受付嬢三年目編・大会二日目
*途中、視点が変わります。
仕事中に目的外のことに目を向けたり騒いだりするという行為は一般的な常識に欠けた行為だと思っている。
まったくなさけないことだ。
かくいう私も何度かそんなことをした覚えはあるけれど、誓ってもうそんなことはしないと心に決めている。同じ過ちは二度も繰り返すものではないのだ。
繰り返すやつは愚か者だと声高らかに叫ぼう。
「アルケスさんいけー!!」
画面に映る、他の組の魔法使いからの攻撃を跳ね返し、ハーレの皆を守りながらゴールへと足を踏み入れたアルケスさんに拍手を送る。
「おー、三番目に到着したっぽいな」
興奮ぎみに拳を突きだし映写機へ声援を送る私の姿を、隣の二人がお茶を飲みながら冷静に眺めていた。
仕事中に目的外のことに集中しているこの姿を数時間前の私が見ていたら間違いなく首根っこを掴み島から地上へと放り捨てていたことだろう。きっと今頃息をしていない。
最初はどこが一番に着きますかねーどうだろうなーなど会話を交わしながら映写機を見る二人を冷静に見守りつつかつ私も大人しく見ていた。
だが試合の内容があまりにも白熱してきたので画面越しにその熱に当てられてしまい、なんだか言い訳をしているようで嫌だが、ようは仕事中に試合観戦を楽しんでいた。
受付嬢の風上にもおけないやつである。
横にいる二人が私を咎めないのはもう試合が始まって三時間が経つうえに新たに観客席へ来る人もここ一時間近く見られないせいかもしれない。
私へ向けられる視線の中には呆れの三文字が込められていることだろう。
「意外にヘルが一番興奮してるな」
「アルケスさんのさっきの魔法見ました?! あんまり見る機会がないので貴重です!」
「わかったわかった」
勝負ごとには熱くなる癖があるのだろうか。いや確実にそうなのだろう。戦い、勝負、負け、勝ち、これらの言葉は私の心の琴線に触れて響いてやまない。
もう空も夕暮れ前のあの独特な色に変わってきており、雲の影が薄くなってきていた。
あれから他の組に追い付き追い越され追い越しを繰り返していた結果、ハーレの組みは見事三番手で目的の場所へと到着した。
真っ直ぐな道から途中、螺旋状に上へと続く道。
序盤は忌ま忌ましいあの野郎の落とし穴でハーレの一人が落ちてしまい出遅れていたが、ゾゾさんと他の先輩の助けもあり直ぐに持ち直していた。
それから違う組同士のやり合いで横から吹っ飛んでくる人間や仕掛けの数々を避けながら中盤の道のりに差し掛かった頃、既に先頭から数えて二十組の内に入っており、これはいける! と確信したのも束の間。
運営側からの仕掛けが発動し、手前にいた三十組は異空間へと飛ばされ、そこでまた違う道を走らされることとなる。
いったいどれだけ走らせれば気がすむのだ。
紫のような青のような背景に星がちりばめられたような異空間には一本の道が通っていて、その先には約六十個の扉へとそれぞれ続く階段があった。
解説者によればこれはこの空間から出られる扉となっていて、ある扉の先は目的地に近い場所へと出ることができ、またある扉を選べば出発地点へ戻ってしまう、というように違う場所へと出口が続く。
しかも出直しはきかないようで、その扉を選んでノブに触れたら最後、選んだ扉以外からは出られないという一か八かの賭け事のような展開になっていた。他の組が選んだ扉を選ぶのも駄目である。
ついでに後ろの三十組も同じような空間に飛ばされていたらしく、もはやこれまでの道のりの順位は関係なくなっている状態だった。
けれどどちらかというと上位の組の方を同時映写機が追っているので、下位のほうの状態がどんなふうになっているのかは情報が少ない。
上位にはヴェスタヌ騎士団とドーラン騎士団がいるのでその二組が映ることが多く、内心しかめ面をしながらも大人しく見る。
ヴェスタヌ騎士団は扉を前に話し合いをしていた。どの扉を選ぶのかを決めているのかと思ったが、ボリズリーさんが左手を上げた瞬間ヴェスタヌ騎士団のまわりを白い光が囲いだし、空間が微々たる揺れを起こしたかと思えば次の瞬間には彼らの姿は異空間から消えていた。どこへ消えたんだと観客達がざわめいていたが、直ぐに彼らの姿は見つかる。
なんと元の道へと戻っていたのである。
空間移転はダメなのではないかと抗議の声が上がっていたが、元の場所へと戻っただけなので反則にはならないのらしい。
異空間にも外の声は聞こえているようで、他の数組もそれを聞きヴェスタヌ同様空間移転をしようとしていたが、うまくいかず結局は扉を選ぶことにしていた。さすがボリズリーさん、運営側の魔法を破ってしまうとは前代未聞である。
一方でドーラン騎士団はと言えばヴェスタヌのように空間移転をする素振りは見せず、もう扉を決めたのかロックマンを筆頭に道を走っている。
『隊長! 本当にこの扉でいいんですか?!』
奴が扉を決めたのか、部下らしき仲間にそう問われていた。
『いいや適当だよ』
『ええ!!?』
『外に出たら考えようか』
仲間へ向かいニコッと金髪を揺らしながら笑いかける姿に、またもや観客席からの黄色い声が響いた。
なんなの。
なぜいちいち良い角度で毎度毎度映像に映りこむんだ。
こいつ映写機を買収してるのか。
そうしてドーラン騎士団は空間から脱出したが、出た先は何とヴェスタヌと同じく元の場所。
賭け運の強さに国民達は熱狂していた。
気にくわない。
『俺も賭け事は得意だぜ!』
『ナルくんはどの扉だと思う? 皆は?』
『そうねぇ……ちっとも分かんないからサタナースの勘で行きましょうか』
サタナースとベンジャミンがいる組も上位にいたため映写機に映った。落とし穴に落とされてからも、その恨みからか彼らは粘り強く騎士団を追っかけていた。
この組はサタナースの勘で行くのか、あっちだ!と言って走り出したサタナースについて他の五人が着いていく。そんなに適当でいいのか皆。
心配になったが、その心配は見事的中した。
『マジかよ!! さっきより後ろじゃね?!』
異空間に巻き込まれる前に走っていたところよりも後ろに出てしまい、罰として皆から耳を引っ張られていた。ロックマンと勘で勝負したかったのかもしれないが、その勇気は讃えたいと思う。
見かねたベンジャミンが「くよくよしない!ナルくん行くわよ!」とサタナースの腕を掴んで走り出していた。
『私が占ってみるわ』
ところかわり次に映写機へと映ったのは、雷の魔法使いであるハーレの先輩だった。
この先輩は占いが得意で、ゾゾさんもたまに彼女に今日の運勢はどうか等とお金を払ってまで占ってもらっていることがある。メラキッソ様を崇拝しているゾゾさんがそこまでするのだから、そうとう腕が立つのだろう。
先輩はどの扉が一番目標地点に近いのかを占うつもりなようだった。
『でも私達も早く適当でいいから出たほうがいいかもよ? もう半分くらい組減ってるし』
『それでもここをダリヤにかけるのもいいんじゃないか。今からこの空間から出るなら、ゴールに一番近い場所を見つけるのも一つの手でしょ』
『ダリヤ任せたわよ!』
ダリヤ先輩は腰にぶら下げている袋から数十枚の絵札を出して、不規則に空中へと浮かべる。
呪文を口先で唱えながら右手を上にかざすと、何枚かの札が彼女の前に降りてきた。
ダリヤ先輩はそれを読み解くと、横に一列に並んでいる六十個の扉の左から十三個目の扉を指さす。
『あそこ!?』
『迷ってないで早く行くわよディーン!』
そうしてハーレの皆がそれを信じ道を走って扉を開ければ。
出た場所は目的地に近い、あと30テールも走れば着く場所だった(1テールは片腕くらいの長さ)。
『なんとハーレ魔導所が一番近い場所を引き当てました! 凄い!!』
『すでに二組が到着しているけれど、ハーレの方達のすぐ後ろには何組も迫ってきていますわ。逃げ切れるかしら』
解説者とミスリナ王女がハーレの状況を伝えた。
ダリヤ先輩の的中率に会場も沸くが、ハーレの皆はそれどころではなく後ろからドドドドと音をたてながら迫りくる集団を見ては急いで走る。
しかしそれを許さないのが後ろにいる他の組だ。
自分達が飛べない代わりに使い魔達を飛ばし、六人を襲わせている。
その中には大毒蛇もいて危なかったが、アルケスさんが五人へ先に行けと促し一人その場で残ると、後ろを振り向いて左腕を前に突きだし構えた。
無造作な黒髪がゆらゆらと揺らめく。
『アンデピセシ(逆襲・襲わば喰らえ)』
アルケスさんのその魔法は自分達に仇なす者を排除するものだった。
彼の指先から光輝く小鳥が出てくると、羽ばたいたそれは徐々に大きくなり、道の幅より大きく巨大化する。
そして魔法使い達に向かいその大きな翼で風を起こすと、ハーレの皆を襲っていた使い魔から後方にいたる魔法使い達までをも一気に吹き飛ばし、その対象の身体をも傷つける。
切り傷のようなものを沢山刻まれるのだ。
あくまで切り傷なので治癒魔法で直ぐに治ってはしまうが、逃げるのに役立てる魔法としては十分な威力である。
そしてそれを経てのあの私の、
「アルケスさんいけー!」
だった。
この興奮、お分かりいただけただろうか。
二日目の試合はこれで終了となり、二十組が決まったら明日の試合に備えて競技場を閉じる。
ちなみに画面の端に見えたサタナース達の組はアルケスさんの魔法を受けなかったようで、四番目に着くことができたようだった。
*
三番目に硝子の球体の中へ到着したハーレの面々は、その場で座り込み円になった。ゾゾはむき出しの足を惜しげもなく伸ばし、腕も伸ばして目を瞑る。
「やぁっと終わったわ」
下でまだこちらへ来るのに苦労している他の組を見ては、もうこんな道は走りたくないと苦い顔をした。
先ほどまでの道のりを振り返り、先に着いていた他二組、ドーランの騎士団とヴェスタヌの騎士団を離れた場所から確認する。
道を走り出して早々に四方八方から衝撃がきた。
なんとかここまで六人で来られたが、先着している騎士団達が手強い。
「ディーン? 体調悪いの?」
「なにかしら……、ちょっと貧血みたい」
氷型の魔女であり、同じ組の仲間であるディーンが目頭を押さえてうつむいている。少しクラクラすると言う彼女に、走りすぎたからゆっくり休もうと慰め、ゾゾはディーンに治癒魔法をかけた。
貧血は魔法使いにとって一番厄介な症状である。
血が薄まれば魔法に影響が出てしまうのだ。威力もなくなり、魔法を使うことさえ出来なくなることがあるという。
「大丈夫よ」
「ありがとう」
血色の戻ったディーンの頭をぽんと撫でた。
次話更新→4月15日
「魔法世界の受付嬢になりたいです」
この度、ビーズログコミックス様にてコミカライズ連載が開始されました。
詳細はのちほど活動報告に記載いたします。
また、書籍二巻の電子配信も4月12日に開始となります。ぜひまろ先生の素敵なイラストと共に読んでいただきたいです。
電子配信用の特典SSもありますのでそちらもどうぞよろしくお願いします。




