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中切綾音


「うぉぉいぇ~♪」


人の気も知らずに呑気に歌う奈良が羨ましい。

今は転校生であるスノウと綾音の歓迎会を駅前のカラオケボックスでスナックを食べながら行っているところだ。

だがスノウはカラオケどころか地球の音楽すら詳しくない。


『だって昔()()()()()()()()()んだ!』


中切はそんな事言ったけど…俺は今日が始めましてだぞ

それにスノウはあれから一切目合わせてくれないし…


「ねえ日向くん」


そして当然のように凜斗の横に座った綾音はかなり親しく距離感が近い。


「清じいは元気?」


祖父の名前を出された。

ここまで知っているのならほぼほぼ間違いなくどこかで会っているはずなのに何も思い出せない。


「元気だけど…本当に思い出せん。いつ会った?」


「覚えてないの?8年前の日向くんの家で一緒に遊んだじゃん」


「8年前…?」


思い出せ、思い出せ凛斗よ

8年前は何歳だ?

小学校2年生…


頭の中のそんなに覚えてない記憶を必死に巡る。


奈良と捕まえたセミをどっちがデカい鳴き声鳴かされるか、花本と近所の川でザリガニに挟まれてどっちが長く我慢できるかの勝負したな…


いやそんな記憶今はいらん!


思い出せ…

8年前…女子…綾音って名前…


「ヒントはゲーム機でーす。日向くんのお部屋で2人きりでプレイしましたー」


待て待て待て、なんかつららが刺さった感覚。

めっちゃ体が冷たくなってきた。


「あ…」


見えかけた答え。

なぜ気が付かなかったのか我ながら疑問に感じるほどあっさり出てきた。


「…名字変わった?」


にたにたと可愛い笑顔が晴れやかな笑顔に変わった。

どうやら正解だったっぽい。


「せいかーい!8年前の名字は_」

「おーい日向ァ!おめえも歌えや!」


綾音が答えを教えようとするが遮るように花本が会話に割り込みマイクを強引に渡す。


「おい待てって!俺なんも曲入れてねえって!」


「勝手に入れたから心配すんなって!俺らが昔好きだったあのアニソン入れたから!」


勝手に曲が入れられたみたいだがその曲は昔はたくさん見返したロボットアニメだ。

もちろん最新のシリーズは欠かさず見ているしサブスクでオープニングなどもしっかり聴いている。

それに加えてアニメ映像まで入っているので気分はそりゃもう最高潮。


しかし、それが仇となった。


「この機械みたいなの…リントの部屋で見たことある」


人が気持ちよく歌い出しかけた時、スノウが呟いてしまった。


そしてまた集まる視線、響くイントロ、出なくなった声。


「…」


地球に滞在している時は日向家で唯一ベッドがある凜斗の部屋で寝泊まりしているのだ。

その部屋には数年前に組み上げた劇中に登場するロボットのプラモデルが数体飾られており、嫌でも視界に入る。


何も知らない人間が見たら、凜斗とスノウには全然関係が無いように見えるだろう。

そんな二人が週末は異世界を旅しているなど想像すら出来ない。


ただですら綾音の発言でクラスから冷ややかな目を頂いていたのに、スノウの一言で冷ややかな目から痛い目に変わりつつある。


人生で初めてカラオケが嫌いになりかけた瞬間だった。


痛い視線を浴びながら歌いきった数時間後にカラオケから退出。

男友達からは「お前明日覚悟しとけよ。根掘り葉掘り聞くからな」の一言とあらゆる罵声を浴びせられた。


「日向くん…また今度家に遊びに行っていい?」


別れが名残惜しそうな綾音が上目遣いで尋ねる。


「いいぞ、できれば他の人がいないところで聞いてくれ。次一言でも喋ったら俺は殺される」


「ふふ、面白いクラス。じゃあまた明日」


これでスノウと綾音の歓迎会は終了、残ったのは帰宅方向が同じの凜斗とスノウだけ。

目を合わせる事無くスノウは日向家の方向へ歩いた。


「スノウ。家まで道分かんの?」


「大丈夫ですよ。()()()さん」

「こひゅっ」


明らかに遠ざかった距離感に計り知れない精神的ショックが凜斗を襲う。


「あ、あの?スノウさん?」


「あまり近づかないでくれますか?異性関係がだらしない殿方とは話したくないので」


「いやちゃうんすよ。俺も何のことだがさっぱりなんすよ」


「じゃああんたは女の子の想いに向き合わないんだ」


「何言っても詰みじゃんこんなん」


「というか、あんたのこと好いてくれてるんだからアヤネと恋仲になったらいいのに」


「何回も言わせんなよ。俺はお前以外の女興味ねーっての」


「ふん、どうだか。じゃあアヤネが薄着で迫ってきたら?」


自分と比較する訳では無いが、アヤネもかなり可愛らしい小顔で制服越しだがスタイルもかなり良さそうに見えた。

年頃の男なら一瞬で堕ちるのは理解に容易い。


「いや風邪引くだろ。服着ろよ」


こいつまじか、みたいな顔で凜斗を見た。


「あんた正気?」


「なにが?」


絶句。


「言い出しておいてアレだけど…あんた本当に男?」


「なんで!?」


「じゃあ私が薄着であんたに密着したら!?」


「え、いや、そのぉ…へへっ」


「気持ちわる…」


「なんでぇ!?」




そしてその晩。

帰宅してのんびりと体を休ませている。


一晩寝たら鼓膜は完全に回復したし空っぽになりかけた魔力も回復しつつある。

後は体の痛みだけ。


風呂に浸かり終わった後、髪の毛を乾かして早々に床に就く。

時刻は午後9時を越えたところだった。


「…まじかぁ」


地球にハーモラルの魔獣が現れた時に感じる予感。

攻撃的な魔力を肌で感知した。


入ったばかりの布団から飛び出て動きやすいジャージに着替える。


「じーちゃーん。出たけどどっちが_」

「自分で行くんぢゃっ!」


らしいです


うちのじいちゃんとばあちゃんは度重なる戦闘で魔力を感知する精度が俺やスノウと比べて桁違い

ある程度の距離があってもどれくらいの強さや脅威があるか

を即座に判断して、必要であれば自分から動く


今回は動かなかったので必然的に俺が行くことになった


「スノウー。手伝ってぇ」


最近のスノウは一階の茶室でうちのばあちゃんと向かい合って茶を啜ってることが多い。


茶室のドアを開けると案の定、中学時代に凛斗が着ていた体操服のジャージを着ながら茶を啜っていた。


「しょうがないわね。場所は?」


「この前の裏山。多分Eランク」


玄関で靴を履いて外に出る。

昨今の気温は6月下旬とはいえ一昔前の真夏日とほぼ同じ。

日が出てない夜じゃなければ熱中症で死にかねない。


「あんた。そんな身体で戦えるの?」


小走りで裏山に向かっているとスノウが軽く心配する。


「Cまでなら多分大丈夫。B出たら無理」


「ちゃんと週末までには身体治しなさいよ」


「分かってますって」


住宅地を抜けて裏山へと足を踏み入れる。

魔獣と思わしき魔力が近くなっていく。

足音を潜め、魔力を外に漏らさない様に気を張る。


木々から顔を出して向かいの方向を覗くと今回のターゲットは四足歩行で悠々と歩いていた。

見た目は地球の動物で例えるとカバに近い。

一見、無害そうに見えるが恐るべき能力があるかもしれない。


「えーと…あいつは」


どこからか魔獣図鑑を取り出して凛斗はそれを1ページずつめくり出没した魔獣を調べる。


「…どこでそんなの買ったのよ」


「シンヘルキ。スノウが長風呂してた時」


「調べる前に倒した方がいいんじゃないの」


「いやいや、下調べも大事だぜ。どんな魔法に弱いかとか_」

「【踊るつらら(アイスクロウ)】」


普段と違い杖を持っていないスノウが掌を魔獣に向けて少しばかりの詠唱をすると4本のつららが魔獣の身体を貫く。

そしてピンポン玉程度のマナストーンを残して消えていった。


「スノウ!?」


「こんな雑魚調べるだけ無駄よ。とっとと帰っておばあさまとお茶を飲みたいもの」


「ったく。倒したら爆発するとかだったらどうす…誰だっ!」


スノウとの会話の中で突如感じた2人以外の人の魔力。

この地球に置いて魔力を発することが出来るのは凛斗、スノウ、祖父母の4人しかいないはず。

今感じた魔力は誰にも該当しない。


「待て!アヴェダレオの奴らかっ…!」


消去法で第三者になる。

魔力を発した本人もここでぶつかり合うつもりはないのか、

そそくさと離れて行く。


しかし凛斗がそれを逃すわけなく、威嚇として腰の剣を覗いていた方向に投げると金属音が響いた後に地面に落ちる音が聞こえた。


だがそれはあくまで威嚇。

足部強化の魔法を発動して魔力を発した者に最短距離で近づく。


逃げようとしていたが腕をしっかりと掴んだ。


「待っ…!」


何か言いかけたが無力化を図るために腕を後ろに回して木に身体を押し付ける。


「大人しくしろ。何も抵抗はするなよ、そしたら命は…」


木々の暗闇に目が慣れてきた頃、顔が見えた。

その人物にはとても見覚えがある。


「中切…?」


今日、転校してきた少女の1人、中切綾音だった。

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