。だけど私とリントの両親と夜明けの太陽のギルドマスターはいなくなってて…」
幼き頃にこの心身に刻み付けられた恐怖の根源、今の自分があるきっかけの出来事をスノウは目を逸らして話す。
「あの時の私は外で何が起こってるのか、パパやママは無事なのか、それが怖くて怖くて耐えられなくてただただ泣いているだけだった。だからもし今度同じ事があったなら耐えられるように…」
「それだ」
スノウが話しを遮るように椅子に座っていたバルは視線を上げて睨むように言葉を続ける。
「なるほどな、お前は耐えるために力をつけたのか。だから俺やリントに勝てねえわけだ」
「…どういうことよ」
「あいつなら多分こう言うぜ。”次に同じ事があったら、今度は俺が不死雷轟鳥をぶっ倒す”ってな」
胸にすっと落ちていくような納得を味わう。
私が知っていて、想っているリントであれば強気に振る舞い頼りがいがある眩しい笑顔でそう言うだろうと。
「俺が同じ立場でもそう言う。何かに怯えっぱなしの人生なんざ御免だからな。つか実際、負けっぱなしってのも癪に触らぁ」
「少しだけ、方向性が見えたわ」
「おおそうかそうか。そいつぁ結構。だがその前に…」
「…?」
会話も終わりに差し掛かり今の経験を踏まえて魔法の鍛錬を始めようとした所、バルが呆れ顔でこう言う。
「とっとと休め。交代の時間はとっくに過ぎてんだよ」
そのわずか4時間後には日が昇っていた。
世界と時間は変わり地球の日向家。
日向凜斗が目を覚ました。
「ふがっ!?」
着替えた記憶もないのに寝巻きになっており自室(今はスノウの部屋になってる)のベッドで目を覚ましたのだ。
「9時過ぎかよ…えーっと確か昨日は…」
ベッド上のデジタル時計を確認した後、焦らずに昨日の行動を逐一思い返す。
「奥田と名古屋で買い物行って帰ってきたらアヴェダレオ連中と戦いになって…綾音と撃退した後に帰ったらじいちゃんとばあちゃんに綾音のじいちゃんの3人がいて…何話してたっけな…」
誰かが抜けている感覚があるが思い出せないのなら大したことはないのだろう。
「そうだ!あんのジジイとババア…ハワイに旅行に行くっつって俺のこと置いてきやがったんだ!!」
むかつくなぁホント。
流石にハワイだったら俺も行きたかったっての。
なんてグチグチと呟きながら一階に降りる。
朝飯の捜索としてキッチンを漁り菓子パンを口に咥えつつ冷蔵庫のパック牛乳を取り出して居間へ行く。
さて問題、この状況で今の今までこの家で見たことのないメイド服を来た女子がいた場合どうなると思う?
「おはようございます。凜斗様」
口に咥えていた菓子パンはまず落ちる。
そして追加で同級生の女子が薄着でくつろいでいたらどうなる?
「あ、凜斗くんおはよー」
手に持っていたパック牛乳も落とします。
「失礼致しました。キコはキコと申します。見ての通り日向家に使えるメイドです」
「いやそういうことじゃないんだよ。そもそも俺初めて知ったんだけどウチにツインテメイドいるの」
メイド服を身に付け茶髪の大きめなツインテールが特徴的なキコと名乗る少女は淡白に言葉を話す。
「ごもっともです。キコはマスターにより創造されてから5年間、体内の魔力循環や戦闘訓練、最寄りスーパーへの道に特売日やクーポン発行日、凜斗様の好物の料理等の様々な事柄に対応できるように調整を受けていました」
後半はかなり無駄があった気がするが置いとく。
「創造?お前人間じゃないの?」
「はい。理解力の乏しい凜斗様には分かるとは思えませんが…」
「俺のことナメてる?」
「この肉体は主にマスターの遺伝子を基に構成されていますがキコの動力源は魔力です。なので種別としては魔法人形が一番近しいかと。原理としては___」
キコが長々と自身の構造を語りだしたが開始5秒で頭が理解を拒み魂が空へと昇りかけたが綾音が言う。
「それね、私も聞いたけどちんぷんかんぷんだったから向こうでスノウちゃんに聞いたほうが分かりやすいと思うよ」
「ソウダナ。リカイフノー。リカイリョクカイムオレ」
「結論として、キコが作り出された理由は2つ。マスター夫妻が不在の際の凜斗様のこも…お世話」
「いま子守りって言いかけたよな?」
「同様に、マスター夫妻と凜斗様が不在の際に地球に現れた魔獣の迅速な討伐です」
「へー。お前戦えるんだ」
「はい。凜斗様の5倍は強いです」
「ごばっ…い、言うじゃんか。ちょっと試させてもらおうか?」
「構いませんが…この夏休みはずっと寝たきりになってしまいますよ?」
「あ?何言っ__」
キコが消えた。
比喩ではなく途端に、そこからいなくなったのだ。
動く予備動作も気配すらも微塵にも感じさせずにどこかへ消えた。
ただこういう時は決まって
「分かってても反応できねーよ…」
背後に姿を表すもの。
「背後、6回はお命頂戴しました」
振り向くときょとんとした顔でこちらを見つめている。
頭をかきむしってため息一つ。
「まじで強いなお前。俺達の留守は任せたぞ」
「はい。お任せください。よわよわ凜斗様」
「やっぱお前俺のことナメてる?」
「いえ。親愛なるマスターのお孫様にその様な不躾な態度を取ることなどあろうはずがございません。キコはこれから買い物に行くので失礼致します」
言いたいことだけ言って逃げるようにキコは外に出かけた。
「んで、綾音はなんでウチに?」
そういえば何故綾音がいるのか疑問に感じた。
いやもう既に疑問だらけなんだけど今更。
「あー、それはね…」
呑気に座ってパンを食べ初めた凜斗とは対称的に綾音はかなり焦る。
何故なら昨夜に凜斗の祖父母に頼まれ事を遂行する必要があるのだ。
あれは凜斗が気を失って強制的に眠らされた後のこと
『アヤちゃん。ちょっと面倒じゃが少しだけ頼まれごとをされてくれんか?』
『は、はい!私にできることなら!?』
『凜斗には今、催眠の魔法をかけといた。今夜から婆さんと2人でハワイ旅行に言ったと思い込んどるハズぢゃ。そこでアヤちゃんには凜斗がセンタレアに近づかない様に上手く立ち回ってほしいんぢゃ』
『分かりました!』
『私は今日と明日は家に戻れそうにない。夜もかなり遅くなってきた…清、綾音を今晩泊めてもらってもいいか?』
『構わん構わん。凜斗もぐっすりぢゃし部屋なんぞいくらでも空いとる』
『ありがとう。そういうわけで綾音は今日ここに泊まりなさい』
『来客用のパジャマとかは置いてあるからねぇ。スノウちゃんが来てから色々と準備しておいて正解だったよ』
といった具合に老人達で話がスピーディーに進んでいき少年少女はほぼ置いてけぼりだった。
なので綾音は祖父母たちの問題が済むまで凜斗をセンタレアに近づけないように注意する必要がある。
「凜斗くんは寝落ちしちゃったから覚えてないかもだけどね。おじいちゃんはあの後、凜斗くんのおじいちゃんたち一緒にハワイにお仕事があるからってすぐ行っちゃったんだよ?それにこんなうら若き女の子にあーんな真っ暗な中、家に帰れると思う?」
大丈夫、話に矛盾点はないからごまかせてるはず…
「まぁ確かに。だったら泊まって正解だな」
良かったぁ!凜斗くんが深い事考えない人で!知ってるけど
「にしても急にハワイ行きやがって…何だよ仕事って聞いたことねえよ…まあいいや。アヅラタン行ったら何しようかなぁー」
この調子なら誤魔化しきれるハズ……!
気持ちの切り替えの速さを見て何とかなりそうだと綾音は一安心。
そんな事を気にせずとも。この事が頭からスッポ抜けるほどの事態が彼らを待ち受けている事はまだ思いもしなかった。




