親攫いの街
大丈夫だ
月輝花の魔力流動と僕の魔力流動のペースは完全に調和している
ポットにも土を敷き詰めてある
あとは月輝花の根が土から3秒以上離れなければいい
「よし…えいっ!」
一瞬で月輝花を土から離したすぐさま土を敷き詰めたポットにおき、急いで根を土に埋めるが花の明かりは少しだけ沈んでしまった。
「ダメかっ…」
そう思った矢先、花は本来の月のような優しい光を取り戻した。
それが意味することは、
「やったぁー!スノウちゃん!成功だよ!」
「ほんと!?」
依頼の成功である。
「やったぁ!これで荷車代が楽になるわ!ありがとうアレタ!」
「スノウちゃんが見つけてこそ、そしてリントくんが集中させてくれたおかげだよ。僕は摘んだだけ」
「何言ってんのよ。あなたの知識がないと成功できなかったわ。ところで、あのバカはどこまで行ったのかしら」
時を同じくして、闇討ちの蟷螂との戦いを地中にて終えたリントは父の名を知るとある男と遭遇していた。
「きょ、キョーヘイ!?」
まるで死人を見たかのように取り乱し、全身をくまなく観察される。
「いや、しかし…」
「親父のこと知ってんの?」
そしてさらに驚愕した。
「君…いや、お前もしや名はリントじゃないのか」
「そうだよ、俺はリント・ヒナタ。キョーヘイは俺の親父。おっちゃんは?」
どういう訳か初めて会っただろう人に名を知られている。
この短時間でそんなに名が売れたとは考えづらいのでおそらく親父の知り合いだろう。
「覚えてるかはわからんが、俺の名はロック・ドード。かつて夜明けの太陽にて冒険者と鍛治師をやっていた者だ」
「ロック…ロック…」
記憶を探るもなんか見覚え聞き覚えあるくらいで止まってしまう。
あの頃の記憶なんて景色と魔獣と戦いとスノウの事しか覚えていない。
「無理もない。まだ小さい頃に数回しか会っていないからな。しかし立派に育ってまぁ…」
突然、何者かが土を踏む音が聞こえるとロックはリントを壁の方に寄せて静かにするようにハンドサインを出す。
すると虚な目をした大人の男が何かに吸い込まれるように脱力しながら歩き過ぎていった。
「ここは奴らにバレる。入り口まで送るからそこから街に戻るんだ。こっちだ」
小走りでロックの背中を追う。
道すがら、聞きたいことが山ほどあったのか会話はかなり弾んだ。
「しかし驚いたな。なんで再びハーモラルに、それもセンタレアから少し離れたシンヘルキに?」
「ちょっと事情があって短期間だけどハーモラルを旅してるんだ。シンヘルキには荷車を買いに来た」
「そうか。だったらうちの娘がやっている店に行くといい。口と態度は悪いが腕は俺が保証する」
「へえ、じゃあ行ってみようかな。ロックさんはどうしてこんな地下に?」
「シンヘルキで子を持つ大人が攫われているのは知っているか?」
「知ってる、友達が言ってた。俺たちが泊まってる宿も今は子供だけで回してるって」
「恥ずかしいが、俺もどうやら攫われてしまったようでな。1ヶ月前の夜に木材を馴染みの店に取りに行こうと出かけたんだが…正気を取り戻したらこの地下だ」
「となると…催眠とかの魔法を?」
「その直前に誰かに会った記憶はない。記憶を消された可能性もあるが…どちらかというと何かに惹かれるように歩いた感覚に近い。だが他の奴らは俺みたいに正気に戻っちゃいない」
「ロックさんだけでも逃げ出せばよかったじゃん」
「それ自体は可能だが…俺達攫われた人はこの地下の秘密を見てしまったんだ。それを見た俺が脱走したとなれば俺を消しにくる可能性だってある。そしたら娘にも危険が及ぶかもしれん」
「悪いことなの?その秘密」
「かなりな、だからリントは気にせずにここから脱出して、その後にシンヘルキの衛兵にこの事を伝えてくれ。アヴェダレオからの不法侵入者が怪しげな事をしているってな。しばらくは俺一人でなんとかするさ」
「聞いちゃった以上このまま分かりましたで行けないよ。それに聞きたいことだってたくさんあるし」
「勘弁してくれ、大事な仲間の息子を巻き込めないさ。ここを一直線に走れば_」
「んうむ。発進口に轟音がして見回ってみれば…」
出口らしき外の空気を感じれる場所が近づくとほんの一瞬だけリントもロックでもない感じたこともない気配を感じ通過した場所を振り向くと包帯を全身に巻いたライアーを持つ不気味な男がそこにいた。
「そなた、すでに愛が解けておるな」
その言葉は軽く、まるで芯のない様に聞こえる。
ただただ、人を利用するためだけに生きてきた人間の声。
「親が行ってはならぬ、誰が子の面倒を見ると?」
けれども歪んだ愛は感じる。
「だからなんだってんだ。俺は俺の娘しか育てる気はねえさ」
その包帯の男とリントとロックは向かい合う。
これはリントが初めて感じる邪悪な魔力。
アヴェダレオの魔王が持つ魔力は自己の欲ではなく、何かを成し遂げようする力であったがこいつは全く違う。
「従わぬなら…死だが?」
己の欲を満たすためだけのわがままで身勝手な力。
「言ってろ。くそったれな自己中野郎め」
だが、魔力を扱う者にとってはそれが最も強いのだ。
「はてはて?親が子を思って何が悪いのか?」
「だったら一人でやってろ、テメェの子どもはテメェで見な。俺には俺の子がいる」
親が子を思うのは当然。
だがそれも行き過ぎたのであれば立派な毒と化す。
「ロックさん。こいつは…敵なのか?」
「…あぁ。こいつがシンヘルキの親攫いの元凶だ」
包帯の男はライアーを軽く奏でると洞窟の地面、天井問わず隆起し地形を変化させる。
「こいつはアヴェダレオきってのイカれた野郎だ」
「はて?私は常に正常だ。このレカルネラ、狂って取り乱したことは一度足りともない」
再度、ライアーを軽く奏でると二度目の地面が隆起し、レカルネラという男とリントとロックの3人だけの土の壁に囲まれた空間が出来上がる。
「【着火】…」
逃げる場所など無く戦闘をするしかないと悟ったリントは着火を発動し臨戦態勢に入る。
「落ち着けリント。今のままの君じゃ厳しいぞ」
「どっちみち逃げられないんだ。だったら、やってみるしかないよ」
「ははっ、親父にそっくりだ。考えたことはなかったが…2対1か」
一般的な状況であれば、有利であることは揺るぎない。
「炎纏いし者…だがくすんだ炎に意味はない。脅威となるのは…幾多の鉄を打ちし屈強な男か」
リントは敵として認識されなかった。
少しだけそれが気に入らずに半ばやけになってその男に近づく。
「あんま舐めんなよ」
右足先のトゥーキックがライアーの男の頬に当たる。
その衝撃に揺られたのか後ろに下がった途端に最大の右拳を鼻にめり込ませる。
「んうむ。まぁ、脅威ではないな」
レカルネラの鼻に触れる寸前にライアーのが鳴り身体の動きが止まった。
自分の身体のはずなのに寸とも動かない。
「下がれ、子よ」
親指に人差し指を止めて、しばらくしてそれを放つ。
ハーモラルでは浸透しているかわからないが地球ではこの行為をデコピンと名付けられている。
「っがぁっ!?」
向かいの果てにある土でできた壁にリントは打ち付けられ地面に倒れた。
ただのデコピンですら意識が遠のきかけるほどだ。
「所詮、子は親に勝てぬ定め。子を想う気持ちに限界などない…お主には分かるであろう?ロック・ドードよ」
「悔しいがそれには同情する。だが俺はお前と違って仲間の子にしか余計なお世話はしないタチでね。それにお前は子どもを舐め過ぎじゃないか」
「はて?」
少年は立ち上がり拳を構える。
その目に撤退の意思はなくただこの困難を突破することしか考えてはいない。
「子どもにも子どもの意地ってモンが…あるんだぜ!」
「そうだな。でも、今はここまでだ」
問われたロックは力いっぱいに壁を殴るとリント背にあった壁に亀裂が広がる。
「聞けリント!単純にこの屈辱を晴らそうなど思うな!君はまだ若い!この先何度も覆せるチャンスなど腐る程ある!決して焦るな!」
やがてその亀裂から壁が崩れ、外の空気が洞窟に入り込む。
「逃がすわけない。ああ、逃さない」
「逃させてもらうさ」
ロックは右足と右肩をレカルネラに向ける。
そして地面を踏みしめると右足にあったはずの地面がえぐり取られると同時にレカルネラに強烈で高速のタックルを仕掛けた。
「んうむっ!」
冷や汗を流したレカルネラはライアーをほんの一瞬だけ弾くと再度、洞窟が隆起を起こそうとしている。
「行け!俺は大丈夫だ!」
「ロックさん!くそ!ぜってぇ助けを連れて戻って来るから!」
出口が狭まりかけていたので飛び出すように外に転がり込んだ。
あと数秒遅れていたら脱出はできなかっただろう。
「とりあえず街に戻ろう。夜明けはまだだけど…誰かいるだろ」
シンヘルキ中央街に向けて足を早めながら、足りない脳みそを活用して考える。
あのレカルネラは何が目的で親たちを攫っているんだ?
そもそも、なぜ親だけを攫っている?
何かを成し遂げたいのならシンヘルキの人を片っ端から攫って頭数を揃えればそっちのほうが話が早いだろうに
『親が行ってはならぬ、誰が子の面倒を見ると?』
やつは執拗に親と子を強調して話していた
ロックさんもそれは分かっていたから会話が成立していた…のか?
「あー、だめだ考えるだけ頭こんがらがる」
ロックさんが言っていた秘密が分かればレカルネラの目的が分かるのに!
「思い出話じゃなくてちゃんと話し聞けばよかった!」
「いたぁ!」
走っている最中にすっかり忘れて依頼を任せていたスノウとアレタがリントを見つけた。
「あんた!一体どこまで_」
「アヴェダレオの奴らがシンヘルキにいる!」
お説教が始まりそうだったので単刀直入に自分に起こったことを端折って説明する。
「はぁ!?」
「アヴェダレオ…」
スノウは突然のことで表情を崩し、アレタは何かに引きずられるように顔をしかめた。
「とりあえず街に降りる!付いてきて!」
「ま、待ちなさいって!」
リントの顔には焦燥感がありそれを悟ったアレタはこれから起こりうることに心の準備をした。




