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月輝花


浴場につい長居をしてしまい、すっかり集合時間を忘れていた。

日は沈みかけ少ない労働者達も帰路に着き始めている。


「もうこんな時間!長風呂しすぎちゃったー!」


紹介場のドアを開け冒険者達の談笑場にいるであろう人を探す。

すぐに不機嫌に飲み物を飲んでいる少年と落ち着いた表情でその子を宥める青年が映り、青年はいち早く私に気付く。


「やあスノウちゃん。お誘いありがとう」

「スーノーウー…」

「えーと、その…ごめんね?」


今回の夜から行う依頼は()()()()の収集だ。

しかし困ったことにリントはハーモラルの草花の知識は無いし、スノウは観賞用の花の知識しかない。


なので、薬師として様々な草木の知識やそれらを得るための方法などに詳しいアレタに協力を要請すると二つ返事で「いいよ。任せて」と帰ってきた。


「アレタもありがとう。私達じゃ月輝花(げっこうか)の摘み方なんてわかんないもの」


月輝花(げっこうか)

夜にのみ咲き、月の明かりのみで光合成を行う銀色の花だ。

最大の特徴は摘んでもなお月と見間違うほど優しい光を半永久的に放ち続ける。

ただ摘むには特殊な技術が必要なようで…?


「取り分なんだけどアレタの知識のほうが大事になるから成功した場合は半分の10万エルを渡すわ」

「異論ないよ。多すぎるくらいだ」

「正当な働きには正当な報酬よ。それに確実に見つかる保証はないから失敗したらタダ働きだからね」

「よし、じゃあ行きますか!」


今回の依頼は民間依頼だ。

ただ今朝の討伐依頼と違って今回の依頼主はあくまでコレクションとして月輝花を欲しがっているだけのため、緊急性は少なく初めて紹介場に掲示されたのも一年ほど前となっている。




採集場所は1時間歩いた場所にあるシンヘルキの街からから少し離れた山岳地帯と森林地帯の間の丘。

黒い虎(シャドウ・タイガル)を中心とした夜行性の魔獣も闊歩するがリントとスノウなら問題なく対処できる。


「アレタぁ、魔獣出たら教えてなぁ」

「はーい。月輝花(げっこうか)あったら教えてねぇ」

「はーい」


草むら、木々の間、魔獣殴り倒す、岩の間、魔獣殴り倒す、岩の間、くまなく探す。

捜索時間は2時間は経っていた。


「ねーなぁ。スノウあった?」

「ないわ」


そして三度、魔獣が草むらから木槌の魔猿(ハンマーモンキー)が飛び出すが軽く顔面に拳をのめり込ませると呆気なくマナストーンと化した。


「あんた、いつもの炎の使わないの?」


リントの戦闘がいつもと違うと気付いたスノウはそれを指摘する。

再開した時や戦闘の際は炎を拳に纏って戦闘を行うが、今朝の二つ角の兎(ダブルホーンラビット)の討伐依頼も自分の身体能力のみで討伐をしていたのだ。


「あー【着火(イグナイテッド)】の事?今ちょっと封印中」


「なんで?」


「だって魔王見たろ?少しでも力つけたいから修行中」


「それとこれが関係あるの?」


「【着火(イグナイテッド)】って俺の戦闘モードみたいなもんなんだ。全身に魔力流して体を強化して戦うんだけど出来るだけ使わずに基本的な身体能力で戦いやってれば必然的に強くなるだろ?」


「いや知らないわ」


「しらんのかい…ちなみに【大着火(イグナイト・ロアー)】も聞く?【大着火(イグナイト・ロアー)は【着火(イグナイテッド)】以上に__」

「あ、あった!」

「あったんかい!」


確かにスノウが指を指した方向には月輝花が咲いている。

しかしリントには何故かその花に惹かれるどころか違和感を感じていた。


すぐにアレタを呼び、この花が月輝花であることを確認してもらう


「この微量な魔力の花粉は間違いない…月輝花だ」

「やった!思ったより早く見たかったわね」

「でもここからが大変なんだ。月輝花は特殊な摘み方をしないと土から話した途端に枯れてしまうからね」

「え?」

「まずは花の周りの土を持ってきたポットに入れて。そしたら僕が花の魔力の流れに合わせて摘むんだけどこれはかなり集中しないといけないんだ」

「めんどく_」


瞬間感じた殺気。

すぐさま腰の剣を抜き、殺気の主が振るったであろう鎌の攻撃を受け止める。


「へぇ。違和感はお前か」


そいつの顔はリントより少しだけ高くある。

ご立派な複眼に鋭利な鎌となっている両腕、たくましい六足に重そうな腹部。


闇討ちの蟷螂(アサシン・マンティス)!そうか…月輝花におびき寄せられた獲物を…気をつけて!森崩しの猪(フォレスタッド)には及ばないけどCランクの中でも最上位の魔物だ!」


そう、蟷螂(カマキリ)である。

マナ濃度が違うとあんな小さなカマキリが十分な脅威となるのだ。


「おっけーい、じゃあちょっとこいつと遊んでくるわ。スノウ、他の魔獣来たら頼む。【足部強化(ヒアサ)】」


リントが好んで使う足部強化(ヒアサ)には高所からの着地、走力と跳躍の高性能化以外にも有用な場はある。


「よっ…と!」


自分の頭より少し上にある闇討ちの蟷螂(アサシン・マンティス)の頭部に向けて足を上げてご自慢の複眼を蹴り上げると面白いくらいに後ろに跳んでゆく。


「じゃ!任せろ!」


蹴飛ばしたカマキリをリントは嬉々として追って行った。


「相変わらず…すごい子だ」

闇討ちの蟷螂(アサシン・マンティス)はリントに任せなさい。私は他の魔獣が来てもいいように迎撃の準備をするから、花を摘むのは任せるわ」

「うん…そうだね、任せて」


各々はそれぞれの役割を全うするために違った行動に出た。

そしてカマキリを追ったリントは既に怒っていそうな敵を相手に正面から向かう。


「悪いけど先に襲ったのそっちだから。俺の修行の糧とマナストーンになって後悔してくれ」


左腕の鎌が動いた。

最短で首を落とす気だと判断したので少しだけ近づき腕の根本を左手で抑えて、右の拳をもう一度顔に食らわす。


「流石に硬いな。素の身体能力(フィジカル)じゃ打ち抜けない」


先程は足部強化(ヒアサ)を掛けていたので蹴りでもいいダメージが出ていたが、このパンチに限ってはそうでもないらしい。


「腕を強化する魔法はサボって習得してなかったツケかなこれ」


だって着火(イグナイテッド)使えば自動的に腕力上がるし

足部強化(ヒアサ)はなんやかんや日常生活で便利だったから本気で覚えたけど腕強化してもパンチ強いくらいしかないじゃん


次にカマキリが取った行動は腕の鎌を使った原始的な攻撃ではなく奇抜な搦手であった。


「うぉっ!」


まるで抱きしめるかのようにリントを掴み空へと羽根を羽ばたかせ空へ高く飛ぶと、そのまま()()()


「こいっつ!俺が高さで死ぬと思うなよっ!」


ただ落としただけかと思いきや追い打ちをかけるように空から羽根を使い高速にこちらに落ちてくるカマキリを見てしまった。


「くそっ!」


空中滞在時間はおよそ4秒。

カマキリの体にぶつけられたリントは抵抗虚しく地面に打ちつけられた。


「っだぁ!」


しかしここでリントにとっても、カマキリにとっても誤算が発生した。

地面が()()()のだ。

まるで作り物だったかのように。


「なに!?なに!?なぁにぃ!?」


リントの声は地中で響くだけで外には伝わる事はなかった。


「その対応の悪さ、お前も想定外だったっぽいな!」


見るからにカマキリの動きに迷いが見られた。

地面に打ちつけてその両腕の鎌で首を切って終わりだと予定していたのだろう。

今のこいつは(リント)を殺す動きと、自分だけ地上に戻る矛盾した動きをしている。


「戦いで迷いやがって!てめえの負けだコノヤロウ!!」


その迷いの末でカマキリが選んだのは地上に戻る選択肢。


左腕で後ろ左足を掴んでぶら下がり、腰の剣を手にして膨らんだ腹部に刺し入れる。

いくら錆びて切れ味が悪いといっても切先は鋭く尖っており柔らかい下腹部を貫くには十分だ。


「っと、わっ、暴れんなって!」


しかしリントは計算に入れてなかったことがある。


「あえ?」


それは、痛かったら飛ぶのをやめて普通に落下すると。


「ばかばかばかばかばかばか!!!飛べって!!!!」


力が弱まったカマキリに飛ぶ気力などあるわけがなく、そのまま地面に真っ逆さまだ。


これまた空中滞在時間は4秒。


咄嗟にカマキリの足を登り腹部に馬乗りになった後に落下のタイミングに合わせて足部強化(ヒアサ)を掛けカマキリを踏み台にして落下の衝撃を軽減させた。


「ヒアサ付いてるけど流石に痺れるるるるる」


振り返るとカマキリこと闇討ちの蟷螂(アサシン・マンティス)はその命をバスケットボールサイズのマナストーンときっと自慢だったであろう両腕の鎌を残して生命の循環へと加わった。


「さてさて、ここはどこだ…上は見えるけど登るのはちょっとめんどくさそうだな。松明で明かりがあるのは嬉しいけど…でもなんでこんなトンネルみたいに穴を掘られて__」


不意に優しく口を抑えられた。


「静かにしろ。生きて帰りたいならな」


口を抑えている者の声は太く低い逞しそうな男の声だ。


「安心してくれ。俺は君に危害を加える気はないが抵抗するなら一瞬で気を落とす」


言葉の通り悪意や敵意は感じない。

それどころか不思議と信頼できて頼りになるような予感もする。


「3秒のカウントの後に手を放す。そしたら振り向いて顔を見せてくれ。3、2、1…」


逆らう理由は毛頭ないので言われた通り手を離されたら物音を立てずに振り向く。

その男はとても鍛えられた体に焼けた色の肌を持つ年上の男性だ。


「きょ、キョーヘイ!?」


だがその男から出た言葉は今、探している父親の名であった。


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