残された子
ハーモラル各地には治安維持を仕事とする組織がある。
本拠地はシンヘルキから遠く離れたネレェムという吸血族の国にあり、アヴェダレオなどといった他国との外交を拒んでいる国以外には支部がある。
シンヘルキ中央街にその支部があるが…
「そんな与太話、信じると思っているのか?」
むかつくちょび髭の太ったおっさんが鼻で笑い突っぱねる。
「大体、なぜアヴェダレオの連中がなぜこんなとこにいるのだ」
「だーかーらー!いるもんはいるんだって!攫われた大人たちもそこにいるんだって!」
「証拠は?」
「俺が見た」
「そんなことでこんな夜更けに我々治安維持が動くと思うのかね?」
「動け!」
「リント、もう行きましょう。埒が明かないわ」
「でも!ロックさんが!」
「帰んな、ガキは寝てる時間だろ」
「…ちくしょう!」
焦っている生意気な小僧、いい顔と体をしている白髪の娘、聡明そうな青年が夜更けに急に来たと思えばまさかアヴェダレオのことを話に来るとはな。
「ったく。ここで動いたら賄賂もらえねーだろ」
薄給の俺に取っちゃあ給料よりあの連中から貰える金のほうがでけえからな
それにこんな故郷でもない国がどうなろうが知ったこっちゃない
紹介場はこんな夜更けでも営業している。
夜にしか現れない魔獣の討伐や草花の採集の依頼があるためだ。
とはいえ、流石にこの時間にいる冒険者は少なく紹介場で働いている人の数も最小限に抑えられている。
腰が落ち着ける場所が欲しかったので依頼の完了届けと月輝花を提出し報酬を受け取りつつ、どうすればロックさんを助けられるか考える。
「そもそもどうして親だけが攫われているのかしら」
「確かに。労働力がほしいなら見境なく攫えばいいのに。リントくんは何か見たの?」
「俺が見たのは死んだ目で歩いてる人と、レカルネラっていう楽器持ってるアヴェダレオの人間だけ。物とかは何も見れてない」
「レカルネラ…虚ろの吟遊詩人か」
「知ってんの?アレタ」
「うん、彼も旅人だったんだ。数年前にアヴェダレオに戻って職に就いたって聞いたけど…」
「そのレカルネラっていう人は強かったの?」
「強いね。デコピン一発で意識トびかけたし」
「正面からぶつかるのは策じゃないわね。センタレアに伝書鷲を飛ばして魔法士団とミラバル様に助力を求めましょう」
「ここの王様達じゃだめなのか?」
「シンヘルキは王族が国を治めてる訳じゃないんだ。国民が代表を複数人選んでその人達がそれぞれ政策や外交を担当しているんだ。セーバーがいるってことは治安維持は一任してる可能性が高い」
「なんつーテキトーな国だよ。よく国の形保ってられるな」
「それで暮らせてるからね…」
「…この件に関しては私達は首を突っ込まないほうがいいのかも」
「なんでだよ!ロックさんが…いやそれだけじゃない残された子どもだって!」
「分かってるわよ!だけどそれは私達の旅じゃないでしょう!?」
正直、スノウが机を叩いてこんなに声を荒げるとは思わなかった。
「今のアヴェダレオは確かに裏ではセンタレアを狙って動いているわ。だけど表向きではあくまでハーモラルにある一つの国と国同士なの。チキューでアヴェダレオの人間と戦ったのはあくまでチキューで起こったことだからきっかけにはならない」
「きっかけって…なんの?」
「このハーモラルで!センタレアの直属魔法士である私と!センタレアの異界管理局の命で動いてるあんたが!アヴェダレオの人間に攻撃をしたなんて知られたらきっと奴らはそれを皮切りに表立って動くわ!」
「そんなの_」
「戦争になるのよ!?あんたや私、今のシンヘルキみたいに親がいない子をもっと増やすことになるの!?」
「でも!それでロックさん達を見捨てる理由にはならないだろ!」
「あんただって親のいない子の気持ちがわかるでしょう!?荷車は他の国でも買えないことはないわ!私達はもう何も知らない子どもじゃないの!それでもあんたが首突っ込むっていうのなら私は…この旅から降りるわ」
生まれて初めての仲間との大喧嘩。
声を出すたびに心が痛くなる。
「も、申し訳ございません冒険者様方。夜更けですので仮眠をしている者もいらっしゃるのでもう少しだけ声を…」
二人の言い争いが許容出来ないレベルに達したのか受付嬢が間に割って入り、我に返った二人は素直に謝罪をした。
「落ち着いて2人とも。一旦冷静になろう」
「…そうねアレタ。ちょっと風浴びてくるわ」
スノウが席を立ち外に出ようとすると小さな来客が紹介場に入った。
「おねえぇちゃぁん!」
かなり幼い少女が泣きながら奥に進み受付嬢に抱きついた。
「どうしたのミイ!?」
「ぱぱがぁ!ままがぁ!いなくなっちゃった!」
少女が涙ながらに姉であろう受付嬢に泣きつき、悲痛な叫びを訴えるとリントとスノウの目は見開き振り向いた。
「いなくなった!?なにがあったの?」
「わかんない!いっしょに寝てたらきゅうにお外にでてっちゃったぁ!」
「外に…?」
「きっとミイが悪い子だから…きらいになっちゃったんだよぉ!」
「そんな訳無いわ。あなたはいい子よ」
「おやさい残して…おこられちゃったの…でもミイがせっかくつくってくれたごはんをこっそりすてちゃったから…捨てられちゃったんだぁ!」
「たしかにそれは悪いことだけど…そんなことでパパとママがミイを捨てるわけないよ。一緒にいてあげるから、今はゆっくり休みなさい」
受付嬢は上階にある仮眠室に妹さんを連れて行った。
「…俺は一人でも行く。顔は隠すから」
そう告げたリントは机にかけていた剣を腰に戻す。
だけど、今の様子を見てしまったスノウは心境に変化が起こる。
「アレタごめん。これちょっと預かってて」
自分の襟元についている掴み取った努力の証であるセンタレア直属魔法士団の証のバッジをアレタに投げ渡す。
「…行くのかい」
「ええ。私、やっぱりまだ子どもだったみたい。5日後の朝に広い場所に前と同じ様にあの変な模型を刺して。それで私達が帰ってこなかったらその報酬は全部あなたに譲るわ」
リントとスノウは肩を並べて歩く。
向かうはあの洞窟だ。
「勝てるの?」
「知らん。でも勝つまで諦めん」
「気持ちだけじゃどうにもならないわ。タイムリミットは?」
異界管理局で貰った時計を開く。
「6時間くらい」
「敵の数は」
「確認できたのはレカルネラだけ」
「おーい!待ってくれ」
後を追いかけてきたのはアレタだった。
「アレタ。どうしたんだよ」
「年下の子が死地に赴くのに年上の僕だけが待ってられないよ。宿に戻っていろんな薬とかを持ってきたんだ」
「…何が起こるかわからないわよ?」
「大丈夫!爆弾とかもあるから!」
大丈夫…なのか?
それ
「それにリントくんが本気出したらまた動けなくなっちゃうでしょ」
「う…確かに」
「死んでも自己責任だからね」
「ははっ。そうならないといいね」
少年たちは戦いに向かう。
すこしづつ、太陽がのぼり始める。
バスが迎えに来るタイムリミットは残り6時間と12分。




