3人目の仲間
「んで、なーんでこーんなもん持ってあそこにいたんだ?」
裏山に現れた魔獣を問題なく駆除し、何故かその場所にいた転校生の中切綾音を日向家、凛斗の部屋(今はスノウの部屋)連行して事情を問う。
「ねぇ、一般の人に魔獣とか魔法を見られたらどうしてるの?」
ふと感じた疑問をスノウは凛斗に尋ねる。
「じいちゃん達の知り合いが記憶消したり揉み消してるみたいだけどらしい。俺は知らんけど」
というか、俺が剣投げた後金属がぶつかった音したよな
まさかこのクナイで弾いた?
でもこいつはただの女子だぞ…
「スノウちゃんと日向くん…ううん。凛斗くんがどんな関係か気になって」
「でもどうやって俺達が裏山にいるって分かったんだ?」
「カラオケの帰り道からずーーーーっと着いてきてたよ。お庭の木の上から凛斗くんのこと見てたし」
「え?」
「ひっ」
しれっと怖い事を口にした。
「ちょっとリント。この子かなり変よ」
綾音に聴かれないようにスノウは口元をリントの耳に持ってきてこそこそと話す。
「あぁ。俺も流石に背筋凍った」
よかったぁ
変なことしてなくて本当によかったぁ
「待てよ、それだったらなんで裏山で魔力を感じたんだ?そんな近くにいたなら俺も分かるはずなのに」
「ちゃんと隠せてたんだけど…本物の魔獣見たらテンション上がっちゃって」
「その言いぶりだとアヤネは魔力や魔獣に対しての知識があるのかしら」
「そんなわけないだろ。だってハーモラルに関係する知識は日向家と東雲家、今はないけど霧雨家しか知らないんだぜ」
そして綾音の名字は中切、このうちの誰でもない一般家庭であろう人間だ。
「実は…私の本当の名字、東雲なんだ」
「え?」
「あら」
想定外の返事があっさり返ってきた。
「え、どーゆーこと?」
「おじいちゃんまでは東雲を名乗ってたんだけどね。だけどおじいちゃんは急に東雲の性を捨てておばあちゃんの名字に変わったの」
「えーとつまり…中切の元々は東雲で…俺達と同じでハーモラルに関係ある人間ってことか?」
「うん、そーだよ。私はハーモラル行ったことないから知らないけどね」
「じゃ、じゃあ今回や今聞いたことは誰にも言うなよ。バレたらヤバいらしいから」
「どーしよっかなぁー。凛斗くん私のこと覚えてなかったしー」
「いや思い出しただろ!」
「でもあの約束は?」
「いやそれは…本当に記憶にない…」
「ふーーーん。私にあんなことしたのに覚えてないんだー?」
「どんなこと!?」
あ、なんか背中が物理的に冷たい
すんごいヒヤヒヤしてる今
「じゃあ私のお願い聞いてくれるならいいよ。お口にチャックして普通の可愛い美人転校生になるからさ」
「それなら…いいよ。言ってみ」
凛斗が半ば投げやりに提案を飲む。
「私もハーモラルに連れてってよ!」
「「え?」」
すると綾音はおもちゃを前にした子供のような顔をして声を大きく言った。
「昔ね、おじいちゃんの書庫でハーモラルの冒険日記見つけたんだ。小さい頃から何回もそれを読み返したりしてたらどんどん私の心が熱くなってきて…」
「それでハーモラルに行きたいと」
「とーぜんじゃん!あんな面白そうな世界知ったら地球なんて退屈も退屈!それに8年前、凛斗くんが話してくれたハーモラルでの思い出を聴いたらもう!魔法に魔獣、冒険にギルド…絶対楽しいじゃん!」
綾音の興奮は収まらず凛斗とスノウに迫りながら自らの思いを喋りまくる。
「俺は別にいいけど…スノウは?」
「私も構わないわ」
「やったー!」
「ただ」
浮かれる綾音に釘を刺すようにスノウは言った。
「足手まといはいらないの。地球でのお友達としてならアヤネと一緒に過ごしたいわ。だけど私たちの旅は命懸けなの。実際、昨日もリントは死にかけてたし私だって危なかった」
「そう言われればそうだな。忘れてた、俺死にかけてたわ」
「忘れんな!!」
茶番の様な2人のやり取りを見た。
おそらくかなり親密な仲になっているのだろう。
凛斗が過去の約束を完全に忘れているのもあってかなり胸に刺さるものがある。
「私、こう見えても結構出来ると思うよ」
だからこそ、ここで胸と見栄を張る。
「そう、なら表に出なさい。私が確かめてあげるわ」
「スノウ!?何もそこまで__」
「昔馴染みだからって甘くなってない?力の無い人が増えても私たちの負担が増えるだけよ」
「ぐっ…それは否定できないカモ」
「私たちの旅の目的は何?地球に魔獣が出る原因を探すのはあくまでも異界管理局から私たちへの命。だけど私たちの目的は両親を見つけることでしょ。その2つを成し遂げるなら私たち2人以上に強かったりアレタみたいな何かに秀でた人がいるのよ。楽しそうだからで着いてこられても迷惑」
「うっ…」
ここで凛斗が10年振りにハーモラルに向かった際の心情を思い出そう。
言えねぇ…俺もハーモラルで何したかった聞かれたらスノウと再開して旅してぇ、あとじいちゃんが鍛えた俺どんだけ通用するかも知りたかったとかしか考えてなかったの…言えねぇ…
そう、スノウと再開する事をかなりの楽しみにしており、そんなに大層な気持ちなど最初は無かったのだ。
「分かったよスノウちゃん。私の力みせたげる」
綾音も異論はないようで自らの力を証明する気でいる。
「できれば静かに頼むぜ。この辺に住んでるご近所さんに迷惑だか…っていない!」
日向家の庭はかなり広い。
というのも日向家を始めとした東雲家、霧雨家はかなりの大地主であり土地貸しなどで収入は安定して舞い込んでくる。
そして鍛錬の為に庭を広く作り、多少の魔法であれば使用してもまずバレない。
何故か祖父母の姿が見当たらなかったので縁側に一人で腰を掛ける。
睨み合う女子2人に開戦の合図を示す。
「じゃあ俺がカウントした後にこの石投げっから落ちたら開始で」
「それでいいわ」
「おっけー!」
「はーい。3…2…1…ゴー!」
凜斗が持ち上げた小石を軽く投げ、地面に落ちると開戦の合図として受け取った二人の戦いが幕を開ける。
「ふっ!」
二人の距離はざっと5メートル。
先んじて走り出した綾音は制服の袖から隠していた二本のクナイを手に持つ。
だが走り出したと言っても速度はハーモラルにいる時の凜斗には及ばず、たかが知れている。
あくまで、普通の地球人の範囲を出ないのであれば焦ることなどない。
「【氷の枷】」
走る綾音の足元に薄い氷が張ると動いていた足が止まった。
やがてその氷は足元を覆う。
「動けないのなら…終わりだけど?」
「どーかな?」
手にしているクナイをスノウに投げるが突如現れた氷の壁がそれを阻んだ。
「うっそぉ!?」
「くだらない策ね。【踊るつらら】」
背後には魔法陣が現れる。
普段の戦闘とは違い小さな魔法陣だがそれでも20本のつららは今にも綾音に向かわんとしている。
「降参なら今がチャンスよ。少なくとも怪我はさせるから」
「あっははは、スノウちゃん面白いねぇ…やってみなよ」
「あっそ」
それでもなお引かない綾音と見限ったかのようなスノウ。
手を綾音に向けると背後で待機していたつららが一斉に動くと同時に再度クナイを制服の裾から取り出して足元の氷に突き立てて割る。
身体の自由を取り戻した綾音は襲い来るつららに自ら立ち向かい、的確にクナイで弾いて捌く。
そしてスノウとの距離は残り50cmに。
「…驚いたわ」
その顔、制服に一切の傷はない。
やりきったぞと顔に出ている。
「これで認めてくれる?」
右手のクナイをしっかりと握り、スノウの首に向かって進んでいる。
「でも覚えておきなさい。慢心は立派な敗因になるわ」
その忠告を聞くと、一瞬だけ思考と動きが乱れた。
瞬間、綾音の頬の薄皮を空から降ってきた一本のつららが切る。
「見込みはあるわ。臆せずにつららに立ち向かったのは紛れもない戦う者としての素質。だけど自分と相手の力の差を把握できていないのならもう少し慎重になるべきね」
薄皮を切ったつららが地面に刺さると綾音の動きも止まった。
忠告がなければつららは間違いなく自分の頭部に直撃していただろう。
それが意味することは、実践の経験がないであろう綾音でも理解は容易だ。
「不合格?」
「…新人にそこまで求めてないわ。精々学びなさい」
背を向けて家の中へと戻っていったスノウと、サムズアップをして自分なりの祝福をしている凜斗。
「…やったぁぁぁぁ!!」
ハーモラルで共に旅をする3人目の仲間は、奇妙にも地球で見つかったのだった。




