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愛する孫へ


陽がすっかり落ちかける頃に凜斗と綾音は奈央の家へと到着。

こんな田舎で住民もほぼほぼ顔見知りとはいえ絶対安全とは限らないので送るのは男として最低限の仕事だろう。


「今日は付き合ってもらってごめんね。おかげで楽しかったよ」


「こっちこそ、今日はごめんな。怖い目合わせちゃって」


アヴェダレオの連中と出くわしたのは完全に想定外だった。

結果的に被害はなかったとはいえ奈央にとって現実離れした光景だったはず。


「ちょっとびっくりしちゃったけど大丈夫だよ。前も似たような状況あったしその時も日向くんが助けてくれたし」


「怪我がなくてよかった。もしまたアイツら見たら教えてくれよ」


「うん。ちゃーんと約束守ってね」


「分かってるよ。おやすみ」


「奥田さんおやすみー」


「中切さんもありがとう。2人ともおやすみ」


奈央が家の中へ入っていくのを見守り凜斗と綾音も日向家へと足を動かす。

客人が来るのは別にいいとしてわざわざ綾音も呼ぶ理由は一体なんだろうか。


「ねえ凜斗くん。今日は奥田さんとどこ行ってたの?」


少しだけ先を歩いていた綾音がこちらを覗き込みながら後ろ向きに歩く。


「まあ言ってもいっか。奥田にハーモラルのことバレて口止めで名古屋で遊んでた」


「つまり…デートって事?」


ピタっ。

歩いていた凜斗が立ち止まる。


「いやそれは違うあくまで俺は口止めのために同行しただけであくまでデートとかそんな浮ついた事じゃないあくまで口止めだから誤解するなよあくまで」

「否定やば」


再び歩きながら会話を続ける。


「そもそも。俺はスノウと婚約(?)までしてるからな。不倫(?)になっちまうって」


「でもそれって2人が小さかった頃の約束でしょ。もしハーモラルで再開できなかったらどうするつもりだったの?」


「そりゃあ愛の力でなんとかなったろ。俺は約束は守る男だぜ」


「ふーん。じゃあもちろん私と8年前にした約束、覚えてるよね?」


またもやピタっ。


「………」


8年前は確か綾音が自分の祖父と共に日向家に遊びに来た日


らしい。


らしいと付けたのは凜斗がこの事をしっかり覚えていないからだ。


「お、ぼ、え、て、る、よ、ね?」


「……全然思い出せない」


「…はぁ」


普段明るく元気な綾音からは想像もできないようなため息と呆れ顔。

だからこそこの呆れ顔が少し怖い。


「まあいいよ。結果的に守ってくれてるから」


「そうなのか?」


正直言うとほっとした。


「でもね、凜斗くんには()()があるんだよ」


「え?」


責任となるとますます分からない。


「そ、凜斗くんは私に()()()()()()()があるんだからね。これは生涯ずっと責任取ってもらうんだから」


「そう…なのか?」


「そーだよ。だから凜斗くんの旅にずっと着いてくからね」


「なんだ。そんなことでいいならずっと俺に着いてきてこいよ。退屈はさせねえからさ」


「…なんでそんな恥ずかしいこと堂々と言えるかなぁ」


「恥ずかしいか?てか俺なんて言ったんだ」


「それは…」


あの時、凜斗が何を言ったのか。

夢や希望といった色彩も無かった頃の自分は今でもしっかりと覚えている。


「なーいしょ。自分で思い出してねー!」


だけどそれを語るのは今じゃない。

また今度、それこそ凜斗がしっかりと私と向き合ってくれた時に…


何度も何度も思い出を反芻して紡いだ想い。

それが叶った今、常々噛み締めるのは必然だ。




帰宅した凜斗が綾音を連れて日向家に戻る。

玄関先に見慣れない靴がきれいに置かれており客人がこの靴の持ち主だと分かる。


「ただいまー」


「もっかいおじゃましまーす」


靴を脱ぎ捨て居間に入る。


「お邪魔していますよ。リントくん」


客人は客人でも、想定外の客人が待ち受けていた。


「け、ケンゾーさん…?」


「おじいちゃん!?」


ハーモラルのセンタレアで地球とハーモラルの繋がりを管理する異界管理局の最高責任者であるケンゾー・タカハシが日向家の居間にて祖父母にもてなされていたのだ。


それともう1人、この市の市長であり綾音の祖父でもある中切源(なかぎりげん)


「ねえ凜斗くん。このおじさんは?」


「あぁそっか。綾音は知らないよな。この人はケンゾーさん。地球とハーモラルに関係するアレコレを管理したりする偉い人」


「君がゲンくんのお孫さんのアヤネちゃんだね。始めまして、ハーモラルで異界管理局の局長を務めているケンゾー・タカハシです」


「ど、どうも。中切綾音です…?」


「でもケンゾーさんどうやって地球に来たんですか?もしかしてゲートが治ったとか!?」


「残念ながらそうでは。リントくんと同じ方法ですよ」


ハーモラルで仕立てられた上品なスーツの様な物の胸ポケットから一枚の紙切れを取り出す。

それはリントにとって馴染み深く現状無くしたら一番困るモノ。


「あ!バスのチケット!」


異世界ハーモラルと地球を結ぶバスのチケット。

何故バスなのか今でも分からないがとりあえず大事な物だ。


「地球からハーモラルへ向かう鋼の籠車は日向家に任せていました。ですがこちら側の籠車を使用するのは久しぶりなので手入れが大変でしたよ。ハクトが」


「そろそろ本題に入ろう。こんな田舎とはいえ市長の仕事は結構あるものでね。それに私まで呼ぶということはかなり大事なのだろう?」


綾音の困惑冷めぬまま源が事を進める。


「そうです。ゲンくんの仰る通り、今回の件がどう転ぶかによって地球にも大きな影響があるでしょう」


清、幸、源の年寄り達から冷たい空気が発せられる。

凜斗と綾音はその雰囲気に困惑しつつも続きを聞く。


「単刀直入に言うと、近日中にアヴェダレオの魔王がセンタレアへ赴きセンタレア国王と会談を行います」


年寄りの眉間にシワが寄る。


「表向きはアヴェダレオが鎖国を解くので食料などの資源を輸入、そしてアヴェダレオの兵力を輸出して両国の関係を新たに持ちたいとの事。他にも色々とありますが今は省きましょう」


「最善は…今すぐにでも中止するのが吉ぢゃが」


「清も知っているでしょう。センタレア国王のお人柄を」


「ヤツの人柄は知っておるとも。だがそれはあくまでミラガレット・センタレアの話。国王としてこの判断は如何なものか。最悪国が半壊するぢゃろ」


「それを防ぐためにセンタレア魔法士団の席を集結させています。それに腕の立つ冒険者やナフィコのジャルザン騎士学院から多くの人手を集めて万全の警備を敷く予定で、国民は近隣のシンヘルキやナフィコ、メルサファへ避難も進めています」


「つまり、()()が起きても問題ないということか?」


源が険しい顔つきで言う。


「状況をみれば、はい。と言わざるを得ないでしょう。しかしこれはあくまで最悪の未来になってしまった場合に最低限の被害で済ますための策。本当に表向きの要件だけで済めば杞憂で終わりますから」


ケンゾーは茶を啜った。

淡々と話して入るが内容としてはかなり重い。


「なるほどねぇ。戦争になりアヴェダレオがセンタレアを下せばより勢いがつく。センタレア大陸がアヴェダレオに染まるのも時間の問題。そしてセンタレア大陸ほどの敷地や資源を手にすればあの魔王が次にやるなら…」


幸が魔王が計画しているであろう自体を予測。

そして導き出された事をケンゾーが当然のように言う。


「ええ。地球への侵攻です」


この場にいる全員、特に若い凜斗と綾音が動揺する。


「し、侵攻!?ど、ど、どういう事ですか!?」


「落ち着きなさい綾音。もしもの話だ」


取り乱した綾音をその祖父の源がなだめる。


「なるほどのぅ。要件は分かりましたとも。婆さんや、準備は済んでおるな?」


「えぇ。前に魔王が来た時から進めていて正解だったわぁ」


「じいちゃん?ばあちゃん?何言ってんの?」


今度は凜斗が置いていかれる。

既にこの祖父母は自分達が成さねばならない事を察しており準備を進めていた。


「ケンゾーさんや。ワシと婆さんはあなたと共にハーモラルへ向かう。詳しい話は向こうで聞きますわい」


「かたじけない。私に魔王を抑えることができる力があれば…」


「なら私はこの街に残っている防衛装置の準備をしよう。適切な魔力を注入すればまだ使えるはずだからな」


「キコを貸すよ。今のゲンくんだけじゃ心配だからねぇ」


「ちょ、ちょ、ちょっと待って!さっきから何の話してんだよ!戦争とか、魔王とか!俺達にも分かりやすく教えてよ!」


大人たちの間で勝手に話が進み子供の凜斗と綾音は蚊帳の外のような疎外感を強く覚えた。


「凜斗よ。()()()()()()()と思え」


「…は?」


「生きて帰ってくる保証は無い。むしろ死ぬ前提で動くつもりぢゃ。そうでもないとあの魔王を止められん」


「意味わかんねえよ!全然わかんねえ!向こうには強いやつがたくさんいるんだ!センタレアの魔法士団の団長とかさ!わざわざじいちゃんとばあちゃんが行かなくても__」

「凜斗よ」


清は優しく、凜斗を抱きしめた。

あの力強く圧倒的な筋肉量を誇る祖父が優しく、精一杯の慈愛を籠めて。


「まさか子育てを2回もするとは思わなんだ。短い間ぢゃったがお前の成長を間近でみれて嬉しかったぞ。叶うことならひ孫の顔も見てみたかったが…幸せに、平和に、友を大切に、何より自分を信じて生きるんぢゃぞ」


「じいちゃん…?何言っ___」


眠気が、急に襲った。

やや興奮状態なので眠気なんぞ感じていなかったが祖母の魔法だと気付いた時には瞼は閉じていた。


「ふ…ざけ…!」


意識が落ちないように踏みとどまるがそれも虚しく祖父の胸の中で眠りについた。


「抵抗できるとは…子どもの成長はやっぱり早いねぇ」


幸は我が子の恭平の面影を強く凜斗に見た。

手がかかったやんちゃ坊主だったが凜斗も父に負けじと内に秘めているものは確かにある。


自分達の世代の過ちを孫にまで任せるわけにはいかない。

ジジイにはジジイの、ババアにはババアの意地というものがあるのだから。


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